No | 119257 | |
著者(漢字) | 井出,義之 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イデ,ヨシユキ | |
標題(和) | ロイコトリエンA4水解酵素 : 細胞内局在変化とその調節機構について | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 119257 | |
報告番号 | 甲19257 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2231号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 分子細胞生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | ロイコトリエンB4 (LTB4)は強力な炎症メディエーターであり、感染や生体防御、炎症性疾患に重要な役割を果たしている事が知られ、細胞外からの様々な刺激により以下の経路で産生される。細胞外刺激による細胞内カルシウム濃度の上昇により細胞質型ホスホリパーゼA2α (cPLA2α)が細胞質から核膜、小胞体膜、ゴルジ体に移行し、リン脂質二重膜からアラキドン酸を切り出す。切り出されたアラキドン酸は5-lipoxygenase-activating protein (FLAP)を介し、同じく一過性の細胞内カルシウムの上昇により核膜に移行した5-リポキシゲナーゼ(5-LO)に受け渡され、ロイコトリエンA4(LTA4)へと変換される。LTA4はロイコトリエンC4(LTC4)合成酵素によりLTC4へ、LTA4水解酵素(LTA4H)によりLTB4へと代謝される。cPLA2αや5-LOは細胞内局在やその制御機構が詳細に解析され、cPLA2αは細胞内カルシウムの一過性の上昇と共にERK1/2によりリン酸化を受け、核周囲の膜系に移行する事が良く知られ、また非活性化状態の5-LOはp38-MAPKAPK-2により活性あるいは細胞内局在が制御されているといわれている。ところが、LTA4Hに関しては、細胞内局在やその制御機構についてほとんど報告がない。そこで、本研究ではLTA4Hの細胞内局在やその制御機構に着目し、以下の結果を得た。 初めにオワンクラゲ蛍光タンパク質enhanced green fluorescent protein (EGFP)とヒトLTA4Hの融合タンパク質を細胞に発現させ、生細胞でEGFP-LTA4Hの細胞内局在を観察した。その結果、CHO-K1細胞、RBL-2H3細胞ではEGFP-LTA4Hは細胞質優位に局在していたが、THP-1細胞では細胞質、核質同等に局在し、EGFP-LTA4Hが細胞種により異なる核質-細胞質間局在比を示す事が分かった。 EGFP-LT4Hが核質あるいは細胞質に輸送される機構を解析するため、LTA4HのC末端ドメインが連続した9個のα-helixからなり、核内移行ドメインとして知られているarmadillo repeatと構造類似性がある事に着目し、EGFPと各α-helixのdeletion mutantの融合タンパク質をCHO-K1細胞に発現させた。その結果、EGFP-LTA4Hの細胞質局在には第9α-helixが、核内への局在には第1α-helixが必要であることが分かった。 更にEGFP-LTA4Hの核質への局在は、EGFP-LTA4Hを安定発現しているCHO-K1細胞の培地から血清を除去する事で誘導され、この核質-細胞質間局在比の変化はコントロールタンパク質のEGFP-LDH融合タンパク質や、EGFP単独では観察されない事から、LTA4Hにより引き起こされている現象である事が分かった。また、様々な阻害剤を用いた実験の結果から、EGFP-LTA4Hの核質-細胞質間局在比はJNK/SAPKを介して制御されていることが示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、生体内防御機構あるいは炎症反応において重要な役割を演じているロイコトリエン(leukotriene, LT) B4の産生酵素であるLTA4水解酵素の細胞内局在決定部位、細胞内局在制御機構を明らかにするため、蛍光タンパク質EGFPとの融合タンパク質を用いて生細胞を発現させ様々な解析を行い、以下の結果を得ている。 EGFPとLTA4Hの融合タンパク質(EGFP-LTA4H)を様々な細胞に安定発現させたところ、CHO-K1細胞や、RBL-2H3細胞では細胞質優位に局在しているが、THP-1やU937細胞では核質にも局在し、細胞腫によりEGFP-LTA4Hの核質-細胞質間局在比が異なる事が判明した。 LTA4Hを細胞質あるいは核質に局在させる責任部位を特定するため、LTA4HのC末端の連続した九つのa-helixに着目し、それぞれのdeletion mutantをEGFPと融合させCHO-K1細胞に発現させた。その結果、第一番目のα-helixはLTA4Hを核質に局在させるために必要なモチーフを有しており、第九番目のα-helixはLTA4Hを細胞質に局在させるために必要なモチーフを有している事が明らかとなった。 LTA4Hの核質-細胞質間局在比を制御する機構について、EGFP-LTA4Hを安定発現しているCHO-K1細胞を用いて解析を行った。その結果、CHO-K1細胞においてEGFP-LTA4Hは培地中からの血清除去処理により核内に移行する事、更にこの現象は血清除去による細胞死や、細胞周期の停止により引き起こされる現象ではない事が判明した。加えて、チロシンキナーゼを含む細胞内の様々なシグナルカスケードを阻害するHerbimycin Aを用いる事によってもEGFP-LTA4Hは同様に核内に移行する事が観察された。 これらの結果を踏まえ、LTA4Hはチロシンキナーゼカスケードの下流に存在するシグナルにより局在が制御されていると仮定し、様々な阻害剤を使用してLTA4Hの細胞内局在を制御するシグナル分子の解析を試みた。その結果、LTA4HはPI3Kファミリーでなく、MAPKファミリーにより制御されている事、またMAPKファミリーの中でもERK1/2、p38ではなく、JNK/SAPKにより制御されている事が示唆された。 以上、本論文はLTA4Hが細胞質、核質両方に局在しうる事、細胞腫により核質-細胞質間局在比が異なる事、LTA4Hの核質への局在にはC末端の第一α-helixが、細胞質への局在には第九α-helixが重要である事、そしてJNK/SAPKのシグナルによりLTA4Hの核質-細胞質局在比が変化する事を明らかにした。本研究はこれまで報告が無かった、LTB4産生に重要なLTA4Hの細胞内局在の機構に関して重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |