No | 119375 | |
著者(漢字) | 瀬戸屋,希 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セトヤ,ノゾミ | |
標題(和) | 入院中の心理教育プログラムに対する統合失調症者のニーズアセスメント | |
標題(洋) | Assessing the Needs of Individuals with Schizophrenia for Inpatient Psychoeducation Program | |
報告番号 | 119375 | |
報告番号 | 甲19375 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第2349号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 健康科学・看護学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 序論 近年、統合失調症者やその家族に対する心理社会的プログラムの有効性が報告されている。しかし、プログラムの種類や対象者は研究によって異なっており、各プログラムが、どのような特徴を有するクライアントに有効であるかは明らかにされていない。アウトカムに関連するクライアントの特徴を検討することは、個別のニーズに応じた心理社会的プログラムを実施する上で必要とされている。しかし、アウトカムとクライアントの特徴の関連を検討した先行研究は少なく、加えてアウトカムの指標は、再発・再入院などの臨床的視点や知識獲得に限られており、心理教育がターゲットとする病識や症状対処スキルの獲得、自己評価の改善といった指標に関しては、ほとんど検討されてこなかった。そこで本研究の目的は、入院中の統合失調症者を対象とした心理教育プログラムの効果が、より大きく見られたクライアントの特徴、すなわち心理教育に対して高いニーズを有するクライアントの特徴を明らかにすることである。特に、アウトカムの指標として主観的評価指標を用い、クライアントのニーズ・属性との関連を検討する。 方法 全国8カ所の医療機関で実施した心理教育プログラムの無作為化比較試験に参加した統合失調症者148名について、入院時点の属性変数・ニーズ変数と退院9カ月後の改善度(アウトカム変数)の関連を検討した。本研究で「ニーズ」とは、プログラムからどの程度効果を得られるかという定義に従い、効果に関連するクライアントの特徴を表す指標をニーズ変数と定義した。ニーズ変数には、症状得点(PANSS)に加えて、知識(KIDI)、病識(IS)、プログラムへの参加準備性(RPS)、地域生活に対する自己効力感(SECL)、生活満足度といった主観的指標を用いた。アウトカム変数には、ニーズ変数の変化度(改善度)ならびに再入院の有無を用いた。したがって、本研究では、各アウトカム変数のベースライン(入院時)の値をニーズ変数と定義する。ニーズ変数は入院後症状が安定した時点で、アウトカム変数は退院9カ月後に評価した。 まず、各アウトカム変数の変化度(退院9カ月後得点-入院時得点)について、介入群とコントロール群で差の見られた属性変数(年齢、性比、罹病期間)ならびに入院時の値を共変量とした共分散分析を行い、コントロール群に比べて介入群で有意に改善したアウトカム変数を特定した。次に、介入効果の見られた4つのアウトカム変数について、介入群の中でより大きな改善を示した者の特徴を検討するため、中央値以上の改善度を従属変数、属性・ニーズ変数を独立変数にしたロジスティック回帰分析を行った。また、複数のアウトカム領域にわたり改善した者(4指標中3指標以上で中央値以上の改善)を「広範囲改善群」、残りを「限定改善群」とし、二群の属性・ニーズ変数についてt検定を用いて比較した。加えて、ロジスティック回帰分析を行い、広範囲改善群を予測する属性・ニーズ変数を検討した。 結果 介入群と対照群では、対象者の属性に差が見られ、介入群の方が、有意に年齢が若く、男性の割合が多く、また罹病期間が短かった。そこで、各アウトカム変数の変化度について、年齢、性別、罹病期間、ならびに入院時の値を共変量とした共分散分析を行った結果、コントロール群に比べて介入群で有意に改善したアウトカム変数は、陰性症状(F=6.969 p=0.009)、知識(F=9.116 p=0.003)、病識(F=5.613 p=0.020)、参加準備性(F=4.032 p=0.048)であった。 心理教育プログラムの介入効果が見られた4っの変数-陰性症状、知識、病識、参加準備性について、アウトカムの改善度と属性変数・ニーズ変数との関連を検討した結果、4つのアウトカムの改善はそれぞれ異なる予測因子の組み合わせと関連していた。予測因子には、複数の主観的指標が含まれていた(表1)。また、介入効果が幅広い領域にわたってみられたクライアント(広範囲改善群)は、介入効果の範囲が限定されていたクライアント(限定改善群)に比べて、年齢が若く、罹病期間が短く、入院時の症状得点がより重症であり、疾病に関する知識と心理教育への参加準備性が低かった(表2)。