学位論文要旨



No 119430
著者(漢字) 高松,肇
著者(英字)
著者(カナ) タカマツ,ハジメ
標題(和) 心筋興奮収縮連関におけるCa2+シグナル制御機構に関する研究 : L型Ca2+チャネルとNa+/Ca2+交換体の生理機能と病態への関与
標題(洋)
報告番号 119430
報告番号 甲19430
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1091号
研究科 薬学系研究科
専攻 生命薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 教授 長野,哲雄
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 教授 松木,則夫
内容要旨 要旨を表示する

【背景】

カルシウムイオン(Ca2+)は細胞内局所で時間・空間的に制御され、細胞の機能発現・生存・死に関わる重要なシグナルを担う。心臓の拍動にとってCa2+シグナルは必須である一方で、細胞内Ca2+シグナル制御系の破綻は不整脈や心不全などの疾患に至る。心筋細胞に発現している電位依存性L型Ca2+チャネルの開口とそれによって惹起されるリアノジン受容体を介した筋小胞体から細胞質へのCa2+放出(Ca2+-induced Ca2+ release:CICR)は心収縮力の発生において重要なキーステップとなっている(Fig.1)。CICRはCa2+シグナルを介してCa2+チャネルとリアノジン受容体の両者によって相互的に制御されている。この相互制御機構の破綻は心疾患の一因を担う。よってCICRの制御機構を明らかにすることは心臓の病態生理を理解する上で重要である。一方Na+/Ca2+交換体(NCX)は起電性を有しており、Ca2+を両方向(排出・流入)に輸送する。これまでNCXには特異的阻害剤がなかったため、その生理機能は不明であった。NCXは心肥大・心不全といった心疾患時に発現・機能の上昇が報告されており、Ca2+チャネルとリアノジン受容体の相互制御を調節している可能性が考えられる。NCXは虚血・再還流障害や異所性不整脈にも深く関わっており、創薬ターゲットとして期待できる。そこで本研究は、Ca2+チャネルとリアノジン受容体の相互制御機構とNCXの心筋興奮収縮連関における生理機能と疾患への関与を解明することを目的とした。

【結果】

筋小胞体Ca2+貯蔵量のセンサーとしてのCa2+チャネルの役割

CICRの引き金となるCa2+電流は筋小胞体から放出されたCa2+によって不活性化される(L型Ca2+チャネルのCa2+依存性不活性化(Fig.1))。この負の制御機構の生理的役割は明らかでない。ラット単離心室筋細胞において筋小胞体のCa2+を枯渇し、筋小胞体からのCa2+放出を消失させることにより、Ca2+チャネルのCa2+依存性不活性化が活動電位波形へ与える影響を検討した。筋小胞体のCa2+枯渇によってCa2+電流が形成する活動電位のプラトー層が約2倍に延長した(Fig.2a)。この活動電位持続時間の変化は筋小胞体Ca2+貯蔵量に依存したCa2+ transientの変化と相関した。このCa2+依存性不活性化による活動電位持続時間の調節は細胞内に高濃度のCa2+キレート剤を適用しても消失しなかった。よってCa2+チャネルはCa2+依存性不活性化を介して極めて近傍のリアノジン受容体からのCa2+放出量、すなわち筋小胞体Ca2+貯蔵量を感知し、活動電位持続時間を調節していることを明らかにした。次にC2+依存性不活性化による活動電位持続時間の調節の生理的意義を検討するため、正常型および枯渇型それぞれの活動電位波形で電位固定したときのCa2+電流を測定し、Ca2+チャネルからのCa2+流入量を算出した(Fig.2c)。筋小胞体枯渇前に正常型活動電位波形で電位固定した場合に比べて筋小胞体枯渇後に枯渇型活動電位波形で電位固定した場合には、電流ピークが減少したものの、活動電位中の総Ca2+流入量が増加した(Fig.2d)。また、このCICRによるCa2+流入量の制御はPKA刺激によりCICRを亢進することで増強された。以上より、Ca2+チャネルはCICRによるCa2+依存性不活性化を介して筋小胞体Ca2+貯蔵量を感知し、精密に活動電位持続時間を調節することで筋小胞体Ca2+貯蔵量に応じて活動電位中の総Ca2+流入量を制御していることを明らかにした。

