学位論文要旨



No 119027
著者(漢字) 呉,志松
著者(英字)
著者(カナ) ゴー,チー ション
標題(和) 歪み分布による光ファイバブラッグ回折格子のスペクトル制御とその応用
標題(洋) Spectrum Tuning of Fiber Bragg Gratings by Strain Distributions and Its Applications
報告番号 119027
報告番号 甲19027
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5759号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 山下,真司
 東京大学 助教授 多久島,裕一
内容要旨 要旨を表示する

将来の高密度波長多重フォトニックネットワークでは、光学デバイスに種々のチューナブル機能が要求される。これらのチューナブル機能には,中心波長、群遅延分散(GVD)、分散スロープ(DS)、および帯域幅の可変性が含まれる。このような光デバイスが実現できれば,ネットワークに柔軟性を付与できるだけでなく,ネットワークの制御管理も容易になる。本論文の目的は,ファイバブラッグ回折格子(FBGs)の歪み分布を制御することにより,波長可変フィルタ,可変分散補償器、可変分散スロープ補償器,帯域幅可変フィルタを実現することである。

まず序論では,ファイバブラッグ回折格子の概要が説明される。 研究の歴史、光ファイバの感光度、ファイバブラッグ回折格子のタイプの分類,結合モード方程式に基づく解析手法が述べられる。さらに,ファイバブラッグ回折格子の特性を可変にする手段について検討する。この結果,FBGの長さ方向に加えられた歪みは,温度勾配より高い可変性を提供できることを示す。

次に,波長可変フィルタに関する研究結果を述べる。本研究では,FBGを接着する基板を円弧状に湾曲させることにより,FBGに均一な歪みを与える方法を提案する。均一な歪により,FBGの帯域や分散特性を変化させることなく,中心波長のみを可変にできる。基板構造に関する理論的検討により,広い波長可変範囲を増すための基板としてのハイブリッド材料を提案した。ハイブリッド基板とチューニングパッケージを用いて,100nmの波長可変範囲が達成された。フィルタの偏波依存の損失(PDL)と偏波モード分散(PMD)が様々な曲げ位置で測定され,曲げによる大きな劣化は生じないことが示された。

線形チャープFBGは群遅延分散 (GVD)を補償することができる。FBGは一定な幅の基板に固定される。基板の一端を固定して,他端に変位を与えると,FBGの周期を線形にチャープさせることができる。この原理によって、可変分散補償器が作製された。このデバイスの分散補償能力を実証するために、4kmの通常分散ファイバに2.8psのパルスに入射して、分散補償実験を行った。ファイバの分散により広がったパルスは,分散補償により元の幅に回復した。しかしこの方法では,GVDが調整されているとき、中心波長の移動が避けられない。この問題を解決するために,S字状に基板を曲げる方法を提案し,その機能を実証した。

チャンネル符号伝送速度が40Gbit/s以上になると、光ファイバの分散スロープがパルス波形ひずみを引き起こす。このため分散スロープ補償デバイスの開発が重要となる。不均一な幅を持つ基板にFBGを接着し,一端を固定して基板に曲げを与えると,基板には非線形に分布した歪が生じ,FBGの周期は非線形にチャープする。FBGsの周期が非線形にチャープすると、分散スロープ補償が可能になる。本研究では,非線形にチャープしたFBGの光学特性のシミュレーションにより,分散スロープと利用可能な補償帯域幅の関係を検討し,この結果に基づいて、可変分散スロープデバイスを試作した。これを用いて120-kmの分散シフトファイバ(DSF)の分散スロープの補償実験を行い,2.65-psのパルスを無歪で伝送できることを示した。しかし、本デバイスは、分散スロープが調整されているとき、残留GVDと中心波長周波数がシフトする。この点を改良するために,S字状曲げ基板に接着されたFBG2個を用いるチューナブル分散スロープ補償モジュールを提案・試作した。モジュールの分散スロープ特性を測定した結果,波長中心,GVDを固定したまま,分散スロープのみを可変にできることが示された。

高密度WDMネットワークの管理のためには,複数のチャンネルを束ねて処理するbanded architectureを用いることが有効である。このとき可変帯域幅のフィルタを用いれば,要求に応じてチャンネル数を可変にし,ネットワークを自由に再設定することができる。本研究では,S字状に曲げた基板を用いて2つのFBGを同時にチャープさせ,分散をキャンセルした状態でフィルタ帯域幅を可変にする方法を提案した。実用的なチャンネルの分岐・挿入を行なうためフィルタの詳細な設計を行ない,この設計に基づきフィルタを試作した。さらに,波長多重分離の実験を行って、チャンネル数を可変にできることを示すとともに,その性能を符号誤り率とクロストークの測定により評価した。

