学位論文要旨



No 119502
著者(漢字) 渡邉,大輔
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,ダイスケ
標題(和) 出芽酵母における細胞周期依存的な先端成長に関する分子遺伝学的解析
標題(洋) Molecular Genetic Analysis of cell Cycle-Dependent Apical Bud Morphogenesis in Saccharomyces cerevisiae
報告番号 119502
報告番号 甲19502
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第50号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端生命科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大矢,禎一
 東京大学 教授 河野,重行
 東京大学 教授 馳澤,盛一郎
 東京大学 助教授 青木,不学
 東京大学 助教授 田口,英樹
内容要旨 要旨を表示する

序論

先端成長とは、細胞の一部が単一の方向に成長して突起状の構造を生み出す成長様式であり、神経細胞における軸索の成長、高等植物の受精時における花粉管伸長など、幅広い生物種において観察される現象である。先端成長において見られる細胞極性の形成は、細胞の形づくりにおいて不可欠なものであるにも関わらず、その分子機構の多くは明らかにされていない。本研究の目的は、真核細胞のモデル生物であり、ポストゲノム的解析にも適した出芽酵母を用いて、先端成長の分子機構の全貌を解明することである。

出芽酵母の生活環の中で、先端成長は2つの時期に観察されることが知られている。1つは、異なる接合型の細胞が接合する際の接合突起の形成時、もう1つは栄養増殖中の細胞における芽の形成時である。とくに後者に関しては、細胞周期依存的な先端成長である点が、他の生物で見られる先端成長と大きく異なる特徴である(図1)。出芽酵母の増殖は連続したいくつかの細胞周期依存的なステップから成り立っている。細胞周期がG1期からS期に進行する頃に出芽が開始し、先端成長とそれに引き続く等方向成長によって母細胞と同様の形態をもつ娘細胞が形成される。娘細胞が十分な大きさに達すると核分裂が始まり、最後に細胞質分裂を経て2個のG1期の細胞を生じる。この過程において、先端成長は出芽直後に特異的に観察されることから、この時期の細胞周期制御において重要な役割を果たすG1サイクリンの関与が示唆されている (Lew and Reed, 1993) 。例えば、G1サイクリンの発現量が過剰な場合には先端成長が促進され、細長い芽が形成される (Loeb et al., 1999; Sheu et al., 2000; Nelson et al., 2003) 。このような細胞周期依存的な先端成長の制御に関しては未知の点が多かったのだが、本研究における先端成長の網羅的解析によって、その制御メカニズムが2つの経路(シグナル強度および時期の調節)に分離可能であることが示された。この結果は、多くの因子が複雑に組み合わさっている先端成長の分子機構の解明に役立つものであると考えられる。

結果と考察

異常な先端成長を示す変異株の同定

先端成長に異常を示す変異株を解析するために、出芽酵母の非必須遺伝子破壊株セット(約5000株)の中で芽の形態が丸い変異株と細長い変異株(各14株ずつ)を用いた。これらの変異株における芽の形態を定量的に評価するために、野生株と各変異株の細胞の顕微鏡画像を、我々の研究室で独自に開発したイメージプロセシングシステムを用いて処理し、芽の成長軸とそれに対して直交する軸の長さの比 (Bud axis ratio) の平均値を求めた。野生株と比べて丸い変異株ではこの値が有意に小さく、細長い変異株では有意に大きいことを確認した。さらに、マンナン染色後のReturn-to-growth解析によって、各変異株における先端成長中の細胞の頻度を調べたところ、先端成長の度合とBud axis ratioの平均値が強い正の相関を示すことが明らかになった(図2)。この結果は、芽の伸長にとって先端成長が必要十分な条件であることを示している。

細長い変異株における先端成長パターンの解析

芽の形態が丸い変異株では、先端成長自体に欠損があると考えられる。これらの変異株の遺伝子産物は、(i)成長方向の決定に重要と考えられているタンパク複合体(ポラリソーム)の構成因子、(ii)細胞形態を内側から規定するアクチン細胞骨格の構成因子、(iii)細胞形態を外側から規定する細胞壁のリモデリング因子のいずれかであることが確認され、これらの要素が先端成長の進行に必須であることがわかった。

