学位論文要旨



No 119089
著者(漢字)
著者(英字) KUCHONTHARA,PRAPAN
著者(カナ) クチョンターラー,プラパン
標題(和) エネルギー再生技術に基づく高効率発電システムの統合化と設計に関する研究
標題(洋) Process Integration and Design of High Efficiency Power Generation Systems Based on Energy Recuperation Technology
報告番号 119089
報告番号 甲19089
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5821号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 堤,敦司
 東京大学 助教授 平尾,雅彦
 東京大学 教授 高橋,宏
 東京大学 助教授 山口,猛央
 東京大学 教授 笠木,伸英
内容要旨 要旨を表示する

本章は、まずエネルギーに対する基礎的な事柄をまとめ、発電システムについてその原理と特徴を整理して解説した。そして、高効率発電技術に関する既往の研究をまとめた。年々電気エネルギーの需要が増加する中、エネルギー資源を有効に利用するため、より高効率な発電システムが求められている。タービンや燃料電池などの要素技術とそれぞれの技術を組み込んだシステムがこれまで提案されてきたが、個々の要素技術の改善では限界がある。さらなる高効率化のためには、個々の要素技術をいかに統合するかという最適システム化技術、あるいはその手法・方法論が重要となる。既往の研究では、発電システムから出た排熱をいかに有効に利用するかという観点のみに基づいて、全体の効率の向上を図ってきた。しかし、これは主なエクセルギー損失が燃焼過程で生じていることを考えると、排熱のマッチッング・有効利用のみでは限界があることは明らかである。そこで、エネルギープロセス内で質が低下したエネルギーすなわち排熱をリサイクルすることによって、エネルギーの有効利用を図るという「エネルギー再生」の概念を提案し、その原理と適用手法について考察し、高効率化を実現するための統合的なエネルギープロセスの設計手法及び方法論を確立することを目的として研究を行った。具体的な例として、燃料電池とガスタービン;バイオマスガス化とガスタービンの組み合わせを取り上げ、それぞれにエネルギー再生技術をどのように適用すればよいかを、プロセスシミュレーターを用いて計算することによって明らかにし、エネルギー再生技術による発電システムの高効率化に必要な設計手法を明らかにした。

本研究では、エネルギー再生技術を、排熱を熱として再利用する熱再生、水蒸気を発生させて排熱を再利用するスチーム再生、排熱を反応熱として再利用する熱化学再生の3つに分類し、それぞれの原理及び特徴を解析した。その上で、エネルギー再生の概念に基づき、エネルギープロセスをどのように統合化すべきかの指針を提案した。まず、エクセルギーの観点から、ガスタービン(GT)の発電技術を解析し、内部損失として燃焼過程におけるエクセルギー損失が最も大きいことを示した。また、単純なGTでは、内部損失に加えて外部損失として廃熱のエクセルギーも大きいため、システムの効率が低くなることを示した。その結果、エネルギープロセスでの効率向上のためには燃焼過程におけるエクセルギー損失と外部損失としての廃熱の損失を共に低下させることが必要であることを明らかにした。従来の高効率化の手法であるカスケード利用では、GTと水蒸気タービン(ST)のコンバインドサイクルなどにおいて、排熱を回収し、外部損失を減らすことによって全体の効率を向上できるが、燃焼過程におけるエクセルギー損失を低下できるものではないことを指摘した。これに対して、エネルギー再生は内部損失と外部損失の双方の低下が期待できることを示した。

熱再生、スチーム再生、熱化学再生をガスタービンに適用し、それぞれをした。すると、熱再生は燃焼過程におけるエクセルギー損失(内部損失)を減少させるので、燃焼性能を向上させることがわかった。一方、スチーム再生の場合は低エクセルギー率の水蒸気を加えるため、燃焼過程のエクセルギー損失が大きくなるが、スチーム再生は熱再生より廃熱のエクセルギー損失(外部損失)を大いに減少させることができ、その結果、スチーム再生を組み込んだGTは単純なGTより効率が高いことがわかった。しかし、燃焼や水蒸気発生などにおける内部損失が大きいため、熱再生を組み込んだGTより総合効率が低いこと、また熱再生はスチーム再生より効率的であることがわかった。それにもかかわらず、熱再生では排熱を回収しきれない場合があるので、熱再生だけでは不十分だと考え、熱再生に加えてスチーム再生を適用した結果、より高い効率が得られることがわかった。また、熱化学再生を適用することで、全体の効率が更に向上することを示した。これは、吸熱反応によって、燃料の熱容量が増加しエクセルギー率が減少するので、燃焼におけるエクセルギー損失と外部損失が低下したためだと考えた。

