学位論文要旨



No 119387
著者(漢字) 黒木,喜美子
著者(英字)
著者(カナ) クロキ,キミコ
標題(和) リウマチ性疾患感受性におけるLILRファミリー遺伝子群多型の役割
標題(洋) Association of Leukocyte Immunoglobulin-like Receptor (LILR) Family Gene with Rheumatic Diseases
報告番号 119387
報告番号 甲19387
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2361号
研究科 医学系研究科
専攻 国際保健学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 牛島,廣治
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 教授 高橋,孝喜
 東京大学 助教授 渡辺,知保
 東京大学 講師 高見澤,勝
内容要旨 要旨を表示する

ヒト染色体19q13.4はleukocyte receptor complex/cluster(LRC)として知られ、Leukocyte immunoglobulin-like receptor(LILR)遺伝子群をはじめ、killer cell immunoglobulin-like receptor(KIR)遺伝子群、FCAR遺伝子を含む、免疫系で重要な役割を担っていると予想される免疫グロブリン様受容体ファミリー遺伝子群がクラスターを形成して存在している領域である。また、LRCは、白人、アイスランド人を対象としたゲノムワイドスクリーニングにより全身性エリテマトーデス(SLE)感受性遺伝子候補領域のひとつとして示唆されている。KIRファミリーは、各遺伝子座の有無によって遺伝子数の多様性が存在し、約150kbにわたって主要なハプロタイプを形成している。LILR遺伝子、蛋白についてはまだ不明な点が多いが、抗原提示細胞を中心とした血球系の細胞に広く分布しており、その遺伝子構造から抑制型、活性型、分泌型に分類されることが知られている。LILRB1,LILRB2,LILRA1分子はリガンドとしてHLAクラスI分子やヒトサイトメガロウィルスUL18タンパクと結合することが報告されている。LILR遺伝子のマウスホモログpaired immunoglobulin-like receptor(PIR)にも活性型Pira、抑制型Pirbが存在し、抑制型のPirb遺伝子欠損マウスではB細胞の異常活性化やTh2反応の増強が観察されている。今回、これらの機能的、位置的重要性から、LILRファミリー遺伝子群をリウマチ性疾患の感受性候補遺伝子と考え、系統的な多型解析とともに、関節リウマチ(RA)、SLEを対象とした関連研究を行った。

まず、既に発現、機能等の解析が行われていた抑制性受容体LILRB1遺伝子について解析を行った。日本人18例の多型スクリーニングにより、5箇所の非同義置換(P68L、A93T、I142T、S155I、E625K)を含む17箇所の一塩基多型(SNPs)を検出した。検出された多型部位について日本人31家系、118例を用いた検討から、これらのSNPのうち遺伝子上流側に位置する12SNPsは日本人において3つの主要なハプロタイプを形成していることが見いだされた。これらを家系両親124ハプロタイプにおける頻度の高い順に、暫定的に、LILRB1.EC01、.EC02、.EC03と命名した。これらのハプロタイプは機能的重要性が予想される細胞外領域の4箇所のアミノ酸配列の組み合わせが異なり、そのうちLILRB1.EC01は3箇所で他2つのハプロタイプと異なる配列を有していた。次に、決定したハプロタイプは日本人において保存されているものと仮定した上で、各ハプロタイプを代表するタグSNPs用いたタイピング法を確立し、RA患者559例、SLE患者172例、健常対照者409例を対象とした関連研究を行った。その結果、RA、SLE群全体では健常群と比較して有意な差は認められなかった。しかし、LILRB1ハプロタイプとRAとの関連を、複数集団においてRA感受性遺伝要因として確立しているHLA-DRB1 shared epitope(SE)を持つ群と持たない群に層別化して解析を行ったところ、SEを持たないRA患者群とSEを持たない健常群の比較においてのみLILRB1.EC01/.EC01ディプロタイプ頻度の有意な増加が認められた(P=0.037、OR=1.86)。一方、SE陽性群同士の比較では差が認められなかった(P=0.91)。この結果から、LILRB1は、特にSE陰性群におけるRA感受性遺伝子である可能性が示唆された。SLEとLILRB1との有意な関連は認められなかった。また、LILRB1遺伝子領域内において、有意な連鎖不平衡が認められた。

