学位論文要旨



No 119368
著者(漢字) 今井,一博
著者(英字)
著者(カナ) イマイ,カズヒロ
標題(和) 有限要素法非線形解析による脊椎椎体圧縮強度の予測に関する研究
標題(洋)
報告番号 119368
報告番号 甲19368
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2342号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 井街,宏
 東京大学 教授 安藤,譲二
 東京大学 助教授 太田,信隆
 東京大学 講師 川口,浩
内容要旨 要旨を表示する

背景・目的

有限要素法 (FEM) は構造物の数値解析法である。主に大腿骨近位部の有限要素法解析が行われ骨強度の予測が骨密度測定よりすぐれていることが示されてきた。しかし脊椎椎体については形状が複雑であること、弾塑性であること、皮質シェルが薄いことより、骨強度を精度よく予測できる有限要素法解析モデルは確立されていなかった。

本研究ではヒト脊椎椎体の圧縮強度を十分な精度で予測できる有限要素法解析モデルを構築することを目的とした。そのために実証試験として力学試験機による椎体の単軸圧縮荷重試験を行い、予測解析の精度を検証した。

方法

東京大学附属病院にて研究倫理審査委員会の承認および患者家族への説明同意を得て死後24時間以内に採取した12脊椎骨椎体(T11, T12, L1、男性31, 55, 67, 83歳)を使用した。全ての椎体は軟X線画像とCT画像にて骨折、癌転移などの骨病変がないことを確認した。椎体を生理食塩液中に沈めて1mmスライス厚で骨量ファントムと共にCTを撮像した。CTデータから骨を抽出して1辺が2mmの四面体要素による有限要素モデルを構築した。表面に1辺が2mm、厚さ0.4mmの三角形平板を構築して皮質シェルを表現した。骨は不均質材料として海綿骨のヤング率および降伏応力は各要素に対応するCT値から個々に算出した。皮質シェルの材料特性はヤング率を10 GPaに設定した。椎体に対する荷重は単軸圧縮荷重とし、有限要素法非線形解析を行った。非線形解析はNewton-Raphson法を用いた荷重増分法で解析した。圧縮試験は0.5mm/分の準静荷重負荷とした。骨折荷重値として、有限要素法解析では1要素が降伏する荷重値、1要素が破壊する荷重値、連続2要素が破壊する荷重値、の3点を定義した。力学試験では、荷重変位曲線での降伏荷重値と最大荷重値の2点を定義した。骨折荷重値について解析と力学試験を比較してピアソンの相関係数の検定を行った。

結果

力学試験での降伏荷重値は解析での1要素降伏荷重値と相関係数0.949と高相関であった (Fig. 1)。

最大荷重値は、解析での1要素破壊荷重値との比較で相関係数0.978、回帰直線の傾きが1.0752、連続2要素破壊荷重値との比較で相関係数0.987、回帰直線の傾きが1.1056でいずれも高相関であった。1要素破壊荷重値の方が回帰直線の傾きが1に近く最大荷重値を正確に表現しているものと思われた (Fig. 2)。

考察

脊椎椎体の有限要素法解析モデルを構築するために、椎体の複雑な3次元曲面形状を構築すること、弾塑性を表現すること、薄い皮質シェルの材料特性を設定することが必要であった。四面体要素構造を用いることで椎体全体の複雑な形状を構築することができた (Fig. 3)。また、椎体の弾塑性を表現するために非線形解析を行った。皮質シェルは薄くてCTでは正確に描出できないため、海綿骨の外側に厚み0.4mm、ヤング率10 GPaの皮質シェルを設定した。

この解析モデルで実証試験を行い予測解析の精度を検証したところ、降伏荷重値、最大荷重値ともに相関係数0.95-0.98の高い相関で回帰直線の傾きが1に近くなっていた。本研究で構築した有限要素法解析モデルで椎体の圧縮強度を正確に定量評価できると考えられた。

展望

本研究は脊椎椎体の準静的単軸圧縮強度の予測に関するものである。骨折危険度の評価方法として臨床応用するためには、本研究で構築したモデルを応用して患者の日常生活での様々な荷重条件を検証する必要がある。また、今回使用した検体は全員男性であった。骨粗鬆症の診療に応用するためには、女性、閉経後の女性についても検討する必要がある。さらに骨粗鬆症患者に対して本法で予測した骨折荷重値と骨折発生率との関係をみる大規模コホート研究が行われることが望ましい。

本研究で確立した有限要素法解析モデルを発展させて、骨粗鬆症患者での椎体骨折の危険度の判定、骨粗鬆症治療薬の効果判定として臨床応用されることが期待される。

力学試験:降伏荷重値、解析:1要素降伏荷重値の相関

力学試験:最大荷重値、解析:1要素破壊荷重値の相関

本研究で構築した有限要素法解析モデル四面体要素で海綿骨を構築しその表面に三角形平板を構築して皮質シェルに対応させた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は骨粗鬆症患者で高率に生じる脊椎椎体骨折を予測するため、有限要素法を用いて脊椎椎体の圧縮強度の予測解析法を確立し、実証試験にて精度を検証したものであり、下記の結果を得ている。

椎体は形状が複雑な3次元曲面構造であること、圧縮に対して弾塑性であること、皮質シェルが薄くて現在の CT 解像度では正確に描出されないことより、椎体骨折を高精度で予測できる有限要素法解析モデルが確立されていなかった。これらの課題を解決するため、1辺が2mmの四面体要素構造を用いて椎体全体の複雑な3次元曲面形状を構築、有限要素法非線形解析を行い椎体の弾塑性を表現、海綿骨の表面に厚さ0.4mm、ヤング率10 GPaの皮質シェルを構築、を行って脊椎椎体の有限要素法解析モデルを構築した。

骨密度測定より高い精度で降伏荷重値および最大荷重値を予測できた。また、予測値と実測値はほぼ一致しており、骨折荷重値を高い精度で定量評価できるものと考えられた。

椎体前方が圧壊する骨折および骨折線が明瞭に見られる骨折の異なる2つのタイプの骨折に対して骨折部位および骨折形態を予測することができた。骨折部位は破壊要素の位置が、骨折形態は最小主ひずみ分布が対応していた。

骨折荷重値の半分の荷重値での圧縮に伴う椎体表面の最小主ひずみ値を高精度で算出でき、骨折に至る前も解析が精度よく行われていることが示唆された。

以上、本研究は脊椎椎体の圧縮強度、骨折部位、さらに椎体表面のひずみ値を高精度で予測解析できるモデルを確立した。本研究で確立したモデルを臨床応用すれば有限要素法解析による骨強度の定量評価が可能となり、骨粗鬆症患者での椎体骨折の危険度の判定、骨粗鬆症治療薬の効果判定法として重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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