近年の高効率発電システムの一つである固体電解質形燃料電池(SOFC)とガスタービン(GT)のコンバインドシステム(SOFC-GT)に対して、提案した手法を実際に適用し、本手法によってSOFC-GTの最適設計が可能なことを実証した。そして、SOFCと高湿分ガスタービンのコンバインドシステム(SOFC-HAT)を、熱とスチーム再生を組み込んだ新しいシステムとして提案した。まず、SOFC-GTのコンバインドシステムにおけるエネルギー再生技術の新しい統合化の評価を行った。その結果、全体のシステムパフォーマンスが主にSOFCの燃料利用率とGTの効率によるということがわかった。GT燃焼室のエクセルギー損失の減少は、SOFCの燃料利用率を高めシステム全体の効率を向上する。そのため、熱再生を組み込んだGTは同じタービン入り口温度で、高いSOFCの燃料利用率が得られることがわかった。また、熱再生で回収しきれないGTの排熱をスチーム再生で使用することによって、全体の効率が上がることを明らかにした。

一方、SOFC-HATは、通常の熱とスチーム再生を統合したSOFC-GT、及び水蒸気タービン(ST)を組み込んだSOFC-GTシステムより、総合効率が優れていることが示された。これは、エネルギー及びエクセルギー解析の結果により、SOFC-HATは熱とスチームの再生比率が高く、内部エクセルギー損失が最も低いためだとわかった。

本章では、バイオマスガス化とガスタービンを組み合わせたシステム(BIG/GT)に対して、エネルギー再生技術を適用し、最適プロセス設計を試みた。一般的なガス化炉の内部燃焼の替わりに、GTの排熱を熱化学再生しガス化の反応熱として与えることで、全体の効率の向上が期待できる。ここでは、三つ全てのエネルギー再生技術を組み込んだBIG/GTを提案した。まず、エネルギー再生技術を適用することによって廃熱の外部損失が低下し、それにより、一般のBIG/GTより全体の効率が高くなった。また、熱とスチーム再生を組み込んだBIG/GTと比較しても、三つのエネルギー再生技術を統合したシステムの効率が高いことから、熱化学再生を導入すると効果的であることが実証された。エクセルギー解析の結果、熱交換器におけるエクセルギー損失を減少させることで、システムの総合効率が向上するということがわかった。

本章は本研究の総括である。本研究によりエネルギー再生の概念に基づき、発電システムを高効率化するための設計手法及び方法論を提案した。エクセルギーの観点から、熱再生、スチーム再生、熱化学再生のそれぞれの特徴を解析し、最適な統合化の指針を提案した。エネルギー再生技術を組み込む際には、まず熱再生と熱化学再生を最大にするように適用するのが最も有効であることが明らかになった。さらに、外部損失を低下するためには、スチーム再生を適用することが適切であることがわかった。また、SOFC-GTとBIG/GTについて提案した手法を実際に適用したところ、より高い効率が得られた。このような新しいエネルギー再生技術を統合したシステムを提案した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、”Process Integration and Design of High Efficiency Power Generation Systems Based on Energy Recuperation Technology”(和題「エネルギー再生技術に基づく高効率発電システムの統合化と設計に関する研究」)と題し、発電システムの高効率化を可能とするエネルギー再生技術について体系的に整理するとともに、エネルギー再生に基づいてガスタービン、燃料電池およびガス化炉をどのように統合化すればよいのかを示す新しい方法論を提案し、固体電解質形燃料電池とガスタービン、バイオマスガス化とガスタービンの複合サイクルを具体的な例として提案した手法を適用してプロセス解析を行い、エネルギーシステムの最適設計を行ったものである。本論文の構成は5章から成っている。