以上の結果から、検出されたLILRB1多型とRAとの有意な関連は、LILRB1と連鎖不平衡にある他の近傍の遺伝子によるものである可能性も考えられた。そのため、次にLILRB1に隣接して存在するLILRA1、LILRB4遺伝子について、同様に多型解析、関連研究を行った。LILRA1遺伝子はLILRB1遺伝子から約30kbセントロメア側に位置する活性型受容体である。多型スクリーニングの結果、8箇所の非同義置換(V5L,R12G,H164Y,S194W,L220P,R289P,Y291H、Y301H)を含む計24箇所のSNPsが検出された。LILRB1と同様に、日本人31家系を用いた検討を行ったところ、プロモーター領域から細胞外領域内に位置する14SNPsは、日本人において主要な2種のハプロタイプを形成することが見出された。それぞれのハプロタイプを、家系内両親における頻度の高いほうから暫定的に、LILRA1.01、LILRA1.02と命名した。家系両親124ハプロタイプのうち、4例がそれぞれ上記ハプロタイプ以外の異なるハプロタイプを有していたが、RA、SLEを対象とした関連研究は、2種のハプロタイプが保存されていると仮定した上で行った。その結果、マイナーハプロタイプLILRA1.02陽性率のSLEにおける有意な減少が見出された(P=0.02,OR=0.64)。一方、RAとの有意な関連は、RA群全体でも、LILRB1ハプロタイプで有意な関連が検出されたHLA-DRB1 SE陰性群においても認められなかった。また、LILRB1遺伝子内に認められた連鎖不平衡がLILRA1遺伝子にも及ぶか否か検討したところ、LILRB1、LILRA1遺伝子内に比べると弱いものの、LILRB1多型とLILRA1多型の間でも有意な連鎖不平衡が認められた。

最後に、LILRB1遺伝子から約25kbテロメア側に位置している抑制性受容体、LILRB4について解析を行った。多型スクリーニングにより、7箇所の非同義置換(F5L,R18S,G223D,R317G,N335D,R347W,Q414R)、一箇所の7bp欠失を含む計29箇所の多型が検出された。日本人31家系を用いて解析を行った結果、LILRB1、LILRA1遺伝子とは対照的に、LILRB4多型は互いに強い連鎖不平衡を示さず、各アリル頻度も異なっていたため、日本人における主要なハプロタイプを決定できなかった。ゆえに、RA、SLEを対象とした関連研究は、機能的に重要であると予想されるプロモーター領域内多型、UTR内多型、翻訳領域内の多型について行った。方法としては、まず一次スクリーニングをRA192例、SLE96例、健常群197例を用いて行い、カイ二乗検定によりP値0.06以下を示した多型についてさらにサンプル数を増やして疾患との関連の有無を検討した。その結果、最終的にプロモーター領域内に位置する-965G>A多型、G アリル頻度の RA 群における有意な増加(P=0.0005, OR=1.60)と5'UTR内のc.-306C>T多型、TアリルのSLE群における有意な減少(P=0.005, OR=0.37)が検出された。

以上のように、3つの遺伝子の解析を行った結果、複数のLILR遺伝子多型がRA、SLE各疾患と有意な関連を示した。また、RAと有意な関連を示したLILRB1.EC01/.EC01とLILRB4-965G間、SLEと有意な関連を示したLILRA1.02とLILRB4 c.-306T間にはそれぞれ有意な連鎖不平衡が認められた。そのため、それぞれの多型部位で検出された疾患との有意な関連が、遺伝的に独立なものか、遺伝子間の連鎖不平衡により二次的にもたらされるものか、遺伝子座間関連解析により検討した。その結果、LILRB4-965Gは独立にRA感受性に関与し、LILRB1.EC01/.EC01もまたその可能性が高いことが示唆された。一方、SLE感受性においては、LILRB4 c.-306Tが一義的な感受性遺伝子でありLILRA1.02との関連は連鎖不平衡による二次的なものであることが示唆された。

