学位論文要旨



No 119509
著者(漢字) 鄭,珉仲
著者(英字)
著者(カナ) ジョン,ミンジュン
標題(和) 設計最適化における総合化意思決定支援システム
標題(洋) Integrated Support System for Decision-Making in Design Optimization
報告番号 119509
報告番号 甲19509
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第57号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉村,忍
 東京大学 教授 大和,裕幸
 東京大学 教授 岩田,修一
 東京大学 教授 古田,一雄
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
内容要旨 要旨を表示する

近年、最適化手法の適応範囲は様々な工学問題へ広がっている。単目的最適化の場合、そこで得られる唯一の最適解はエンジニアの意思決定 には不十分である。その理由は実際の設計に影響を伝えるのうちいくつかは目的関数や制約条件として陽に定式化されない場合も多いからである。一方、多目的最適化の場合には複雑な関数とパーラメータ空間にある多くのパレート解を作り出す。そのパレート解について解の意味を理解し直接実問題に適応するにはいくつかの課題を超えなければならない。一般的にパレート解はその数が非常に多いし、また付加的な情報なしではそれらの解の一つを代表的な解として利用できない。そこで、パレート解、準パレート解及び満足解を含む代案的な解をそれらの工学的情報とともにエンジニアに提供するのが重要である。そのようにすることによりしてその情報に基づいて総合的なよい設計をすることが可能になると考える。

多くの工学的問題に対して最適解の分析のためには精密なクラスタリング及び次元縮小手法を利用する必要がある。また、その結果を工学的に意味があるように可視化も求められている。しかし、最適化から可視化までの様々な分析手法をある程度の支援システムなしで行うことはは極めて困難である。

本研究の目的は設計最適化における意思決定のための総合化支援システムの開発である。新たな最適化手法、進化クラスタリングアルゴリズム及び可視化手法を開発し、それらを従来のクラスタリング、次元縮小手法、可視化方法と統合化して利用することにより意思決定に必要となる様々な情報探索を行えるシステムの研究開発を行った。

本研究では新しい進化最適化手法とクラスタリングアルゴリズムを意思決定支援システムの基礎として開発した。さらに意思決定のための満足空間及びクラスタリング分析の概念を提案した。多様なクラスタリングや次元縮小手法などが意思決定に敏感なパーラメータの探索に用いられた。最適化解の多次元可視化手法の提案と効果の検証がされた。また、パレート設計解の特徴を効率的に分析するための新測定距離基準も提案され、その有効性が例題を通して検証された。

本研究で提案された分析方法の有効性を三つの設計最適化問題に適用し実証した。第一の実応用事例は高密度光メモリ用マイクロ静電アクチュエータの設計最適化問題である。満足設計空間の解析とそのクラスタリング分析は本アクチュエータの設計における意思決定の質の向上を可能にした。第二に、設計90パーラメータが90個のタービン翼形状最適化問題を取り上げた。本例題では、クラスタリングと次元縮小を利用した解析法の有効性が確認された。第三に、人工衛星のヒートパイプの多目的最適化問題を取り上げた。多次元可視化とハイブリッド距離測定を適用して人工衛星のヒートパイプ設計に要求される知識の探索が効率的に行えた。

Architecture of Integrated Decision Support System

審査要旨 要旨を表示する

近年、最適化手法の適応範囲は工学の様々な問題へ広がっている。単目的最適化においては、数学的には唯一の最適解が得られる。しかし、実際の設計では、製造容易性などのように目的関数や制約条件として陽に定式化されない要因も多く存在し、数学的に唯一最適の解だけではエンジニアの意思決定 には不十分な場合が多い。また、多目的最適化においては数学的には多数のパレート解が得られるが、実際の設計においては、その中からパレート解群の有する工学的意味を適切に理解した上で最終的な設計解を採用することが必要不可欠となる。このように、最適化手法と現実の工学設計の間には依然として大きなギャップが存在する。

本研究の目的は上述したギャップを埋めるべく、設計最適化における意思決定プロセスを総合的に支援するシステムに関して研究開発することである。最適解をロバストかつ効率的に探索するアルゴリズム、得られた最適解群及び準最適解群の多次元空間構造を分析する進化クラスタリングアルゴリズム及び設計解情報を効果的に可視化する多次元可視化手法を新たに開発し、それらを統合化して、設計最適化における意思決定支援システムを開発した。さらにそれらをマイクロ静電アクチュエータ、タービン翼、人工衛星のヒートパイプの設定問題に適用し、実用レベルでの有効性の検証を行った。

本論文は、以下の7つの章から構成されている。

第1章は、序論であり、本研究の背景と位置付けをまとめたものである。本研究で対象とする設計最適化プロセスの特徴と最適解から意思決定に必要な情報を探索するという課題をまとめ、本研究の目的を述べている。

第2章は、意思決定支援システムの基礎として、本研究において新たに開発された進化最適化手法とクラスタリングアルゴリズムについて、それぞれの理論及びアルゴリズムについて述べている。さらに意思決定のための満足解空間及びクラスタリング分析の概念を提案している。

第3章では、第1の応用事例として次世代高密度光メモリ用マイクロ静電アクチュエータの設計最適化問題を述べている。満足設計解の空間構造のクラスタリング分析を通して、本アクチュエータの設計の質が向上したことを述べている。

第4章では、第2の応用事例として、設計パーラメータが90個のタービン翼内部冷却流路の形状最適化問題を述べている。本問題では、クラスタリングと次元縮小法を用いた設計解空間の解析法が提案されている。得られた5種類のタービン翼形状の工学的な意味の議論を通して、提案手法の有効性が確認されている。

第5章では、第3の応用事例として、人工衛星のヒートパイプの多目的最適化問題が述べられている。設計解の目的関数と設計変数を同時に可視化する多次元可視化手法を新たに提案し、設計変数空間、目的関数空間、実空間の相互関連の分析を通して、エンジニアにわかりやすいパレート解空間提示が可能となっている。

第6章は、これまで述べられてきたアルゴリズムを統合化した意思決定支援システムのシステム化及びそのインターネット上での公開手法を述べている。

第7章は、結論であり、本研究で得られた成果をまとめている。

以上に要するに、本論文では、最適解や準最適解が構成する多次元設計解空間の構造を効率的に分析するために、バイオコンピューテーションを核とした、最適化アルゴリズム、進化クラスタリングアルゴリズムや多次元可視化アルゴリズムを新たに開発し、設計における意思決定支援システムとして統合化し、また、それらを、光メモリ用マイクロ静電アクチュエータの最適設計、タービン翼の内部冷却流路の熱弾性形状最適化、人工衛星用ヒートパイプの多目的最適化設計の3つの実用問題へ適用し、その有効性を確認したものである。本論文で提案された設計プロセスにおける意思決定支援手法は、多次元の目的関数及び設計変数を有する問題に汎用的に適用可能なものであり、人工物設計に対してのみならず、多様な要因が複雑に絡み合う環境問題における合意形成過程の効率化にも寄与するところが大きい。

よって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク