No | 119385 | |
著者(漢字) | 堤,敦朗 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツツミ,アツロウ | |
標題(和) | バングラデシュにおけるハンセン病患者のQOL、精神健康及びスティグマ自己認識に関する研究 | |
標題(洋) | The Quality of Life, Mental Health and Perceived Stigma of Leprosy Patients in Bangladesh | |
報告番号 | 119385 | |
報告番号 | 甲19385 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第2359号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 国際保健学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 目的 ハンセン病は進行すると身体の変形や視力障害を伴う疾病である。そのため、ハンセン病に罹患した者に対する差別や偏見は強い。世界保健機関はハンセン病の有病率を各国レベルで人口1万人あたり1未満の達成を目標としている。バングラデシュにおいては、1998年に有病率1未満を達成し、公衆衛生上の疾患としての制圧に成功した。故に、今後は、ハンセン病患者個人のウェルビーイングに注目していく必要がある。患者のウェルビーイングにおいて、患者自身が社会からのスティグマをどのように認識しているかというステイグマ自己認識が、患者の生活の質 (Quality of Life; QOL) や精神健康とどのように関連するのかは重要である。過去のハンセン病患者の精神健康に関する研究は少なく、それらも概ね欧米での使用を目的として作られた尺度を利用しており、発展途上国での使用には文化差という点で限界があった。また、ハンセン病患者のQOLに関する研究はほとんどなく、数少ない研究においても対象者数が少数であるなどの問題があった。よって、本研究では、1) 国際的に比較可能なQOL、精神保健のベンガル語版を作成し、その信頼性と妥当性を検証すること、2) ハンセン病患者のQOLや精神健康を一般人口と比較し明らかにすること、3) QOLと、人口統計学的データやスティグマ自己認識などの因子との関連を明らかにすること、を目的とする。 方法 対象者は、バングラデシュ・ダッカにおける国立ハンセン病専門病院を受診した全てのハンセン病患者のうち、インフォームドコンセントが得られた患者188名(患者群)、患者群の居住地区を都市部、農村部、スラム地区の3つに分類し、その居住地区比率を一致させた一般人口203名(比較群)である。識字率の低さを考慮し、質問票を用いたインタビュー形式でデータを得た。質問票は、1) 人口統計学的データ、2) QOLを評価するためのWHOQOL-BREF (The World Health Organization QOL Assessment Bref)、3) 精神健康を評価するためのSRQ (Self Reporting Questionnaire)、4) Activities of Daily Living (ADL) をコントロールするためのThe Barsel Index、5) スティグマ自己認識を測定するために著者によって作成されたPSQ (Perceived Stigma Questionnaire) によって構成された。また、ハンセン病に伴う変形の有無を評価するため、患者のカルテも情報源とした。質問票は英語で作成され、2名の英語とベンガル語のバイリンガルが独立して翻訳し、その後翻訳された質問票は別のバイリンガルによってバックトランスレーションされた。その質問票を用いた予備調査後、必要な修正を加え、最終版が完成された。 結果 WHOQOL-BREF、SRQ及びPSQバングラデシュ語版は一定の信頼性、妥当性を持つことが示された。ハンセン病患者のQOLと精神健康度は一般人口と比べ有意に低かった。男性においてはQOLの下位尺度である環境において、患者群は比較群よりも有意に高い得点を示した。女性においては、社会関係や環境においては患者群と比較群間で有意な差は認められなかった。変形を持つ男性患者は持たない男性患者と比べ、QOL及び精神健康度が有意に低かった。変形を持つ女性患者はQOLの下位尺度である身体のみにおいて持たない女性患者よりも有意に高い得点を示した。スティグマを受けていると認識している者は、両性において、そうでない者よりもQOLと精神健康度が有意に低いかその傾向を示した。また、低いQOLと関連があったのは、スティグマ自己認識があること、身体の変形があること、教育年数が短いこと、年収が少ないことであった。性別、年齢、らい反応があることは関連を示さなかった。 