学位論文要旨



No 118985
著者(漢字) 千葉,龍介
著者(英字)
著者(カナ) チバ,リョウスケ
標題(和) AGV搬送システムの統合設計
標題(洋)
報告番号 118985
報告番号 甲18985
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5717号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 太田,順
 東京大学 教授 上田,完次
 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 青山,和浩
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,AGV搬送システムの効率的な設計を行うため,統合的に部分設計問題群を解決する手法を提案している.

AGV搬送システムにおいて,重要な部分設計問題であるAGV行動則設計問題と走行経路設計問題に対して,それぞれの解決法を提案すると共に,影響し合う両設計問題を統合的に解決することで,効率的なAGV搬送システムを設計する手法を提案することを目標に,本研究を行っている.

その目標のために,従来研究において以下の問題が解決されていないことを示している.AGV行動則の連続的な枠組みの必要性.実行動時間と共に行動計画時間が搬送に及ぼす影響を考え,このトレードオフ問題を解決する必要性.妥当でない仮定(AGVの存在が無くなる,流体近似など)を行わずに走行経路を設計する必要性.一般的な双方向性走行経路の設計手法の必要性.2つの問題を統合的に解決する必要性.

上記の問題点を解決し,AGV搬送システムの統合設計を行うことを本研究の目的としており,そこにおいて,上記の問題を解決するためのアプローチとして,以下の方法を採用する.

AGV行動則のパラメータ化と探索

AGV行動則を連続的な枠組みで表現するために,行動則をパラメータ化することにより,連続性を表現する.しかし,AGV行動則のパラメータは非線形な評価関数を描くことになる.そこで,非線形の探索に有用な遺伝的アルゴリズムにより,パラメータの値を求める.

計画時間と計画中の行動

実行動時間+行動計画時間を適切に設計するために,計画時間を推定し,その計画時間内での計画を行うこととする.また,計画中に停止していることの無駄を解決するため,計画中の行動を考える.

繰り返し順問題によるシミュレーションベースの設計

不適当な近似を行わないために,詳細なモデルによる解決を行う.このために,問題を解析的に解くことが困難である問題を解決するため,繰り返し順問題を遺伝的アルゴリズムによって解く.

セル間の接続としての走行経路

一般的な双方向性走行経路を表現するために,環境をセルに分割し,セル間の接続関係を走行経路として表現する.

共進化の適用と効率的な解探索

統合設計の方法として,協調的共進化の関係に着目し,妥当な時間での妥当な解を得るための手法としてAGV搬送システムに適用する.また,協調的共進化における問題をしてパートナー選択と進化周期に注目し,これらの解決を行う.

この目的とアプローチを達成するために,本論文の各章の構成を以下のようにしている.

第2章では,本研究で取り扱うAGV搬送システムの問題設定について述べ,入出力システムおよび各入力要素のモデルと仮定について説明し,また,AGV搬送システムに求められる要求仕様について説明している.ここにおいて,本論文において仮定している事柄の妥当性について説明している.

第3章では,AGV行動則の設計手法を説明し,その有効性を,シミュレーションを用いて考察している.『他のAGVを把握する範囲』と『他のAGVの行動予定を把握する量』という2つのパラメータにより行動則を表現することにより,AGV行動則の連続的表現を可能としている.また,計画時間をパラメータとして設計することにより,計画時間と実行動時間のトレードオフ問題を解決可能としている.シミュレーションの結果,25%近くの搬送効率の向上が見られ,本研究で提案したAGV行動則の設計法が有用であることを示している.

第4章では,走行経路の設計手法を説明し,その有効性を,シミュレーションを用いて考察している.走行経路を設計するにあたり,AGV搬送システムの妥当なモデルによる繰り返し順問題を解く方法によって,妥当な走行経路を設計することを可能としている.この時の探索手法としては,遺伝的アルゴリズムが問題の質から有効であり採用している.環境をセルに分割し,そのセル間の接続として,走行経路を表現することにより,退避路や迂回路と言った形状の走行経路を分離することなく,まとめて設計することが可能としており,シミュレーションの結果,入力として与えたAGV行動則の内容にふさわしい走行経路の設計が可能であることがわかり,本研究の走行経路設計手法が有用であることを示している.

