学位論文要旨



No 119355
著者(漢字) 東,剛司
著者(英字)
著者(カナ) アズマ,タケシ
標題(和) CD4+CD25+抑制性T細胞によるVα24NKT細胞に対する抑制効果に関する研究
標題(洋)
報告番号 119355
報告番号 甲19355
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2329号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 玉置,邦彦
 東京大学 教授 高橋,孝喜
 東京大学 講師 千葉,滋
 東京大学 講師 竹内,直信
 東京大学 講師 北山,丈二
内容要旨 要旨を表示する

研究の背景

CD4+CD25+ 抑制性T細胞は免疫抑制性のT細胞であり、末梢血のCD4+ T細胞の5-10%を占め、T細胞受容体を介する刺激によりCD4+CD25-T細胞の増殖能を抗原非特異的に抑制することが報告されている。この抑制の機序は詳細には解明されていないが、サイトカイン(IL-10、TGFβ等)などの液性因子ではなく、細胞間直接接触に依存していることが報告されている。さらに腫瘍免疫においても重要な位置を占め、マウスの担癌モデノレにおいてCD4+CD25+抑制性T細胞の除去により抗腫瘍作用の増強が報告されている。

一方Vα24NKT細胞は、多型性の無いT細胞受容体 (Vα24-Jα8) とNK受容体を発現し、CD1d拘束性に糖脂質 (α-galactosylceramide: α-GalCer) を抗原として認識する細胞であるVα24NKT細胞にはVα24+Vβ11+CD4-CD8-、Vα24+Vβ11+CD4+、Vα24+Vβ11+CD8+NKTの3つのsubsetが存在し、異なったサイトカイン産生パターンを呈することが報告されている。さらにヒト Vα24NKT 細胞のマウスホモログであるVα14NKT細胞の解析により NKT 細胞が腫瘍免疫に重要であることが報告され、癌に対する免疫療法への応用が注目されている。

近年CD4+CD25+ 抑制性T細胞の抑制作用はCD4+ T細胞を対象とされ、CD4+ T細胞以外の細胞については解析されてこなかった。本研究では、CD4+CD25+抑制性T細胞のVα24NKT細胞の各サブセットに対する抑制作用について細胞増殖能、サイトカイン産生、細胞傷害活性について評価し、さらにその機序を解析することを目的とした。

方法

細胞の作製

CD4+CD25+ 抑制性 T 細胞:健常人末梢血より比重遠心法にて末梢血単核球 (PBMCs) を分離し、さらに張り付き法にて単球を除去した。このようにして得られたリンパ球成分を抗体のカクテル(抗CD8、14、19、56、DR 抗体)と反応後磁気ビーズ法による negative selection にて CD4+ T 細胞を分離した。さらにCD4+ T細胞を抗CD25抗体を用い磁気ビーズ法にてCD4+CD25+抑制性T細胞を採取した。

Vα24NKT 細胞:健常人より分離した単球を rhIL-4(500U/ml)、rhGM-CSF(500U/ml) 下にて5日間培養し単球由来樹状細胞 (Monocyte-derived Dendritic Cell : MoDC) を作製し、α-GalCer を添加しさらに12時間培養した。末梢血より抗Vα24抗体を用い磁気ビーズ法にてVα24細胞を分離しrhIL2(40U/ml)下にて培養、前述のα-GalCerを添加したMoDCで7日毎に刺激を加えた。このようにして作製した Vα24NKT 細胞を FACSVantage にて Vα24+Vβ11+CD4-CD8-、Vα24+Vβ11+CD4+、Vα24+Vβ11+CD8+NKTの各subsetに分離した。