心筋興奮収縮連関の制御因子としてのNa+/Ca2+交換体の生理的役割

心筋興奮収縮連関におけるNCXの生理的役割を明らかにするため、野生型に比べてNCXのタンパク発現量およびその電流密度が約0.5倍のNCXノックアウトヘテロマウス(NCX(+/-))および約2倍の心臓特異的NCX過剰発現マウス(NCX(tg))の解析を行った。

NCX(+/-)では野生型に比べてCa2+電流がわずかに減少しているにもかかわらず、大きなCa2+ transientが観察され、CICRの効率が亢進していることが示された(Fig.3)。カフェイン投与により筋小胞体Ca2+貯蔵量を検討したところ、NCX(+/-)では筋小胞体Ca2+貯蔵量が野生型と比較して増加していた(Fig.4)。よって、CICR効率の亢進は筋小胞体Ca2+貯蔵量の増加によることが示された。すなわちNCXの発現量の減少に伴って細胞外へのCa2+排出が減少した結果、筋小胞体Ca2+貯蔵量が増加したと考えられる。実際に、野生型において細胞外のNa+濃度を下げることでNCXによるCa2+排出活性を抑制してNCX(+/-)を模倣するとCa2+ transientの増大が観察された。

NCX(tg)はわずかに心肥大を呈していた。CICRの指標として単離心室筋細胞の細胞収縮能を測定した。NCX(tg)では0.5Hzで刺激した場合には野生型と収縮率に差がなかったが、2Hzに刺激頻度を上げると、野生型に比べて著しい収縮率の低下が観察された(Fig.5)。NCXの過剰発現が細胞外へのCa2+排出を増加させたために収縮率の低下に陥ったと考えられる。そこで細胞外Na+濃度を下げたところ、NCX(tg)における頻度依存的な収縮率の低下が改善した。また、マウスの心拍数は約8Hzであることから、NCX(tg)ではNCX過剰発現により、心収縮力が低下していると考えられる。これを代償するために血中カテコラミン濃度が上昇し、心肥大に至ったのではないかと考え、血中ノルエピネフリン濃度を測定した。その結果、NCX(tg)では血中ノルエピネフリン濃度が顕著に上昇していた。このことから、NCX過剰発現による収縮率の低下を代償するための交感神経の亢進がNCX(tg)における心肥大の一因を担うことが示唆された。以上のことから、生理的条件下ではNCXはCa2+排出が主な生理機能であり、CICRの効率を制御していること、および心不全のような心疾患時に見られるNCXの過剰亢進は収縮不全の一因を担うことも明らかにした。

活性酸素種を介したangiotensin IIによるNCXの活性化機構

心筋梗塞後のラット単離心室筋細胞では、心肥大から心不全への移行初期にNCXのタンパク発現量に変化はなかったにもかかわらず、NCX活性が亢進していることを見出した。NCXはendothelin-1やangiotensin II(AngII)といった心疾患と関わる液性因子によって活性化されるが、その細胞内分子機構に関してはほとんど報告されていない。そこでAngIIがNCXを活性化する分子機構を薬理学的に検討した。AngIIで心筋細胞を刺激すると、NCXの 電流・電圧曲線の傾きが大きくなり、NCX電流の逆転電位はマイナス側に約10mVシフトし、NCX電流は約2倍に増加した。よって、この電流増加はAngIIのNCXに対する直接作用とNa+/H+交換体の活性化を介した細胞内Na+濃度変化による間接的作用によることが示された。このAngIIによる電流増加作用は抗酸化剤であるN-acetylcysteine(NAC)の前処置によって濃度依存的に抑制された(Fig.6)。PKC阻害剤であるbisindolylmaleimide(BIM)によってもNACと同程度まで抑制された。また、非受容体型チロシンキナーゼの1種であるproline-rich tyrosine kinase 2(Pyk2)の阻害剤であるAG17はAngIIによるNCX電流増加をほぼ完全に抑制した。以上のことから、AngII刺激によるNCXの活性化にはPKC活性化、活性酸素種の発生、チロシンキナーゼ活性化が関与していることが示唆された。