第5章では,第3章および第4章で説明した各設計手法を,統合的に設計する手法の提案を行っている.2つの進化的手法である遺伝的アルゴリズムを同時に適用する方法として,共進化の枠組みを取り入れた手法を提案している.AGV搬送システムという大規模問題に対し,統合的な設計を行うためには,妥当な時間で妥当な設計解を得る方法が必要であることから,協調的共進化の収束速度が速いことを利用し,本研究での適用を行っている.ここにおいて,本研究のような異質な設計対象同士を共進化させる際に考えなければならない,パートナー選択と進化周期という2つの設計について,その適用可能性を考えると共に収束速度による周期の変化という手法を提案している.この提案手法の有効性を示すために,シミュレーションによるシステム設計を行っており,比較の対象として,単純に2つの設計対象の遺伝子を直列に繋いだ単純GAを採用している.そして,単純GAでは問題の規模から解決できない問題を共進化により設計可能であることを示し,また,パートナー選択の方法として,best vs. all選択とランダム選択という2つの方法を比較し,本研究ではランダム選択の方法が有効であることを示している.更に,本研究で提案した手法が様々な環境で有効であることを示すために,大きさの異なる3つの環境で手法の有効性を調べ,考察している.そこにおいて,進化周期を個体群の分散により適切に変更する方法が有効であることを示している.

第6章では,実データを用いた設計シミュレーションを行い,提案手法の考察を行っている.提案した共進化手法は実データにおいて,単純GAや統合設計でない手法よりも良質な設計解を得ることを示し,また,障害物の占有率の異なる環境を3種類用意し,手法の比較を行っている.この結果から,常に共進化手法が有効であるとは限らないという結果が得られ,探索空間が大きな環境では,共進化手法が有効であることも示している.

最後に第7章では,本論文を結論付け,提案手法の有効性と今後の展望について述べている.

以上をまとめると,本論文で提案した設計手法は次のようにまとめられる.

本研究で提案したAGV行動則の設計手法は,設計段階で知ることの出来ないタスクに対し有効なAGV行動則を設計可能であると共に,従来提案されているAGV行動則を連続的に表現可能である枠組みを設計することができている.また,行動計画時間中の行動を考えることにより,効率的で実用的なAGV行動則の設計ができたと考えられる.

本研究で提案した走行経路の設計手法は,非現実的なモデル化や仮定を置くことなく,現実的な問題に対処可能である.それは,設計を解析的ではなく,繰り返し順問題を解くことにより,行っているためである.ここにおいて,解探索に遺伝的アルゴリズムを適用することにより現実的で有用な走行経路の設計が可能としている.

AGV搬送システムを設計するために,AGV行動則と走行経路を統合的に設計する手法の提案を行い,その有効性を示している.協調的共進化により,従来の単純GAでは解決が困難であった大規模問題に対して有効な設計を行うことが可能となっている.

本手法において,2つの設計対象が異なる形質を持つ異質な系での統合設計に対し共進化を用いる場合,進化周期を適切に設計することが重要である.収束速度が異なる2つの設計対象を同じ世代数での進化をすることは有効な方法とはいえないことを示している.

各設計対象の評価関数は設計段階において,あらかじめわかるものではない.したがって,どちらの設計対象の進化を進めるかを適応的に選択する必要があり,個体群の分散をとることは,その1つの解決策であることを示している.

実データに対し提案した共進化手法による設計が有効であることが示されている.環境によっては共進化の問題点である局所解への落ち込みが見られ,常に有効な手法ではないことが考察できている.

統合設計を行わない手法においては,入力要素を問題に適したものとすれば,良質な解が得られる.しかし,入力要素を問題に適したものとするためには,経験と勘が必要であり,熟練者のみに可能な方法であることが示されている.

以上から,本論文で提示したAGV搬送システムの統合設計手法により,より効率の高いAGV搬送システムの設計が可能な場面が多くあることがわかり,産業の分野での実用化が期待される.

審査要旨 要旨を表示する

千葉 龍介(ちば りょうすけ) 提出の本論文は「AGV搬送システムの統合設計」と題し,全7章より構成される.本論文は,AGV搬送システムにおいて重要な設計問題である,AGV行動則設計問題および走行経路設計問題を統合的に解決する方法を提案することにより,工場内の物品搬送を自動化するために,効率的なAGV搬送システムの設計を行うものである.

