No | 119367 | |
著者(漢字) | 秋山,達 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アキヤマ,トオル | |
標題(和) | アポトーシス誘導蛋白質 Bim による破骨細胞アポトーシスならびに骨吸収機能制御に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 119367 | |
報告番号 | 甲19367 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2341号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 骨の機能は単に重力に抗して身体の形態を維持するだけでなく、カルシウムの貯蔵庫や血液を作る工場しての役割などさまざまな役割を担っている。そのため、骨組織は生体内において身体の成長が終了した後も骨形成と骨吸収を繰り返しながらその機能や形態を維持している。さまざまな要因により骨の骨形成と骨吸収のバランスは破綻し、骨の形質が変化することが知られている。骨形成は軟骨細胞や骨芽細胞による内軟骨性骨化や膜性骨化によって行われ、骨吸収は破骨細胞によってのみ行われることが知られている。骨吸収の観点から骨組織機能の破綻した例を挙げるならば、骨粗鬆症や関節リウマチ、あるいは悪性腫瘍の骨転移などが挙げられる。これらは骨吸収機能が亢進したために病的な状態に陥った例である。一方骨吸収が低下したためにやはり病的な状態に陥った例として大理石病が挙げられる。生体内における骨吸収は破骨細胞の分化・活性化・アポトーシスの3つの要素が密接に絡み合って調節されている。破骨細胞は最終分化した細胞であり、分化後、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などの生存因子や骨芽細胞などの支持細胞が存在しない状態では速やかにアポトーシスを起こして細胞死に陥り生体内から除去されるという特徴がある。しかしながら破骨細胞のアポトーシスに関してはほとんど何も分かっていないのが実情である。本研究は破骨細胞アポトーシスのシグナル伝達経路を明らかにすることを目的として行った。アポトーシスとは、生体にとって不必要な細胞が遺伝子にプログラムされた様式にしたがって自分自身に細胞死を惹き起こす現象である。アポトーシス制御の異常は腫瘍、自己免疫疾患、そして変性疾患を惹き起こすとされている。アポトーシスシグナル伝達経路には大きく分けてデスレセプターを介する経路とミトコンドリアを介する経路の二つが存在するが、破骨細胞のアポトーシスシグナル伝達経路はミトコンドリアを介する経路であることが明らかになった。ミトコンドリアを経由するアポトーシス経路は Bcl-2 family に属する蛋白質により調節される。Bcl-2 family はアポトーシスを促進する蛋白群とアポトーシスを阻害する蛋白群の両者を含んでおり、4種類の Bcl-2 homology(BH)domain と呼ばれる共通ドメインの内、どのドメインを持っているかによってアポトーシス進行においてどの役割を果たしているのかが決定される。破骨細胞のアポトーシスは pro-apoptotic Bcl-2 family の内、細胞ならびにシグナル特異性が高い BH3 domain only protein Bcl-2 family に属するアポトーシス誘導蛋白質 Bim の急速な発現上昇ならびにその後の遷延した発現量に依存していることが明らかになった。Bim の発現は M-CSF によって抑制され、この発現量変化はmRNAの転写レベルではなく蛋白レベルで制御されていた。Bim mRNA の骨組織における発現はin situ hybridizationならびにBim遺伝子をlacZ遺伝子に置換したKnock-inマウスにおけるβ-galactosidase染色によって解析した。解析の結果Bin mRNAは骨組織において破骨細胞特異的に出ていた。Bim遺伝子欠損マウスの骨組織における組織学的所見ならびにエックス線像は、骨組織内の破骨細胞数は正常型マウスの骨組織に比べ増加しているが破骨細胞の骨吸収能の低下を反映したと思われる中等度の骨量増加が認められた。