学位論文要旨



No 118991
著者(漢字) 中住,昭吾
著者(英字)
著者(カナ) ナカスミ,ショウゴ
標題(和) 重合メッシュ法を用いた構造解析手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 118991
報告番号 甲18991
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5723号
研究科 工学系研究科
専攻 環境海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 都井,裕
 東京大学 教授 影山,和郎
 東京大学 教授 吉村,忍
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
内容要旨 要旨を表示する

現在の工学設計現場においては,計算機を用いた構造解析が日常化しており,さらに設計からシミュレーションまでのプロセスを全て計算機上で行CAE が広く定着している.しかしその広く普及したCAEであるが,未だ解決されていない課題がある.それはメッシュ生成技術の問題である.というのも自動メッシュ生成の技術は,2次元においてはほぼ達成されたものの,3次元においては未だ完全な自動メッシュ生成は不可能であるからである.このため,実際の設計現場ではCADデータを基にメッシュ生成アプリケーションソフトが作成したメッシュを人間が手作業で修正しているのが現状である.

メッシュ生成の問題に対する計算力学的アプローチとしては,以下の3つの方法が行われてきた.アダプティブ法,複数のメッシュを用いる方法,そしてメッシュレス法である.しかしアダプティブ法は比較的小規模の問題の解析にしか適さないし,メッシュレス法は未だ研究段階の域を出ていない.そこで複数のメッシュを用いた解析が現実的となるのだが,現場でよく用いられるズーミング解析は,解析精度に不安な点があり,また,両モデルの境界・節点を境界上で一致させなければならないという制約があり,この問題は未だ解決できていない.一方,重合メッシュ法と呼ばれる手法が最近注目を浴びている.これは複数のメッシュ直接を重ね合わせて同時に解析するという手法であるが,変位を両者のそれの和として定義していることが特徴的である.また,両モデルのメッシュの整合性を考慮する必要がないので,メッシュ作成が非常に容易になる.さらにズーミング法のような境界条件のあいまいさがなく,グローバルモデルとローカルモデルの相互の影響が定式化の中に反映されているため,精度の面においても優れた手法である.

本論文では,現在の有限要素解析におけるメッシュ生成問題の解決策として,この重合メッシュ法を用いたモデリング法を提案し,構造解析に役立てることを目的としている.そして具体的以下の点について研究を行った.

まず,グローバルモデルとローカルモデルの形状が異なる場合の重合メッシュ法について議論した.これは従来ローカルメッシュの変位に課していた「グローバルメッシュとの境界上での変位連続性の条件」をなくすことにより,その位置に不連続面(自由表面)が形成されることに基づいている.そしてそれを利用してグローバルモデルの一部の領域を解析対象から削除できることを指摘し,その適用例として円孔モデルを取り挙げた.

ローカルモデルの変位に与えた境界条件の変化が,その境界上での連成効果により,グローバルモデルの変位の境界条件にも影響を及ぼし,その結果,その境界に自由表面が形成されることを,実際に場の支配方程式を導くことで理論的に証明した.そしてその結果,実際に穴が存在するモデルを解析した結果と等価なモデルになることを定性的にも数値的にも示した.また,有限要素に離散化して数値的に解析した場合,離散化に伴う誤差からグローバルモデルの穴部内部の応力は厳密には0とはならないが,グローバルモデルの要素分割を詳細にしていくと応力が0に近づくことを示した.

次に,グローバルモデルとローカルモデルの材料定数を異なる値にした場合の解の挙動をを議論した.その結果,グローバルモデルの材料定数は無意味になり,ローカルモデルの材料定数のみが,その部分の材料定数をあらわすような物理的挙動が示されること,すなわち,剛性が異なる領域内ではローカルモデルの変位から作られるひずみ・応力のみがその領域の物理的なひずみ・応力となることを数学的に示した.そしてこの理論を活用して,異種材料のモデリングを簡単に行うことができることを指摘した.さらに,グローバルモデルは線形解析のままで,ローカルモデルのみを弾塑性解析する方法を提案し,モデル全体を弾塑性解析したモデルと同等の解が得られることを示した.そして,材料定数が一致しない領域の周囲は,直接グローバル領域と接触してはならないこと,そして,ローカルモデルの剛性がグローバルモデルの剛性よりも高い場合には,剛性マトリクスが正定値にならない可能性があることを指摘した.

