学位論文要旨



No 119516
著者(漢字) 洪,在成
著者(英字)
著者(カナ) ホン,ジェション
標題(和) 画像誘導による臓器運動補償型穿刺マニピュレータに関する研究
標題(洋) Image-guided Needle Insertion Instrument Adapted to Organ Motion and Deformation
報告番号 119516
報告番号 甲19516
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第64号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 土肥,健純
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 助教授 重松,宏
 東京大学 教授 佐久間,一郎
 東京大学 助教授 佐々木,健
内容要旨 要旨を表示する

背景

画像誘導手術は開腹せずに低侵襲で安全な手術を可能にする有効な方法で、近年多く用いられている。しかし呼吸、心拍、組織変形等により、術中に患部の位置と形状が変化することがあり、術前の画像だけを参考にして手術を行う場合、正確な治療部位の把握が困難である。そこで、本研究では術中画像を利用し実時間画像処理と制御を行うことによって臓器運動を補償する穿刺マニピュレータの開発を行う。

目的

本研究では移動または変形する対象に実時間対応可能な画像誘導穿刺マニピュレータの開発を行う。具体的には以下の通りである。

超音波画処理による同物体と針の認識

画像誘導に基づいた実時間フィードバック制御

経皮的穿刺用マニピュレータの製作

経皮的な穿刺治療のための穿刺経路の自動決定

穿刺の対象としては経皮的胆嚢ドレナージ(PTGBD)下での胆嚢とする.

方法

穿刺マニピュレータ

開発したマニピュレータは皮膚を通過する点が固定点となり、針の穿刺角度と,針の先端とターゲットまでの距離とを調節して穿刺経路を決める2自由度を有する。穿刺角度の調節は機械的に安全性が高い仮想球運動方式を用いている。駆動範囲が±15°で十分であるのため、ガイドレールの大型化の問題はない。針の進行は針とシリコンローラの摩擦力を利用し、小型で自由なストロークの確保を可能とした。針のスリップとベンディングの問題は以下で述べる視覚サーボによって補正することができる。

超音波画像認識

超音波画像は特有の劣化のため、対象の輪郭が鮮明でない場合がある。本研究で用いたアクティブコンチュア(Active Contour)とは画像自体の情報だけではなく適切なモデルを想定し。そのモデルの特性を同時に考慮して対象の輪郭を抽出する方法である。しかし、従来の方法は初期輪郭の設定状況によって収束過程に大きな影響を及ぼし、最終結果に誤差が生じる問題があった。本研究ではこの問題点を解決するために新たに運動適応型アクティブコンチュア(Motion-optimized Active-Contour)方法を提案した。これは輪郭の変化に加速と減速ファクター加え、収束速度の増加を図ると共に初期値の影響を多く受けない特徴を有する方法である。穿刺針の認識のためには穿刺針は超音波画像で直線に近く見えることから着目してハフ変換を用いている。

ビジュアルサーボによる制御

本研究ではターゲットの移動または変形に実時間に対応するためビジュアルサーボコントロールを用いて穿刺経路の実時間修正を行った。これによって術中画像から常に穿刺ターゲットと穿刺針の位置を把握し、穿刺経路の修正が実時間に行われる。従って、患者または術者の予測外の動作が発生しても変化したターゲットの位置に合わせて適切な穿刺経路を即時、定め直すことができる。

結果

本システムの評価のためにはファントム実験とボランティアによる胆嚢超音波画像実験、そして動物実験を行った。ファントムとしては直径3cmのゴム風船を用いた。ファントムを動かした際、穿刺針の先端が実時間にその重心を追従するように設定した。この実験で穿刺経路の更新頻度は最大7.7回/秒であった。また最終穿刺精度は3.0mmであった。胆嚢超音波画像実験では実時間胆嚢認識誤差が1.5mm以下であった。動物実験では、34kgのブタを用いて胆嚢と門脈を穿刺対象とした実験を行った。この実験で穿刺経路の更新頻度は約4回/秒であった。門脈穿刺の場合、穿刺精度は2.0mmであった。三つの実験で穿刺経路の更新頻度の差は主に穿刺対象の移動範囲と移動速度が異なることによるものと考えられる。

考察

本研究では穿刺ロボットの分野で今まで検討されなかった術中に起こる臓器運動による不正確な穿刺問題に対し、画像誘導を用いて臓器運動を補償する新しい方法を提案した。本研究で新たに提案した運動適応型アクティブコンチュア方法は呼吸性運動により、移動と変形を持つ胆嚢の実時間認識に有効な方法であることが実験からわかった。画像に基づいて実時間制御は他のセンサーを使うより、単純でありながらより正確な制御ができることを示した。今後の臨床応用のためには臓器の3次元運動に対応することと、針の撓みの問題を考慮する必要があると考える。

