学位論文要旨



No 119416
著者(漢字) 菅原,大介
著者(英字)
著者(カナ) スガハラ,ダイスケ
標題(和) 細胞が産生するO-結合型糖鎖のピレン標識法による微量解析
標題(洋)
報告番号 119416
報告番号 甲19416
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1077号
研究科 薬学系研究科
専攻 機能薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 海老塚,豊
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 助教授 菊地,和也
 東京大学 助教授 高崎,誠一
内容要旨 要旨を表示する

背景・目的

細胞表面に発現する多種類の糖鎖は細胞種に特異的な発現パターンを持ち、細胞の分化、増殖や活性化などの細胞の状態によっても大きく変化する。多種類の糖鎖により提示されている情報をそれぞれの糖鎖に特異的な認識分子であるレクチンが認識することにより癌転移、免疫細胞の生体内交通、受精など高次の生命現象が制御される。

細胞が産生する糖鎖の生合成制御には様々な分子が関与するが、糖転移酵素の基質特異性、発現量、ゴルジ装置における局在などによりその細胞が産生する複数の糖鎖の構造が大きく影響される。細胞が産生する糖鎖の差異や変化を理解するため、糖転移酵素 mRNA の発現量変化が測定され報告されてきた。しかし、糖鎖生合成は糖転移酵素の遺伝子発現量以外の要因からも大きく影響を受けるため糖転移酵素の mRNA 発現量変化からある細胞においてどのような糖鎖がどのような比率で生合成されているか予想することは不可能である。そのため、細胞が産生する複数の多様な糖鎖の構造を一つずつ化学的に解析することが非常に重要である。しかしながら、細胞が産生する N-結合型糖鎖に比較して、O-結合型糖鎖の微量解析法は十分に確立されていないため糖鎖生物学研究を進めるうえで大きな問題であった。

本研究では糖転移酵素の遺伝子発現に伴い細胞が産生する糖鎖がどのように変化するか、その変化の全体像を明らかにすることを目的とした。ピレン標識法(図 1)は N-結合型糖鎖解析に頻用される 2-ピリジルアミン標識法と比較して 30 倍の検出感度を持ち、標識糖鎖を用いた ELISA 法を糖鎖解析に応用できることをすでに見出している。したがって、多様な構造を有する O-結合型糖鎖の解析に適すると考えた。そこで本研究では、まず、細胞が産生する O-結合型糖鎖のヒドラジン分解による遊離法及びピレン標識法による O-結合型糖鎖の解析法の開発を行なった。次に開発した方法により腫瘍関連糖鎖抗原の生合成に関与する糖転移酵素遺伝子を導入したヒト大腸癌細胞株を用い、糖転移酵素遺伝子発現に伴い細胞が産生する O-結合型糖鎖にいかなる変化が起こったか解析した。培養細胞に糖転移酵素遺伝子導入した際、細胞に出現する糖鎖の構造を明らかにすることが糖転移酵素の基質特異性や複雑な糖鎖生合成経路の統合状態を解明するうえで必須となるためである。

方法・結果

ピレン標識法の改善

糖鎖還元末端ーピレン誘導体間の結合を還元しヒドラジド結合とすることにより還元末端糖鎖を開環状態に固定しピレン標識糖鎖を単一な構造とする条件を決定した。N-アセチルラクトサミン (Galβ1,4GlcNAc) 1 nmol、1-pyrenebutanoic acid hydrazide (PBH、Molecular probes) 500 nmol を酢酸ーメタノール (1/8 = v/v) に溶解し、80 ℃ にて 20 分間反応を行ない、糖鎖還元末端にヒドラゾン結合を介し PBH を導入した。PBH 導入反応後、還元試薬として NaBH4 を加え、ヒドラゾン結合を還元しヒドラジド結合とする反応を行なった。反応条件を検討した結果、1M NaBH4 を加え、pH 8.5 にて 40 ℃、20 分間反応させることによりピレン標識糖鎖の 95% 以上がヒドラジド結合へ還元されたことを HPLC 及び MALDI-TOF MS による質量分析の結果から確認した。また、6'-シアリルラクトサミンを用いて検討を行なったところシアル酸の脱離は検出されなかった。そこで以下の実験では上記の条件にてピレン標識を糖鎖還元末端へ導入することとした。