次にMindlin-Reissner板曲げ理論に基づく要素同士を重合メッシュ解析したときに発生するせん断ロッキング現象について議論した.Mindlin-Reissner板曲げ理論に基づくシェル要素は,板厚が薄くなるとたわみが極端に小さくなるロッキングと呼ばれる現象を引き起こす.この対策としては,面がせん断剛性に関する積分の点数をへらす「低減積分」が効果的である.ところが重合メッシュ法の連成効果を表すマトリクスの計算には積分点数を通常よりも多くの点で行わなくてはならない.それはこのマトリクスの積分領域内で不連続な関数になるからで,そのためガウス積分の次数を上げて多項式関数の次数を上げるのである.その結果,低減積分を完全に実行することができず,その結果せん断ロッキングが発生してしまうこと,及び連成効果に偏りが生じるために良好な解が得られないことを示した.また,これを回避する方法として面外せん断ひずみに関する剛性のみグローバルモデルとローカルモデルを連成させない方法を提案した.そしてこの方法によってロッキングは回避され,また積分の偏りによる不規則な変形も押さえることができることを,薄板や厚板の解析にこの方法を適用することで数値的に示した.

次に,シェル要素とソリッド要素を重合メッシュ解析する手法を提案した.そして,この手法を用いて表面き裂を有する板の解析に適用し,ソリッドによる参照モデルの解析結果と比較・検証した.また,シェル要素でモデリングを行った場合にしばしば省略される形状の凸状の突起物を有する構造物を解析する場合には,突起物と等価な剛性を有する梁要素をグローバルモデルに付加しなければエネルギー的不整合を生ずることを示した.

また,構造物の安全評価に非常に重要なき裂問題の解析に重合メッシュ法を適用した.まず重合メッシュ法を用いて2次元及び3次元の基本的なき裂問題を解析し,その結果を近似解析解と比較し良好な結果が得られること数値的に示した.

またき裂進展解析においては,リメッシュが不要となるX-FEMを重合メッシュ法と結合させることを提案し,そのための定式化を行った.そしてその方法を用いてフィレットを有する構造部材の2次元き裂進展解析に適用し,実験値とほぼ同等のき裂進展経路を得ることができた.また,3次元においては,理論解や近似解析解が存在する基本的な例題を線形解析した.しかしながら直接変位法により求めた応力拡大係数は精度がそれほど高くはなかった.高精度の応力拡大係数を得るためには,3次元のJ積分を行うことが必要であろうとの結論に達した.

なお,本研究では3次元き裂の例題は,理論解や近似解析解が存在するような基本的な形状のものであったが,本来は,複雑な形状モデルの解析に適用していくことによって重合メッシュ法の利点が強調されるので,3次元の大規模・複雑形状の構造物のき裂進展解析へ適用していくことが望まれる.

また,従来の重合メッシュ法の定式化では,ローカル領域が全体領域に完全に含まれることが必要であった.しかしこの制約がなくなれば,複雑形状構造物のモデリングがさらに容易になるであろう.それを可能にするための定式化に今後取り組む必要があると考えられる.

(以上)

審査要旨 要旨を表示する

現在の構造解析分野における課題には大きく2つの側面がある.一つは解析の大規模化の問題である.実務の設計でよく行われているのがズーミング解析と呼ばれる方法であるが,これは,グローバルモデル・ローカルモデルの境界を一致させなくてはならないことや,あるいはグローバルモデルとローカルモデルの連成効果が存在しない方法であるため解析精度の信頼性が低いということが以前より指摘されている.もう一つの側面は,解析モデルの作成に非常に労力を費やしているということである.複数のモジュール化されたメッシュを組み合わせることが可能になればメッシュ生成に要するコストは大きく低減されるであろう.

このような問題に対する解決策として,重合メッシュ法と呼ばれる手法が最近注目を浴びている.これは複数のメッシュ直接を重ね合わせて同時に解析するという手法であるが,両モデルのメッシュの整合性を考慮する必要がないという点に最大の特徴があるといえる.さらにズーミング法のような境界条件のあいまいさがなく,グローバルモデルとローカルモデルの相互の影響が定式化の中に反映されているため,精度の面においても優れた手法である.

