学位論文要旨



No 119155
著者(漢字) 朴,範鎮
著者(英字)
著者(カナ) パク,ボムジン
標題(和) 森林作業における車両系林業機械オペレータの労働負担に関する研究
標題(洋)
報告番号 119155
報告番号 甲19155
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2706号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 森林科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,洋司
 東京大学 教授 箕輪,光博
 東京大学 教授 酒井,秀夫
 東京大学 助教授 仁多見,俊夫
 東京農業大学 教授 豊川,勝生
内容要旨 要旨を表示する

従来の林業労働は,足場が悪い急峻な林内のチェーンソーなどの手持ち林業機械を利用した作業や,直接,重い木材を取り扱う作業が多いため,全身労働に対応した作業強度に関する研究が行われてきた。しかし,最近の森林作業は,林業機械化の進展とともに運転を伴う作業が多くなり,土木作業の機械運転作業と同様な作業形態になってきた。

林内作業車は,小規模林業の集運材作業のために開発され,2001年現在民有林で約2万台が使用されている日本の代表的な車両系林業機械である。この機械による集運材作業でのオペレータの疲労原因としては,座席振動や,運転作業姿勢,レバーなどの操作動作が不適切であることがあげられる。しかし,その集運材作業の操作手順は,高性能林業機械より少なく,座席振動が大きい。座席振動を主たる原因としたオペレータの筋疲労度を評価する必要がある。本研究では,小型車両系林業機械によるの集運材作業を人間工学的に評価し,許容できるオペレータの作業負担として可能な作業量としての適正な集運材距離と作業時間を提示することを目的とする。

第1章では,日本林業の状況と間伐の必要性を概観し,小規模民有林の間伐作業における林内作業車の役割を示した。その上で,林内作業車を利用した間伐作業における人間工学的な研究の必要性と本研究の目標と構成を示し,林業労働分野における研究の位置づけを行った。

第2章では,林内作業車による集運材作業の主たる運転作業を中心とする作業を,人工加振機実験によって再現させた。発生させた振動が与えるオペレータの疲労度を評価する分析プログラムの作成を行い,オペレータの生理信号について分析し,考察した。集運材作業による精神的な疲労度の評価指標としては,心拍0.1Hzパワーが,静的な筋疲労度の評価指標としては,筋電図のパワースペクトラムと筋電図の%MVCが有効であることを確認した。

第3章では,オペレータの疲労度評価に有効な筋電図の%MVCを利用し,集運材作業における座席振動暴露によりオペレータに起こる筋疲労を評価した。またその結果として1つの連続した集運材作業において蓄積された筋疲労によって筋痛が出現しない安全区域と出現する筋痛区域,筋痛が累積して筋骨格系の疾患になる恐れがある危険区域に区分することを提案した。この結果により1つの連続的な集運材作業時間が60分の場合,ISO2631-1で定められた座席振動加速度が約0.5m/sec2以内であれば,安全区域以内で作業が行えると考えられる。

第4章では,運材作業によるオペレータの疲労度に影響を及ぼす作業環境要因である路面の凹凸に関する検討を行った。ISO8608で定められた数量的方法によって砂利林道,土砂林道,土砂作業道の路面プロフィールを評価した。路面凹凸は路面粗度係数Gd(n0)を指標として捉えることができ,砂利林道では約778(1E-06m3),土砂林道では約1,701(1E-06m3),土砂作業道では約3,395(1E-06m3)であった。路面凹凸の等級区分によると,砂利林道と土砂林道がDクラス,土砂作業道がEクラスであった。

第5章では,第4章で評価した路面凹凸と運材時の車両走行方法の違いによる座席振動をISO2631-1で定めあられた方法で評価した。運材作業におけるオペレータの疲労度を車両の座席振動と,路面凹凸によって分析した。路面凹凸が激しいほどオペレータの疲労度が大きく,路面整備の重要性が確認できた。車両の載荷条件および走行速度の違いによるオペレータの疲労度を分析した結果,空車時が実車時より高く,走行速度が速いほど高いことが分かった。

運材作業オペレータの労働負担が許容範囲以内で集運材作業を行えるための労働負担許容範囲以内で1連続作業が行えるような運材距離と走行速度の組合せする方法を提案した。運材速度と距離が決定すると,ISO2631-1が定められた健康指針警戒区域で提案している1日集運材作業可能時間以内で作業ができるように,オペレータ1人当たり1日走行可能回数や総運材作業時間を決定した。この結果より提案した試験車両の運材距離別基準作業時間は,現場でオペレータに労働負担の少ない集運材作業の時間計画の目安になると考えられる。

第6章では,総活として車両系林業機械オペレータの作業負担について論じ,オペレータの労働負担許容範囲以内で集運材作業が行える基準の作業時間を示した。

審査要旨 要旨を表示する

林内作業車は,2001年現在民有林で約2万台が使用されている日本の代表的な車両系林業機械である。この機械による集運材作業でのオペレータの疲労原因としては,座席振動や,運転作業姿勢,レバーなどの操作動作が不適切であることがあげられる。本論文では,小型車両系林業機械によるの集運材作業を人間工学的に評価し,許容できるオペレータの作業負担として可能な作業の適正な集運材距離と作業時間を提示することである。

第1章は,序論で、第2章では,林内作業車の主たる運転作業を中心とする作業を,人工加振機実験によって再現させた。発生させた振動が与えるオペレータの疲労度を評価する分析プログラムの作成を行い,オペレータの生理信号について分析し,考察した。集運材作業による精神的な疲労度の評価指標としては,心拍0.1Hzパワーが,静的な筋疲労度の評価指標としては,筋電図のパワースペクトラムと筋電図の%MVCが有効であることを確認している。

第3章では,オペレータの疲労度評価に有効な筋電図の%MVCを利用し,集運材作業における座席振動暴露によりオペレータに起こる筋疲労を評価した。またその結果として1つの連続した集運材作業において蓄積された筋疲労によって筋痛が出現しない安全区域と出現する筋痛区域,筋痛が累積して筋骨格系の疾患になる恐れがある危険区域に区分することを提案した。

第4章では,運材作業によるオペレータの疲労度に影響を及ぼす作業環境要因である路面の凹凸に関する検討を行い、ISO8608で定められた数量的方法によって砂利林道,土砂林道,土砂作業道の路面プロフィールを評価した。路面凹凸は路面粗度係数Gd(n0)を指標として捉えることができた。路面凹凸の等級区分によると,砂利林道と土砂林道がDクラス,土砂作業道がEクラスであった。

第5章では,第4章で評価した路面凹凸と運材時の車両走行方法の違いによる座席振動をISO2631-1で定めあられた方法で評価した。運材作業におけるオペレータの疲労度を車両の座席振動と,路面凹凸によって分析したが、路面凹凸が激しいほどオペレータの疲労度が大きく,路面整備の重要性が確認できた。運材作業オペレータの労働負担が許容範囲以内で集運材作業を行えるための労働負担許容範囲以内で1連続作業が行えるような運材距離と走行速度の組合せする方法を提案した。この結果より提案した試験車両の運材距離別基準作業時間は,現場でオペレータに労働負担の少ない集運材作業の時間計画の目安になると考えられる。

以上、要するに本論文では、車両系林業機械オペレータの作業負担について論じ,オペレータの労働負担許容範囲以内で集運材作業が行える基準の作業時間を示した。これはオペレータの安全作業、労働負担の軽減に役立つものと考えられ、学術上応用上貢献することが少なくない。よって審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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