学位論文要旨



No 118980
著者(漢字) 道辻,洋平
著者(英字)
著者(カナ) ミチツジ,ヨウヘイ
標題(和) 鉄道車両用二輪一ユニット操舵台車の制御に関する研究
標題(洋)
報告番号 118980
報告番号 甲18980
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5712号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 鎌田,実
 東京大学 助教授 藤岡,健彦
 東京大学 講師 鈴木,健司
内容要旨 要旨を表示する

緒言

従来の鉄道車両では、高速走行安定性と曲線通過性能の両立が大きな課題であった。二つの輪軸、すなわち四輪を台車枠に結合して一ユニットとした、いわゆる二軸ボギーが従来は一般的であり、自己操舵台車の研究開発や、最近ではアクティブ制御の適用も試みられてきている。しかし、アクティブ制御を適用することを前提とし、さらに最近の車体の軽量化を考慮すると、単なる制御則のみではなく台車構造、車輪構造の動的特性と連携した制御手法を総合的に検討する必要がある。本研究は、このような背景から、二輪一ユニット操舵台車という従来にないコンセプトを提案し、車輪の有する自己操舵ダイナミクスとアクティブ制御によって付加される新たなダイナミクスを考察し、体系化することを目的としている。この体系化により、鉄道に新たな可能性を与えうる車両システムの構築が可能である。

鉄道車両のダイナミクス

従来の鉄道車両の曲線通過性を議論する手法として、等価支持剛性モデルを用いた解析がおこなわれてきた。この等価支持剛性モデルにより、台車の走行安定性と曲線通過性のトレードオフを考慮した設計が可能となる。本研究においては、トレードオフではなく、両性能を同時に満足する手法への理論の拡張をこころみる。

また、ここでは車両のマルチボディ・ダイナミクスについても言及し、アクティブな制御系と複雑な鉄道車両ダイナミクスの両方を、効率的にモデル化可能な独自のダイナミクス解析プラットフォームについて言及している。

通常輪軸を用いた二輪一ユニット操舵台車の制御

二輪一ユニット操舵台車として、まず、左右の車輪が車軸で剛結合した、通常輪軸の自己操舵機能を最大限活用する台車設計手法を提案する。これは、周波数特性を考慮した等価支持剛性モデルという新しい概念によって実現可能である。この手法により導き出される、ステアリング・ヨーダンパという新たなデバイスを用いて、定常的な曲線には追従し、かつ、蛇行動のような不安定振動には、安定化作用を持たせることが可能である。提案する周波数支持剛性モデルにより、パッシブな台車要素のみで、理想的な定常曲線旋回と高速走行安定性を両立できる。このとき、緩和曲線通過のような過渡的なダイナミクスに対して、わずかに制御をするだけで、走行区間全域で優れた走行特性を有するアクティブ車両を実現できる。このわずかな制御を実現するデバイスとして、電磁アクチュエータでステアリング・ヨーダンパの機能を有する、アクティブ・ステアリング・ヨーダンパを提案している。この支持装置によりヨーダンパ、アクチュエータ機能を一つのデバイスで実現でき、効率的かつ機能的なアクティブ制御を実現できる。ここでは、そのパラメータ設計手法とアクティブ制御手法を提案し、一車両系の数値シミュレーションによって、その有効性を確認している。

独立回転車輪を用いた二輪一ユニット操舵台車の制御

急曲線における操舵限界のない、重力復元力を活用した車軸のない独立回転車輪操舵台車についても、アクティブ制御を前提とした車両設計手法と制御則の構築をおこなう。この操舵台車は、アクティブ・ステアリング・ヨーダンパと自己操舵性を有する車輪系で構成され、パッシブな構造で高速走行安定性と定常的な曲線旋回を両立しつつ、アクティブ制御によって緩和曲線通過時の過渡的な動特性のみを制御するため、省エネルギーでパフォーマンスの良い走行が実現できる。ここでは、従来あいまいであった、重力復元力によるフィードバック構造を明確化し、それに適合するアクティブ制御系設計手法を提案している。制御手法の有効性を検討するために、マルチボディ・ダイナミクス解析をおこない、提案する独立回転二輪一ユニット操舵台車は省エネルギーかつ、理想的な曲線旋回を実現できることが解析によって示された。

