学位論文要旨



No 119466
著者(漢字) 金,載浩
著者(英字)
著者(カナ) キム,ジェホー
標題(和) 表面波励起低圧力プラズマプロセス装置を用いた高品質ダイヤモンド薄膜生成
標題(洋) High Quality Diamond Film Deposition with Surface-Wave Excited Low Pressure Plasma Process Device
報告番号 119466
報告番号 甲19466
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第14号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端エネルギー工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小川,雄一
 東京大学 助教授 寺嶋,和夫
 東京大学 助教授 小紫,公也
 東京大学 助教授 鈴木,宏二郎
 東京大学 助教授 小野,靖
内容要旨 要旨を表示する

ダイヤモンド薄膜は物理的、化学的、および電気的に優れた特性を持ち、様々な工業的な応用が期待されている。1980年代の初め、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりダイヤモンド薄膜が合成された以来、プラズマCVD法はダイヤモンド薄膜を合成する方法として多く使われている。プラズマCVD法を用いたダイヤモンド薄膜合成は、通常、水素雰囲気のプラズマで数十Torrの圧力で行われている。その条件で合成されたダイヤモンド薄膜は多結晶でなっており、薄膜の表面が粗いので薄膜の応用において大きな問題になっている。最近では粒が小さく非常に平坦な表面を持つナノクリスタルダイヤモンド薄膜が注目されている。しかし、信頼できる品質を保ち大面積の平坦なナノクリスタルダイヤモンド薄膜を合成することはまだ大きな課題として残っている。

そこで、最近では、100mTorr以下でのダイヤモンド薄膜合成が注目されている。そのような低圧力で成膜を行うと数十Torrで行う場合に比べ次のようなメリットがある。(1)大面積のダイヤモンド薄膜合成が可能になる。(2)ダイヤモンド合成に必要な基板温度が低くなる。(3)中性ガスの温度が低くなり放電容器の壁から不純物の混入が少なくなる。(4)薄膜合成パラメーターの精密な制御が可能になる。(5)薄膜厚みの精密な制御が期待できる。(6)ダイヤモンド核の密度が高くなる。(7)低圧力のプラズマでは様々な測定技術が使えるので薄膜合成原理の解明が期待できる。しかし、このような低圧力ではラズカル密度が低いので膜の成長速度が遅い、また基板に対するイオン衝撃が大きくなるので薄膜のグラファイト化が進み、高品質のダイヤモンド薄膜を合成が困難である。

一方、最近マイクロ波を用いた表面波励起プラズマ(SWP: surface-wave excited plasma)によるプロセスプラズマの研究が注目されている。表面波プラズマは100mTorr以下の低圧力で比較的に低電子温度・高電子密度をもつプラズマを発生することができる。現在、表面波プラズマプロセス装置に対する研究においては、低圧力で高密度、高均一のプラズマを発生させるため装置構造およびアンテナを最適化、特性を改善するための放電特性の解明が重要な課題となっている。また、表面波プラズマの特性に最適な反応性プロセスの開発が要求されている。

本研究では、表面波プラズマプロセス装置をダイヤモンド薄膜合成用のプラズマCVDに応用し、プラズマパラメーターの制御を可能として、従来より優れたプラズマCVD特性を提供することにより、100mTorr以下で高品質のナノクリスタルダイヤモンド薄膜を合成することを目的としている。

第1章は序論であって、研究の背景、最近注目されている2.45GHzマイクロ波表面波励起プラズマプロセス装置の原理、100mTorr以下の低圧力におけるダイヤモンド薄膜生成の特徴、プラズマCVD法によるダイヤモンド薄膜合成の原理、および研究の目的について述べている。

第2章では、実験方法について述べている。本研究で用いた円形誘電体線路型の平板型表面波励起プラズマプロセス装置の構成と動作原理、シングルプローブ法によるプラズマパラメーター測定の原理、プラズマ発光パターンの観察方法、ダイヤモンド薄膜合成の手順について述べている。