結論

本研究では移動または変形する対象に実時間対応可能な画像誘導穿刺マニピュレータの開発を行った。動物実験など評価実験と検証を行った結果、開発したシステムの経皮的穿刺治療への貢献可能性を確認した。

審査要旨 要旨を表示する

論文題目「Image-guided Needle Insertion Instrument Adapted to Organ Motion and Deformation」(画像誘導による臓器運動補償型穿刺マニピュレータに関する研究)の学位論文は、開腹せずに経皮的穿刺治療を行う際、超音波画像を用いてターゲットと針を自動認識し、穿刺を行う外科手術支援ロボットに関する研究論文である。本研究の成果として正確な穿刺の妨げとなりうる臓器運動に対し,実時間画像処理と制御によってその動きを補償し、正確な穿刺を行うマニピュレータの開発に成功している。

本論文は8章からなり、第1章では画像誘導手術において臓器運動の影響とその対策の必要性を述べ、第2章では本研究の目的として超音波画像誘導によって移動または変形する臓器に実時間対応可能な画像誘導穿刺マニピュレータの開発を行うことを述べている。第3章では開発したマニピュレータの構造と機構的特徴について述べ、第4章では胆嚢と穿刺針の認識のための画像処理方法について述べている。第5章では画像誘導に基くマニピュレータの制御について述べている。第6章では開発したシステムの性能評価のために行った実験とその結果について説明しており、第7章では本研究の工学的なまた医学的な効果と意味について考察を述べている。最後の第8章で結論を述べている。

開発したマニピュレータは2自由度を持っており、穿刺角度の調整のためには仮想球運動方式を、穿刺針の挿入のためには針とローラとの摩擦を用いた駆動方式を用いており、二次元平面上での安全で効率よい動作が実現できる構造となっている。

本研究では移動または変形する胆嚢に対し、実時間で精度の高いセグメンテーションを行っている。このために新たな方法である運動適応型アクティブコンチュア方法を提案しており、従来の方法では困難であった同物体に対して高精度の認識を実現し、その効果を証明している。針認識のためには基本的にハフ変換を用いているが、モータ制御用のパルスカウンタから運動学計算による針先の位置推定も同時に行っている。画像と運動学の相互利用により、組織の中に針が挿入され、画像で認識困難な場合でも信頼度の高い認識を実現している。

また、本システムではセンサなどを一切使用せず、画像から制御に必要なすべてのパラメータを求める視覚サーボによる制御を行っている。穿刺対象の移動や変形を画像で確認し、実時間フィードバックに基づいた穿刺経路の自動修正を実現している。

開発したマニピュレータの性能を評価するために三つの種類の実験を行っている。まず、胆嚢のモデルとなるゴムバルーンを穿刺対象として用いたファントム実験では、呼吸性運動に相当するファントムの実時間平行移動に対し、7回/秒以上の穿刺経路の更新に成功している。移動運動のみならず変形を持つ人の胆嚢を撮影した超音波画像を用いたボランティア実験では、開発した方法による実時間胆嚢認識を確認しており、1.5mmの認識精度を達成している。最後にブタを用いた動物実験では胆嚢と門脈に針先が実時間追従できることを確認しており、門脈穿刺の場合、穿刺経路の自動決定の後、針の手動挿入を行った結果として2mmの精度を達成している。

方法と評価実験の結果から、画像誘導手術において超音波画像処理の有効性が検証されており、臨床的に経皮的な穿刺治療において新たな手段としての可能性を持つと判断できる。次の研究課題として挙げられている臓器運動の3次元的な対応と針の撓み問題に関する対策が今後十分検討されることでさらに活用度が高い装置への発展が予想される。

本論文の結論として、開発した穿刺マニピュレータは術中起こる臓器運動に対し実時間対応が可能であることから、経皮的な穿刺治療において穿刺経路の自動設定と高精度の穿刺が実現でき、経皮的な穿刺治療のための有効な支援装置への発展可能性を述べている。

以上のように本論文では超音波画像を独創的な画像処理方法により処理し、実時間に胆嚢と針の認識を行い、穿刺経路の自動決定と高精度の穿刺を可能とする方法を開発した。開発した穿刺マニピュレータは近年多く行われている低侵襲手術を支援する新たな装置として発展することが期待される。

なお、本論文は、九州大学の橋爪誠 教授、小西晃造 先生、東京大学の土肥健純 教授、波多伸彦 講師との共同研究であるが、論文提出者が主体となって開発及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。

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