学位論文要旨



No 119316
著者(漢字) 竹田,昌史
著者(英字)
著者(カナ) タケダ,マサフミ
標題(和) c-SkiによるBMP抑制機構の解析
標題(洋) Repression mechanism of BMP signaling by c-Ski
報告番号 119316
報告番号 甲19316
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2290号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武谷,雄二
 東京大学 教授 清水,孝雄
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 小俣,政男
 東京大学 教授 高橋,孝喜
内容要旨 要旨を表示する

従来c-SkiはSmad2,3,4と結合し, ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を recruit することによりTGFβ/activinシグナルを強く抑制する共役転写抑制因子とされてきた。またc-SkiはBMPシグナルも抑制することが知られているが,c-SkiはBMPシグナルのR-SmadであるSmad1,5とは弱くしか結合せず、BMPシグナル抑制機構は十分には解明されていない。

今回c-Skiのアミノ酸配列の181番目にAla-Arg-Pro-Glyを挿入した変異体であるc-Ski (ARPG) を用いてルシフェラーゼレポーターアッセイを行ったところ,TGFβシグナルを抑制するが,BMPシグナルは全く抑制しないことを見いだした.そこで、c-Ski (ARPG) を用いて、SkiによるBMP抑制機構の解析を試みた。

まずc-Ski (ARPG)による選択的なシグナル抑制が、細胞培養の系でも見られるかどうかを検討した。C2C12細胞はBMP刺激によって骨芽細胞様に分化し、アルカリホスファターゼ(ALP)を産生することが知られている。アデノウィルスを用いてC2C12細胞にc-Ski又はc-Ski (ARPG)を遺伝子導入し、BMP刺激によるALP活性の上昇を測定したところ、c-SkiはALP活性の上昇を抑制したが、c-Ski (ARPG)は抑制しなかった。また,NMuMG細胞はTGFβ刺激によって球形から紡錘形に形態変化を起こすことが知られている。アデノウィルスを用いてNmuMG細胞にc-Ski又はc-Ski (ARPG)を遺伝子導入し、TGFβ刺激による形態変化を観察したところ、c-Ski,c-Ski (ARPG) 共に形態変化を抑制した。このように、細胞培養の系でもc-Ski (ARPG)の選択的なシグナル抑制が確認された。

次にXenopus胚の系でc-Ski (ARPG)によるシグナル抑制を検討した。Xenopus胚にc-SkiのmRNAをマイクロインジェクションすると,内因性のBMPシグナルを抑制することにより2次軸形成が起こることが知られている。そこでc-Skiとc-Ski (ARPG) mutant を比較検討したところ、c-Ski (ARPG)では2次軸形成の頻度が著しく低かった.またXenopus胚にactivinをコードしたRNAをマイクロインジェクションすると中胚葉マーカーであるmuscle actinを発現することが知られているが、c-Skiを同時にコードするとmuscle actinの発現は消失し、c-Ski (ARPG)でも同様であった。このように c-Ski (ARPG)はXenopus胚の系においてもBMPシグナル抑制能が選択的に低いことが判明した.

このようなARPG mutantによるTGFβ/activinシグナル選択的な抑制機構を解析するために,活性型Smad複合体にHDACをrecruitできるかどうかを検討した.wild typeのc-SkiはSmad3-Smad4複合体,Smad5-Smad4複合体双方にHDACをrecruitしたが,c-Ski (ARPG)はSmad3-4複合体にのみHDACをrecruitし,Smad5-4複合体にHDACをrecruitしなかった.c-Ski (ARPG)とSmadとの相互作用を検討したところ,c-Ski (ARPG) は活性型Smad3とは結合できるが,Smad4とは結合できないことが判明した。Smad4と結合できない別の変異体c-Ski (W274E)を用いてルシフェラーゼアッセイを行ったが、ARPGと同様TGFβシグナルを抑制したがBMPシグナルを抑制しなかった。以上よりc-SkiはSmad3, Smad4両方と結合してHDACをrecruitすることによってTGFβシグナルを抑制しているが、BMPシグナル抑制の場合はSmad4との結合のみに依存していることが示唆された.(Fig1)

c-Skiは従来R-Smad, Co-Smadのヘテロマーに結合し、HDACをrecruitすることによって転写を抑制すると考えられてきた。しかしWuらは昨年、Smad4-Ski複合体の結晶構造解析を行い、SkiはR-Smad、Co-Smadと別々の部位で結合し、さらにSmad4のR-Smad結合部位の高次構造を変化させ、活性型Smad複合体の形成を阻害することによって、TGFβ/activinシグナルを抑制することを示した(CELL, Vol.111, 357-67, Nov 1,2002)。(Fig2)

そこで、c-Ski (W274E)および(ARPG)を用いた免疫沈降を行い、c-SkiがSmad3-Smad4と結合する際にSmadのヘテロマー形成を阻害するかどうかについて検討した。その結果c-Ski (ARPG)、(W274E)は直接Smad4と結合することはできないが、活性型Smad3存在下ではc-Ski (ARPG), (W274E)とSmad4は共沈することが判明した。これはSkiがSmad3-Smad4のヘテロマー形成を阻害しないためSmad3を介してSmad4が共沈するからだと考えられる(Fig3)。さらにSmad3-Smad4複合体にc-Skiを加えていくと、dose-dependentにSmad3-Smad4の結合を増強することが示された。

【結論】

c-SkiはTGFβ/activinシグナルにおいてはR-Smad, Co-Smad両方と、BMPシグナルにおいてはCo-Smadのみと結合することによって、HDACをrecruit し、転写を制御している。Smad4と結合しないc-Ski(ARPG)はTGFβ/activinシグナルのみを特異的に抑制するツールとしても有用であると考えられる。またTGFβシグナルにおいては、c-SkiがSmad複合体と結合する際、ヘテロマー形成を阻害せず、むしろSmad間の結合を強固にする。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はTGFβ superfamilyの強力な転写抑制因子であるc-Skiの転写抑制機構を解析したものであり、下記の結果を得ている。

c-SkiはTGFβシグナルにおいてはSmad3, Smad4両方と、BMPシグナルにおいてはSmad4のみと結合し、標的遺伝子にHDACをrecruitすることによって、転写を制御する。

c-Skiの第181配列に4つのアミノ酸を新たに挿入した変異体であるc-Ski (ARPG)はSmad4と結合しない。その結果、c-Ski (ARPG)はBMPシグナルを抑制せず、TGFβ/activinシグナルだけを選択的に抑制する。

TGFβシグナルにおいてc-SkiがSmad複合体と結合する際、ヘテロマー形成を阻害せず、むしろSmad間の結合を強固にする。

以上、本論文はこれまで未解明に等しかったc-SkiのBMPシグナル抑制機構を解析し、TGFβシグナルの抑制機構についても新たな検討を加えた。さらにBMPシグナルを抑制せずTGFβ/activinシグナルだけを選択的に抑制する変異体を見いだした。この変異体はTGFβ/activinシグナルとBMPシグナルを個別に解析するための重要なツールの一つとなることが予想され、TGFβ superfamilyの機能解明に重要な貢献をなすと考えられる。従って、本論文は学位の授与に値するものと考えられる。

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