ヒト大腸癌細胞株における糖転移酵素遺伝子発現に伴う O-結合型糖鎖の変化

α2,6 シアル酸転移酵素 I (ST6GalNAc-I) 遺伝子導入細胞

ST6GalNAc-I はセリンまたはスレオニンに結合した N-アセチルガラクトサミン残基に α2,6 結合によりシアル酸を転移しシアリル Tn (sTn) 抗原を生合成する。本酵素を発現しないヒト大腸癌細胞株 HCT-15 細胞に ST6GalNAc-I 遺伝子を導入し、本酵素発現に伴い出現する O-結合型糖鎖を解析した。本酵素遺伝子導入細胞(以下、HCT-ST6 細胞)及びモックトランスフェクタント細胞、各 1 x 107 個をペレットとし、脱脂処理及びプロナーゼ処理後、遠心式限外ろ過膜(セントリコン YM-3、ミリポア、分画分子量 3000)を用い徹底的に脱塩処理を行なった。これらの処理により得られた O-結合型糖鎖を豊富に含む糖ペプチドの 10% を用いて 60 ℃、5 時間、ヒドラジン分解を行ない O-結合型糖鎖を遊離した。上述の方法によりピレン誘導体を糖鎖還元末端へ導入し、アミノカラム HPLC (COSMOSIL 5NH2-MS、4.6 x 150 mm、ナカライテスク) により糖鎖を分離した。ウシフェチュイン及びウシ顎下腺ムチンから得られた標準糖鎖の溶出位置から糖鎖構造を推定し、結合様式特異的シアリダーゼ処理前後の溶出位置の変化から付加されたシアル酸の結合様式を推定した。解析の結果、HCT-ST6 細胞ではモック細胞では産生が確認されなかった NeuAcα2,6GalNAc、Galβ1,3(NeuAcα2,6)GalNAc、NeuAcα2,3Galβ1,3(NeuAcα2,6)GalNAc の出現が確認された。また、HCT-ST6 細胞においては Galβ1,4GlcNAcβ1,3Galβ1,4GlcNAcβ1,6(Galβ1,3)GalNAc の割合がモック細胞の約 3 分の 2 へ低下したことが明らかになり、コア 2 糖鎖から伸長した O-結合型糖鎖の産生が阻害されたと考えられた。これは Galβ1,3GalNAcα1-Ser/Thr を基質とするコア 2 β1,6?N-アセチルグルコサミン転移酵素と本酵素が基質を競合した結果、コア 2 糖鎖の生合成が抑制され、コア 2 糖鎖からのラクトサミン糖鎖の伸長が阻害された結果と考えられた(図 2)。

