学位論文要旨



No 119009
著者(漢字) 鳥羽,孝幸
著者(英字)
著者(カナ) トバ,タカユキ
標題(和) 複数誘電体窓を有する表面波プラズマ装置における電子密度空間分布制御に関する研究
標題(洋)
報告番号 119009
報告番号 甲19009
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5741号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 教授 斉藤,宏文
 東京大学 助教授 小野,靖
内容要旨 要旨を表示する

本論分は「複数誘電体窓を有する表面波プラズマ装置における電子密度空間分布制御に関する研究」と題し、2.45GHzマイクロ波表面波を利用したプロセスプラズマ装置の放電特性を実験と数値シミュレーションの両面から検討し、特に複数の誘電体窓を有する表面波プラズマ装置の大面積プロセスに対する適応可能性に関して評価することを目的とした研究を行い、その結果をまとめたものである。

第1章「序論」では、本研究の背景となるプロセスプラズマ技術の応用に関する現状を概説し、それを受けて本研究の目的及び位置づけを述べている。本研究においては、特に大口径化に際してのプラズマ特性向上を目的としている。

第2章「表面波プラズマ装置」では、本論文で用いられる正方形単一窓型と直方形複数窓型の表面波プロセスプラズマ装置についての概要、およびプラズマ計測システムに関して説明している。特に計測システムとしては、静電プローブ法と75GHzマイクロ波干渉計を併用しデータの信頼性を高めている。

第3章「平板型表面波プラズマ装置の放電特性に関する実験研究」では、平板型表面波プラズマ装置の放電特性に関する実験を行っている。20cm角の正方形チャンバを擁する実験装置において、アルゴン、窒素、酸素とガスを変化させ、生成されるプラズマの電子密度、電子温度等の空間分布の変化を計測し、特に一様性向上についての可能性を検討している。電子密度の空間平均値について、マイクロ波干渉計から得られた値とプローブ計測から得られた値を比較した結果、定性的にほぼ一致しており、その値については干渉計測から得られたものはプローブ測定からのものに比べ〜2倍程度の大きさとなっている。これはプローブを挿入することにより、その周囲でやや電子密度が減少してしまっているためと考えられるが、プローブ法特有の精度を考えた場合、大きく信頼性を損なう結果ではないことが確認される。次に、誘電体線路に垂直な方向(y方向)に電子密度分布を計測したところ、遮断密度(2.45GHzの場合 )以上のプラズマが生成されていることが確認された。一方、電子温度は上部天板との境界付近において局所的に大きく、天板表面から離れるにつれ減少している。このことから、マイクロ波は境界付近において局所的に集中し、プラズマを加熱している。一方、電子密度分布は天板壁面付近での減少し、20〜30mmの位置でピークを持つような分布を持つことが確認された。これは壁面への損失等によって、電子密度が壁面付近で減少し、結果として電子温度と同様の単調減少する分布ではなく、一度ピークを持ち減少する分布になっている。これらの現象はマイクロ波電力やガス圧力に依存しておらず、固有の現象であることがわかる。また、マイクロ波進行方向(z方向)の電子密度分布を計測した結果、アルゴンガスではマイクロ波電力が小さい時はz方向に対し両端で密度が高く、中央が低い分布になっているが、マイクロ波電力を大きくするにつれて、中央でもプラズマが生成され、広い範囲にわたってプラズマが生成されている様子が確認された。しかし、酸素ガスや窒素ガスではチャンバ両端にプラズマが集中してしまっている。これは、酸素ガスや窒素ガスのような分子性のガスでは、イオン解離等の様々な非弾性衝突の影響が大きくなり、アルゴンのような単原子ガスに比べ、放電を維持するにはより大きなエネルギーが必要となるため、中央部まで放電領域を拡大するだけのエネルギーを供給できず、チャンバ両端に集中してしまっていることが推察される。一様性向上法として、真空チャンバ上のアルミナ板上に導体板を帯状に置くことによってz方向電子密度分布の均一性が改善された。特に、導体板部と開口部との1サイクルを定在波とほぼ同じ50〜60mmにしたときに、その効果が顕著であった。しかし、酸素の場合は20cmの開口部で均一なプラズマを生成しようとすると、チャンバ角で電子密度が集中してしまう。これは、マイクロ波電力が不足していることが原因と考えられるため、開口部を小さくすることにより、均一なプラズマを生成可能である。また、より大きなマイクロ波電力を用いれば、より広い範囲でプラズマを生成できることが指摘される。

