No | 119510 | |
著者(漢字) | 田中,健二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タナカ,ケンジ | |
標題(和) | 近接場光ヘッドの高出力・高分解能化に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 119510 | |
報告番号 | 甲19510 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第58号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 光記憶では記録再生スポットの微細化が光の回折限界によって制限されるため、その記録密度は物理的な限界に達しつつある。この限界を打破するブレイクスルーの一つとして大きく期待されている技術が、近接場光記憶技術である。近接場光記憶技術は、従来のレンズ光学系による光スポットではなく、回折限界に制限されない高い空間分解能を有する近接場光を応用し、記録密度の大幅な向上を達成する方式である。本方式は、従来技術を遥かに超える高い記録密度を実現する技術として有望であるが、その実用化には近接場光ヘッドの高出力・高分解能化や高精度トラッキング技術に代表される各要素技術の確立が必須である。本論文では、これらの達成に向けて新規の光ヘッド構造を提案すると共に、光学評価に不可欠な理論解析ツールとしてFinite-Difference Time-Domain (FDTD) 法に基づく近接場光解析コードを構築し、その性能を理論的、実験的に実証した。 第1章では、次世代の高密度光記憶技術が必要とされる背景について詳述し、本論文で扱う近接場光記憶技術の特徴や技術課題を明らかにした。 第2章では、高性能化を実現する近接場光ヘッドの新規創成・評価に必要不可欠となる理論解析手法として、FDTD法に基づいた近接場光解析コードを構築し、そのアルゴリズムについて概説した。高精度化を図るため、吸収境界条件、入射光設定においてそれぞれ適当なアルゴリズム(Generalized Perfectly Matched Layer (GPML)、全体場/散乱場法)を導入した。FDTD法において重要となる金属材質の取り扱いにおいては、独自のアルゴリズムを導入し、アルゴリズムの簡素化、計算機資源の縮小を達成した。また、基本的な光学構造における解析解、および近接場光学実験との比較評価により本FDTDコードの基礎検証を行い、金属材質の取り扱いや近接場光学評価における基本的な有効性を示した。 第3章では、高出力・高分解能化を実現する新規の光ヘッド構造として「微小散乱体光ヘッド」を提案し、FDTDコードを用いた理論解析によりその特性を評価した。局在表面プラズモン (Local Surface Plasmon : LSP) 励起を可能にする散乱体材質条件 (|ε'|>>ε") を明らかにすると共に、本条件を満たす微小散乱体開口がLSP励起により近接場光エネルギを増強し、散乱体サイズに応じた微小な光スポットを実現することを示した。さらに、記録媒体(100nmスペースパターン)を配置した再生特性の検討により、本ヘッドが高出力と高分解能との両立を可能にすることを明らかにした。また、従来形態の開口と異なり、ある適切な開ロ-媒体間距離において再生光量が最適になることを示した。 第4章では、微小散乱体光ヘッドの実験検証を目的とし、コレクションモードSNOM (Scanning Near-Field Optical Microscope) を用いて、基板上に作製した微小散乱体開口の近接場光強度分布の測定を行った。微小散乱体開口が散乱体サイズに応じて近接場光強度を強く増強し、高出力・高分解能化を実現することを実証した。具体的には、平面開口(サイズ500×500nm2)と比較して、約2倍の光量増加と共に405nmから190nmへの分解能の向上が得られた。近接陽光強度の開口からの距離依存性についても評価を行い、約40nmの距離において光学特性が最適になることを示した。また実験結果と解析結果とを比較し、本FDTDコードが金属微小体を含む複雑な構造の光学評価においても有効であることを示した。 第5章では、微小散乱体光ヘッドの高性能化に向けて、FDTDコードを用いた解析評価を行った。微小散乱体のLSP励起特性について検討を行い、短波長化および散乱体の周囲材質の高屈折率化により励起散乱体サイズの微小化が可能であることを明らかにした。また、開口サイズについても評価を行い、開口サイズの縮小に伴い再生光量が減少する一方で、バックグラウンド光成分の抑制により分解能が向上することを示した。さらに、高密度再生特性についても評価を行い、本光ヘッドが80×80nm2のビットパターン列を効率5.1%とコントラスト0.701で再生し、100Gbits/inch2に相当する高密度再生を実現可能であることを示した。 第6章では、高出力・高分解能化を実現するもう一つの有力な光ヘッド構造として「三角開口型光ヘッド」を提案し、FDTDコードを用いた理論解析によりその特性を解明した。三角開口が、入射偏光方向に垂直な1辺において近接場光エネルギを励起し、実開口サイズ以下の微小な光スポットを生成することを明らかにした。また、記録媒体(40nmスペースパターン)を配置した解析により、本光ヘッドが高出力・高分解能化を可能にすることを明らかにした。入射偏光方向および開ロ-媒体間距離の影響についても評価を行い、開口の1辺に対する入射偏光の垂直制御と極近接走査が必要であることを示した。さらに、高密度再生特性についても検討し、本光ヘッドが40×160nm2のピットパターン列を効率0.91%とコントラスト0.465で再生し、100Gbits/inch2に相当する高密度再生を実現可能であることを示した。 第7章では、三角開口型光ヘッドの性能実証を目的に、イルミネーションモードSNOMを利用した実験評価を行った。マイクロ光カンチレバー上に作製した三角開口により再生特性を評価し、入射偏光が1辺に垂直となる場合に、実開口サイズ以下の高い分解能を実現することを実証した。