本論文は,現在の有限要素解析におけるメッシュ生成問題の解決策として,この重合メッシュ法の応用・拡張に関する研究を行ったものである.そして具体的以下の点について研究を行った.

まず,第3章では,グローバルモデルとローカルモデルの形状が異なる場合の重合メッシュ法について議論した.これは従来ローカルメッシュの変位に課していた「グローバルメッシュとの境界上での変位連続性の条件」をなくすことにより,その位置に不連続面(自由表面)が形成されることに基づいている.そしてそれを利用してグローバルモデルの一部の領域を解析対象から削除できることを指摘し,その適用例として円孔モデルを取り挙げている.ローカルモデルの変位に与えた境界条件の変化が,その境界上での連成効果により,グローバルモデルの変位の境界条件にも影響を及ぼし,その結果,その境界に自由表面が形成されることを,実際に場の支配方程式を導くことで理論的に証明した.そしてその結果,実際に穴が存在するモデルを解析した結果と等価なモデルになることを定性的にも数値的にも示した.

第4章では,グローバルモデルとローカルモデルの材料定数を異なる値にした場合に得られる解が満足する支配方程式に対する考察を行った.その結果,グローバルモデルの材料定数は無意味になり,ローカルモデルの材料定数のみが,その部分の材料定数をあらわすような物理的挙動が示されること,すなわち,剛性が異なる領域内ではローカルモデルの変位から作られるひずみ・応力のみがその領域の物理的なひずみ・応力となることを数学的に示した.そしてこの理論を活用して,異種材料のモデリングを簡単に行うことができることを提案した.また,これを応用して,グローバルモデルは線形モデルままで,ローカルモデルのみを弾塑性解析する方法を提案し,モデル全体を弾塑性解析したモデルと同等の解が得られることを数値的に示した.

第5章ではMindlin-Reissner板曲げ理論に基づく要素同士を重合メッシュ解析したときに発生するせん断ロッキング現象について議論した.Mindlin-Reissner板曲げ理論に基づくシェル要素は,板厚が薄くなるとたわみが極端に小さくなるロッキングと呼ばれる現象を引き起こす.この対策としては,面がせん断剛性に関する積分の点数を減らす「低減積分」が効果的である.ところが重合メッシュ法の連成効果を表すマトリクスの計算は,積分点数を通常よりも多くの点で行わなくてはならない.それはこのマトリクスの積分領域内で不連続な関数になるからで,そのためガウス積分の次数を上げて多項式関数の次数を上げるのである.その結果,低減積分を完全に実行することができず,その結果せん断ロッキングが発生してしまうこと,及び連成効果に偏りが生じるために良好な解が得られないことを示した.また,これを回避する方法として面外せん断ひずみに関する剛性のみグローバルモデルとローカルモデルを連成させない方法を提案した.そしてこの方法によってロッキングは回避され,また,積分の偏りによる不規則な変形も押さえることができることを,薄板や厚板の解析にこの方法を適用することで数値的に示した.

第6章では,シェル要素とソリッド要素を重合メッシュ解析する手法を提案した.そして,この手法を用いて表面き裂を有する板の解析に適用し,ソリッドによる参照モデルの解析結果と比較・検証した.また,シェル要素でモデリングを行った場合にしばしば省略される形状の凸状の突起物を有する構造物を解析する場合には,突起物と等価な剛性を有する梁要素をグローバルモデルに付加しなければエネルギー的不整合を生ずることを示した.

第7章では,構造物の安全評価に非常に重要な,き裂問題の解析に重合メッシュ法を適用した.まず重合メッシュ法を用いて2次元及び3次元の基本的なき裂問題を解析し,その結果を近似解析解と比較し良好な結果が得られること数値的に示した.また,き裂進展解析においては,リメッシュが不要となるX-FEMを重合メッシュ法と結合させることを提案し,そのための定式化を行った.そしてその方法を用いてフィレットを有する構造部材の2次元き裂進展解析に適用し,実験値とほぼ同等のき裂進展経路を得ることができた.3次元問題については,理論解や近似解析解が存在する基本的な例題を線形解析した.そして高精度の応力拡大係数を得るためには,3次元のJ積分を行うことが必要であろうとの結論に達した.

よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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