第1章では,無人搬送車(Automated Guided Vehicles ; AGV)を用いた搬送システムの説明を行い,その効率的な設計手法の必要性について述べた.AGV搬送システムにおいて,AGV行動則の設計と走行経路の設計の重要性について述べ,更にこの両者の設計が相互に干渉することから,統合設計の必要性について説明した.従来研究では解決されていない問題点を,AGV行動則の設計,走行経路の設計,統合設計の3種について説明し,この解決を本論文の目的として述べた.ここにおいて,本論文で各問題を解決するアプローチとして,行動則のパラメータ化,走行経路のセル間接続表現,共進化による統合設計という3種の提案を行った.

第2章では,本研究で対象とするAGV搬送システムのモデルについて述べ,また諸々の設定について説明した.想定する環境やタスク・AGV能力について言及し,更にAGV搬送システムにおいて要求され評価される事柄について述べた.問題設定として,本論文が想定する環境やタスクについて述べ,シミュレーションにおける仮定とその妥当性について説明した.

第3章では,AGV搬送システムにおける設計問題のひとつである,AGV行動則設計問題を解決するための手法を提案した.リアルタイムでの行動計画のために,計画時間と行動の質というトレードオフ問題の解決を,行動則のパラメータ化とそのパラメータ設計という方法により実現している.AGV行動則を決定付けるパラメータとして,把握範囲と把握量という,他のAGVに対する情報量に関する値を採用した.また,計画時間を陽に設計パラメータとすることにより,熟考型行動則の適用を可能とし,更にシミュレーションによって,提案した行動則設計法について考察を行った.

第4章では,本論文で解決するもうひとつの設計問題である,走行経路設計問題を解決する手法を提案した.セルに分割された環境を利用し,セル間の接続として走行経路を表現することにより,設計を可能としている.また,設計の手法として遺伝的アルゴリズムを用いた方法を行った.これにより,困難な逆問題を解くことなく,効率の良い走行経路の設計を実現し,また,シミュレーションによって,走行経路設計問題を本手法で解き,妥当な走行経路の設計が可能であることを示した.

第5章では,3章および4章で述べた2つの設計問題を,統合的に設計する手法の提案を行った.協調的共進化の概念に基づき,両設計問題を相互にパートナーとして選択しながら,お互いに進化することにより統合設計を実現した.また,進化の周期に着目し,様々な指標に基づいた適切な進化周期による設計を可能とした.すなわち,パートナー選択および進化周期という2つの問題を挙げ,本論文での解決法として,ランダムなパートナー選択,個体群の分散による周期決定の方法を説明した.更に,シミュレーションによって本提案手法によるAGV搬送システム設計の有効性を示すための実験を行い,3種の環境と10種のタスクに対し,本論文で提案している手法を適用し,適切なシステム設計を行った.その結果を示すと共に,手法の妥当性について考察を行い,共進化によるAGV搬送システムの設計方法を示した.

第6章では,実データを用いたシステム設計実験を行った.また,環境中の障害物の占有率と手法の関係を考察する実験も行った.実データへの適用に関し,本論文で提案した手法は効率の良いAGV搬送システムの設計が行われており,有効であることを示した.また,環境中の障害物の占有率によって,本論文で提案する手法が有効な問題について考え,環境が大きく複雑な問題に対し,本手法が有効であるという考察を行った.

第7章では,本論文の結論として,AGV搬送システムの統合設計を行ったことを述べた.本論文において提案した,パートナー選択と進化周期を考慮した共進化による統合設計手法が,効率的なAGV搬送システムの設計を可能にすることを結論として得た.

以上を要するに,本論文は効率の良いAGV搬送システムの実現のため,その設計問題であるAGV行動則および走行経路の設計を統合的に行う手法を,共進化の適用により確立し,シミュレーション実験によってそれらの手法を搬送システムの要求仕様から評価したものである.これによって,本論文はAGV搬送システムの設計に寄与するところが大きく,生産業界の発展に対し有用であると考えられ,重要なものである.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク