No | 119317 | |
著者(漢字) | 藤田,恵 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フジタ,メグミ | |
標題(和) | 食塩感受性高血圧に対する脳内アドレノメデュリンの中枢性交感神経抑制効果 | |
標題(洋) | Sympatho-inhibitory effect of adrenomedullin in the brain on salt-sensitive hypertension | |
報告番号 | 119317 | |
報告番号 | 甲19317 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2291号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 私の所属研究室では以前より中枢性機序による交感神経活動の亢進が関与している可能性を示してきた。幼若の高血圧自然発症ラット(SHR)で高食塩食負荷により血圧がさらに上昇することが知られているが、これは腎交感神経活動の増大や、動脈圧受容器反射の減弱を伴っていた。交感神経の中枢特性を評価する目的で、大動脈神経を直接電気刺激した際の腎交感神経活動を測定すると、その反応はやはり減弱しており食塩感受性高血圧では中枢神経に異常を来していることが確認された。我々以外にも、Wyssらは食塩感受性高血圧ラットの前部視床下部における中枢性交感神経活動の調節が障害されているという成績を報告している。このように、食塩感受性高血圧には中枢神経が重要な関与をしているものと考えられる。 食塩感受性高血圧を呈するSHRやDahl ratでは高食塩食摂取により、脳脊髄液中のナトリウム濃度が上昇するという報告がある。高張食塩水の脳室内投与は交感神経活動の亢進を介して血圧を上昇させるので、このメカニズムを解明することにより食塩感受性高血圧の中枢性昇圧機序を推測しうるとの立場がある。 一方、食塩感受性高血圧の病態において活性酸素種が重要な働きを担っている可能性が言われている。さらに近年、末梢血管や腎臓における作用のみならず、酸化ストレスが交感神経活動を介する血圧調節に関与している可能性を示す成績が散見されるようになった。TakatomiらはSHRに対し抗酸化剤であるTempolを静脈投与すると血圧、心拍数、交感神経活動が低下することを示している。 そこで私は抗酸化作用を有する生理活性ペプチドであるアドレノメデュリン (Adrenomedullin ; AM) に着目した。AMは末梢において降圧作用を呈し、循環調節に関与していることが明らかになっているが、最近は臓器保護としての抗酸化作用に注目が集まっている。さらに末梢のみならず中枢神経系(CNS)にも存在し、代謝循環調節に関わっている可能性が報告されている。以上の背景をまとめると、(1)中枢性機序による交感神経活動亢進が、食塩負荷による血圧上昇を説明する因子の一つである、(2)高張食塩水の脳室内投与は交感神経活動の亢進を介して血圧を上昇させる、(3)食塩感受性高血圧の病態において活性酸素種が重要な働きを担っている、(4)活性酸素が交感神経活動の亢進を介して高血圧の進展に寄与している、(5)抗酸化作用を有する生理活性ペプチドであるAMは末梢のみならず中枢神経系にも存在し、循環調節系に関わっている、という5点になる。これらを踏まえ、AMが中枢においても抗酸化作用を発揮し、さらには交感神経活動を抑制する方向に働いているのではないかという仮説を立てた。本研究では、食塩感受性高血圧において脳内AMが抗酸化作用により中枢神経系に影響し、交感神経活動を介した血圧調節に寄与している可能性を検討した。 実験動物として普通食(0.6%)もしくは高食塩食(8%)で4週間飼育した4〜8ヶ月齢の雄AMノックアウトマウス(KO)および野生型マウス(WT)を用いた。AM(-/-)は胎生致死だったため、AM(+/-)に対し実験を行った。ウレタン麻酔下に各群マウスの気管、大腿動静脈、側脳室にカテーテルを挿入し、脳定位固定装置に固定、pancuronium bromide投与により筋弛緩させ人工呼吸下に大内臓神経を露出、双極電極上に留置し、人工脳脊髄液もしくは高張食塩水(0.3, 1.5M)の側脳室投与時の血圧、心拍数、神経活動の変化を記録した。また、抗酸化剤のTempolを側脳室に前投与した後1.5M高張食塩水投与を行い同様に反応を観察した。更に別のマウスを用い、イソフルレン吸入麻酔下で手術後、麻酔からの回復を2時間待った後無麻酔無拘束の状態で高張食塩水(0.3-1.5M)を側脳室に投与し、血圧、心拍数の変化を測定した。高張食塩水曝露時の摘出マウス脳が産生する活性酸素量を、lucigenin を用いた化学蛍光発光法により測定した。