以上の結果より、LILR遺伝子ファミリーは機能的変化を伴うと予想される多型を多数保持しており、また複数のファミリー遺伝子にわたって有意な連鎖不平衡が認められることが見いだされた。一部のLILR分子が、多型性の高いHLAクラスI分子をリガンドとすることから、機能的な相互作用と多型との関連も重要であることが予想される。また、今回複数のLILRファミリー遺伝子多型がリウマチ性疾患の感受性に関与している可能性が示唆された。今後、更なるLILRファミリー遺伝子群の検討により、LILRファミリー多型と疾患との関連を明らかにするとともに、それぞれの関連が独立であるか否かの検討が必要である。また、今回疾患との有意な関連が見られたLILRハプロタイプの機能的変化について、リガンドとの結合能の変化とともに発現量の変化の有無について検討中である。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、リウマチ性疾患感受性遺伝子の同定を目的とし、ヒト免疫系において重要な役割を担っていると考えられる、近年新たに同定された免疫グロブリン様受容体ファミリー、leukocyte immunoglobulin-like receptor (LILR)ファミリー遺伝子群について、遺伝学的アプローチから解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。

隣接して位置している3種 (LILRB1, LILRA1, LILRB4) の遺伝子について系統的な多型解析を行った結果、新規のものを含め、多数の多型を検出した。それらは、翻訳領域内、プロモーター領域内など機能的変化を伴うと予想される多型も多数含んでいた。また、日本人家系を用いた検討から、LILRB1遺伝子多型は3種の、LILRA1遺伝子多型は2種の主要なハプロタイプを形成していることが示された。一方、LILRB4遺伝子多型については、主要なハプロタイプは日本人において保持されていなかった。3つの遺伝子の多型間において、遺伝子内多型同士に比べると弱いものの、有意な連鎖不平衡が認められ、この遺伝子領域では、比較的広い範囲にわたって連鎖不平衡が保持されていることが予想された。

上記3遺伝子の多型について、関節リウマチ (RA) を対象とした関連研究を行ったところ、複数集団においてRA感受性遺伝要因として確立しているHLA-DRB1 shared epitope (SE) を持つ群と持たない群に層別化して解析した結果、SEを持たないRA患者群と持たない健常群の比較においてLILRB1.EC01ディプロタイプ頻度が有意に増加していた。また、LILRB4遺伝子のプロモーター多型もRAとの有意な関連を示した。一方、LILRA1多型については、RAとの有意な関連は認められなかった。さらに、それぞれの多型部位で検出された疾患との有意な関連が、遺伝的に独立なものか、遺伝子間の連鎖不平衡により二次的にもたらされるものか、遺伝子座間関連解析により検討し、どちらも独立にRA感受性に関与している可能性が示唆された。

同様に全身性エリテマトーデス(SLE)を対象とした関連研究を行い、LILRA1ハプロタイプとSLEとの有意な関連、LILRB4 5'UTR多型との有意な関連を検出した。LILRB1多型とSLEとの有意な関連は認められなかった。SLEと有意な関連を示したLILRA1ハプロタイプとLILRB4 5'UTR多型についてそれぞれの有意な関連が独立であるか否か遺伝子座間関連解析により検討した結果、LILRB4 5'UTR多型がSLE感受性に対して一義的な感受性遺伝子でありLILRA1ハプロタイプとの関連は連鎖不平衡による二次的なものであることが示唆された。

以上、本論文はLILR遺伝子ファミリーが機能的変化を伴うと予想される多型を多数保持しており、複数のLILRファミリー遺伝子多型がリウマチ性疾患の感受性に関与している可能性を示した。本研究は、遺伝的アプローチからリウマチ性疾患におけるLILRファミリー遺伝子群多型の役割の重要性を示したものであり、免疫系における自己寛容と自己免疫の調節機構の解明にも重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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