学位論文要旨



No 119055
著者(漢字) 張,欽礼
著者(英字)
著者(カナ) チョウ,キンレイ
標題(和) 中国の銅資源の評価とそれに基づく探査への助言
標題(洋) Resource Assessment of Chinese Copper Deposits and Suggestions for Exploration
報告番号 119055
報告番号 甲19055
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5787号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正路,徹也
 東京大学 教授 金田,博彰
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 教授 六川,修一
 東京大学 助教授 加藤,泰浩
内容要旨 要旨を表示する

経済の急速な成長に伴い、中国では銅の需要が急激に増加している。一方、発見される銅の埋蔵量が少ないため、国内生産はこの巨大な需要を満たせない。中国はすでに銅の純輸入国になっている。さらに、経済の継続的な成長に伴って、世界における銅の市場にもっと顕著な影響を及ぼすと考えられる。したがって、中国だけではなく、世界にとっても、中国における銅鉱床を十分に評価して、将来の探査に有効な提案を行うことは非常に重要なことである。

多くの銅鉱床、たとえば、世界の61%、中国の73%の銅鉱床が多金属である。銅鉱床を厳密に定義するために、鉱石中の銅価格の割合(RCU)によって二つのグループに大別した。すなわち銅を主産物とする鉱床(MC:RCU〓0.5)と副産物とする鉱床(AC:RCU〓0.5)に分ける必要がある。また、多金属については、随伴金属を銅品位に換算した銅相当品位(ζ)を導入した。統計学解析によると、品位と金属量、品位と鉱量はほとんど相関しないのに対し、金属量は鉱量と強く相関している。

現在のデータによると、鉱床の品位は全体として対数正規分布する。しかし、0.3%以下になると、対数正規確率紙上で分布が平になる。頻度分布の高品位部はMCとACの和で決まるのに対し、低品位は、ACで決まる。金属量と鉱量はいずれも対数正規分布をするが、山西省に位置している中条山鉱床区(ZT)の影響で、累積頻度が平になっていると考えられる。

多くの場合、低品位あるいは小型の鉱床は報告されないため、現在のデータでは品位、金属量および鉱石量は両対数グラフが小さい値の部分で水平になり、パレート分布を示さない。直線性を示す値の大きい範囲にパレート分布を適用すると、品位χ、金属量mおよび鉱石量tの累積数に対してそれぞれ以下の式で表わされる:〓ここで、Nは鉱床の累積数である。

中国の銅鉱床にはCu-(Au+Ag), Cu-(Pb+Zn), Cu-Mo, Cu-Fe と Cu-Niという4種類の金属組合せがある。Cu-(Pb+Zn), Cu-Mo, Cu-Fe , Cu-Ni金属組合せの鉱床はそれぞれ火山性塊状硫化物(VMS),斑岩(porphyry),スカルン(skarn),正マグマ成(orthomagamatic)を主な型とする。これに対し、Cu-(Au+Ag)組合せの鉱床は各種の鉱床型で見られ、それを特徴づける特定の型はない。

中国には、6つの構造区に69の鉱床区がある。鉱床数と金属量の比密度(=各鉱床区の単位面積当たり密度/全中国の単位面積あたり密度)によると、比密度が3以上の銅鉱床区が10ケ所ある。そのうち、中条山(ZT)、長江中下流(YT)と康デン(KD)は最も重要な銅鉱床区である。各銅鉱床区は表4−8に示すように、一つか二つの主要な鉱床型および一つの主要な生成時期によって特徴づけられる。斑岩型鉱床と火山性塊状硫化物鉱床は規模が大きく、火山性塊状硫化物鉱床と鉱脈(Vein)鉱床は品位が高いという傾向を示す。