β1,3 ガラクトース転移酵素 5 (β3Gal-T5) 遺伝子導入細胞

β3Gal-T5 は N-アセチルグルコサミン残基に β1,3 結合によりガラクトースを転移する糖転移酵素である。大腸癌、膵臓癌の進展に伴い患者血清中において発現が上昇する腫瘍マーカー CA19-9 抗原 (シアリルルイス a 抗原 : NeuAcα2,3Galβ1,3(Fucβ1,4)GlcNAcβ-R) をはじめとするタイプ 1 骨格糖鎖(Galβ1,3GlcNAcβ-R) 生合成に重要な酵素である。本酵素遺伝子を発現していないヒト大腸癌細胞株 HCT-15 細胞に β3Gal-T5 遺伝子を導入し、それに伴う糖鎖の変化を解析した。本酵素遺伝子導入細胞(以下、HCT-3GT5 細胞)及びモックトランスフェクタント細胞が産生する O-結合型糖鎖を上述の ST6GalNAc -I 遺伝子導入細胞における解析と同様の方法にて比較した。アミノカラム HPLC による比較では、本酵素導入により出現したピークが複数検出され、これらはいずれもシアル酸結合糖鎖であることが明らかになった(図 3)。シアリダーゼ処理に引き続き、基質特異性の広いフコシダーゼ(ウシ腎臓由来)処理を行なった結果得られた糖鎖に対し β1,4 結合特異的な β-ガラクトシダーゼ(肺炎双球菌由来)及び基質特異的の低い β-ガラクトシダーゼ(タチナタマメ由来)処理を行い、処理前後の溶出位置変化から糖鎖構造を推定した。その結果、コア 1 糖鎖を除く HCT-3GT5 細胞が産生する O-結合型糖鎖の非還元末端はタイプ 1 骨格糖鎖をもつことが明らかになった。ガラクトース転移酵素である本酵素の酵素基質特異性からは予想しがたいシアル酸結合糖鎖の産生にも影響したことが明らかになった。

結語

糖転移酵素発現に伴う O-結合型糖鎖の細胞全体における変化を明らかにするため、ヒドラジン分解による O-結合型糖鎖の遊離法及びピレン標識法による解析法を確立した。脱脂した細胞をプロナーゼ消化後、遠心式限外ろ過膜により徹底的な脱塩処理を行なうことにより細胞からヒドラジン分解により O-結合型糖鎖を遊離させた。確立した方法に従い、β3Gal-T5 及び ST6GalNAc-I 遺伝子発現に伴う O-結合型糖鎖変化を解析し、糖転移酵素発現の影響が広範囲の糖鎖へ及ぶことを示した。糖鎖生合成に関与する分子は糖転移酵素を含め 160 以上が発見、クローニングされ、様々な生命現象におけるこれらの分子の遺伝子発現変化が明らかされている。しかし、これらの分子により生合成され、状況に応じて変化する糖鎖が生命現象においてどのような役割を演じているか、ほとんど明らかにされていない。このように糖鎖生物学研究は糖転移酵素をはじめとする糖鎖生合成に関連する個々の分子について研究がこれまで進められてきた。その反面、これらの分子の協調的な作用により生合成され、実際に生命現象における機能を担う糖鎖そのものの解析については無視されがちであった。レクチンとの相互作用により生命現象を制御するのは糖鎖であり、細胞がどのような糖鎖を産生しているか明らかにすることが糖鎖の機能を理解するためには必須であると考える。本研究では糖鎖解析が特に困難とされた O-結合型糖鎖を細胞から遊離し、ピレン標識法により高感度に解析する方法を確立した。今後、本研究をもとに糖鎖の構造と機能の相関が明らかにされることが期待される。

