学位論文要旨



No 118984
著者(漢字) 佐藤,理
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,オサム
標題(和) パラレルメカニズムの校正 : 座標測定機の運動学校正
標題(洋)
報告番号 118984
報告番号 甲18984
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5716号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 新井,民夫
 東京大学 教授 中村,仁彦
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 新野,俊樹
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は座標測定機としての使用を想定したパラレルメカニズムの高精度化に関する研究である.すでに実用化されている三次元測定機の機構であるシリアルメカニズムと比較して,パラレルメカニズムは機構を大型化,多自由度化した場合でも高精度な機構を構築しやすいとされている.しかし現状では校正後の最終的な絶対位置決め精度は,シリアルメカニズムの方がパラレルメカニズムよりも高くなっている.これはシリアルメカニズムの場合は確立された校正手法を施すことにより絶対位置決め精度の向上が実現できているのに対し,パラレルメカニズムの場合は有効な校正手法が未だ確立していないため,校正による十分な機構の絶対位置決め精度の向上が達成されていないからである.

 本研究では機構の校正を,

 ・機構の寸法パラメータを同定する「運動学校正」一 ・幾何偏差量を校正するr幾何偏差校正」 ・非幾何誤差要因を補正する「非幾何校正」

 に分類し,パラレルメカニズムの運動学校正が未成熟であるために校正による高精度化が達成されていないことを指摘した.本研究の目的はパラレルメカニズムを高精度に校正する運動学校正手法を確立することである.

 本研究ではパラレルメカニズムを座標測定機として校正するという立場から,

 ・トレーサビリテイの保証されている校正用アーテイファクトを用いる ・座標測定機としての使用を考慮した観測方程式を用いる ・測定点の座標間の相関も考慮した誤差行列を用いる ・校正後の誤差伝播を評価する

 という手順により,運動学校正手法を定式化した.座標測定機の校正では座標値に関する観測方程式を用いることが適切である.ここで現在利用できる高精度なアーティファクトは長さ寸法が値付けられた「1次元的なアーティファクト」しかない,という事情を考慮し,1次元的なアーティファクトの測定データから座標値に関する観測方程式を構築する手法を提案した.この手法を用いた校正シミュレーションを行い,観測方程式に座標値を用いることの有効性を確認した.

 先行研究ではパラレルメカニズムのエンドエフェクタおよびツールに関するパラメータを校正対象に含めた場合,最小二乗計算が発散することが報告されている.この問題を解決する校正方法として,束縛条件を与えた運動学校正を提案した.

 「束縛条件」とは「十分な安全率を見込んだ測定誤差を含む,着目しているパラメータに関する何らかの測定値」であり,機構寸法の直接測定値や設計寸法値として得られる.本研究では機構の設計寸法および許容寸法公差と,誤差伝播側によって計算される校正前の絶対位置決め精度とから束縛条件を与える手法を提案した.この手法によってパラレルメカニズムの高精度な校正が可能であることを,校正シミュレーションおよび校正実験によって示した,ここで提案した手法は機構の運動学パラメータの設計値が既知であるパラレルメカニズムに適用可能であり,束縛条件を得るための追加の測定を必要としないため,実用的な校正手法である.

 最後にパラレルメカニズムをより高精度に校正する手法として,複数の機構を用いた運動学校正を定式化した.ここではパラレルメカニズムの固定長リンクを交換することで可変機構を実現し,

 ・校正に特化した「非対称リンクセット」 ・校正後の使用段階で要求される出力特性を満たした「対称なリンクセット」 を用いて校正を行うことを提案した.この手法の有効性を校正シミュレーションおよび校正実験によって確認した.複数の機構を用いる手法では校正に特化した機構を用いることができ,単一の機構のみを用いた場合よりも高精度な校正が可能である.複数の機構を用いた校正は何らかの方法によって機構の寸法パラメータが可変であることを要求するため,実際に存在するほとんどのパラレルメカニズムには適用できない.しかし可変機構を備えたパラレルメカニズムには, ・ワークスペースを拡大できる ・出力特性を変更できる

 という利点があり,今後実際に登場すると考えられる.本研究で提案,検証した手法により,パラレルメカニズムの高精度な運動学校正が可能となった.本研究の運動学校正と幾何偏差校正,非幾何校正を行うことにより,高精度かつ広範囲の用途に適用可能なパラレルメカニズムが実現できる.