正常型マウス骨髄細胞より分化した破骨細胞に比べ、Bim遺伝子欠損マウス骨髄細胞から分化した破骨細胞はM-CSF非存在下でも著明な生存の延長を示したが、骨吸収能は大きく減少していた。Bimが破骨細胞機能をアポトーシスとは独立して亢進ずることが明らかになったがその詳細なメカニズムについては不明であり今後引き続き解析していく予定である。Bim遺伝子欠損マウス由来の破骨細胞に正常型のBimを過剰発現するとBimはM-CSFによりユビキチン化により分解され、発現抑制がかかりアポトーシスが阻害されるが、ユビキチン化依存性の分解に対して耐性になるように作成したリジン残基欠損Bimを過剰発現するとBimはM-CSFによる発現抑制がかからずアポトーシスも阻害されなかった。つまり、BimのM-CSFによる発現抑制効果はユビキチン化ならびにプロテアソーム系による分解系に依存していることが明らかになった。M-CSFの下流で破骨細胞においてはCbl family が活性化することがこれまでに明らかになっており、Cbl family はユビキチン化に重要な役割を果たすことからCbl family に属するc-CblがBimのユビキチン化に関係しているかを解析した。アデノウイルスでc-Cblならびにc-Cblの抑制型であるv-Cblを破骨細胞に過剰発現したところ、Bimのユビキチン化はc-Cblにより促進され、v-Cblにより抑制された。c-Cbl遺伝子欠損マウスを解析したところc-Cbl遺伝子欠損破骨細胞のBimユビキチン化が障害されていた。Bimのユビキチン化にはc-Cblが重要であることが明らかになった。以上の結果から破骨細胞のアポトーシスならびに骨吸収機能制御にユビキチン化を介したBimの発現量調節が非常に重要であることが分かった。 以上、本論文は破骨細胞のアポトーシスシグナル伝達経路においてBimの発言量調節が重要であるのみならず、機能調節においてもBimの発現調節が重要であることを明らかにした。本研究は、これまでほとんど解析されていなかった破骨細胞アポトーシスシグナル伝達経路の解明に重要な貢献をなすばかりでなく、アポトーシス分子がアポトーシス機能とは独立して機能調節を行うことを示したことから、破骨細胞の解析に非常に重要な役割を果たすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
審査要旨 | 本研究は骨のホメオスターシスの維持は骨形成をつかさどる軟骨細胞並びに骨芽細胞と骨吸収を行う唯一の細胞である破骨細胞のバランスにより行われている。破骨細胞は最終分化を起こした細胞であり、分化後すぐにアポトーシスに陥るという特徴がある。しかしながら破骨細胞アポトーシスのシグナル伝達系については何も分かっていないのが実情である。本研究は破骨細胞のアポトーシスシグナル伝達経路を明らかにするために行われたもので下記の結果が得られている。 破骨細胞にBimはミトコンドリアを介してアポトーシスを起こす アポトーシスシグナル伝達経路には大きく分けてデスレセプターを介する経路とミトコンドリアを介する経路の二つが存在するが、破骨細胞のアポトーシスシグナル伝達経路はミトコンドリア電位の観測並びにミトコンドリアよりの cytochrome C の放出を観測することによりミトコンドリアを介する経路であることが明らかになった。ミトコンドリアを経由するアポトーシス経路は Bcl-2 family に属する蛋白質により調節される。破骨細胞のアポトーシスは pro-apoptotic Bcl-2 family の内、細胞ならびにシグナル特異性が高いBH3 domain only protein Bcl-2 family に属するアポトーシス誘導蛋白質Bimの急速な発現上昇ならびにその後の遷延した発現量に依存していることが明らかになった。Bimの発現はM-CSFによって抑制され、この発現量変化はmRNAの転写レベルではなく蛋白レベルで制御されていた。 骨組織においてBimは破骨細胞特異的に発現する Bim mRNA の骨組織における発現は in situ hybridization ならびにBim遺伝子をlacZ遺伝子に置換した knock-in マウスにおけるβ-galactosidase染色によって解析した。解析の結果Bim mRNAは骨組織において破骨細胞特異的に出ていた。 