芽の形態が細長い変異株では、先端成長の調節に異常があると考えられる。そこで、イメージプロセシングシステムを用いて、先端成長パターンについて詳細な解析を行った。その結果、野生株における先端成長は出芽直後の小さい芽をもつ時期にのみ観察され、その後の芽は等方向成長をしていることが示された。一方、apq12変異株においては、出芽直後に急激な先端成長が見られる結果、細長く伸長した形態をもつ芽が形成され、その後野生株と同様に等方向成長を示したことから、先端成長期のシグナル強度が特異的に促進されていると考えられる(図3)。対照的に、cla4変異株においては、apq12変異株のような急激な先端成長は見られないものの、はっきりした等方向成長の時期が認められず、芽が十分に成長し核分裂が始まっても芽の伸長が続くことから、先端成長期から等方向成長期への切り換えに欠損があることが予想される(図3)。この株では、先端成長シグナルの強度の調節は正常であるが、時間的制御に欠損をもつと考えられる。以上の結果から、先端成長シグナルの調節には、強度の調節および時期の調節という2種類の調節が存在し、両者は遺伝学的に分離可能であることが明らかになった。

apq12変異株におけるG1サイタリン依存的先端成長の解析

G1/S期の細胞周期制御において重要な役割を果たすG1サイクリンが、先端成長の調節にも関与することが報告されている。G1サイクリンによる先端成長の制御機構を理解するために、G1サイクリンCLN2を恒常的に発現する株を用いて芽の成長様式を解析したところ、apq12変異株と同様に、出芽直後に過剰な先端成長を示し、その後等方向成長に切り替わることが明らかになった。この結果は、G1サイクリンが先端成長のシグナル強度の調節ではなく、主に時期の調節に関わることを示している。

次に、apq12変異株におけるCln2pタンパクの量を同調細胞を用いて解析したところ、野生株と比べて分解に遅延が見られることがわかった。また、間接蛍光抗体法によりCln2pの細胞内局在を調べたところ、野生株では出芽期特異的に出芽部位に局在するのに比べ、apq12変異株では芽が成長した後も、細長く伸長した芽の先端にCln2pが引き続き局在することが示された。これらの結果は、apq12変異株における芽の過剰な伸長が、芽の先端に残存したCln2pによって直接的に引き起こされることを示唆している。cln1 cln2二重変異によってapq12変異株における芽の伸長が抑圧されたことからも、apq12変異株における先端成長の促進はG1サイクリンに依存したものであることが証明された。

G1サイクリン依存的先端成長を仲介するポラリソーム複合体の解析

G1サイクリンに依存した先端成長シグナルの促進がどのようなメカニズムで引き起こされているのかを調べるために、cln1 cln2二重変異と同様にapq12変異株における芽の過剰な伸長を特異的に抑圧する変異を探索した。その結果、本研究で取得した先端成長に欠損をもたらす変異のうち、ポラリソーム複合体の構成因子の変異がapq12変異株における芽の過剰な伸長を抑圧することを明らかにした。ポラリソーム複合体は、細胞の成長点に局在し、アクチン細胞骨格の制御を行うことにより、成長方向の極性を決定していると考えられているが、その上流のシグナルが何であるかについては全く知見が得られていなかった。そこで、このポラリソーム複合体が、G1サイクリンからのシグナルを受け取り、先端成長を引き起こす可能性を想定し、CLN2過剰発現株におけるポラリソーム複合体の細胞内局在を調べた。その結果、ポラリソーム複合体の構成因子は、野生株では小さい芽をもつ細胞の芽の先端部に特異的に局在するのに対し、CLN2過剰発現株では芽が成長した後も、細長く伸長した芽の先端に引き続き局在することが示された(図5)。この局在パターンはapq12変異株におけるCln2pの局在パターンと酷似しており、成長点においてCln2pが直接ポラリソーム複合体に働きかけることにより、先端成長が促進されるという可能性が考えられた。

結論

本研究では、イメージプロセシングシステムを用いて出芽酵母の先端成長に関する網羅的解析を行った結果、先端成長の調節には、シグナル強度と時期を調節する2種類の経路が存在することを初めて明らかにした。このうち、とくに先端成長シグナルの促進については、G1サイクリンとポラリソーム複合体を介した経路に依存して制御されていることを明らかにした。以上の結果は、先端成長の制御に関わる因子の数の多さ、複雑さを示すと同時に、従来、シグナル伝達という観点から機能を理解することが難しかったポラリソーム複合体が、細胞周期依存的な先端成長の Key regulator として機能することを示したものであると言える。また、多くの変異株を同時並行的に扱うことが求められるポストゲノム的研究において、客観的な形態情報を自動的に認識・抽出するイメージプロセシングシステムがいかに有効であるかを示した初めての例であるとも言える。

出芽酵母における細胞周期依存的な形態形成過程 出芽酵母細胞の増殖は、秩序だったいくつかのイベントにより構成されている。細胞周期がG1期からS期に入るころに、細胞表層のある1点から芽が形成される。その芽が先端成長と等方向成長によって成長し、十分な大きさに達すると、核分裂と細胞質分裂が連続して起こる。このうち先端成長は、出芽直後の短い時期に特異的に観察される。G1/S期進行の制御において重要な役割を果たすG1サイタリンが細胞内に過剰量存在すると、異常な先端成長が引き起こされることから、G1サイタリンが先端成長の制御に関与していることが示唆されている。

先端成長と芽の形態の関係 (A)芽の成長部位の解析法。細胞壁マンナンの染色後、通常の培地中で培養すると、成長部位の染色が薄くなる。先端成長中の細胞では芽の先端部にシグナルが見られない(矢頭)。(B)先端成長の度合と芽の細長さの間に見られる相関関係。横軸に、先端成長中の細胞の頻度、縦軸に、イメージプロセシングシステムを用いて解析した芽の細長さ (Bud axis ratio) を示す。両者の間には高い相関関係 (r2=0.95) が見られた。四角印は野生株、丸印は丸い変異株、三角印は細長い変異株を示す。

芽の成長様式に関する2種類の異常 (A)芽の成長と芽の形態の関係。イメージプロセシングシステムを用いて、各細胞の芽の大きさ(横軸)と細長さ(縦軸)を解析した。黒線は各株における傾向を大まかに示す。灰線は野生株における同様の曲線を示す。(B)2種類の先端成長パターンのモデル。apq12変異株では先端成長が過剰に促進され、細長い芽が形成されるのに対し、cla4変異株では先端成長の時期が長く継続することによって芽が伸長する。

G1サイクリン依存的な先端成長 (A)apq12変異株におけるG1サイクリン分解の遅延。同調細胞を附いて、G1サイクリンCln2pの量(上)と芽の形成(下)を調べた。各レーンごとのタンパク量は均一である (loading control; PSTAIRE) 。(B)apq12変異株における異常な芽の伸長はG1サイクリンに依存している。相同なG1サイクリンの二重変異 (cln1 cln2) によって、apq12変異株の芽の細長さが解消された。

G1サイクリンによるポラリソーム複合体の局在制御 ポラリソームの構成因子(Spa2pおよびPea2p)とGFPの融合タンパク質を酵母細胞内で発現させ、細胞内局在を観察した。野生株の細胞においては、ポラリソームは小さい芽をもつ細胞の芽の先端に特異的に局在しているが(左)、Cln2p過剰発現株においては芽が大きくなっても芽の先端に局在が見られる細胞が多く見られ(右)、とくにそれらの細胞では芽が細長く伸長している場合が多いことがわかった。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、一章からなる。その内容については以下のとおりである。