糖鎖還元末端への1-pyrenebutanoi acid hydrazide 導入反応

ST6GalNAc-I 遺伝子導入による O-結合型糖鎖生合成の変化

β3Gal-T5 遺伝子導入に伴う O-結合型糖鎖の変化 (A) HCT-mock 細胞(B) HCT-3GT5 細胞

D. Sugahara et. al. Analytical Sciences, 19, 167-169, 2003
審査要旨 要旨を表示する

細胞の表面には非常に多種類の糖鎖が、糖蛋白質に付加した形で発現、表出している。これらの糖蛋白質糖鎖の構造は、普遍的に多くの細胞に見出されるものであることが多いが、相対的な量比は細胞の種類に特徴的である。細胞の分化、増殖、活性化、老化などの細胞の状態によっても大きく変化する。また、同じ細胞の産生する糖蛋白質糖鎖であっても、特定の位置にある特定の糖蛋白質に付随した糖鎖の持つバリエーションは、それぞれ極めて特徴的である。細胞が産生する糖鎖の生合成制御には複数の分子が関与し、特に糖転移酵素の発現レベル、基質特異性、局在、複合体形成などが糖鎖の構造の種類と構造を決定していると考えられている。しかし、糖転移酵素の遺伝子発現解析からある細胞においてどのような糖鎖がどのような比率で生合成されているか予想することは全く不可能である。機能的に重要な糖鎖がどのような量で存在するかは、細胞表面を免疫学的に解析することや、細胞が産生する複数の多様な糖鎖の構造を一つずつ化学的に解析することによって初めて可能になる。このようなアプローチは糖鎖の生物学的意義を理解して医学的に応用するためにも必須である。また、個々の糖蛋白質に附随する全ての糖鎖のバリエーションを決定することも、糖鎖による糖蛋白質の機能調節を理解するために不可避である。しかし、糖蛋白質糖鎖の全体像を明らかにすることは非常に困難であり、中でもO-結合型糖鎖の微量解析法が十分に確立されていないことは従来から大きな問題とされてきた。「細胞が産生するO-結合型糖鎖のピレン標識法による微量解析」と題する本研究では、O-結合型糖鎖の微量解析法を確立し、この方法を用いて糖転移酵素の遺伝子発現に伴って細胞が産生するO-結合型糖鎖の構造的なバリエーションがどのように変化するかを、容易に得られる数の細胞を材料として、その全体像を明らかにすることが目的とされている。

学位申請者はピレン標識法が、多様な構造を有するO-結合型糖鎖の解析に適すると考え、まず、細胞が産生するO-結合型糖鎖のヒドラジン分解による遊離法及びピレン標識法によるO-結合型糖鎖の解析法の開発を行なった。次にこの方法により腫瘍関連糖鎖抗原の生合成に関与すると考えられていた糖転移酵素遺伝子を導入したヒト大腸癌細胞株を用い、この遺伝子の発現に伴い細胞が産生するO-結合型糖鎖にいかなる変化が起こったか解析した。

第一章(序論)では、本研究の重要性に関して、学位申請者の考えが述べられている。第二章では学位申請者が従来行っていた糖蛋白質からのO-結合型糖鎖の遊離法とこれに続くピレン標識法を改善したことが述べられている。具体的にはピレン誘導体生成後に還元処理を施して結合を安定化させた。第三章では、この改善したピレン標識法を用いて、O-結合型糖鎖を構造的に解析する方法が述べられている。ここでは、細胞から適当な前処理を施すことによって直接全てのO-結合型糖鎖を遊離させ、ピレン標識体にかえて網羅的な分析を行うことが試みられている。ヒト大腸癌細胞株における糖転移酵素遺伝子発現に伴うO-結合型糖鎖の変化と題して、ヒト腸癌細胞株HCT-15 細胞に、α2,6シアル酸転移酵素I(ST6GalNAc-I)遺伝子を導入した場合、及び同じ細胞に β1,3 ガラクトース転移酵素5 (β3Gal-T5)を強制発現させた際のO-結合型糖鎖プロファイルの変化について分析化学的な検討を行った結果が述べられている。

ST6GalNAc-I はセリンまたはスレオニンに結合したN-アセチルガラクトサミン残基にα2,6結合によりシアル酸を転移しシアリルTn抗原を生成する活性を有する。本酵素を発現しないヒト大腸癌細胞株HCT-15細胞にこの遺伝子を導入し、本酵素の発現によって変化するO-結合型糖鎖を解析した。本酵素遺伝子導入細胞(以下、HCT-ST6 細胞)及びモックトランスフェクタント細胞、各1x107個をペレットとし、脱脂処理及びプロナーゼ処理後、遠心式限外ろ過膜を用い徹底的に脱塩処理を行なった。これらの処理により得られたO-結合型糖鎖を豊富に含む糖ペプチドの10%を用いて60℃、5時間、ヒドラジン分解を行ないO-結合型糖鎖を遊離した。上述の方法によりピレン誘導体を糖鎖還元末端へ導入し、アミノカラムを用いたHPLCにより糖鎖を分離した。ウシフェチュイン及びウシ顎下腺ムチンなどから得た構造既知の糖鎖の溶出位置から糖鎖構造を推定し、結合様式特異的シアリダーゼ処理前後の溶出位置の変化から付加されたシアル酸の結合様式を推定した。解析の結果、HCT-ST6細胞ではモック細胞では産生が確認されなかったNeuAcα2,6GalNAc、Galβ1,3(NeuAcα2,6)GalNAc、NeuAcα2,3Galβ1,3(NeuAcα2,6)GalNAcの出現が確認された。また、HCT-ST6細胞においてはGalβ1,4GlcNAcβ1,3Galβ1,4GlcNAcβ1,6(Galβ1,3)GalNAcの相対量比がモック細胞の約3分の2へ低下したことが明らかになり、コア2糖鎖から伸長したO-結合型糖鎖の産生が阻害されたと考えられた。これはGalβ1,3GalNAcα1-Ser/Thrを基質とするコア2β1,6 N-アセチルグルコサミン転移酵素と本酵素が基質を競合した結果、コア2糖鎖の生合成が抑制され、コア2糖鎖からのラクトサミン糖鎖の伸長が阻害された結果と考えられた。