第4章「平板型表面波プラズマ装置の放電特性に関するシミュレーション」では、上記実験結果と対応させ、FDTD (Finite-Difference Time-Domain) 法による電磁界解析と流体モデルによるプラズマ特性の計算を組み合わせた、平板型表面波プラズマ装置の放電を再現できるモデルによるシミュレーションを行った。本研究で開発されたシミュレーションコードを用い、平板型表面波プラズマ装置の放電特性に関してシミュレーションを行ったところ、プラズマ発生の様子はマイクロ波パワーには依存せず一定に近いが、圧力によって大きく変化することが分かった。マイクロ波パワーを変化させた場合、放電が安定でない低パワーを除き、電子密度や電子温度はその絶対値が変化するが、分布の形状はその形をほとんど変えないことが分かった。しかし、圧力を変化させると、衝突周波数の影響からプラズマの分布が変化し、高圧では局所的に集中してしまうことが判明した。アルミナ板の厚さを変えたところ、プラズマに吸収される電力の割合が変化する厚さがあることが判明した。しかし、吸収効率が悪くなってしまうアルミナ板厚であっても、同時に生成されるプラズマの均一性は向上した結果が得られている。これは、マイクロ波とプラズマの結合が弱くなるため、マイクロ波の伝搬が安定になり注入される電力の分布が均一になった。プロセスにおいてはプラズマの均一性は非常に重要な要素の一つであり、このように吸収効率が悪くなったとしても、均一性が向上する場合があることから、一概に吸収効率だけでその寸法を決定することには疑問が残る。

第5章「複数誘電性窓を備えた縦長表面波プラズマ装置におけるプラズマの一様生成に関する実験」では、平板型表面波プラズマ装置を大面積化した、複数の誘電体窓を備えた表面波プラズマ装置についての説明を述べ、この装置の一部であるチャンバ長約50cmの縦長モジュールの放電特性について実験を行っている。この装置ではチャンバ上部に渡らされた金属製の梁によって真空を封じている誘電体窓を支持している構造になっているが、この金属製の梁によってチャンバ上部に出来た窪み部分においてプラズマが集中し、横方向に拡散しにくくなることが判明した。マイクロ波入射側に近い窓でしかプラズマが生成されず、均一なプラズマとならないことがわかった。この解決法として、窪み部分に同形の石英板をはめ込むことにより、プラズマと誘電体窓表面の接触するチャンバ上面の凹凸を失くしプラズマ生成実験を行った結果、入射側から反射側まで広範囲に渡ってプラズマが生成することに成功し、その条件について確認を行った。また、アルミナ板上に導体板を格子状に置くことによってz方向電子密度分布の均一性がより改善されることが確認された。

第6章「誘電体窓を多数有する縦長表面波プラズマ装置における放電特性に関するシミュレーション」では、縦長表面波プラズマ装置で生成されるプラズマに関するシミュレーションを行っている。実験結果と同様に、チャンバ上面に凹凸がある時は、マイクロ波入射側に電界が集中し、局所的に偏ったプラズマ密度となってしまっている。しかし、石英を挿入することによって、電界が反射側まで伝播し、プラズマが広がっていることが確認された。誘電体を支えている梁の大きさを変化させ、生成されるプラズマに対する影響を計算した。その結果、梁の間に挿入されている石英の厚さとマイクロ波吸収効率に関係があり、マイクロ波の整合と関係していることがわかった。また、窓の大きさもマイクロ波の波長と一致するように設計することが好ましいことが判明した。

第7章「結論」では、本論文で得られた結果をまとめている。すなわち、本論文では、表面波プラズマ装置において、マイクロ波導入窓を複数有する形状にすることによって大面積・一様プラズマ生成への指針を実験、数値シミュレーションから示している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「複数誘電体窓を有する表面波プラズマ装置における電子密度空間分布制御に関する研究」と題し、2.45GHzマイクロ波表面波を利用した平板型プロセスプラズマ装置の放電特性を実験と数値シミュレーションの両面から検討し、特に大面積プロセスに適用するために、複数の誘電体窓を有するモジュール構造を提案し、その実現性を評価したもので、全体は7章より構成されている。

