No | 119330 | |
著者(漢字) | 兪,戎 | |
著者(英字) | Yu,Rong | |
著者(カナ) | ユウ,ロング | |
標題(和) | マウス線維肉腫 (CMS5) におけるCD4+及びCD8+腫瘍浸潤T細胞 (TIL) のクローナリティから見た動態解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 119330 | |
報告番号 | 甲19330 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2304号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【目的】 腫瘍に浸潤したT細胞は腫瘍浸潤T細胞 (tumor infiltrating lymphocytes, TIL) と呼ばれる.これらのTILは,腫瘍塊内で特定の機能を持たずに存在しているだけなのか,あるいは抗腫瘍性に働き得る細胞群であるのか,さらに抗腫瘍性機能を抑制されている細胞集団であるのかということは重要な問題である.これまでに Rosenberg ら,Itoh らにより,TIL がマウス及びヒトの組織中より分離培養され,TIL は主にCD8+, MHCクラスI拘束性の自己腫瘍特異的CTLであると報告されている.Rosenberg らはメラノーマ患者に対し,ex vivo で培養した自系 TIL を IL-2 と共に患者の体内にトランスファーした後,34%の患者に抗腫瘍効果が認められたと報告した.これらの結果より,TIL は機能的に腫瘍塊全体の拒絶を惹起し得ないまでも,少なくともその一部は腫瘍細胞に特異的に反応し,潜在的な抗腫瘍能力を有する細胞と考えられる. しかし現時点では,特に腫瘍抗原特異的T細胞クローンの樹立による腫瘍の臨床治療は未だ実用に至っておらず,TIL のさらなる解析が必要と考えられる.以上の研究では多くの場合 in vitro でT細胞をクローン化し,その構造,機能,腫瘍との特異性を調べている.In vivo と in vitro の環境が異なることを考えると,in vitro で増殖したTILがin vivoあるいはtumor in situの状態を反映しているとは限らないという点には注意が必要である.今後TIL及びTILのT細胞レセプター (T cell receptor, TCR) の情報を用いて腫瘍治療を試みる上で,in vivo で TIL のレパトアの特徴や,TIL のクローナリティの形成が特異的な現象なのか,相対的にランダムな現象なのか,また,腫瘍進行と共にそのCD4+及びCD8+TILの各々の経時的な動態がどのように変化するかを明らかにしておく必要があると考えられる. これまでに病変局所に浸潤したT細胞集団のTCRレパトアの解析について,試験管内での抗原特異的T細胞株の樹立,サザンブロット法,PCR法,モノクローナル抗体 (mAb) による免疫染色法などが用いられてきた.しかしこれらは主としてTCRのうちのある特定のコンポーネント(Vβ鎖)の使用頻度を計測するものといえ,厳密な意味でのT細胞集団中のクローナリティの解析,特にin vivoにおける検討にはなお不十分と考えられる.これを克服するために、私は山本らが考案、確立した高感度、迅速にクローナリティの解析ができるRT-PCR/SSCP法を用い、腫瘍塊に集積しているT細胞クローンを検出し,CD4+及びCD8+ TILの動態変化を追跡した. 今回私はCD4+及びCD8+TILのクローナリティの動態のみならず,特にこれまでよく解明されていなかった一個体中のCD4+及びCD8+TILレパトアの経時的な動態変化を生体内で解析した.また,TIL レパトア免疫応答の本質的な特異性についても検討した. 【方法】 BALB/c マウスにCMS5線維肉腫細胞を皮下接種し,腫瘍を形成させた.腫瘍接種後早期(皮下注から7日目-10日目)と腫瘍接種後中期(皮下注から14日目-18日目)及び接種後晩期(皮下注から22日目-35日目)の腫瘍,脾臓を摘出した.また,同一個体における接種後早期の一部と接種後晩期の腫瘍を摘出し,更に,同一個体での同時期の異なる部位への接種または,同一個体での異なる時期の異なる部位へ接種によって形成された二ケ所の腫瘍を摘出した.