No | 119248 | |
著者(漢字) | 伊藤,健治 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イトウ,ケンジ | |
標題(和) | 分裂酵母Cdc2に対する新規チェックポイント制御機構の可能性 | |
標題(洋) | Possibility of novel checkpoint regulation for cdc2 kinase in fission yeast | |
報告番号 | 119248 | |
報告番号 | 甲19248 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2222号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 分子細胞生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 真核生物の細胞周期研究において、出芽酵母、分裂酵母は良いモデルとして解析されてきた。それは細胞の基本的な機能に関する多くの変異体が単離されていること、強力で迅速な遺伝学が使えるためである。 細胞周期因子の中でもCdkは細胞周期エンジンと呼ばれる中心的な役割を果たすリン酸化酵素群であり、この因子の制御が細胞周期制御に非常に重要である。分裂酵母におけるCdkはCdc2キナーゼのみと考えられているが、この因子の15番目のチロシン残基がWeel/Miklキナーゼによりリン酸化されることで負に制御されることが知られており、この制御がDNA障害時やDNA複製阻害時における細胞分裂抑制(G2チェックポイント停止)に重要であると考えられてきた。 本研究ではまず、15番目チロシン残基近傍を高等真核生物Cdk4/6の配列と置き換えた新たなcdc2cDNAを作製し、これをicdc2-4aと名付けた。weel-50、Δmikはcdc2の15番目チロシンをリン酸化出来ないことによりcdc2活性が上昇し、染色体複製途中で細胞分裂を引き起こす温度感受性変異株であるが、icdc2-4a遺伝子を組み込んだ多コピープラスミドを導入した場合温度感受性が抑圧された。また、cdc25-22はcdc2の15番目チロシンを脱リン酸化出来ないことにより細胞分裂を起こせないまま停止してしまう温度感受性変異株であるが、同様に導入した場合やはり温度感受性が抑圧された。 この変異遺伝子を染色体上に組み込んだ場合でも、cdc25-22の温度感受性を抑制し、weel-50、Δmikにおいてもある程度抑制した。一方で、icdc2-4a株は野生株cdc2と同等の生育速度を示し、またin vivoから精製した場合ほぼ同等のリン酸化活性を示した。以上のことから、この変異株は15番目のチロシンリン酸化制御非依存的に生存していると考えることが出来る。 この15番目のチロシンリン酸化について、リン酸化抗体を用いたさらなる精査を試みた。対数増殖期ではこの変異Cdc2は野生型と同等にリン酸化されていた。また、weel-50、Δmikの半許容温度条件下において速やかに脱リン酸化されるという点でも野生型と等しかった。しかしながら、その半許容温度条件下において、野生株はチェックポイント異常を引き起こすのに対し、icdc2-4a株は正常に停止した。このことは15番目のチロシンリン酸化が細胞周期停止に必ずしも必要でないことを示している。 次に、このcdc2変異株においてチェックポイント機構が正常に機能しているかどうかを調べた。MMS(メチルメタンスルホネート)瀑布によるDNAメチレーションや、HU(ハイドロキシウレア)によるDNA合成阻害に対しては弱い感受性を示し、UV照射に対しては野生株と同等に生育した。すなわち、このcdc2変異株のDNA傷害、DNA複製阻害に対する細胞周期停止はほぼ正常であることが判明した。現在までの知見では、cdc2は15番目チロシン残基リン酸化、及び脱リン酸化の阻害のみがチェックポイント制御下にあると考えられてきたが、この新たな変異株の存在により、cdc2の別の部位がチェックポイント制御下にあることを、すなわち未知の機構が存在していることを示唆している。 | |
審査要旨 | 本研究では真核生物の細胞周期進行において非常に重要な役割を果たしているCdkの制御をより詳しく精査するため、分裂酵母Shizosaccharomyces pombeをモデルにCdc2/Cdk1キナーゼの制御様式を解析し、以下の結果を得ている。 Cdc2は15番目チロシン残基リン酸化により負に制御、脱リン酸化により正に制御されることが知られている。このCdc2 15番目チロシン残基周辺4アミノ酸を変異させ、ヒトCdk4/6と同配列となるように変異させたCdc2-4aを作成し解析を試みた。まず、このタンパクをコードするcdc2-4a遺伝子はcdc2-L7変異株の温度感受性を多コピープラスミドにより抑圧した。また、SV40プロモーター支配下にあるcdc2-4遺伝子を染色体cdc2遺伝子座位に組み込んだicdc2-4a株は、野生型cdc2+遺伝子を同様に組み込んだicdc2+株と同等の生育及びキナーゼ活性を示した。これらのことからCdc2-4a変異型タンパクは野生型Cdc2と同等の活性を持つことが遺伝学、生化学両方の面から示された。 weel-50 Δmikl二重変異株及びicdc2+ weel-50 Δmikl三重変異株は温度感受性を示す。これはWeel/Miklチロシンキナーゼ失活によりCdc2キナーゼ活性が抑制されないためと考えられている。またcdc25-22株及びicdc2+ cdc25-22二重変異株も温度感受性を示すが、これはCdc25チロシンフォスファターゼがCdc2キナーゼを正に制御する機能を有しており、この失活によりCdc2が抑制されたままになるためと考えられている。一方で、icdc2-4a weel-50 Δmikl三重変異株及びicdc2-4a cdc25-22二重変異株は温度感受性を示さなかった。また、weel-50 Δmikl二重変異株やcdc25-22変異株にCdc2-4aをコードする多コピープラスミドを導入した場合においても同様に温度感受性からの回復が見られ、Cdc2-4a変異はweel/miklキナーゼ、Cdc25フォスファターゼの機能が欠損した状態においても生育が可能であるということが示された。 これまでのところ、細胞周期チェックポイント制御においてCdc2 15番目チロシンがそのターゲットと考えられていた。そこでicdc2-4a株のDNA傷害、DNA合成阻害に対するチェックポイント応答を調べたところ、icdc2+株と同様の生育を示した。このことから、Cdc2-4a変異下でもチェックポイント機構による細胞周期停止が正常であることが示された。 先に述べた通り、icdc2-4a weel-50 Δmikl三重変異株は Weel キナーゼが失活する温度下においても生育可能である。この条件下でのCdc2-4a 15番目チロシン残基リン酸化状態を抗リン酸化抗体を用いて調べたところ、icdc2+ weel-50 Δmikl三重変異株におけるCdc2と同様、非許容温度移行後3時間で速やかに脱リン酸化された。この結果から、Cdc2-4aは15番目チロシン残基が脱リン酸化された状態でもキナーゼ活性が制御されていることが示された。 以上、本論文は分裂酵母新規Cdc2変異因子の解析から、Cdc2が15番目チロシン残基リン酸化以外の機構で制御されていることを明らかにした。本研究は、チェックポイント機構によるCdc2キナーゼ活性制御及び細胞周期停止の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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