スケールモデル走行装置プラットフォーム

鉄道車両における実験は、台上試験機や実車走行試験が主であった。しかしながら、コスト、運用性の問題や、アクティブ操舵などの検証をするには安全性という問題もある。そこで、国内では例のない1/10スケールの急曲線走行を模擬できる走行実験プラットフォームを開発した。このようなプラットフォームを活用することで、新規性のあるアクティブ操舵車両の理論検証をおこなうことが可能である。

通常輪軸を用いたスケールモデル車両の走行実験

通常輪軸を用いた二輪一ユニット操舵台車の1/10スケールのモデル台車を設計・制作し、その制御実験をおこなった。提案する車輪制御手法を実現するために、メカニカルな点で新規性のある、ボルスタ・ヨーダンパ併合型の支持台車を提案している。この台車構造とアクティブ・ステアリング・ヨーダンパにより、理想的な曲線旋回を実現しつつ、十分な高速走行安定性を有していることが実験と数値解析によって確認できた。

独立回転車輪を用いたスケールモデル車両の走行実験

本研究で明確化した、重力復元力を活用した独立回転アクティブ操舵台車を検証するためのスケールモデル車両を設計し走行実験をおこなった。提案する独立回転二輪一ユニット操舵台車は操舵限界がなく、アクティブ・ステアリング・ヨーダンパによって高い走行安定性も確保できることがわかった。また、自己操舵性が高いことから、緩和曲線区間でのアクティブ制御に必要とするエネルギーもきわめて小さく、通常輪軸を用いる場合より、限界の高い急曲線操舵が可能であることが示された。

考察

提案する二方式の二輪一ユニットのアクティブ操舵台車について、車輪の発生するクリープ力や重力復元力、さらには、車輪左右とヨーのダイナミクス間の連成といったメカニカルなフィードバック・ループに着目し、それに適合するアクティブ制御を考察するという新しい観点で、車輪操舵メカニズムを体系化している。ここでは、さまざまな車輪構造のダイナミクスを明らかにするとともに、ダイナミクス的に最も理想的な車輪構造を示している。この体系化により、提案する二方式の二輪一ユニット操舵台車が、実現可能な最も理想的な車輪構造に近い構造を有しており、本質的にすぐれた構造であることが定性的に説明できた。また、提案する二輪一ユニット操舵台車について、車体中間に配置した台車のダイナミクスを体系化し、その具体的なアプリケーションとして、車体弾性振動低減を実現しつつ、さらなる車体軽量化、軸重適正化を実現できる三軸車両を提案している。提案する二輪一ユニット操舵台車により、交通システムにおける鉄道の位置づけを大きく変える可能性が示された。

結論

本研究では、まず二種類の二輪一ユニット操舵台車を提案し、数値解析とスケールモデル実験により有効性を示した。これをふまえ、二輪一ユニット操舵台車のダイナミクスにもとづいた体系化を実現し、三軸車両といったアクティブ操舵車両への応用を示すとともに、都市交通における鉄道の新たな可能性を提示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「鉄道車両用二輪一ユニット操舵台車の制御に関する研究」と題し、九章より構成されている。

従来の鉄道車両では、高速走行安定性と曲線通過性能の両立が大きな課題であった。従来は二つの輪軸を用いたいわゆる二軸ボギー台車が一般的であり、自己操舵台車の研究開発や、最近ではアクティブ操舵制御の適用も試みられてきている。しかし、アクティブ制御を適用することを前提とし、さらに最近の車体の軽量化を考慮すると、単なる制御則のみではなく、台車構造と動的特性を連携した制御手法の総合的な検討が必要である。本研究は、このような背景から、二輪一ユニット操舵台車という従来にないコンセプトを提案し、台車の安定性と操舵制御の体系化を試みたものである。

左右の車輪が車軸で剛結合した通常輪軸を用いる方式については、輪軸の持つ自己操舵機能を最大限活用する手法として、周波数特性を考慮した台車設計手法を提案している。さらに、急曲線における操舵限界のない、重力復元力を活用した車軸の無い独立回転車輪操舵台車についても、同様にアクティブ制御を前提とした車両設計手法と制御則の構築を行っている。これら二つの二輪一ユニット操舵台車は、高速走行安定性と定常曲線旋回性能をパッシブな特性で両立しつつ、アクティブ制御によって緩和曲線通過時の過渡的な動特性のみを制御するという現実の鉄道システムを考慮すると優れた方式である。