第3章では、平板型表面波プラズマ装置における放電特性の解明とダイヤモンド薄膜合成を行っている。まず、既に報告されているアルゴンプラズマにおける本装置の放電特性について簡単に解説した。水素プラズマにおいて、プラズマ発光パターン観察およびプラズマパラメーターの測定を行った。それらの結果から、水素プラズマではマイクロ波の電力がスロットが設置されている放電容器の周りに集中し、中央部まで電力が供給できないので、ダイヤモンド薄膜合成が行われる容器中央部のCVD領域では電子密度がアルゴンプラズマに比べて一桁以下であることが分かった。そのプラズマで合成されたダイヤモンド薄膜は従来のものと同程度の品質にとどまっていることが確認された。また、プラズマパラメーターと合成されたダイヤモンド薄膜の比較・検討を行い、数十mTorrの低圧力で高品質なダイヤモンド薄膜を合成するためのプラズマ特性条件として高密度、低電子温度、および低シース電位が必要であることを実験的に確認した。

第4章では、CVD領域での電子密度を向上させる方法を提案している。放電容器の周りに集中したマイクロ波電力吸収領域が均一にするため、マイクロ波導入用石英窓の内側表面にマイクロ波導入用石英窓の内側表面に特殊な形の薄い導体板を設置した。FDTD(Finite difference time domain)法を元で開発された3次元シミュレーションコードを用いて計算した電界分布、実験的に得られたプラズマ発光パターンとプラズマパラメーターから導体板の設置により表面波が中央部まで伝搬して、CVD領域においてより高電子密度のプラズマが得られることが確認された。しかしながら、ダイヤモンド薄膜は合成できなかった。その原因として、設置された導体板が放電容器と電気的に接続されていることによりプラズマ空間電位が異常に高くなってアースになっている基板に対するシース電位が高くなったことが考えられる。

第5章では、導体板の設置によりプラズマ空間電位が高くなる原因を実験的に解明し、その対策として導体板を放電容器から電気的に浮遊させる方法を提案している。その方法によりプラズマ空間電位と電子温度が低くなった。またCVD領域における電子密度がより高くなった。そのプラズマにより30mTorrのガス圧力で表面がより平坦で高粒子密度のナノクリスタルダイヤモンド薄膜の合成された。

第6章では、表面波プラズマに直流電流を重畳する方法を提案している。石英窓の内側表面に設置した導体板とアースになっている容器内壁との間に負の直流電圧を印加した。その結果、CVD領域においてより高電子密度、低電子温度、および低プラズマ空間電位が得られた。また、前章で報告したものよりも高品質のナノクリスタルダイヤモンド薄膜が比較的に高速で合成された。

第7章では、前章にて得られた直流電流を重畳することによるプラズマパラメーターの制御に関して、1次元プラズマ理論モデルを提案している。プラズマから電極に流れるネット電流によるプラズマ空間電位の変化を計算する簡単なプラズマ理論モデルを開発している。この理論モデルにおけるプラズマは実験結果を元に三つの領域、すなわち誘電体付近で表面波により局所化され高い電子温度を持つプラズマ領域、CVD領域であるバルクプラズマ領域、およびこれらの二つ領域間の転移プラズマ領域で構成される。電極の面積比および直流電圧の変化に対して計算したプラズマ空間電位の変化が実験結果とよく一致していることが確認された。

第8章では、本論文の成果をまとめている。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「High Quality Diamond Film Deposition with Surface-Wave Excited Low Pressure Plasma Process Device(表面波励起低圧力プラズマプロセス装置を用いた高品質ダイヤモンド薄膜生成)」と題し、表面波励起プラズマを用いて平坦な表面を持つ高品質のナノクリスタルダイヤモンド薄膜合成を可能とするための電子密度およびプラズマ空間電位等のプラズマパラメタ空間分布の制御について研究したもので、8章より構成されている。

第1章「Introduction」では、研究の背景と目的を述べている。まず、 最近注目されている2.45GHzマイクロ波表面波励起プラズマプロセス装置の原理を示す共に、100mTorr以下の低圧力におけるダイヤモンド薄膜生成の特徴を総括して本研究の目的を述べ、さらにプラズマ化学気相蒸着法(CVD: Chemical Vapor Deposition)によるダイヤモンド薄膜合成の原理についてまとめている。