結論 ハンセン病患者はQOL及び精神健康においてより厳しい状況が示された。また、変形の有無やスティグマ自己認識が強くQOLに関連することが明らかとなった。また、QOLや精神健康における性差による異なった特徴が示された。これらに対する介入が早急に望まれるが、変形の予防といった医学的な側面のみならず、社会的背景やスティグマ自己認識などの社会的困難に焦点を当てていく必要がある。また、ハンセン病患者のQOL・精神健康度の向上には性差に敏感な介入が必要であると思われる。本研究は、尺度の有用性を確認し、その上で、治療中のハンセン病患者のQOLや精神保健を評価した始めての研究であり、本研究の結果を踏まえた精査が必要である。 WHOQOL-BREF and SRQ for Patients and Controls ANCOVA putting the years of education as a covariate **p<0.01 *p<0.05 §Estimated Mean N=153 in Soial Relationship of the Male Patient due to Missing Data WHOQOL-BREF=World Health Organization Quality of Life Assessment Bref; SRQ=Self Reporting Questionnaire Multiple Regression Analysis of WHOQOL-BREF Score Standard Multiple Regression Analysis **p<0.01 *p<0.05 WHOQOL-BREF=World Health Organization Quality of Life Assessment Bref Presence(0=No, 1=Yes), Sex(0=Male, 1=female) | |
審査要旨 | 本研究では、1) 国際的に比較可能なQOL、精神保健のベンガル語版を作成し、その信頼性と妥当性を検証すること、2) ハンセン病患者のQOLや精神健康を一般人口と比較し明らかにすること、3) QOLと、人口統計学的データやスティグマ自己認識などの因子との関連を明らかにすることを目的とする。方法としては、バングラデシュ・ダッカにおける国立ハンセン病専門病院における患者188名(患者群)、患者群の居住地区を都市部、農村部、スラム地区の3つに分類し、その居住地区比率を一致させた一般人口203名(比較群)を対象に質問票を用いたインタビュー調査を行った。質問票は、人口統計学的データ、QOLを評価するためのWHOQOL-BREF (The World Health Organization QOL Assessment Bref)、精神健康を評価するための SRQ (Self Reporting Questionnaire)、Activities of Daily Living (ADL) をコントロールするためのThe Barsel Index、及びスティグマ自己認識を測定するために著者によって作成されたPSQ (Perceived Stigma Questionnaire) で構成された。また、ハンセン病に伴う変形の有無を評価するため、患者のカルテも情報源とした。質問票は英語で作成され、2名の英語とバングラデシュ語のバイリンガルが独立して翻訳し、更に別のバイリンガルによってバックトランスレーションされた。その質問票を用いた予備調査後、必要な修正を加え、最終版が完成された。更に再テスト信頼性の確認のために24名が初回インタビューから1週間後に再度同様のインタビューを受けた。これらについて下記の結果を得ている。 使用したバングラデシュ語版尺度の一定の信頼性・妥当性が示された。 ハンセン病患者のQOLと精神健康度は一般人口と比べ有意に低かった。 スティグマを受けていると認識している者は、両性において、そうでない者よりもQOLと精神健康度が有意に低いかその傾向を示した。 また、低いQOLと関連があったのは、ステイグマ自己認識があること、身体の変形があること、教育年数が短いこと、年収が少ないことであった。スティグマ自己認識を持つことが低いQOLと最も関連があることが示された。 以上、本論文は、バングラデシュにおけるハンセン病患者のQOL、精神保健、スティグマ自己認識やそれら相互の関連を初めて明らかにし、ハンセン病患者のQOLの低さと、そのQOLに関連する要素を明らかにした。本研究は、ハンセン病患者におけるスティグマ自己認識と患者の低いQOLとの関連から患者自身の社会的困難に焦点を当てていく必要性を示した初めての研究であり、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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