提案する理論を実証するために、曲線通過が模擬可能な1/10スケールの模型車両および走行実験プラットフォームを製作し、走行実験と数値解析によって台車設計手法と操舵制御の有効性を確認している。最後に提案する二輪一ユニット操舵台車について、ダイナミクスに基づいた体系化を行い、三軸車両といった新しい車両システムへの適用も提案している。

第一章は「序論」と題し、研究の背景及び研究の目的を述べている。

第二章は「鉄道車両のダイナミクス」と題し、鉄道車両のダイナミクス、台車の操舵性能解析手法について述べている。さらに、アクティブ制御系と複雑な鉄道車両ダイナミクスの双方を効率的に解析するマルチボディダイナミクス解析プラットフォームを構築している。

第三章は「通常輪軸を用いた二輪一ユニット操舵台車の制御」と題し、左右の車輪を車軸で剛結合した通常輪軸を有するアクティブ操舵台車について、周波数特性を考慮した等価支持剛性モデルという新しい台車設計手法を提案している。電磁アクチュエータを用いたアクティブ・ステアリング・ヨーダンパという、ダンパ機能とアクチュエータ機能を兼ね備える新たなデバイスによる制御手法を提案し、緩和曲線通過のような過渡的なダイナミクスに対してのみアクティブ制御を適用することで、優れた性能を発揮できることを示している。

第四章は「独立回転車輪を用いた二輪一ユニット操舵台車の制御」と題し、急曲線における操舵限界の無い、重力復元力を活用した独立回転車輪方式のアクティブ操舵台車を提案している。アクティブ・ステアリング・ヨーダンパを用いて、パッシブな構造で高速走行安定性と定常曲線旋回性能を両立しつつ、アクティブ制御によって過渡的な動特性のみを制御する方式である。車軸が無く独立車輪を操舵リンク機構により左右独立にステアリングする本方式については、従来不十分であった理論モデルを明確化すると共に、マルチボディダイナミクス解析により、その性能を評価している。

第五章は「スケールモデル走行装置プラットフォーム」と題し、開発した1/10スケールの急曲線走行を模擬できるプラットフォームについて述べている。開発した実験プラットフォームによってコストや安全性の課題を解決し、革新的なアクティブ操舵車両の理論検証が実施できることを示している。

第六章は「通常輪軸を用いたスケールモデル車両の走行実験」と題し、通常輪軸を用いた二輪一ユニット操舵台車の1/10スケールのモデル台車を設計・製作し、その走行実験を実施している。ボルスタ構造と提案するアクティブ・ステアリング・ヨーダンパにより、理想的な曲線旋回を実現しつつ、高い走行安定性を持ち合わせていることを実験、数値解析の両面より実証している。さらに、実物車両に適応した場合の評価も行っている。

第七章は「独立回転車輪を用いたスケールモデル車両の走行実験」と題し、提案する独立回転方式アクティブ操舵台車のスケールモデル車両の走行実験結果が述べられている。提案する独立回転二輪一ユニット操舵台車は操舵限界が無く、アクティブ・ステアリング・ヨーダンパによって高い走行安定性も確保できること、緩和曲線区間でのアクティブ制御に必要なエネルギーも極めて小さいことなどの結果を示している。

第八章は「考察」と題し、提案する二方式の二輪一ユニットのアクティブ操舵台車について、ダイナミクスに着目した体系化を行っている。車輪に作用するメカニカルなフィードバックループに着目し、それに適合するアクティブ制御によるフィードバックループの付加という新たな観点で、車輪操舵メカニズムを考察している。提案する二方式の台車が本質的に優れた構造であることを示し、さらにここで得られた知見を基に、車体弾性振動低減を実現しつつ、軸重適正化を実現できる三軸車両を提案している。

第九章は「結論」と題し、本研究によって得られた成果をまとめている。

以上ようするに、本研究では、鉄道車両用の二輪一ユニット操舵台車のコンセプトを提案し、そのアクティブ制御手法の有用性を、開発したマルチボディダイナミクス手法による数値解析とスケールモデル実験により示したものである。この結果をもとに、アクティブ制御に適合する車輪操舵構造を考察し、ダイナミクスに着目した体系化を構築している。よって、急曲線通過と高速安定性を両立できる新たな鉄道車両の実現の可能性を示しており、軌道交通システムの新たな展開を切り開くという社会的な意義も高く、産業機械工学の発展に寄与するところが大きい。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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