品位−鉱量モデルは資源評価に対する最も有用な手法のひとつである。ある品位χとその品位以上の鉱床の累積鉱量T(χ)との関係は以下のような指数関数で表せる:〓ここで、Toとχcはそれぞれ定数であり、χcを臨界品位という。すべての鉱山が臨界品位以上で操業しているかぎり、品位の減少に伴っても、より多くの金属量を確保できるので、その資源は楽観的と評価される。逆に、いくつかの鉱山が臨界品位以下で操業している場合には、品位をさらに下げても金属量の増加はたいして望めないので、その資源は悲観的と評価される。

品位−鉱量モデルから、以下の品位−金属量モデルを本論文では導いた:〓ここで、M(χ)はχより品位が高い鉱床の累積金属量である。また、多金属鉱床に対する銅相当品位−鉱量モデルと富化比(enrichment ratio)−鉱量モデルも調べた。なお、これらのモデルで、銅資源を評価するときはMCグループの鉱床だけを対象とした。なぜならない、ACグループの鉱床は銅鉱床ではなく、他の主産物金属の鉱床として評価されるべきである。

中国におけるMC鉱床の品位−鉱量モデルは高品位部(> 3.0 %)と低品位部(< 2.0%)を表す二つの指数関数の組合せで近似できる:〓低品位部を表す指数関数から得られる臨界品位は0.34 %である。現在いくつかの鉱山が臨界品位付近で操業しているので、中国の銅資源は悲観的状態に移りつつあるといえる。

中国におけるMC鉱床の銅相当品位−鉱量モデルは1.8%の銅相当品位を境に二つの部分に分ける。これらを組み合わせると:〓となる。臨界銅相当品位は0.43 %である。臨界銅相当品位で見ても、中国の銅資源は悲観的状態に入っている。

世界におけるMC鉱床の品位−鉱量モデルと銅相当品位−鉱量モデルも求めた。世界における銅鉱床の臨界銅相当品位は中国と大体同じが、臨界品位は高い。したがって、世界における銅資源はもっと悲観的と評価される。

多金属鉱床の評価に対しては、銅相当品位−鉱量モデルの方がより有効であると考えられるが、銅相当品位と累積鉱量との関係は銅品位−鉱量モデルと大差はない。したがって、銅資源の統計学的評価には、品位−鉱量モデルで行えば十分である。

経済的観点から見ると、大型、特に超大型鉱床は非常に重要である。大型銅鉱床の主要な型は斑岩である。半分以上が多金属鉱床であり、最も重要な随伴金属はモリブテンである。中国の大型銅鉱床の平均品位は0.81%で、世界と較べて低い。

パレート分布を仮定すると、似た地質環境で生成された潜在の大型銅鉱床を予測できる。YT鉱床区におけるスカルン型鉱床のパレート係数は0.8391である。当鉱床区の中に3個の超大型鉱床を含む21個の大型スカルン型鉱床が存在すると推定された。これらの鉱床の埋蔵量は29.4Mtに達する。チベトに位置している玉竜(YL)鉱床区における斑岩型鉱床のパレート係数は1であり、26個の潜在大型斑岩型鉱床が総計で51.2Mtの埋蔵量を持っていると予測される。

中国では、単位GDPあたり銅の消費量が多くの先進国だけではなく、多くの発展途上国に較べても高い。現在のGDPと銅消費量の関係から、中国の銅消費量はすくなくとも今後の10〜15年間これまでの傾向が続くと予想される。これまでの中国の銅の年間消費量Ct(Mt・y-1)は以下のような時間t(y)の指数関数で近似できる:〓また、リサイクル量Pts(Mt・y-1)はt年度までの累積消費量Ct(Mt)と次の関係にある:〓さらに、2001年に基づく物価指数で換算された累積投資It(10億元、G)と探査された累積金属量Mt(Mt)との関係は以下に示した関数で近似できる:〓ここで、 G と Mtはそれぞれ2001年までの累積投資と累積探査金属量である。この式によると、同じの投資でも探査で得られる金属量は毎年減少する。