MAPキナーゼを介したCa2+制御タンパク質の発現制御

心肥大や心不全といった心疾患時にはNCXのタンパク発現量が増加していることが報告されている。NCXのタンパク発現にはMAPキナーゼが関与することが示唆されている。またAngIIを介した心肥大にMAPKKKのひとつであるASK1が関わるので、ASK1のNCXの発現亢進への関与を検討した。野生型およびASK1ノックアウトマウスにおいて、AngIIやIsoの慢性投与によってNCXのタンパク発現は上昇しなかった。しかし、野生型では慢性投与によって、筋小胞体Ca2+-ATPaseのタンパク発現量が減少した。これに対し、ASK1ノックアウトマウスではIso投与によって心肥大を呈していたにもかかわらず(Fig.7)、AngIIおよびIsoにより筋小胞体Ca2+-ATPaseの発現量は減少しなかった(Fig.8)。

【まとめ】

以上のことから、私は心筋細胞では収縮に必要なCICRの効率を恒常的に最適に保つために、Ca2+チャネルとNCXが協同的に筋小胞体Ca2+貯蔵量を制御している、またNCXは細胞膜直下のCa2+濃度を精密に制御することでCa2+チャネルとリアノジン受容体の機能的カップリングを補助しているという新しいモデルを提唱した。心疾患時のNCXのタンパク発現量の増加やAngIIなどの液性因子を介したNCXの過剰亢進は収縮不全に至るだけでなく、遅延性後脱分極による不整脈の発生にも関わる。これらの知見は心臓における電位依存性Ca2+チャネルとNa+/Ca2+交換体の生理的・病態生理的役の解明および新世代の心疾患治療薬の創薬に貢献するものと考えられる。

心筋細胞の収縮(実線)・弛緩(点線)におけるCa2+動態

ラット単離心室筋細胞において測定した活動電位とCa2+電流。Ca2+ストアの枯渇によりCa2+チャネルのCa2+依存性不活性化を除くことによる活動電位の延長とそれによる総Ca2+流入量の増加。*: P<0.05 vs. SR-intact.

マウス単離心室筋細胞で測定したCa2+電流(黒)とそれによって惹起された筋小胞体からのCa2+放出(赤)(右縦軸:電流密度、左縦軸:Ca2+濃度)。

マウス単離心室筋細胞で測定したカフェイン投与による筋小胞体からのCa2+放出(右)とそれに伴って生じる内向きNCX電流(左)。電流の積分値(中央)とCa2+ transientの大きさが筋小胞体のCa2+貯蔵量を示す。*: P<0.05vs.WT.

マウス単離心室筋細胞で測定した収縮率の頻度依存性。*: P<0.05 **: P<0.05 vs. WT.

マウス単離心室筋細胞で測定したAngII刺激によるNCX電流の増加に対する各種阻害剤の効果。BIM(10μM)は細胞外から、AG17(10μM)はパッチ電極を介し、細胞内から処置した。

AngIIまたはisoproterenol慢性投与による心肥大

AngIIまたはisoproterenol慢性投与によるNCXと筋小胞体Ca2+-ATPaseのタンパク発現量の変化とASK1の関与(各群ともn=3)

Ca2+チャネルとNa+・Ca2+交換体による心筋興奮収縮連関制御モデル。A、生理的条件ではCICRの効率を最適にするため、Ca2+チャネルは筋小胞体Ca2+貯蔵量を監視、制御し、NCXは膜直下のCa2+濃度を精密に制御する。B、病態時にはCa2+チャネルとリアノジン受容体の機能的カップリングの破綻からCa2+チャネルによる筋小胞体Ca2+貯蔵量の監視がはずれたり、NCXによる過剰なCa2+排出によって膜直下のCa2+濃度制御が崩れたりすることで、CICR効率が低下する。