先端成長とは、細胞の一部が単一の方向に成長して突起状の構造を生み出す成長様式であり、神経細胞における軸索の成長、高等植物の受精時における花粉管伸長など、幅広い生物種において観察される現象である。先端成長において見られる細胞極性の形成は、細胞の形づくりにおいて不可欠なものであるにも関わらず、その分子機構の多くは明らかにされていない。本研究の目的は、真核細胞のモデル生物であり、ポストゲノム的解析にも適した出芽酵母を用いて、先端成長の分子機構の全貌を解明することである。

出芽酵母の生活環の中で、先端成長は2つの時期に観察されることが知られている。1つは、異なる接合型の細胞が接合する際の接合突起の形成時、もう1つは栄養増殖中の細胞における芽の形成時である。とくに後者に関しては、細胞周期依存的な先端成長である点が、他の生物で見られる先端成長と大きく異なる特徴である。出芽酵母の増殖は連続したいくつかの細胞周期依存的なステップから成り立っている。細胞周期がG1期からS期に進行する頃に出芽が開始し、先端成長とそれに引き続く等方向成長によって母細胞と同様の形態をもつ娘細胞が形成される。娘細胞が十分な大きさに達すると核分裂が始まり、最後に細胞質分裂を経て2個のG1期の細胞を生じる。この過程において、先端成長は出芽直後に特異的に観察されることから、この時期の細胞周期制御において重要な役割を果たすG1サイクリンの関与が示唆されている (Lew and Reed, 1993)。例えば、G1サイクリンの発現量が過剰な場合には先端成長が促進され、細長い芽が形成される (Loeb et al., 1999; Sheu et al., 2000; Nelson et al., 2003)。このような細胞周期依存的な先端成長の制御に関しては未知の点が多かったのだが、本研究における先端成長の網羅的解析によって、その制御メカニズムが2つの経路(シグナル強度および時期の調節)に分離可能であることが示された。この結果は、多くの因子が複雑に組み合わさっている先端成長の分子機構の解明に役立つものであると考えられる。

異常な先端成長を示す変異株の同定

先端成長に異常を示す変異株を解析するために、出芽酵母の非必須遺伝子破壊株セット(約5000株)の中で芽の形態が丸い変異株と細長い変異株(各14株ずつ)を用いた。これらの変異株における芽の形態を定量的に評価するために、野生株と各変異株の細胞の顕微鏡画像を、我々の研究室で独自に開発したイメージプロセシングシステムを用いて処理し、芽の成長軸とそれに対して直交する軸の長さの比 (Bud axis ratio) の平均値を求めた。野生株と比べて丸い変異株ではこの値が有意に小さく、細長い変異株では有意に大きいことを確認した。さらに、マンナン染色後の Return-to-growth 解析によって、各変異株における先端成長中の細胞の頻度を調べたところ、先端成長の度合と Bud axis ratio の平均値が強い正の相関を示すことが明らかになった。この結果は、芽の伸長にとって先端成長が必要十分な条件であることを示している。

細長い変異株の先端成長パターンの解析

芽の形態が丸い変異株では、先端成長自体に欠損があると考えられる。これらの変異株の遺伝子産物は、(i) 成長方向の決定に重要と考えられているタンパク複合体(ポラリソーム)の構成因子、(ii) 細胞形態を内側から規定するアクチン細胞骨格の構成因子、(iii) 細胞形態を外側から規定する細胞壁のリモデリング因子のいずれかであることが確認され、これらの要素が先端成長の進行に必須であることがわかった。