Bim遺伝子欠損マウスは低回転型の骨硬化傾向を示す Bim遺伝子欠損マウスの骨組織における組織学的所見ならびにエックス線像は、骨組織内の破骨細胞数は正常型マウスの骨組織に比べ増加しているが破骨細胞の骨吸収能の低下を反映したと思われる中等度の骨量増加が認められた。正常型マウス骨髄細胞より分化した破骨細胞に比べ、Bim遺伝子欠損マウス骨髄細胞から分化した破骨細胞の骨吸収能は大きく減少していた。Bimが破骨細胞機能をアポトーシスとは独立して亢進することが明らかになったがその詳細なメカニズムについては不明であり今後引き続き解析していく予定である。4:Bim遺伝子欠損マウスの生体内で破骨細胞は生存が延長している 正常型マウス骨髄細胞より分化した破骨細胞に比べ、Bim遺伝子欠損マウス骨髄細胞から分化した破骨細胞はM-CSF非存在下でも著明な生存の延長を示した。5:Bimの分解系においてMEK-ERK系が重要である Bimの発現調節に関してはこれまでMEK-ERK系ならびにAKTの重要性が報告されている。正常型破骨細胞に対しアデノウイルスベクターを用いてMEK-ERK系並びにAKTをそれぞれ恒常活性化させBimの発現量に対する影響を検討した結果MEK-ERK系が有意にBimの発現量を減少させることが明らかになった。 また、M-CSFにより破骨細胞のMEK-ERK系が活性化されるが、PD98059によりMEKを阻害するとBimの発現量抑制効果が阻害されることが明らかになった。これらのことから破骨細胞におけるM-CSFによるBimの抑制効果はおもにMEK-ERK系が重要であることが明らかになった。 破骨細胞においてBimは転写レベルではなくユビキチン化による蛋白レベルでの分解系で調節される 正常型マウス骨髄細胞より分化した破骨細胞にプロテアソーム阻害薬であるMG132ならびにM-CSFを作用させ、Bimの発現量上昇が観察されたことと、同一条件下においてBimの免疫沈降実験を行うことでM-CSF依存性にBimがユビキチン化されることが確認された。さらにBim遺伝子欠損マウス由来の破骨細胞に正常型のBimを過剰発現するとBimはM-CSFによりユビキチン化により分解され、発現抑制がかかりアポトーシスが阻害された。また、ユビキチン化依存性の分解に対して耐性になるように作成したリジン残基欠損Bimを過剰発現するとBimはM-CSFによる発現抑制がかからずアポトーシスも阻害されなかった。これらのことより破骨細胞におけるM-CSFによるBimの発現抑制効果ならびに生存延長効果は、Bimのユビキチン化ならびにプロテアソーム系による分解系に依存していることが明らかになった。 Bimのユビキチン化にはCbl familyが重要である M-CSFの下流で破骨細胞においてはCbl familyが活性化することがこれまでに明らかになっており、Cbl familyはユビキチン化に重要な役割を果たすことからCbl familyに属するc-CblがBimのユビキチン化に関係しているかを解析した。アデノウイルスでc-Cblならびにc-Cblの抑制型であるv-Cblを破骨細胞に過剰発現したところ、Bimのユビキチン化はc-Cblにより促進され、v-Cblにより抑制された。c-Cbl遺伝子欠損マウスを解析したところc-Cbl遺伝子欠損破骨細胞のBimユビキチン化が障害されていた。Bimのユビキチン化にはc-Cblが重要であることが明らかになった。以上の結果から破骨細胞のアポトーシスならびに骨吸収機能制御にユビキチン化を介したBimの発現量調節が非常に重要であることが分かった。 以上、本論文は破骨細胞のアポトーシスシグナル伝達経路においてBimの発現量調節が重要であるのみならず、機能調節においてもBimの発現調節が重要であることを明らかにした。本研究は、これまでほとんど解析されていなかった破骨細胞アポトーシスシグナル伝達経路の解明に重要な貢献をなすばかりでなく、アポトーシス分子がアポトーシス機能とは独立して機能調節を行うことを示したことから、破骨細胞の解析に非常に重要な役割を果たすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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