また各群マウス脳のAM含量をradioimmuno assay法を用いて測定した。 普通食マウスでは、高張食塩水投与により血圧は用量依存性に上昇し、その上昇率はKO(0.3M:13.2±3.1%,1.5M:22.0±2.7%)とWT(0.3M:10.9±2.0%,1.5M:19.1±3.1%)の間に有意差は認められなかった。高食塩食では、KOにおける血圧上昇率(0.3M:22.5±27%,1.5M:35.5±5.7%)は、WT(0.3M:13.2±1.2%,1.5M:20.0±2.l%)よりも有意に大きかった(p<0.05)。高食塩食KOにおける血圧の用量反応曲線は他の3群と比較し有意に上方にシフトしていた(Figure 1. 左)。血圧と同様、高張食塩水投与により交感神経活動も用量依存性に上昇し、その上昇率は高食塩食KOにおいて他の3群よりも有意に大きかった(Figure 1. 右)。無麻酔無拘束のマウスにおいても血圧反応は同様の結果を示した。高張食塩水による血圧、交感神経活動の上昇はTempolの前投与により抑制され、十分量のTempol投与後においてはKOにおいても大きく抑制された。KO脳において、高張食塩水投与に対する活性酸素産生量はWTと比較し有意に大きかった。脳のAM含量は、WTもKOも普通食に比較し高食塩食群で有意に増加していたが、高食塩食KOでは高食塩食WTに比較し有意に少く、血圧や交感神経活動と逆相関を示した。 以上の結果より、脳内AMは抗酸化作用によりCNSに影響し、交感神経活動抑制を介して食塩感受性高血圧に対する拮抗因子の一つとして働く可能性があると結論された。 麻酔下マウスにおける高張食塩水側脳室投与の平均血圧(MAP)、交感神経活動(SNA)への影響のまとめ | |
審査要旨 | 本研究は食塩感受性高血圧における中枢性昇圧機構に関し、末梢において降圧作用を有する生理活性物質アドレノメデュリンの中枢における役割を、アドレノメデュリンノックアウトマウスを用いて検討したものであり、下記の結果を得ている。 麻酔下マウスにおいて、高張食塩水側脳室投与は用量依存性の交感神経活動の亢進と昇圧をもたらす。高食塩食アドレノメデュリンノックアウトマウスにおける血圧・交感神経活動の用量反応曲線は他の3群のマウス(普通食野生型マウス、高食塩食野生型マウス、普通食アドレノメデュリンノックアウトマウス)と比較し有意に上方にシフトしていた。無麻酔無拘束のマウスにおいても、高張食塩水側脳室投与に対する血圧上昇反応は同様の結果を示した。よって、食塩負荷による交感神経活動亢進を介した中枢性昇圧反応に内因性アドレノメデュリンが拮抗している可能性が示された。 高張食塩水の側脳室投与前に、抗酸化剤である4-hydroxy-2,2,6,6-tetramethylpiperidine-N-oxyl (Tempol) またはTempolと構造的に類似しているが抗酸化作用の少ない別のニトロ酸化化合物である3-carbamoyl-2,2,5,5-tetramethyl-3-pyrroline-N-oxyl (3CP) を前投与し、その効果を観察した。野生型マウスにおいて、3CP前投与では、上記1の結果と同様に高張食塩水側脳室投与に対し血圧上昇、交感神経活動亢進が認められたが、3CPと同等量のTempolの前投与によりその反応が抑制された。アドレノメデュリンノックアウトマウスでも高用量のTempolにより反応が抑制された。食塩負荷による中枢性交感神経活動亢進を介した血圧上昇反応に酸化ストレスが関与し、脳内のアドレノメデュリンは抗酸化作用によりこの反応に拮抗している可能性があることが示された。 中枢性代謝循環調節を担っていると考えられている視床下部を摘出し、Lucigenin化学蛍光発光法により活性酸素種産生量を測定した。高張食塩水曝露時の活性酸素種産生量は生理食塩水曝露時や浸透圧の同じ硝酸リチウム曝露時と比較し有意に大きい結果が得られたため、高張食塩水曝露時の活性酸素種産生量を4群のマウスで比較検討したところ、高食塩食ノックアウトマウスにおける産生量は、野生型マウスに比較し有意に大きかった。したがって、高食塩食ノックアウトマウスでは内因性アドレノメデュリンが不足しているために、高張食塩水負荷による酸化ストレスを抑制することができないと考えられた。 以上、本論文は、脳内の内因性アドレノメデュリンが抗酸化作用により中枢神経系に影響し交感神経活動抑制を介して、食塩感受性高血圧に対する拮抗因子の一つとして働く可能性のあることを明らかにした。本研究は、中枢における内因性アドレノメデュリンの循環調節機構における役割を初めて検討したものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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