また実験結果と解析結果とを比較し、本FDTDコードがテーパ形状や三角形状を含む複雑な構造の光学評価においても有効であることを示した。 第8章では、高精度トラッキングの実現に向けて、データ再生用開口の他にトラッキング信号検出用の開口を併せ持つT字型形状の「トラッキングヘッド」を新規に提案し、FDTDコードを用いて特性評価を行った。入射偏光方向の制御により信号再生に適切な光スポットを生成することで、トラッキング開口を持たない通常の光ヘッドと比べてトラッキング感度を3倍向上することが可能であり、本光ヘッドが高精度トラッキングに有効であることを明らかにした。 第9章では、各章で得られた成果を基に総合的な考察を行い、高性能光ヘッド技術への展望を示した。高出力・高分解能化を実現する微小散乱体光ヘッドおよび三角開口型光ヘッドにより100Gbits/inch2・100Mbpsの高密度・高速信号再生が可能であることを示すとともに、高出力・高分解能化および高精度トラッキングを共に実現する構造として、微小散乱体光ヘッドとトラッキングヘッドを融合した新規の光ヘッド構造を示した。また、本FDTD解析コードが近接場光学設計ツールとして有用であり、アルゴリズムの改善により記憶装置全体における総合的な光学評価に適用可能であることを示した。 第10章では、結論を述べ、本論文を総括した。 本論文の構成 | |
審査要旨 | 本論文は「近接場光ヘッドの高出力・高分解能化に関する研究」と題し、全10章から構成される。 光記憶の記録密度が回折限界による物理的な限界に達しつつある中、この限界を打破するブレイクスルーの1つとして期待されているのが近接場光記憶である。本方式は従来技術を遥かに超えるポテンシャルを有するものの、実用化には近接場光ヘッドの高出力・高分解能化や高精度トラッキング技術に代表される各要素技術の確立が必須である。本論文は、これらの達成に向けて新規の光ヘッド構造を提案すると共に、数値解析を軸とした理論検討と実験評価により、その有効性を実証したものである。 第1章「序論」では、次世代の高密度光記憶技術が必要とされる背景について詳述し、本論文で扱う近接場光記憶技術の特徴や技術課題を明らかにしている。 第2章「Finite-Difference Time-Domain法に基づく解析コードの構築」では、Finite-Difference Time-Domain(FDTD)法に基づいて独自に構築した近接場光解析コードについて概説し、さらに、解析解および近接場光学実験との比較検証によりその基本的な有効性を示している。 第3章「微小散乱体光ヘッドの提案と理論解析評価」では、高出力・高分解能化を実現する光ヘッドとして、開口内に金属微小散乱体を配置した構造である「微小散乱体光ヘッド」を新規に提案している。さらに、FDTDコードを用いた理論解析を行い、本ヘッドが高出力と高分解能の両立を可能にすることを明らかにしている。 第4章「微小散乱体光ヘッドの実験評価」では、第3章で提案した微小散乱体光ヘッドについて、コレクションモードSNOM(Scanning Near-Field Optical Microscope)を用いた実験評価を行い、本構造が高出力・高分解能化を実現することを実証している。さらに、実験結果と解析結果とを比較し、本FDTDコードが金属微小体を含む複雑な構造の光学評価においても有効であることを示している。 第5章「理論解析による微小散乱体光ヘッドの高性能化」では、微小散乱体光ヘッドのさらなる高性能化に向けて、FDTDコードを用いた理論解析により各パラメータの影響を詳細に検討し、高性能化を可能にする条件を明らかにしている。 第6章「三角開口型光ヘッドの提案と理論解析評価」では、高出力・高分解能化を実現するもう一つの有力な光ヘッド構造として、開口を三角形状にした「三角開口型光ヘッド」を新規に提案している。さらに、FDTDコードを用いた理論解析によりその特性を解明し、本ヘッドが高出力・高分解能化を可能にすることを明らかにしている。 第7章「三角開口型光ヘッドの実験評価」では、第6章で提案した三角開口型光ヘッドについて、イルミネーションモードSNOMを利用した実験評価を行い、本ヘッドの有効性を実証している。さらに、実験結果と解析結果とを比較し、本FDTDコードがテーパ形状や三角形状を含む複雑な構造の光学評価においても有効であることを示している。 第8章「トラッキングヘッドの提案と理論解析評価」では、高精度トラッキングの実現に向けて、T字型の開口構成を成す「トラッキングヘッド」を新規に提案している。さらに、FDTDコードを用いた特性評価により、本ヘッドが高精度トラッキングに有効であることを明らかにしている。 第9章「高性能光ヘッド技術への展望」では、各章で得られた成果を基に総合的な考察を行い、高性能光ヘッド技術への展望を示している。 第10章「結論」では、結論を述べ、本論文を総括している。 以上のように、本論文では、高性能化を実現する複数の近接場光ヘッド構造を提案し、その有効性を理論検討と実験評価によって実証している。中でも、微小散乱体光ヘッドおよび三角開口型光ヘッドにより近接場光ヘッドの高出力化と高分解能化の両立を果たしたことは、近接場光記憶のみならず近接場光学全般に共通する原理的な課題を解決するものであり、その意義は非常に大きいものと認められる。さらに、本研究は理論解析結果と実験結果との比較検討により、FDTD法による数値解析手法が近接場光学の解析評価に極めて有効であることを示しており、近接場光学の理論解析分野において貴重な一例となるものである。したがって、本研究は、近接場光記憶はもとより、近接場光学顕微鏡や近接場露光などの近接場光学関連技術、および、近接場光学そのものの発展に大きく貢献するものと認められる。 なお、本論文は、板生清氏、保坂寛氏、大久保俊文氏、中島邦雄氏、光岡靖幸氏、大海学氏、新輪隆氏、市原進氏、宮谷竜也氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断される。 よって、本論文は博士(環境学)の学位を授与できるものと認められる。 | |
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