第1章は「序論」であり、本研究の背景となる高集積電子部品製造等におけるプロセスプラズマ装置の現状を概説し、その分野における表面波プロセスプラズマ装置の役割を述べ、本研究の目的と構成を示している。特に本論文では予備研究として用いられる正方形単一窓型装置、および大口径化装置のモジュールとなる縦長構造を有する複数窓型装置、の2種類を研究対象としたことが説明されている。

第2章は「平板型表面波プラズマ装置の構成」と題し、正方形単一窓型装置と複数窓型装置の詳細な構造について説明し、特にマイクロ波入射窓としてアルミナ板および石英板を使用していることが述べられている。また電子密度計測システムとして静電プローブと75GHzマイクロ波干渉計を併用し、電子密度計測データの信頼性について考察し、マイクロ波電界中での静電プローブ動作の健全性を確認している。

第3章は「単一窓型表面波プラズマ装置の放電特性に関する実験研究」と題し、正方形単一窓型の装置において生成されるプラズマの電子密度、電子温度等の空間分布を計測し、特に誘電体窓に垂直方向に対して、電子密度空間分布は上部誘電体窓との境界から 20?30mmの位置にピークを持っていること、一方、電子温度空間分布は境界に近づくにつれて単調に増大していることを確認している。他方、マイクロ波伝搬方向の水平方向に対して、電子密度分布はアルゴンの場合にはマイクロ波電力を上げることによって均一な分布が得られるものの、酸素、窒素等の分子気体の場合には最大電力入射時においても入口領域に偏った電子密度分布をしていることを計測している。このとき、窓の開口部を狭くし、マイクロ波入射エネルギー密度をアルゴンに比して約6倍にすることによって酸素プラズマでも均一な分布が得られることを見いだしている。

第4章は「単一窓型表面波プラズマ装置の放電特性に関するシミュレーション」と題し、FDTD (Finite-Difference Time-Domain)法による電磁界解析と電子に対する流体モデルに基づく数値計算コードを開発し、単一窓型装置の放電プラズマパラメタの空間分布を再現できるモデルを構築し、その計算結果を示している。特に空間セルサイズを細かくし、さらに電子密度の境界での値をゼロに設定することによって、電子温度の垂直方向分布に関して実験結果の特徴を再現できることを確認している。またアルミナ窓の厚さについては、電力吸収効率が良く、均一性に優れたプラズマ生成可能な最適な厚さが求められている。

第5章は「複数窓型表面波プラズマ装置におけるプラズマの一様生成に関する実験」と題し、平板型表面波プラズマ装置を大面積化する際の1モジュールとして、チャンバ長約50cm、幅約10cmを有する4枚の誘電体窓を備えた縦長モジュールを対象として、その構造におけるプラズマの一様生成に関する実験を行った。この構造においては4枚の誘電体窓を支える梁が放電容器内に突起しているが、新に梁の高さと同一寸法の厚みを有する石英板を梁の間に挿入することによってプラズマ表面を平坦にして、それによって梁の影響を受けることがなく、マイクロ波伝搬方向にほぼ一様な電子密度分布を有するプラズマ生成に成功している。

第6章は「複数窓型表面波プラズマ装置における放電特性に関するシミュレーション」と題し、前章で述べた複数誘電体窓型表面波プラズマ装置における放電特性を参考にして、より縦長、具体的には約1m長のモジュールに対して数値シミュレーションを行った結果を述べている。このとき装置各部の寸法、特に梁の寸法について適切な値を探索し、梁の高さ、およびその間に挿入される石英板の厚さは、電子密度の均一性およびマイクロ波電力効率の面から15?20mmが適していることを指摘している。他方、窓の寸法は一辺を50?60mmにするときに最も均等に各窓からエネルギーがプラズマに吸収され、一様な電子密度分布が得られることを見いだしている。これらの条件に基づいて、1m強の長さのプラズマが一様生成され、窓数は16であるモジュールの基本設計を成功させている。

第7章「結論」では、本論文で得られた結果をまとめている。

以上これを要するに、本論文は2.45GHzマイクロ波を用いた平板型表面波プロセスプラズマ装置を対象として、その放電特性を実験、数値シミュレーション両面から検討し、そこで生成されるプラズマの電子密度空間分布の一様性向上を達成するための方策を明らかにすることで、複数のマイクロ波導入窓を有しモジュール構造化された大口径装置の実現可能性を検証したもので、電気工学、特にプラズマ工学に貢献するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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