審査要旨 要旨を表示する

カルシウム(Ca2+)は細胞の分化・増殖・機能・生存・死に関わる多様な役割を持つシグナル分子である。これらのCa2+シグナルは細胞内において時間・空間的に厳密に制御されて使い分けられている。心臓の拍動にとってCa2+シグナルは必??であるが、一方、細胞内Ca2+シグナル制御系の破綻は不整脈や心不全などの疾患に至る。心筋細胞に発現している電位依存性L型Ca2+チネルの開口とそれによって惹起されるリアノジン受容を介した筋小胞体から細胞質へのCa2+放出機構 (Ca2+-induced Ca2+ release : CICR) は心収縮力の発生において重要なステップである。CICR はCa2+チャネルとリアノジン受容体の間のナノ・スペースのCa2+シグナルを介して制御されている。この相互制御機構の破綻は心疾患の一因を担う。よってCICRの制御機構を明らかにすることは心臓の生理機構のみならず病態生理を理解する上たいへん重要である。一方、Na+/Ca2+交換体(NCX)はCa2+を両方向(排出・流入)に輸送する膜蛋白であり、細胞膜直下のCa2+濃度の制御に重要な役割を担う。NCXは再還流障害や異所性不整脈にも深く関わっており、心肥大・心不全といった心疾患時にその発現レヴェルや機能の上昇が報告されている。NCXはCa2+チャネルとリアノジン受容体の間のCa2+シグナリングを制御していると考えられるが、これまでNCX には特異的阻害剤がなかったためその生理機能は不明であった。

高松肇氏は、Ca2+チャネルおよびNCXの心筋興奮収縮連関における生理的役割と疾患への関与を明らかにすることを目的として本研究に取り組んだ。形態的・機能的に分化した心筋細胞におけるCa2+チャネル、リアノジン受容体、およびNCXの共局在や制御機構は、現在のところ発現系では再構築することができない。そこで、高松肇氏は心筋細胞を用いて薬理学的手法と遺伝子改変マウスを駆使することにより解析を進めた。

これまでCa2+チャネルの不活性化は心筋細胞へのCa2+流入量を制御するネガティヴ制御機構であろうと漠然と理されて来たが、数10〜数100ミリという短い活動位幅の中でCa2+チャネルの不活性化機構がどのような生理的意味を持つのか疑問視もされてきた。そこで高松肇氏、CICRにより誘起されるCa2+チャネルのCa2+依存性不活性化機構が心筋細胞の活動電位波形やCa2+シグナル制御においてどのような意味を持つのかを明らかにする目的で、ラットおよびマウスの単一心筋細胞における活動電位波型とCa2+流入量および細胞内Ca2+シグナルの連関を検討した。Thapsigargin (1 μM) で筋小胞体Ca2+-ATPaseを阻害し放出可能なCa2+を枯渇させることによりL型Ca2+チャネルのCICR依存性不活性化機構を排除すると活動電位持続時間が延長すとを見出した。活動電位中に流れるCa2+チャネル流を測定することによりCa2+流入量(∫/Ca)を算出し、活動電位持続時間のに伴Ca2+流入量が増大することを見出した。また、交換神経活動を模したPKA刺激条件下では、活動電位波形および活動電位中の総Ca2+流入量に対するCa2+依存性不活性の関与が強まることを見出した。さらに、Ca2+キレート剤を用いて遊離Ca2+の拡散離を制限した条件下においても結果は変わらなかったことから、個々のL型Ca2+チャネルとその近傍のリアノジン受容体の間のナノスペーにおけるCa2+を介した相互制御機構(CICRとCa2+依存性不活性化)が心筋細胞全体のCa2+シグナルを制御することを示した。以上のことから、L型Ca2+チャネルのCa2+依存性不活性化機構は、活動電位幅を短縮して活位中の総Ca2+流入量を制限することにより筋小胞体のCa2+過負荷を防ぎ、一方、筋小胞体のCa2+貯蔵量が減少すると活動電位幅を延長し総Ca2+流入量を増加させてCa2+貯蔵量を回復させることを明らかにした。即ち、心筋細胞の興奮収縮連関においてL型Ca2+チャネルがCa2+依存性不活性化機構を介して筋小胞体のCa2+貯蔵量を監視・制御するセンサーとしてCa2+放出量を安定化する役割を担うことを初めて明らかにした。