これらの摘出した腫瘍について RT-PCR/SSCP法でCD4+及びCD8+TILのクローナリティの動態を検討し,この二つのサブセットのTIL全体との関係も検討した. 次に,担癌状態において TIL を構築した主なサブセットCD4+とCD8+T細胞の活性化/記憶表現型と担癌状態の脾臓 CD4+と CD8+T細胞の活性化/記憶表現型をフローサイトメトリー(Coulter EPICS XL)で比較した.活性化されたCD69+CD8+TILのクローナリティとCD8全体のクローナリティの関係についてはフローサイトメトリー(FACS Vantage)と RT-PCR/SSCP 法を用いて調べた.特定のCD4+及びCD8+TILのクローナリティの集積性及び経時的変化の特徴は TIL クローンのTCR TCR Vβ鎖 CDR3 フラグメントの塩基配列解析と RT-PCR/SSCP 法を用いて検討した. 【結果】 生体内の CMS5 腫瘍には接種後早期 (Day-7) からほぼ同数のCD4+及び CD8+T 細胞の浸潤がみられ,いずれも活性化/記憶T細胞の表現型 (CD62Llow,CD69,ICOS) であった,特にCD8+TIL全体の60%以上がCD62Llowリンパ球であることが示された.腫瘍細胞の総数は経時的に増加し続けたのにも関わらず,TILの総数は接種後中期 (Day-12) 以降増加が抑制されていた. オリゴクローナルな集積現象は脾臓では見られず,TIL だけに認められた.生体中のTILは腫瘍局所で広範なVβサブファミリーにわたる免疫応答を示した.腫瘍接種後早期,中期と晩期 (Day-25) で局所に集積している TIL の各Vβのドミナントバンドの数を比較したところ,各Vβには差が見られたが,各時期には顕著な差が認められなかった.また、一つ腫瘍塊の中から任意の離れた二ケ所 (T1,T2) の腫瘍組織のクロノタイプを比較した.その結果,ほとんどのVβサブファミリーにおいて,T1とT2オリゴクローナルバンドの移動度は一致していることが確認された.よって,任意の腫瘍内の TIL による免疫応答は均一性を持つことが考えられた. TIL のクローナリティは腫瘍接種後早期にはCD4+及びCD8+細胞ともにオリゴクローナルであり,特にCD8+TILで特定のクローンの集積性が高かった(TIL全体の72.4%).早期にみられた CD8+TILの優位クローンは晩期まで維持されたが,TIL全体に占める割合は低下し,新しいクローンの集積も見られた.CD4+TILでは優位クローンはCD8+TILの優位クローンと比較して集積性が小さく(TIL 全体の26%),早期にみられた優位クローンの多くは晩期には消退しており,晩期のCD4+T細胞の免疫応答は早期とは異なることが示唆された. また,異なる場所に同時に接種した腫瘍における TIL のクローナリティは共通していた.さらに,異なる時期に接種した腫瘍では最初に接種した腫瘍に優位に反応する CD8+TIL クローンが後に接種した腫瘍にも集積しており,クローナリティからみた場合に異なる時期に出現する複数の CMS5 腫瘍腫瘍により誘導された TIL の免疫応答はランダムではなく均一性のみられる,特異性の高い免疫応答であることが示唆された. 【結論】 CMS5腫瘍接種後早期には特定のCD8+TIL クローンが優位となる免疫応答を示した,一個体内での TIL の優位クローンは,異なる部位や異なる時期に接種した腫瘍においても保存される特異性の高い免疫応答により生ずると考えられた.しかし,中期以降では腫瘍細胞の増加にも関わらずCD8+TILの増加は抑制され,早期に生じた優位クローンの反応も CD4+,CD8+とも抑制されており,これらの抑制は生体の免疫応答存在下での腫瘍の増殖に関与すると考えられた. 【展望】 クローナリティ検出システムとして RT-PCR/SSCP 法を用いることで,腫瘍病巣部に浸潤したT細胞レパトアの新たな特徴の検討が可能と考えられた.今後CD8+TIL応答の数量における抑制,CD4+TIL 応答のクローン形成における抑制のメカニズムについてはさらなる研究が必要と考えられる. TIL のクローナリティの動態のさらなる解析が TIL のレパトアを利用して腫瘍抗原特異性T細胞を再構築し,能動的に腫瘍免疫を操作することによる効果的な抗腫瘍免疫治療法の開発のために重要であると考えられる. | |
審査要旨 | 本研究は腫瘍に浸潤し,潜在的な抗腫瘍能力を有すると考えられるT細胞,腫瘍浸潤T細胞(tumor infiltrating lymphocytes, TIL)がin vivoでのレパトアの特徴,クローナリティの形成の特異性,また,腫瘍進行と共にそのCD4+及びCD8+TIL の各々の経時的な動態を明らかにするため,マウス線維肉腫(CMS5)の系にて,腫瘍塊に集積しているT細胞クローンを検出し,CD4+及びCD8+ TIL の動態変化及び TIL レパトア免疫応答の本質的な特異性についての解析を試みたものであり,下記の結果を得ている. 生体内の CMS5 腫瘍には接種後早期 (Day-7) からほぼ同数のCD4+及びCD8+T 細胞の浸潤がみられ,いずれも活性化/記憶T細胞の表現型 (CD62Llow,CD69, ICOS) であった,特にCD8+TIL 全体の60%以上が CD62Llow リンパ球であることが示された.TIL は活性化/メモリータイプであると考えられた.腫瘍細胞の総数は経時的に増加し続けたのにも関わらず,TIL の総数は接種後中期 (Day-12) 以降増加が抑制されていた. RT-PCR/SSCP 解析によって,オリゴクローナルな集積現象は脾臓では見られず,TIL だけに認められた.生体中のTILは腫瘍局所で広範なVβサブファミリー(Vβ1-18)にわたる免疫応答を示した.腫瘍接種後早期,中期と晩期 (Day-25) で局所に集積している TIL の各Vβのドミナントバンドの数を比較したところ,各Vβには差が見られたが,各時期には顕著な差が認められなかった.また、一つ腫瘍塊の中から任意の離れた二ケ所 (T1,T2) の腫瘍組織のクロノタイプをRT-PCR/SSCP法で比較した.その結果,ほとんどのVβサブファミリー(Vβ1-18)において,T1とT2オリゴクローナルバンドの移動度は一致していることが確認された.よって,任意の腫瘍内の TIL による免疫応答は均一性を持つことが考えられた. TIL のクローナリティは腫瘍接種後早期にはCD4+及びCD8+細胞ともにオリゴクローナルであり,特に CD8+TIL で特定のクローンの集積性が高かった(TIL全体の72.4%).早期にみられたCD8+TILの優位クローンは晩期まで維持されたが,TIL全体に占める割合は低下し,新しいクローンの集積も見られた.CD4+TILでは優位クローンはCD8+TILの優位クローンと比較して集積性が小さく(TIL全体の26%),早期にみられた優位クローンの多くは晩期には消退しており,晩期のCD4+T細胞の免疫応答は早期とは異なることが示唆された. また,異なる場所に同時に接種した腫瘍におけるTILのクローナリティは共通していた.さらに,異なる時期に接種した腫瘍では最初に接種した腫瘍に優位に反応する CD8+TIL クローンが後に接種した腫瘍にも集積しており,クローナリティからみた場合に異なる時期に出現する複数のCMS5腫瘍腫瘍により誘導されたTILの免疫応答はランダムではなく均一性のみられる,特異性の高い免疫応答であることが示唆された. 以上,本論文はマウス線維肉腫(CMS5)において,腫瘍浸潤CD4+及びCD8+T細胞(TIL)のクローナリティの解析から,腫瘍病巣部に浸潤したT細胞レパトアの特徴を明らかにした.TIL のクローナリティの動態解析がTILのレパトアを利用して腫瘍抗原特異性T細胞を再構築し,能動的に腫瘍免疫を操作することによる効果的な抗腫瘍免疫治療法の開発のために重要であると考えられる.本研究は特にこれまでよく解明されていなかった一個体中のCD4+及びCD8+TILレパトアの経時的な動態変化を生体内で解析した,TIL レパトア免疫応答の本質の解明に重要な貢献をなすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. | |
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