ロジスティック回帰分析の結果、幅広い効果に強く関連していたのは、入院時の知識得点が低いこと(OR=0.962;p=0.033)、罹病期間の短いこと(OR=0.858;p=0.012)であった。 考察 統合失調症者に対する入院中の心理教育プログラムは、クライアントのアウトカムを改善し、その改善はクライアントのニーズ・属性と関連が見られた。介入効果の見られたアウトカム変数-陰性症状、知識、病識、参加準備性の改善を予測する属性・ニーズ変数は、それぞれ異なっていた。予測因子には、症状に加えて複数の主観的指標が含まれており、心理教育を提供する前には疾病に対するクライアントの認識といった自己評価尺度を含む多面的なニーズアセスメントを行うことの重要性が示された。 複数のアウトカムにわたって幅広い効果がみられたクライアントは、若年で罹病期間が短く、入院時の疾病に関する知識が低いという特徴が見られた。介入前に知識を測定することは、心理教育プログラムのターゲット集団を特定するのに有用であるとともに、臨床的に見ても、対象集団のニーズに合わせたプログラム提供に役立つものである。 また、若年で罹病期間の短い患者において、幅広い改善を示したことは早期介入の必要性を示唆する重要な知見であり、発病間もない統合失調症者に教育的プログラムを実施する主体として、医療機関の役割があらためて強調された。情報提供は、個々のクライアントのステージに合わせるべきであると言われており、本研究の結果は、医療機関における心理教育プログラムのガイドライン作成に貢献できるものと期待される。 結論 新規に入院した統合失調症患者にグループでの情報提供とグループワークを中心とした心理教育を実施した結果、陰性症状、知識、病識、参加準備性に介入効果が見られた。各アウトカム改善に関連するクライアントの要因は、それぞれ異なっていたが、心理教育を提供する際のニーズアセスメントにおいては、自己評価の指標を含む多面的な評価が有用であることが示された。また、入院中の心理教育は罹病期間が短く、疾病に関する知識が乏しいクライアントに、より有効であることが示された。 介入群におけるアウトカム改善の予測因子 広範囲改善群と限定改善群における属性・ニーズ変数の比較 | |
審査要旨 | 本研究は、入院中の統合失調症者を対象とした心理教育プログラムの効果が、より大きく見られたクライアントの特徴、すなわち心理教育に対して高いニーズを有するクライアントの特徴を明らかにしたものである。特に、アウトカムの指標として主観的評価尺度を含めた幅広い指標を用いて、クライアントのニーズ・属性との関連を検討した。 本研究では、全国8カ所の医療機関で実施した心理教育プログラムの無作為化比較試験に参加した統合失調症者148名について、入院時点の属性変数・ニーズ変数と退院9ヵ月後の改善度(アウトカム変数)の関連を検討した。ニーズ変数には、症状得点 (PANSS) に加えて、知識 (KIDI)、病識 (IS)、プログラムへの参加準備性 (RPS)、地域生活に対する自己効力感 (SECL)、生活満足度といった主観的指標を用いた。アウトカム変数には、ニーズ変数の変化度(改善度)ならびに再入院の有無を用いた。 まず、コントロール群に比べて介入群で有意に改善したアウトカム変数を特定し、次に介入効果の見られたアウトカム変数について、介入群の中でより大きな改善を示した者の特徴を検討した。最後に、複数のアウトカム領域にわたり改善した者の特徴を検討した。 主要な結果は下記の通りである。 入院中の心理教育の効果を、共分散分析を用いて介入群と対照群で比較した。その結果、陰性症状の改善、知識の獲得、病識の獲得、参加準備性の向上の4つのアウトカムにおいて、介入の有意な効果が見られた。 介入効果の見られた4つのアウトカムの改善と、関連の見られた属性変数・ニーズ変数を検討した結果、各アウトカムはそれぞれ異なる組み合わせの予測因子と関連していた。特に、各アウトカムの入院時の得点が低いことは、その指標の改善に関連していた。 陰性症状の改善には、入院時の入院時の陰性症状が重篤であることが関連していた。知識の改善には、入院時の知識が低いこと、陰性症状が軽いこと、総合精神病理症状の重篤であることが関連していた。病識の改善には、入院時の病識が低いこと、過去の入院回数が少ないこと、陰性症状の軽いこと、総合精神病理症状の重いこと、自己効力感の低いこと、生活満足度の高いことが関連していた。参加準備性の改善には、入院時の参加準備性の低いこと、知識の低いこと、病識の高いことが関連していた。 幅広い改善の見られた対象は、改善の範囲が限られていた対象に比べて、年齢が若く、罹病期間が短く、入院時の陽性症状、陰性症状、総合精神病理症状が重篤で、知識・参加準備性が低かった。 幅広い改善に最も関連していた属性・ニーズ変数は、入院時の低い知識と短い罹病期間であった。 以上,本論文は,統合失調症患者に対する心理教育の効果と患者のニーズとの関連を、多面的な指標を用いて検討しており、その結果をニーズアセスメントという視点から考察した点で独創的である。また、心理教育に高いニーズを持つ集団像を描いたことは、個別のニーズに基づいた心理教育の提供や、心理教育のガイドライン開発に示唆を与えるという点で、有用性をも兼ね備えており、学位の授与に値するものと考えられた。 | |
UTokyo Repositoryリンク |