β3Gal-T5はN-アセチルグルコサミン残基にβ1,3結合によりガラクトースを転移する糖転移酵素であり、大腸癌、膵臓癌の進展に伴い患者血清中において発現が上昇する腫瘍マーカーCA19-9抗原(シアリルルイスa抗原:NeuAcα2,3Galβ1,3(Fucα1,4)GlcNAcβ-R)をはじめとするタイプ1骨格糖鎖(Galβ1,3GlcNAcβ-R)生合成に重要な酵素の一つと考えられていた。本酵素遺伝子を発現していないヒト大腸癌細胞株HCT-15細胞にβ3Gal-T5遺伝子を導入し、それに伴う糖鎖の変化を解析した。本酵素遺伝子導入細胞(以下、HCT-3GT5細胞)及びモックトランスフェクタント細胞が産生するO-結合型糖鎖を上述のST6GalNAc -I 遺伝子導入細胞における解析と同様の方法にて比較した。アミノカラムHPLCによる比較では、本酵素導入により出現したピークが複数検出され、これらはいずれもシアル酸結合糖鎖であることが明らかになった。シアリダーゼ処理に引き続き、基質特異性の広いフコシダーゼ処理を行なった結果得られた糖鎖に対し結合位置に特異的なβ-ガラクトシダーゼ処理を行い、処理前後の溶出位置の変化から糖鎖構造を推定することが可能になった。その結果、コア1糖鎖を除くHCT-3GT5細胞が産生するO-結合型糖鎖の非還元末端はタイプ1骨格糖鎖をもつことが明らかになった。ガラクトース転移酵素である本酵素の酵素基質特異性からは予想できないシアル酸結合糖鎖の産生にも影響したことが明らかになった。

以上の様に、学位申請者はヒドラジン分解によるO-結合型糖鎖の遊離法及びピレン標識法を改良し、比較的少数の細胞を用いて糖蛋白質糖鎖の主要なものの全てを微量でかつ簡便に解析する方法を確立した。この方法に従い、β3Gal-T5及びST6GalNAc-I 遺伝子発現に伴うO-結合型糖鎖変化を解析し、その影響が広範囲の糖鎖構造に及ぶことを示した。従来糖鎖生物学の研究方法としては、生物学のセントラルドグマに基づいて、糖転移酵素の遺伝子を明らかにし、その発現調節と生物現象と結び付けるというアプローチが一般的であった。しかし、レクチンとの相互作用を通して諸々の生物現象を直接制御するのは糖鎖であり、糖転移酵素ではない。従って、細胞がどのような糖鎖を産生しているか明らかにすることが糖鎖の機能を理解するためには必須である。本論文に記述された研究成果は糖鎖生物学ばかりでなく、免疫学や細胞生物学などの関連する領域に資するところが大きい。従って、本研究は学位論文として十分な内容を含むと判断し、また本研究を行なった菅原大介は博士(薬学)の学位を得るにふさわしいと判断した。

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