学位論文要旨



No 119525
著者(漢字)
著者(英字) TAN,ROBBY TANTOWI
著者(カナ) タン,ロッビタントウィ
標題(和) 照明光源色と物体固有の表面特性 : 物理学に基づく単一画像からの色の解析
標題(洋) Illumination Color and Intrinsic Surface Properties : Physics-based Color Analyses from a Single Image
報告番号 119525
報告番号 甲19525
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第6号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 コンピュータ科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 助教授 須田,礼仁
 東京大学 講師 五十嵐,健夫
 東京大学 教授 相澤,清晴
 大阪電気通信大学 教授 富永,昌二
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,“Illumination Color and Intrinsic Surface Properties - Physics-based Color Analyses from a Single Image -”(照明光源色と物体固有の表面特性 ---物理学に基づく単一画像からの色の解析---)と題し,6章からなっている.

対象物の表面色を環境に依存しない形で表現することは,コンピュータビジョンの多くの応用で必要とされる重要な課題である.一般に,実世界では,同一物体であっても観測される表面色は常に同じとは限らない.観測される色は主に,照明光のスペクトル分布(照明光源色)と物体固有の特性によって決定される.したがって,物体の表面色を正しく表現するためには,これら二種類の要素を正しく扱う必要がある.照明光の解析には,照明が変化しても人間にとって色の見えは大きく変わらないといういわゆる色恒常性(カラーコンスタンシー)の理論が用いられる.一方,物体固有の特性の解析とは,ハイライトのある画像から真の物体色を復元することと等価である.均一でない不透明物体の表面上では,観測視点や照明光源の位置が変化するたびにハイライトが変化するため,物体色の正しい表現のためにこの復元は重要である.

この博士論文は2つの内容に分割できる:(1)照明光源色推定(カラーコンスタンシー)と,(2)反射成分の分離,である.照明光源色推定(第一部)では,均一でない不透明物体上のハイライト(鏡面反射光)の解析に基づく色恒常性の解析手法を提案する.我々は,観測画像の色相と照明光の色相の間の線形相関関係を導き出すことに成功した.我々が新たに提案した「逆輝度-色相空間」(輝度の逆数と色相を軸とする空間)と呼ぶ2次元空間上で,この線形相関関係を示すことができる.この新しい色空間を用いることにより,統一的なフレームワークで,単一または複数色のテクスチャを持つ物体表面の照明光の色相(色)を効率よく推定することが可能となり,それゆえ,既存手法と比べて優れた手法となっている.この線形相関関係により提案手法には,鏡面反射光の解析に基づく既存手法と異なりハイライト部分の領域分割を必要としないという利点がある.この手法は第2章で詳しく述べられている.第3章では,逆輝度-色相空間を拡張して,複数色を持つ照明光源色の問題を取り扱う.我々は,逆輝度-色相空間とHough空間での分布の解析に基づく反復法を提案する.この手法は照明光源色の数が未知の場合にも適用可能である.

第二部では,拡散反射と鏡面反射を分離する問題を取り扱う.均一でない非誘電体では,ハイライトは物体表層での拡散反射と物体表面での鏡面反射の線形結合となる.拡散反射と異なり,鏡面反射の色相は視点と光源位置に応じて変化する.そこで,物体色を表現するためには,観測画像から二つの反射成分を分離して拡散反射成分を決定すればよい.この分離手法として二つの異なる手法を開発した.一つは,色相と画像ノイズの解析に基づく分離手法である.我々は,画像の色相を解析し,鏡面→拡散メカニズムを開発し,反射成分分離の問題を拡散反射成分の色相を探す問題に帰着させた.また,現在のカメラで観測した全ての画像にはノイズが発生するため,この分離手法にはノイズ解析も付け加えている.この分離手法の詳細は第4章に記されている.二つ目の分離手法は,反復計算と鏡面反射消去画像に基づくものである.鏡面反射消去画像とは,鏡面反射成分が無くなるように生成された画像であるが,入力画像とは異なる拡散反射成分を持つものである.我々のフレームワークは二つのステップからなる:鏡面反射成分の低減と拡散反射成分の検証である.鏡面反射成分の低減は基本的に鏡面→拡散機構に基づき,拡散反射成分の検証は鏡面反射消去画像に基づく.この2番目の手法の詳細は第5章に示されている.

本論文で提案するカラーコンスタンシーと反射成分の分離手法は実世界における物理法則の解析に基づいており,したがって評価が正確であると同時に,強い理論的基礎を持つ.提案する全ての手法は,計測画像一枚だけから推定を行うことが可能である.これは実用的であるばかりでなく,計算量の点からも難解だが興味のある問題である.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,“Illumination Color and Intrinsic Surface Properties - Physics-based Color Analyses from a Single Image -”(照明光源色と物体固有の表面特性 ---物理学に基づく単一画像からの色の解析---)と題し,6章からなっている.

対象物の表面色を環境に依存しない形で表現することは,コンピュータビジョンの多くの応用で必要とされる重要な課題である.一般に,実世界では,同一物体であっても観測される表面色は常に同じとは限らない.観測される色は主に,照明光のスペクトル分布(照明光源色)と物体固有の特性によって決定される.したがって,物体の表面色を正しく表現するためには,これら二種類の要素を正しく扱う必要がある.照明光の解析には,照明が変化しても人間にとって色の見えは大きく変わらないといういわゆる色恒常性(カラーコンスタンシー)の理論が用いられる.一方,物体固有の特性の解析とは,ハイライトのある画像から真の物体色を復元することと等価である.均一でない不透明物体の表面上では,観測視点や照明光源の位置が変化するたびにハイライトが変化するため,物体色の正しい表現のためにこの復元は重要である.

この博士論文は2つの内容に分割できる:(1)照明光源色推定(カラーコンスタンシー)と,(2)反射成分の分離,である.照明光源色推定(第一部)では,均一でない不透明物体上のハイライト(鏡面反射光)の解析に基づく色恒常性の解析手法を提案する.我々は,観測画像の色相と照明光の色相の間の線形相関関係を導き出すことに成功した.我々が新たに提案した「逆輝度-色相空間」(輝度の逆数と色相を軸とする空間)と呼ぶ2次元空間上で,この線形相関関係を示すことができる.この新しい色空間を用いることにより,統一的なフレームワークで,単一または複数色のテクスチャを持つ物体表面の照明光の色相(色)を効率よく推定することが可能となり,それゆえ,既存手法と比べて優れた手法となっている.この線形相関関係により提案手法には,鏡面反射光の解析に基づく既存手法と異なりハイライト部分の領域分割を必要としないという利点がある.この手法は第2章で詳しく述べられている.第3章では,逆輝度-色相空間を拡張して,複数色を持つ照明光源色の問題を取り扱う.我々は,逆輝度-色相空間とHough空間での分布の解析に基づく反復法を提案する.この手法は照明光源色の数が未知の場合にも適用可能である.

第二部では,拡散反射と鏡面反射を分離する問題を取り扱う.均一でない非誘電体では,ハイライトは物体表層での拡散反射と物体表面での鏡面反射の線形結合となる.拡散反射と異なり,鏡面反射の色相は視点と光源位置に応じて変化する.そこで,物体色を表現するためには,観測画像から二つの反射成分を分離して拡散反射成分を決定すればよい.この分離手法として二つの異なる手法を開発した.一つは,色相と画像ノイズの解析に基づく分離手法である.我々は,画像の色相を解析し,鏡面→拡散メカニズムを開発し,反射成分分離の問題を拡散反射成分の色相を探す問題に帰着させた.また,現在のカメラで観測した全ての画像にはノイズが発生するため,この分離手法にはノイズ解析も付け加えている.この分離手法の詳細は第4章に記されている.二つ目の分離手法は,反復計算と鏡面反射消去画像に基づくものである.鏡面反射消去画像とは,鏡面反射成分が無くなるように生成された画像であるが,入力画像とは異なる拡散反射成分を持つものである.我々のフレームワークは二つのステップからなる:鏡面反射成分の低減と拡散反射成分の検証である.鏡面反射成分の低減は基本的に鏡面→拡散機構に基づき,拡散反射成分の検証は鏡面反射消去画像に基づく.この2番目の手法の詳細は第5章に示されている.

本論文で提案するカラーコンスタンシーと反射成分の分離手法は実世界における物理法則の解析に基づいており,したがって評価が正確であると同時に,強い理論的基礎を持つ.提案する全ての手法は,計測画像一枚だけから推定を行うことが可能である.これは実用的であるばかりでなく,計算量の点からも難解だが興味のある問題である.

以上これを要するに、本論文は、コンピュータビジョンにおける、照明光源色推定(カラーコンスタンシー)と,反射成分の分離に関して、極めて有意義な成果を得ている。

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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