第2章は「Experimental setups」と題し、本研究に用いた円形誘電体線路型の平板型表面波励起プラズマプロセス装置(RDL-SWP: Ring Dielectric Line - Surface Wave Plasma )の構成と動作原理、プラズマパラメタの測定原理、およびダイヤモンド薄膜合成実験のための装置構成、合成手順、合成されたダイヤモンド薄膜の品質評価法について述べている。

第3章は「Discharge characteristics and diamond film depositions in a planar type SWP device」と題し、従来構造のRDL-SWP装置における放電特性、および圧力100mTorr以下で合成されたダイヤモンド薄膜の特性について述べている。ダイヤモンド薄膜合成に用いる水素プラズマ放電においては、最大マイクロ波電力1.5kWにおいてもプラズマは放電容器の周辺部に局在し、容器中央部CVD領域で合成されたダイヤモンド薄膜は従来のものと同程度の品質にとどまっていることを述べ、高品質のダイヤモンドを合成するためには放電プラズマ特性の改善が必要であることを指摘している。

第4章は「Spatial profile control of electron density」と題し、容器中央部での電子密度を高くするため、マイクロ波導入用石英窓の内側表面に、特殊形状の導体板を設置する方法を提案している。この方法に関して、3次元数値シミュレーションコードによる電磁波の計算、実験による発光パターン観察、およびプラズマパラメタのプロープ測定を行い、導体板の形状の最適化をはかり、結果として表面波が中央部まで伝搬して、CVD領域においてより高電子密度のプラズマが得られることを示している。しかしながら、この改善ではダイヤモンドが合成されないことを指摘して、その原因として設置された導体板が放電容器と電気的に接続されていることによりプラズマ空間電位が異常に高くなったことを指摘している。

第5章は「Spatial profile control of electron temperature and plasma space potential」と題し、前章にて述べたところの、放電容器と電気的に接続された導体板設置によりプラズマ空間電位が高くなる原因を解明し、その対策として導体板を放電容器から電気的に浮遊される方法を提案し、それを実施することによる放電特性およびダイヤモンド合成に対する効果について述べている。この導体板の電気的浮遊によりCVD領域における電子密度がより高くなり、合わせて電子温度とプラズマ空間電位が低くなること、また、表面がより平坦で高粒子密度のナノクリスタルダイヤモンドが合成されることを報告している。

第6章は「Spatial profile control of plasma parameters by the superposition of DC power」と題し、表面波プラズマに直流電流を重畳する方法を提案し、その時の放電特性およびダイヤモンド合成に対する効果について述べている。具体的には前章で述べた石英窓の内側表面に設置した導体板を負極として、一部絶縁被膜で覆われた容器内壁との間に直流電圧を印加することによって、30mTorrの圧力において、前章で報告したのものよりも高品質のナノクリスタルダイヤモンド薄膜が比較的高速で合成されることを示している。

第7章は「Theoretical plasma model of SWPs with he superposition of DC power」と題し、前章にて得られた直流電流を重畳することによるプラズマパラメタの制御に関して、1次元プラズマ理論モデルを提案し、実験結果との対応をおこなっている。特に、表面波プラズマは誘電体窓の付近で局所的に高い電子温度を持つこと、および放電容器内壁の実効電極面積を小さくできること等を考慮した理論モデルを開発し、それによる解析結果が実験結果とよく一致していることを示し、第6章で達成したプラズマ空間電位制御法の動作原理を明らかにしている。

第8章は結論であり本論文の研究成果をまとめている。

以上要するに、本論文はマイクロ波を用いた円形誘電体線路型表面波励起プラズマ装置において圧力数十mTorr領域における水素気体の放電プラズマ特性を実験的に明らかにし、特に、マイクロ波導入窓の内側表面に特殊形状の導体板を設置し、それと放電容器との間に直流電流を加えることにより、電子密度およびプラズマ空間電位等の空間分布を制御する方法を確立して、高品質ナノクリスタルダイヤモンド薄膜の合成を可能とする条件を明らかにしたもので、先端エネルギー工学、特にプラズマ応用工学に貢献するところが多い。

したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。

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