芽の形態が細長い変異株では、先端成長の調節に異常があると考えられる。そこで、イメージプロセシングシステムを用いて、先端成長パターンについて詳細な解析を行った。その結果、野生株における先端成長は出芽直後の小さい芽をもつ時期にのみ観察され、その後の芽は等方向成長をしていることが示された。一方、apq12変異株においては、出芽直後に急激な先端成長が見られる結果、細長く伸長した形態をもつ芽が形成され、その後野生株と同様に等方向成長を示したことから、先端成長期のシグナル強度が特異的に促進されていると考えられる。対照的に、cla4変異株においては、apq12変異株のような急激な先端成長は見られないものの、はっきりした等方向成長の時期が認められず、芽が十分に成長し核分裂が始まっても芽の伸長が続くことから、先端成長期から等方向成長期への切り換えに欠損があることが予想される。この株では、先端成長シグナルの強度の調節は正常であるが、時間的制御に欠損をもつと考えられる。以上の結果から、先端成長シグナルの調節には、強度の調節および時期の調節という2種類の調節が存在し、両者は遺伝学的に分離可能であることが明らかになった。

apq12変異株におけるG1サイクリン依存的先端成長の解析

G1/S期の細胞周期制御において重要な役割を果たすG1サイタリンが、先端成長の調節にも関与することが報告されている。G1サイクリンによる先端成長の制御機構を理解するために、G1サイクリンCLN2を恒常的に発現する株を用いて芽の成長様式を解析したところ、apq12変異株と同様に、出芽直後に過剰な先端成長を示し、その後等方向成長に切り替わることが明らかになった。この結果は、G1サイクリンが先端成長のシグナル強度の調節ではなく、主に時期の調節に関わることを示している。

次に、apq12変異株におけるCln2pタンパクの量を同調細胞を用いて解析したところ、野生株と比べて分解に遅延が見られることがわかった。また、間接蛍光抗体法によりCln2pの細胞内局在を調べたところ、野生株では出芽期特異的に出芽部位に局在するのに比べ、apq12変異株では芽が成長した後も、細長く伸長した芽の先端にCln2pが引き続き局在することが示された。これらの結果は、apq12変異株における芽の過剰な伸長が、芽の先端に残存したCln2pによって直接的に引き起こされることを示唆している。cln1 cln2二重変異によってapq12変異株における芽の伸長が抑圧されたことからも、apq12変異株における先端成長の促進はG1サイクリンに依存したものであることが証明された。

G1サイクリン依存的先端成長を仲介するポラリソーム複合体の解析

G1サイクリンに依存した先端成長シグナルの促進がどのようなメカニズムで引き起こされているのかを調べるために、cln1 cln2二重変異と同様にapq12変異株における芽の過剰な伸長を特異的に抑圧する変異を探索した。その結果、本研究で取得した先端成長に欠損をもたらす変異のうち、ポラリソーム複合体の構成因子の変異がapq12変異株における芽の過剰な伸長を抑圧することを明らかにした。ポラリソーム複合体は、細胞の成長点に局在し、アクチン細胞骨格の制御を行うことにより、成長方向の極性を決定していると考えられているが、その上流のシグナルが何であるかについては全く知見が得られていなかった。そこで、このポラリソーム複合体が、G1サイクリンからのシグナルを受け取り、先端成長を引き起こす可能性を想定し、CLN2過剰発現株におけるポラリソーム複合体の細胞内局在を調べた。その結果、ポラリソーム複合体の構成因子は、野生株では小さい芽をもつ細胞の芽の先端部に特異的に局在するのに対し、CLN2過剰発現株では芽が成長した後も、細長く伸長した芽の先端に引き続き局在することが示された。この局在パターンはapq12変異株におけるCln2pの局在パターンと酷似しており、成長点においてCln2pが直接ポラリソーム複合体に働きかけることにより、先端成長が促進されるという可能性が考えられた。

本研究では、出芽酵母の先端成長に関する網羅的解析を行った結果、先端成長の調節には、シグナル強度と時期を調節する2種類の経路が存在することを初めて明らかにしだ。このうち、とくに先端成長シグナルの促進については、G1サイクリンとポラリソーム複合体を介した経路に依存して制御されていることを明らかにした。以上の結果は、先端成長の制御に関わる因子の数の多さ、複雑さを示すと同時に、従来あまり注目されなかったポラリソーム複合体が先端成長の Key regulator として機能することを示したものであると言える。

なお、本論文は渡邉大輔、阿部充宏、森下真一、大矢禎一との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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