Flow cytometryによる細胞表面抗原の解析

細胞表面抗原は特異的抗体による免疫蛍光染色を行った後、Flow cytometry にて解析した。

CD4+CD25+ 抑制性T細胞によるVα24NKT細胞の細胞増殖能の抑制

細胞の増殖能の測定にはリンパ球混合試験 (mixed lymphocyte reaction : MLR) を用いた。1×105個の Vα24NKT 細胞の各 subset に刺激としてα-GalCerを添加し放射線照射した5×104個のMoDCを加え72時間培養後、1μCi [3H]TdR添加し12時間培養後、[3H]の取り込みをシンチレーターにて測定した。またCD4+CD25+抑制性 T 細胞による抑制を評価するため、さまざまな細胞数の CD4+CD25+ 抑制性 T 細胞を加えた。

CD4+CD25+ 抑制性 T 細胞によるVα24NKT細胞のサイトカイン産生能の抑制

前述の細胞増殖能の評価系にて[3H]の添加直前の上清200μl採取しELISA法にてサイトカイン濃度を測定した。

Transwell を用いた実験

1×105個のVα24NKT細胞に刺激としてα-GalCerを添加した5×104個のMoDCを放射線照射後加えた。さらに1×105個のCD4+CD25+抑制性T細胞を直接あるいは Transwell に加え72時間培養後、1μCi [3H]TdR添加しさらに12時間培養後[3H]の取り込みをシンチレーターにて測定した。

CD4+CD25+ 抑制性T細胞によるVα24NKT細胞の細胞傷害活性の抑制

細胞傷害活性の測定には 51Cr 放出試験を用いた。標的細胞として Na251Cr03 (Amersham, Arlington Heights, IL) にてラベルした5x103個の細胞 (MOLT-4、Jurkat 細胞) を1×105個のVα24NKT細胞と96穴の丸底ウェルプレートにて4時間培養後、上清を100μl採取しシンチレーターにて測定した。特異的51Cr放出量の計算には以下の式を使用した。[(cpm experimental release-cpm spontaneous release) / (cpm maximal release-cpm spontaneous release)] x100

結果

Vα24NKT 細胞はα-GalCer 特異的な細胞増殖能を有する。CD4+CD25+ 抑制性T細胞はVα24NKT細胞の増殖能を抑制することがMLRによって確認された。この抑制は CD4+CD25+ 抑制性 T 細胞数依存性に増強し、Vα24+Vβ11+CD4-CD8-、Vα24+Vβ11+CD4+、Vα24+Vβ11+CD8+NKTの各subset間において差を認めなかった。さらにVα24NKT細胞は以前の報告どおり、さまざまなサイトカイン(INF-γ、IL-4、IL-13、IL-10)を産生し、その産生パターンは各 subset により異なる。INF-γは全ての subset で産生される。一方IL-4はVα24+Vβ11+CD4-CD8-、Vα24+Vβ11+CD4+において産生され、IL-13、IL-10はVα24+Vβ11+CD4+において産生される。CD4+CD25+抑制性T細胞との共培養によりELISAでサイトカイン産生の抑制が確認された。この抑制はサイトカインあるいはsubset間では差は認めなかった。

次に、CD4+CD25+ 抑制性T細胞の抑制の機序を解析した。抑制の機序として液性因子(IL-10、TGF-β等)と細胞間直接接触が考えられている。まず抗IL-10抗体、抗TGF-β抗体を用い、CD4+CD25+ 抑制性T細胞のVα24NKT細胞に対する細胞増殖の抑制作用を検討した。CD4+CD25+ 抑制性T細胞による抑制作用はこれらの抗体で阻害されなかった。次に抗ICAM-1抗体、transwell を用い細胞間直接接触を検討した。これらにより CD4+CD25+ 抑制性T細胞の抑制作用は阻害された。さらにCD4+CD25+抑制性丁細胞のMoDCに対する作用をフローサイトメトリーによってCD40、54、80、86、HLA-DR、CDldの発現を評価した。CD4+CD25+ 抑制性T細胞との共培養によりMoDC細胞表面上のこれらの分子の発現低下は認められなかった。

Vα24NKT細胞は急性T細胞白血病由来の細胞株であるMOLT-4、Jurkatに細胞障害活性を有する。CD4+CD25+抑制性T細胞によるVα24NKT細胞のこの抗腫瘍効果への影響を解析した。CD4+CD25+抑制性T細胞との共培養によりVα24NKT細胞のMOLT-4、Jurkatに対する細胞障害活性は阻害された。

【考察および結語】

Vα24NKT細胞のα-GalCer特異的な増殖能、サイトカイン産生はCD4+CD25+抑制性T細胞により抑制された。この抑制作用はVα24+Vβ11+CD4+CD8-、Vα24Vβ11+CD4+、Vα24+Vβ11+CD8+NKT細胞の各subset間において差は認められなかった。抑制作用の機序としては、MoDCの刺激分子の発現の低下を認めなかったこと、抗IL-10抗体、抗TGF-β抗体にて阻害されなかったこと、抗ICAM-1抗体、transwellの実験にて抑制作用が阻害されたことより、液性因子ではなくCD4+CD25+抑制性T細胞とVα24NKT細胞との細胞間直接接触に依存していると考えられた。さらにVα24NKT細胞の抗腫瘍効果を抑制することがMOLT-4、Jurkatに対する細胞傷害活性が抑制された。これらの結果はVα24NKT細胞を用いた細胞免疫療法の開発に有意義と考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は腫瘍免疫において重要な役割を演じていると考えられているCD4+CD25+抑制性T細胞のVα24NKT細胞に対する抑制作用を明らかにするため、Vα4NKT細胞の細胞増殖能、サイトカイン産生、細胞傷害活性について評価し、その機序について解析を試みたものであり、以下の結果を得ている。

リンパ球混合試験により、Vα24NKT細胞のα-GalCer特異的な細胞増殖能はCD4+CD25+抑制性T細胞により抑制されることが示された。この抑制はCD4+CD5+抑制性T細胞数依存性に増強し、Vα24+Vβ11+CD4-CD8-、Vα24+Vβ11+CD4+、Vα24+Vβ11+CD8+NKTの各subset間において差は認めなかった。

ELISA法によりVα24NKT細胞がさまざまなサイトカイン(INF-γ、IL-4、IL-13、IL-10)を産生し、その産生パターンは各subsetにより異なり、さらにCD4+CD25+抑制性T細胞との共培養によるVα24NKT細胞のサイトカイン産生が抑制されることが示された。この抑制はサイトカインあるいはsubset間では差は認めなかった。

CD4+CD25+抑制性T細胞のVα24NKT細胞に対する抑制の機序を解析した。液性因子の評価として抗IL-10抗体、抗TGF-β抗体を用い、CD4+CD25+抑制性T細胞のVα24NKT細胞に対する細胞増殖の抑制作用を検討した。CD4+CD25+抑制性T細胞による抑制作用はこれらの抗体で阻害されないことを示した。次に抗ICAM-1抗体、transwellを用い細胞間直接接触を検討した。CD4+CD5+抑制性T細胞の抑制作用は阻害されることが示された。さらにCD4+CD25+抑制性T細胞の樹状細胞に対する作用をフローサイトメトリーによってCD40、54、80、86、HLA-DR、CDldの発現を評価した。CD4+CD25+抑制性T細胞との共培養によりMoDC細胞表面上のこれらの分子の発現低下は認められなかった。

CD4+CD25+抑制性T細胞のVα24NKT細胞の抗腫瘍効果に対する抑制作用を51Cr放出試験により解析した。CD4+CD25+抑制性T細胞との共培養によりVα24NKT細胞のMOLT-4、Jurkatに対する細胞障害活性は阻害されることが示された。

以上、本論文は CD4+CD25+抑制性T細胞によりVα24NKT細胞のα-GalCer特異的な増殖能、サイトカイン産生、細胞傷害活性は抑制されることを示し、さらに抑制作用の機序として、Vα24NKT細胞との細胞間直接接触に依存していることを明らかにした。これらの結果はVα24NKT細胞を用いた細胞免疫療法においてCD4+CD25+抑制性T細胞の抑制を併用することにより抗腫瘍効果の増強の可能性を示唆し、癌に対する免疫療法の開発に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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