学位論文要旨



No 119010
著者(漢字) 牧,謙一郎
著者(英字)
著者(カナ) マキ,ケンイチロウ
標題(和) 超高速衝突に伴うマイクロ波放射の観測及び放射メカニズムの考察
標題(洋)
報告番号 119010
報告番号 甲19010
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5742号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 廣瀬,明
内容要旨 要旨を表示する

目的

軌道上の宇宙ごみや微小隕石が人工衛星に衝突する速度は,毎秒数kmの超高速である.加速器を用いた地上実験によって,超高速衝突に伴い,マイクロ波が放射されることを確認している.この現象に関する報告例は他に無く,放射メカニズムも明らかにされていない.本研究では,超高速衝突に伴うマイクロ波放射の測定技術の確立,放射特性の解明,放射メカニズムの解明を目的とする.

衝突系・測定系

電磁飛翔体加速装置により,質量1gのプラスティック弾を速度2-7km/secまで加速させ,真空チェンバ内の標的に衝突させる.標的にはアルミ,セラミック等種々の材質を用いる.測定周波数帯は,300M,2G,22GHzの3つであり,2G,22GHz帯の受信系についてはヘテロダイン検波方式を採用する.高速ディジタルオシロスコープで衝突から約1msec間の信号を記録する.

測定技術の確立

受信系の入出力特性を測定し,増幅度,飽和特性を明らかにした.外来雑音を調査したところ,加速器の点火により発生する雑音は,衝突以降に現れることはない.同時観測した高速ビデオカメラからのバースト雑音は,衝突による信号と分離・特定が可能であり,これらの雑音が測定に影響を及ぼさないことを確認した.

マイクロ波放射特性

実験より,以下の放射特性が明らかにされた.(1)検出信号は,断続的なパルス波形である.(2)衝突速度,標的の密度が高いほど,検出信号電力も高い.(3)標的の導電率が高いほど,パルスの検出頻度が高い.(4)光が連続的な放射であるのに対して,マイクロ波は断続的である.

また,衝突破壊に関連して,岩石の静的圧縮破壊に伴うマイクロ波放射測定を行ったところ,検出された信号は衝突時と同様に,断続的なパルス波形であった.

放射メカニズムの考察

解明された放射特性から,マイクロ波放射が物体の破壊に関連すると思われる.衝突直後,標的に微小な亀裂が多数生じて,各亀裂において火花放電が発生し,マイクロ波放射が引き起こされると推測される.このモデル化を行い,実験結果と類似することが示される.

宇宙ごみ衝突検出への応用

本現象は,宇宙ごみや微小隕石の人工衛星への衝突検出,被害把握に応用できる.光学観測と比較して,小型・簡易な検出系の構築が可能であり,昼夜関らず観測が可能という利点がある.宇宙ステーションのような有人宇宙機の場合,衝突による人的被害を防ぐために,警報の発生や区画の隔離等の処置を行うことが可能となる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「超高速衝突に伴うマイクロ波放射の観測及び放射メカニズムの考察」と題し、物体の超高速衝突に伴いマイクロ波が放射される現象について、基本特性を観測実験により明らかにするとともに、特に衝突速度および飛翔体や標的の材質等のパラメータ依存性を示し、その観測データを基に放射メカニズム・モデルを提案し、さらに本現象の応用として宇宙デブリの宇宙機への衝突検出システムの検討を行うもので、9章より成る。

第1章「序論」ではまず、宇宙ごみが人工衛星へ超高速衝突する際に生じる被害の重要性について述べ、衝突を検出するシステムが必要であることを説明している。その上で、超高速衝突に伴うマイクロ波放射現象の理解が要求されることを述べている。地震のような静的な物質破壊に伴う電磁波放射についても、衝突放射との違いと研究の現状から言及している。次に、本研究の目的及び論文の構成について述べている。

第2章「実験系の構成と特性」では、まず実験で使用される加速装置の機構・特性、飛翔体・標的の詳細について述べている。特に、観測トリガの発生機構について、時間遅れと観測すべき時間分解能との関係が説明されている。次に、マイクロ波放射の観測システム構成を述べ、超短パルスの連なりを観測するのに適した受信系を提案している。較正実験を行うことにより、入出力特性、出力電圧の飽和特性、増幅器で発生する高調波による出力波形の歪み等を明らかにしている。

第3章「測定環境特性」では、実験室での外来雑音、電波減衰についての特性を実験的に明らかにし、環境が放射測定に影響を及ぼすことが無いことを示している。

第4章「マイクロ波放射特性」では、超高速衝突におけるマイクロ波放射の観測結果について述べている。検出される信号は断続的なパルス波形であり、数十〜数百マイクロ秒継続するという特徴を述べている。得られる波形から、提案する方法で放射電力を推定し、飛翔体・標的の材質依存性について述べている。放射電力は衝突速度の2.9〜6.4のべき乗に比例しており、標的材質が導体の場合、断続的パルス信号が顕著に現れる。飛翔体が標的へ接触してから、パルス信号検出までの時間遅れが、標的の厚さにほぼ比例し、この理由として、標的内に伝搬する衝撃波との関わりについて考察している。

第5章「光学観測との比較」では、高速ディジタルビデオカメラを用いて、衝突発光現象を撮影し、その特徴を述べ、マイクロ波放射が光放射とは異なる特性を持つことを示している。

第6章「岩石圧縮破壊実験」では、超高速衝突における物質破壊と局部加熱を切り分けるために、岩石を静圧で破壊する時のマイクロ波放射観測実験について、その方法、結果を述べている。衝突放射と同様、断続的パルス信号が検出され、マイクロ波放射と物体の破壊が関係することを提示している。

第7章「放射メカニズムの考察」では、衝突実験、静圧破壊実験双方から得られた結果を元に、マイクロ波が放射されるモデルを提案している。標的の物質の破壊あるいは微小亀裂に伴って、摩擦・圧電等で電圧が生じ、火花放電が起こることにより、マイクロ波が放射されるというものである。このモデルによる放射電界及び受信機出力波形を計算により求めて、実験により得られた特性と比較的良く一致することを述べている。

第8章「宇宙デブリ衝突検出への応用」では、宇宙ごみの衝突をマイクロ波で検出するシステムについて、国際宇宙ステーションを例にして検証している。実験データを基に、衛星上の搭載される受信システムで衝突を検出することが可能であることを述べている。

上記の内容全体を、第9章でまとめている。

以上これを要するに本論文は、物体の超高速衝突によるマイクロ波発生現象について、観測技術を確立し、現象を詳細に解析して、マイクロ波発生のモデルおよび宇宙デブリの衝突検出システムの可能性を示しており、電磁気学や宇宙通信工学を中心とする電気工学に貢献し、さらに宇宙工学や材料学への波及効果も少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として、合格と認められる。

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