学位論文要旨



No 119265
著者(漢字) 石川,俊平
著者(英字)
著者(カナ) イシカワ,シュンペイ
標題(和) 肺癌細胞におけるゲノムおよびトランスクリプトーム解析
標題(洋)
報告番号 119265
報告番号 甲19265
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2239号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,進昭
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 助教授 滝澤,始
 東京大学 助教授 中島,淳
 東京大学 助教授 古川,洋一
内容要旨 要旨を表示する

要約

染色体の増加、欠失、遺伝子増幅などは癌で通常見られるゲノムの量的異常であり、癌の発生臓器、組織型によって特異的に、高頻度に出現する染色体上の場所がある。近年microarrayの発達によって遺伝子発現を網羅的に解析することが可能となってきた。しかしながら網羅的かつ高解像度に上記ゲノムの量的異常を見る手法はいまだ開発されていない。一方で、こうしたゲノムの量的異常が、遺伝子発現にどの程度影響するのかということに関しても、ほとんど知見は得られていない。そこでゲノムの染色体の増加、欠失といった量的異常と、遺伝子発現変化の相関を調べるために、同一検体を用いて、conventional CGH(Comparative genomic hybridization)およびCGH arrayによるゲノムの量的解析と、oligonucleotide microarrayによる発現解析を行った。両者の相関は、個々の遺伝子のレベルではかなりばらつきが見られたが、領域全体としてみるとある程度の相関が見られた。そこで染色体領域内での遺伝子発現の増減を統計学的に判定して、ゲノムの量的異常を推定するEIM(Expression Imbalance Map)というアルゴリズムを開発した。EIMによる評価は、CGHもしくはCGH arrayの結果とよく一致していた。EIMは従来のCGH法に比べて高い解像度を持ち、現行のCGH arrayに比べ網羅性が高い。さらに、この手法のメリットとしては発現を直接見ている為、異常領域の発現値を調べることによりメチル化による不活化等、ゲノムの量的異常に現れない変化も同定可能である。これを利用して、ゲノムの広い欠失領域の中に隠された責任遺伝子が同定可能であり、通常のゲノム解析以上の情報が得られる。以上の手法により、既知の、もしくは新規の癌原因遺伝子の候補を見つけることができた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はゲノムの量的変化と遺伝子発現量の変化との関係について調べるため、オリゴマイクロアレイ用いた遺伝子発現解析およびゲノムの定量解析を同時に行い両者を比較している。また遺伝子発現量の変化からゲノムの量的変化を予測し、さらにゲノムの量的異常が予測される部位の詳細な解析を行っている。これらの解析により下記の結果を得ている。

癌におけるゲノムの量的異常と、発現変化の関係を比較した。

癌におけるゲノムの量的変化と遺伝子発現変化は、領域的評価をすれば、ある程度の相関が見られた。

遺伝子発現変化の領域的偏りを、遺伝子密度を考慮して統計的に判定するEIM(Expression Imbalance Map)というアルゴリズムを作った。

EIMは従来のCGHに比較して高解像度であり、一般のCGH arrayに比してゲノム上のカバー率が高い。

EIMとゲノムの量的変化が一致しなかったところは、おおくは共通の制御を受けていると思われる遺伝子ファミリーが固まっていた場所であり、癌のメカニズムについては重要な情報であるが、その解釈、あつかいは課題を残した。

EIMで評価された領域のなかの遺伝子発現量を詳細に解析することにより、広い領域内の候補遺伝子が絞り込め、単なるゲノムの量的解析異常の情報が拾えた。

以上の解析により、肺腺癌で癌抑制遺伝子の候補が約100個選ばれて、そのなかのいくつかは既知の癌抑制遺伝子であった。

以上、本論文は、癌におけるゲノムの量的異常と、遺伝子発現変化の関係に相関があることを示し、それを利用して遺伝子発現からゲノムの量的異常の予測するアルゴリズムの開発を行っている。さらにゲノムの量的異常が予測される部位の詳細な解析により癌関連遺伝子を選び出している。これらの手法は新規性が高く学位の授与に値すると考えられる。

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