さらに、高松肇氏は心筋興奮収縮連関におけるNCXの生理的役割を明らかにするため野生型に比べてNCXのタンパク発現量およびその電流密度が約0.5倍のNCXノックアウトヘテロマウス (NCX(+/-)) および約2倍の心臓特異的NCX過剰発現マウス (NCX(tg)) の解析を行った。そ結果、NCX(+/-)においてはNCXの発現量の減少に伴って細胞外へのCa2+排出が減少するために、筋小胞体のCa2+貯蔵量が増加し、CICRの効率が高まることを明らかした。一方、NCX(tg)の心筋細胞では、NCXの過剰発現が細胞外へのCa2+排出を増加させるために心筋細胞の収縮率が低下することを見出した。NCX(tg)は軽度ではあるが心肥大を呈していた。その理由として、NCX(tg)ではNCX過剰発現による心収縮力の低下を代償するために交感神経が亢進し中カテコラミン濃度が上昇し心肥大に至ったのではないかと考え、血中ノルエピネフリン濃度を測定した。その結果、NCX(tg)では血中ノルエピネフリン濃度が顕著に上昇していることを見出した。以上のことから、生理的条件下ではNCXはCa2+排出が主な生理機能であり、CICRの効率を制御していること、および心不全のような心疾患時に見られるNCXの過剰亢進は収縮不全の一因を担うことを初めて明らかにした。

高松肇氏は、心筋細胞のCa2+制御機構とその破綻から心疾患に至るメカニズムを明らかにする目的で心筋梗塞後の心筋細胞のCa2+シグナリングを析し、心肥大から心不全への移行初期にNCX活性が亢進していることを見出した。NCXのタンパク発現量に変化はなかったことから、NCX活性そのものの増大によることを示した。NCXはendothelin-1やangiotensin II (AngII) といった心疾患と関わる液性因子によって活性化されるが、その細胞内分子機構に関してはほとんど報告されていない。そこでAngIIがNCXを活性化する分子機構を薬理学的に検討した。その結果、AngIIはNCXに対する直接作用とNa+/H+交換体の活性化を介する間接的作用によりNCX電流を増加させることを示した。AngII刺激によるNCXの活性化にはPKC活性化、活性酸素種の発生、チロシンキナーゼ活性化が関与していることを初めて示した。さらに、AngIIを介した心肥大に関わることが報告されているMAPKKKのASK1のNCXの機能制御への関与をASK1(-/-)マウスを用いて検討した。その結果、ASK1(-/-)マウスにおいてはAngII慢性投与による心肥大が消失することを確認したものの、AngIIによるNCX電流の増大作用には野生型との差が認められなかった。よって、AngIIの急性作用にはASK1は関与しておらず、心肥大に至るAngIIの慢性作用とは異なるシグナル経路を介することを示した。

以上の通り、高松肇氏は心筋細胞においてCICRの効率を恒常的に最適に保つためにCa2+チャネルとNCXが協同的に筋小胞体Ca2+貯蔵量を制御しており、またNCXは細胞膜直下のCa2+濃度を精密に制御することでCa2+チャネルとリアノジン受容体の機能的カップリングを制御していることを初めて明らかにした。これらの研究成果は心臓におけるCa2+シグナル制御機構の生理的・病態生理的役割と心疾患発症のメカニズムの解明に貢献する重要な見であり、博士(薬学)の学位に値するものと判定した。

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