 以上のように,本論文は,座標測定機の運動学校正という立場でパラレルメカニズムの校正手法の定式化を行ったばかりでなく,パラレルメカニズムを高精度化するために手法を提案し,その有効性を確認した.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は座標測定機としての使用を想定したパラレルメカニズムの高精度化に関する研究である.すでに実用化されている三次元測定機の機構であるシリアルメカニズムと比較して,パラレルメカニズムは機構を大型化,多自由度化した場合でも高精度な機構を構築しやすいとされている.しかし現状では校正後の最終的な絶対位置決め精度は,シリアルメカニズムの方がパラレルメカニズムよりも高くなっている.これはシリアルメカニズムの場合は確立された校正手法を施すことにより絶対位置決め精度の向上が実現できているのに対し,パラレルメカニズムの場合は有効な校正手法が未だ確立していないため,校正による十分な機構の絶対位置決め精度の向上が達成されていないからである.

本研究では機構の校正を,機構の寸法パラメータを同定する「運動学校正」幾何偏差量を校正する「幾何偏差校正」非幾何誤差要因を補正する「非幾何校正」に分類し,パラレルメカニズムの運動学校正が未成熟であるために校正による高精度化が達成されていないことを指摘した.本研究の目的はパラレルメカニズムを高精度に校正する運動学校正手法を確立することである.

本研究ではパラレルメカニズムを座標測定機として校正するという立場から、トレーサビリティの保証されている校正用アーティファクトを用いる. 座標測定機としての使用を考慮した観測方程式を用いる. 測定点の座標間の相関も考慮した誤差行列を用いる. 校正後の誤差伝播を評価するという手順により,運動学校正手法を定式化した.座標測定機の校正では座標値に関する観測方程式を用いることが適切である. ここで現在利用できる高精度なアーティファクトは長さ寸法が値付けられた「1 次元的なアーティファクト」しかない,という事情を考慮し,1 次元的なアーティファクトの測定データから座標値に関する観測方程式を構築する手法を提案した.この手法を用いた校正シミュレーションを行い,観測方程式に座標値を用いることの有効性を確認した.

先行研究ではパラレルメカニズムのエンドエフェクタおよびツールに関するパラメータを校正対象に含めた場合,最小二乗計算が発散することが報告されている.この問題を解決する校正方法として,束縛条件を与えた運動学校正を提案した.「束縛条件」とは「十分な安全率を見込んだ測定誤差を含む,着目しているパラメータに関する何らかの測定値」であり,機構寸法の直接測定値や設計寸法値として得られる.本研究では機構の設計寸法および許容寸法公差と,誤差伝播側によって計算される校正前の絶対位置決め精度とから束縛条件を与える手法を提案した.この手法によってパラレルメカニズムの高精度な校正が可能であることを,校正シミュレーションおよび校正実験によって示した.ここで提案した手法は機構の運動学パラメータの設計値が既知であるパラレルメカニズムに適用可能であり,束縛条件を得るための追加の測定を必要としないため,実用的な校正手法である.

最後にパラレルメカニズムをより高精度に校正する手法として,複数の機構を用いた運動学校正を定式化した. ここではパラレルメカニズムの固定長リンクを交換することで可変機構を実現し,校正に特化した「非対称リンクセット」校正後の使用段階で要求される出力特性を満たした「対称なリンクセット」を用いて校正を行うことを提案した. この手法の有効性を校正シミュレーションおよび校正実験によって確認した. 複数の機構を用いる手法では校正に特化した機構を用いることができ,単一の機構のみを用いた場合よりも高精度な校正が可能である. 以上のように,本論文は,座標測定機の運動学校正という立場でパラレルメカニズムの校正手法の定式化を行ったばかりでなく,パラレルメカニズムを高精度化するために手法を提案し,その有効性を確認した.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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