学位論文要旨



No 119344
著者(漢字) 田口,信子
著者(英字)
著者(カナ) タグチ,ノブコ
標題(和) 3波長式パルス式色素希釈法を用いた心拍出量測定の検討
標題(洋) Cardiac output measurement by pulse dye densitometry using three wavelengths
報告番号 119344
報告番号 甲19344
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2318号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 橋都,浩平
 東京大学 教授 高本,眞一
 東京大学 教授 花岡,一雄
 東京大学 助教授 上妻,志郎
 東京大学 講師 神崎,恒一
内容要旨 要旨を表示する

<はじめに>

パルスオキシメトリーと色素希釈法の原理に基いたパルス式色素希釈法(PDD)は、低侵襲の心拍出量測定法として比較的最近開発されている。成人領域では2波長を用いたPDDによる心拍出量の測定法の検討が行われ、日常臨床にも導入されつつある。しかし、小児患者へのこの方法の適応は、脈波検出の困難さから殆どおこなわれず、その測定精度も検討されたことはなかった。

<目的>

今回この原理を用い、小児患者において心拍出量を測定可能な試作機を開発した。小児患者への適応を考え、初めて3波長を用いたPDD試作機の精度を検討することを目的とし実験した。始めに、動物モデルを用いて、超音波流量計を対照とし比較実験をおこなった。次に、実際の小児患者への使用性を検討するため、小児ICU患者に対し、熱希釈法を対照とし比較検討をおこなった。

<方法と主要結果>

動物実験では、体重約10kg前後の豚15頭を用い、全身麻酔下にPDDおよび超音波流量計を用いた心拍出量の同時測定をおこなった。インドシアニングリーン(ICG) 0.2mg/kgの末梢静脈からの急速静注をおこない、末梢部位(透過式プローブ)と中枢部位(反射式プローブ)に装着したプローブにより検出された色素の濃度曲線から心拍出量を計算し、超音波流量計により同時測定された値とBland&Altman法により比較した。その結果、反射式プローブを用い中枢部位で測定した場合は、超音波流量計を用いた方法との差の平均値(Bias)は 33.8ml/ml、差の標準偏差は293.4ml/mlと比較的良好な結果が得られた。

臨床での検討では、開心術後の平均体重10kg弱の小児ICU患者10人に対し、PDDおよび熱希釈法を用いた心拍出量の同時測定をおこなった。ICG 0.1mg/kg の急速静注をおこない、末梢部位に装着した両プローブにより検出された色素の濃度曲線から心拍出量を計算し、超音波流量計により同時測定された値とBland&Altman法により比較した。その結果開心術後の末梢循環の良好でない部位にPDDのプローブを装着すると、透過式プローブを用いた場合でも、熱希釈法を用いた方法との差の平均値(Bias)は260ml/ml、差の標準偏差は370ml/mlと両方法の乖離が大きかった。

<結論>

3波長を用いたパルス式色素希釈法による心拍出量測定は、非侵襲的かつ簡便で、ほぼ臨床的に許容可能な精度であることが、この動物実験と臨床検討からわかった。実際の臨床応用には更なる検討と精度向上が必要であるが、この方法は、小児重症患者に対する有用な手段となるだろうと思われた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、特にMinimal handlingが重要となる幼小児に適応可能な、低侵襲の心拍出量測定法の開発に関するものである。パルスオキシメトリーと色素希釈法の原理に基いたパルス式色素希釈法(PDD)は、低侵襲の心拍出量測定法として比較的最近開発されており、成人領域では2波長を用いたPDDによる心拍出量の測定法の検討が行われている。しかし、小児患者へのこの方法の適応は、脈波検出の困難さから殆どおこなわれず、その測定精度も検討されたことはなかった。そこで今回この原理を用い、小児患者において心拍出量を測定可能な試作機を開発した。小児患者への適応を考え、初めて3波長を用いたPDD試作機の精度を検討することを目的とし実験をおこない、以下の結果を得た。

はじめに、動物モデルを用いて、超音波流量計を対照とし比較実験をおこなった。実験では、体重約10kg前後の豚15頭を用い、全身麻酔下にPDDおよび超音波流量計を用いた心拍出量の同時測定をおこなった。インドシアニングリーン (ICG) 0.2mg/kgの末梢静脈からの急速静注をおこない、末梢部位(透過式プローブ)と中枢部位(反射式プローブ)に装着したプローブにより検出された色素の濃度曲線から心拍出量を計算し、超音波流量計により同時測定された値とBland&Altman法により比較した。

反射式プローブを用い中枢部位で測定した結果は、超音波流量計を用いた方法との差の平均値(Bias)は33.8ml/ml、差の標準偏差は293.4ml/mlであった。両者の差は非常に小さく、ややばらつきはみられたが臨床的に許容範囲内の結果であった。ばらつきの理由としては、末梢静脈の使用を検討するため、ICGの末梢投与でPDD測定をおこなったこと、組織の幼弱さで組織の吸光特性が異なり、水の影響を受ける組織項の部分が拡大すると計算上の誤差が増えること、対照とした超音波流量計の誤差が10%程度までありうることなどが推測された。

透過式プローブを用い末梢側で測定した結果は、両方法の差とばらつきがやや開大した。この理由は、末梢での脈波検出が不良である場合、真にCOが高いと思われる部分については、Lilienfield-Kovachの式の分母が小さくなり計算上COpddが高くなり、絶対値としてのCOが大きい部分なので、より対照値との差が拡大したものと考えられた。結果として末梢部分で心機能を評価することは、脈波の振幅が十分取れていない場合には適当ではないと思われた。そのため、プローブの形状からより心臓に近い部分に取りつけ可能な反射式のプローブの優位性が示唆された。

次に、実際の小児患者への使用性を検討するため、開心術後の平均体重10kg弱の小児ICU患者10人に対し、PDDおよび熱希釈法を用いた心拍出量の同時測定をおこなった。ICG0.1mg/kgの急速静注をおこない、末梢部位に装着した両プローブにより検出された色素の濃度曲線から心拍出量を計算し、超音波流量計により同時測定された値とBland&Altman法により比較した。その結果開心術後の末梢循環の良好でない部位にPDDのプローブを装着すると、透過式プローブを用いた場合でも、熱希釈法を用いた方法との差の平均値(Bias)は260ml/ml、差の標準偏差は370ml/mlと両方法の乖離が大きかった。この差の理由としては、対照としたThermodilutionでは、真の値より高めに値を出してくると報告されていることによると思われた。ばらつき具合は、動物実験と同程度(両方法の差の絶対値は、CO値の30%以内に全体の95%のデータが含まれる程度)であった。これは末梢にプローブを付けたことと、年齢による組織項の影響が出たためと思われた。よって、小児使用でキャリブレーションを繰り返して、組織項の定数部分(Ai、Bi)を小児での値に変更していく必要があるのではないかと思われた。

以上、3波長を用いたパルス式色素希釈法による心拍出量測定は、非侵襲的かつ簡便で、ほぼ臨床的に許容可能な精度で用い得ることが、この動物実験と臨床検討からわかった。実際の臨床応用には、プローブの改良など更なる検討と精度向上が必要であるが、この方法は、小児重症患者に対する有用な手段となり得ると思われた。

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