将来必要な探査金属量と必要な投資額を (i) 2002年の自給率(33%)の維持する、(ii) 25年の可採年数を維持するという二つの条件の下に推定した。推定結果によると、2002年から2015年の間に、獲得しなければならない金属量は消費量と同じの年率(7.2 %)で増加しなければならない。一方、必要な投資額は7.9−8.6%というさらに高い年率で増加しなければならない。必要な獲得金属量は総計20.2Mt、必要な投資額は総計4.5G(2001年の物価指数を基準)である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,中国中部,小秦嶺地域に存在する桐溝金鉱床から系統的に試料を採取し,それらを光学顕微鏡による鉱石組織の観察,粉末X線回折による鉱物同定,EPMAによる鉱石鉱物の化学分析,流体包有物の観察と温度,および塩濃度の測定,レーザーラマン分光法による包有物流体の組成分析などによって詳細にキャラクタライズするとともに,その結果にもとづいて,鉱床生成時における造構運動と地化学的進化を明らかにした.

鉱化作用は,1)黄鉄鉱−石英期,2)石英−多金属硫化鉱物期,3)石英−黄鉄鉱−炭酸塩期に大別できる.このうち,主な金の鉱化作用は第2期である.この時期に金とともに沈殿した黄鉄鉱など硫化鉱物およびテルル金銀鉱などテルル化鉱物の分析値によると,金鉱化時の硫黄フガシティとテルルファがシティはそれぞれ10-12〜10-14と10-9〜01-11atmと推定される.

流体包有物は,CO2の含有量によって,CO2の体積が50%以上のCO2主体型,それ以下の含CO2型,およびCO2をほとんど含まない無CO2型に分けられる.また,流体包有物の形態および産状を考慮すると,初成,擬二次,二次の包有物に分けられる.初成包有物は石英結晶中にランダムに分布し,ほとんど無CO2型と含CO2型である.初成包有物はその生成温度により,2世代に分けられる.すなわち,第一世代は均質温度Thが280〜370℃で,塩濃度が4.9〜12(NaCl相当wt%),第二世代はThが180〜270℃で,塩濃度が0〜3(NaCl相当wt%)である.

擬二次包有物は石英の結晶成長途上で生成した割れ面に沿って生成した.擬二次流体包有物は主にCO2主体型と無CO2型包有物であるが,含CO2型もある.このうち,CO2主体型包有物を含む面は石英脈の両盤にほぼ平行である.一方,無CO2型包有物を含む面はほぼ垂直である.また,含CO2型包有物を含む面は両者に斜交する.石英脈の両盤に平行に並ぶCO2主体型流体包有物の均質化温度は230〜340℃であり,液体CO2の消失温度は18〜27℃である.一方,無CO2型流体包有物の均質化温度は200〜370℃である.塩濃度は両方とも3.3−10.1(NaCl相当wt%)である.CO2主体型包有物の25℃におけるCO2の体積から推定されるCO2のモル分率は16〜53%である.また,CO2主体型包有物のCO2の密度は0.28〜0.39g/cm3であり,これより鉱化作用時の圧力は300〜400 MPaと推定される.

CH4を含む流体包有物は1217mレベルの試料に認められた.その気泡の体積は包有物全体の30〜80%を占める.レーザーラマン分光によると,流体包有物のガス成分としてCO2とCH4が確認された.CH4/ CO2モル比は,0.010〜0.105で,CO2の量圧倒的に多い.

流体包有物の生成過程はその特徴から,2つの段階に分けられる. 段階1では,造構運動によって形成された引っ張り割れ目に石英の結晶が成長した.この石英結晶中に脈壁に平行な割れ目が形成され,そこに熱水が侵入して,CO2主体の擬二次包有物が生成した.段階2では,剪断破壊によって石英結晶中に脈壁に垂直な微小割れ目が形成され,そこに熱水が捕獲されて無CO2型流体包有物が生成した.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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