以上のように本研究では,FBGの歪み分布を制御することにより,DWDMネットワークに不可欠な可変波長フィルタ、可変分散補償器、可変分散スロープ補償器、帯域幅可変フィルタを実現した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は"Spectrum Tuning of Fiber Bragg Gratings by Strain Distributionsand Its Applications (歪み分布による光ファイバブラッグ回折格子のスペクトル制御とその応用)"と題し,7章からなる。

将来の波長多重(WDM)光ネットワークでは,ネットワークに柔軟性を付与するために,光デバイスに種々のチューナブル機能が要求される。

本論文では,ファイバブラッグ回折格子(FBG)の歪み分布を制御することにより,波長可変フィルタ,可変分散補償器、可変分散スロープ補償器,帯域幅可変フィルタを実現している。

第1章は"Introduction"であり,将来の光ネットワークで必要とされる光デバイスの種々のチューナブル機能について述べた後,本論文の目的,構成を示す。

第2章は"Background of Fiber Bragg Gratingsと題し,ファイバブラッグ回折格子の概要が説明される。 研究の歴史、光ファイバの感光度、ファイバブラッグ回折格子のタイプの分類,結合モード方程式に基づく解析手法が述べられる。さらに,ファイバブラッグ回折格子の特性を可変にする手段について検討する。この結果,FBGの長さ方向に加えられた歪みは,温度勾配より高い可変性を提供できることを示す。

第3章は"Widely Tunable Fiber Bragg Grating Optical Filters"と題し,波長可変フィルタに関する研究結果を述べる。本研究では,FBGを接着する基板を円弧状に湾曲させることにより,FBGに均一な歪みを与える方法を提案する。均一な歪により,FBGの帯域や分散特性を変化させることなく,中心波長のみを可変にできる。ハイブリッド基板とチューニングパッケージを用いて,100nmの波長可変範囲が達成された。フィルタの偏波依存損失と偏波モード分散が様々な曲げ位置で測定され,曲げによる大きな劣化は生じないことが示された。

第4章は"Tunable Group Velocity Dispersion Compensators based onLinearly Strain-chirped Fiber Bragg Gratings"と題し,線形チャープFBGによる群遅延分散 (GVD)の補償について論じる。均一周期FBGを幅一定の基板に接着し,基板の一端を固定して他端に変位を与えると,FBGの周期を線形にチャープさせることができる。この原理によって、可変分散補償器を作製した。さらに中心波長を固定するために,S字状に基板を曲げる方法を提案し,その機能を実証した。

第5章は"Tunable Dispersion Slope Compensators based onNon-linearly Strain-chirped Fiber Bragg Gratingsと題し, 分散スロープ補償FBGについて検討する。

不均一幅を持つ基板にFBGを接着し,一端を固定して基板に曲げを与えると,基板には非線形に分布した歪が生じ,FBGの周期は非線形にチャープする。FBGの周期が非線形にチャープすると、分散スロープ補償が可能になる。

本研究では,非線形にチャープしたFBGの光学特性のシミュレーションに基づき,さらに,分散スロープ調整時の残留GVDと中心波長周波数シフトを抑圧するために,S字状曲げ基板に接着されたFBG2個を用いるチューナブル分散スロープ補償モジュールを提案・試作した。モジュールの分散スロープ特性を測定した結果,波長中心,GVDを固定したまま,分散スロープのみを可変にできることが示された。

第6章は"An OADM with Bandwidth Tunability based on S-Bend Chirping of Twin Fiber Bragg Gratings"と題し,可変帯域幅のフィルタについて論じる。

高密度WDMネットワークの管理のためには,複数のチャンネルを束ねて処理することが有効である。このとき可変帯域幅のフィルタを用いれば,要求に応じてチャンネル数を可変にし,ネットワークを自由に再設定することができる。本研究では,S字状に曲げた基板を用いて2つのFBGを同時にチャープさせ,分散をキャンセルした状態でフィルタ帯域幅を可変にする方法を提案・試作した。さらに,波長多重分離の実験を行って,実際にチャンネル数を可変にできることを示すとともに,その性能を符号誤り率とクロストークの測定により評価した。

第7章は"Conclusion"であり,本研究の成果をまとめている。

以上のように本研究では,光ファイバブラッグ回折格子の歪み分布を制御する原理に基づく広帯域波長可変フィルタ,可変分散補償器,可変分散スロープ補償器,帯域幅可変フィルタの設計,試作,評価を行なった。

これらのデバイスは,波長チャンネルの分岐・挿入,適応分散等化など,将来の波長多重光ネットワークに柔軟な機能を与えるもので,電子工学への貢献が多大である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク