No | 119335 | |
著者(漢字) | 吉田,菜穂子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヨシダ,ナホコ | |
標題(和) | 神経性食欲不振症の再摂食に伴うエネルギー代謝量および心拍数の変化とそのメカニズム | |
標題(洋) | Changes in energy metabolism and in heart rate with refeeding, and associated mechanisms, in anorexia nervosa | |
報告番号 | 119335 | |
報告番号 | 甲19335 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2309号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景: 神経性食欲不振症の患者では、再摂食開始直後に、安静時代謝量および心拍数の増加がみられることが多い。しかし、これまでのところ安静時代謝量増加のメカニズムについて一致した見解は得られておらず、また、心拍数増加のメカニズムについて検討した報告はない。 本研究では、再摂食開始後の安静時代謝量および心拍数の増加には自律神経活動の変化も関与するという仮説を立て、これを検証することとした。 目的: 再摂食前後の安静時代謝量および心拍数の変化を観察し、その変化にどのような内因性の因子が関連しているかを検討することを目的とした。 対象: 体重増加および食行動改善を目的として2001年10月から2003年3月に当科に入院した9人の神経性食欲不振症(制限型)の女性患者(平均21.4歳、平均body mass index 12.99kg/m2)を解析対象とした。 方法: 再摂食前と再摂食後(再摂食開始後3日目から8日目の間)の2回にわたり、日常臨床で可能な検査方法を用いて、摂取エネルギー、安静時代謝量(間接熱量測定による)、除脂肪体重(dual-energy x-ray absorptiometryによる)、内分泌因子(レプチン、甲状腺機能、Insulin-like growth factor-1 (IGF-1)、17-hydroxy corticosteroids、エピネフリン、ノルエピネフリン)、心拍数(RR間隔)、自律神経活動(心拍変動による)、体動を測定し、心理テスト(Profile of Mood States)を施行した。 再摂食前後での各因子の変化をpaired t検定あるいはWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。安静時代謝量の変化量とエネルギー代謝に関わる他の因子の変化量との関連、心拍数の変化量と心拍数に関わる他の因子の変化量との関連を、Pearson の相関係数あるいはSpearmanの相関係数を用いて検討した。 結果: 再摂食前後のエネルギー摂取量の増加に伴い、除脂肪体重に変化はみられなかったものの、安静時代謝量は有意に増加した(p=0.000)。日中の体動に変化はなかったものの、日中の心拍数も有意に増加した(p=0.028)。内分泌因子については、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリンが有意に増加した。自律神経活動については、日中の副交感神経活動が有意に減少し、日中の交感神経活動は増加傾向にあった。 安静時代謝量の変化量と相関のある因子は認められなかったものの、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルェピネフリン、心拍数の増加に伴って安静時代謝量が増加し、副交感神経活動の減少に伴って安静時代謝量が増加するという傾向が示された。 RR間隔の変化量と日中の相対的交感神経活動の変化量が負の相関を示し(r=-0.783、p=0.013)、また、安静時代謝量、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリン、交感神経活動の増加に伴って、心拍数が増加し、副交感神経活動の減少に伴って心拍数が増加するという傾向が得られた。 結論: 再摂食直後の安静時代謝量および心拍数の増加には、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリン、そして交感神経活動の増加や副交感神経活動の減少が関与している可能性が高く、安静時代謝量の増加および心拍数の増加は相互に影響を及ぼしあっていると考えられた。交感神経活動の増加は心拍数の増加と相関が得られ、心拍数増加のメカニズムについては、自律神経活動の変化が関与するという仮説が立証されたといえる。 再摂食前後で一日尿中カテコラミンの測定や自律神経活動の測定を行なったのは本研究が初めてであり、安静時代謝量の増加および心拍数の増加に関わる多くの因子を同時に測定したことも本研究の特徴と言える。 今後は、対象数を増加させ、body mass indexの前値や摂取エネルギーの増加量をコントロールした多変量解析を用いて、refeedingによる安静時代謝量の増加および心拍数の増加には、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリン、交感神経活動、副交感神経活動のどの因子が関わっているかを検討する。 | |
審査要旨 | 本研究は、神経性食欲不振症の患者において、再摂食前後の安静時代謝量および心拍数の変化を観察し、その変化にどのような内因性の因子が関連しているかを検討したもので、下記の結果を得ている。 再摂食前後のエネルギー摂取量の増加に伴い、除脂肪体重に変化はみられなかったものの、安静時代謝量は有意に増加した(p=0.000)。日中の体動に変化はなかったものの、日中の心拍数も有意に増加した(p=0.028)。内分泌因子については、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリンが有意に増加した。自律神経活動については、日中の副交感神経活動が有意に減少し、日中の交感神経活動は増加傾向にあった。 安静時代謝量の変化量と相関のある因子は認められなかったものの、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリン、心拍数の増加に伴って安静時代謝量が増加し、副交感神経活動の減少に伴って安静時代謝量が増加するという傾向が示された。 RR間隔の変化量と日中の相対的交感神経活動の変化量が負の相関を示し(r=-0.783、p=0013)、また、安静時代謝量、IGF-1、トリヨードサイロニン、一日尿中ノルエピネフリン、交感神経活動の増加に伴って、心拍数が増加し、副交感神経活動の減少に伴って心拍数が増加するという傾向が得られた。 以上、再摂食前後で一日尿中カテコラミンの測定や自律神経活動の測定を行なったのは本研究が初めてであり、安静時代謝量の増加および心拍数の増加に関わる多くの因子を同時に測定したことも本研究の特徴と言える。よって、将来、body mass index の前値や摂取エネルギーの増加量をコントロールした多変量解析を用いて、refeeding による安静時代謝量の増加および心拍数の増加に関与する因子の検討するにあたり、本研究は重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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