第1章では、まずエネルギーと発電システムの基礎について述べられ、最新の高効率発電技術についてまとめられている。そして、本研究の目的が示されている。

第2章では、まずエネルギー再生の概念について述べ、エネルギー再生技術を体系的に整理しその特徴をまとめている。エネルギー再生とはエネルギー変換プロセスからの排エネルギーをリサイクルすることでプロセスにおけるエクセルギー損失を低減するものである。エネルギー再生技術を、熱エネルギーとしてリサイクルする熱再生、燃焼生成物であるスチームをリサイクルするスチーム再生、吸熱反応を利用して化学エネルギーの形でリサイクルする熱化学再生に分類した。そして、熱再生、スチーム再生、熱化学再生およびそれらの組み合わせをガスタービンシンプルサイクルに適用し、エネルギー変換ダイヤグラムを使って熱力学的解析を行った。このとき、エクセルギー損失を、主に燃焼過程で失われる内部エクセルギー損失と最終的に利用されずに外部に排出される外部エクセルギー損失に分け、どこでエクセルギー損失がどれだけ発生しているかについて分析した。その結果、熱再生は燃焼過程におけるエクセルギー損失を大幅に低減することができるが、ガスタービン排熱の一部しか利用できないため外部エクセルギー損失はまだ大きいこと、スチーム再生はスチームのエクセルギー率が小さいため内部エクセルギー損失が大きくなるが、最終排ガス温度を低くできるため外部エクセルギー損失を大幅に低減できること、熱化学再生は燃料のエクセルギー率を下げることにより内部エクセルギー損失を低減でき、特に反応温度が高く転化率が大きい場合はその効果が著しいことを明らかにした。そして、エネルギー再生技術に基づくインテグレーションは、まず、熱化学再生と熱再生を行い、最後に残った排熱をリサイクルするためにスチーム再生を適用するという、統合化・設計手法を提案した。

第3章では、第2章で提案した手法を固体電解質形燃料電池(SOFC)とガスタービンとの複合システムに適用し、SOFC-GT、熱再生型SOFC-GT、スチーム再生型SOFC-GT、熱およびスチーム再生型SOFC-GT、SOFC-GT/ST、SOFC-HATについて最適システム設計を行うとともに、各システムのエクセルギー解析を行った。熱再生によって主に内部エクセルギー損失を、スチーム再生によって外部エクセルギー損失を低減することができ、大幅な高効率化が可能であることを示している。中でも熱再生とスチーム再生の比を大きくとれるSOFCとHATサイクルの組み合わせが最も効率が高いことを見いだしている。

第4章では、ガス化とガスタービンとのインテグレーションについてエネルギー再生技術を適用している。従来型のバイオマスガス化-ガスタービン複合サイクル(BIG-GT)に対して、熱およびスチーム再生に加えて熱化学再生も導入し、エネルギー再生を徹底的に行ったエネルギー再生型BIG-GTを設計・提案し、プロセス評価およびエクセルギー解析を行っている。その結果、提案されたシステムがエネルギー再生によって効率が大幅に向上することを報告している。さらに効率を向上させるには、ガス化温度を上げること、すなわちタービン出口温度を上げることが重要であり、この方策として、圧力比をさげる、タービン入口温度(TIT)の高温化、再燃を考え、比較し、タービン入口温度の高温化が最も効率向上に寄与することを見いだしている。

第5章では、本論文で提案されたエネルギー再生技術に基づく高効率発電システムの統合化と設計に関する手法に関して総括されている。

以上に示すように、本論文は、エネルギー再生技術を体系的に整理し、熱再生、スチーム再生および熱化学再生の3つに分類してそれぞれの特徴をまとめ、高効率化を図るためにエネルギー再生技術をどのように適用させ発電プロセスの統合化・最適設計を行うべきか示したものであり、ここで提案された手法および得られた知見は、エネルギー分野で広範な応用が可能であり、新しい高効率発電プロセスの開発およびエネルギー技術の体系化に資するものであり、エネルギー工学および化学システム工学に大きな貢献をするものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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