学位論文要旨



No 119552
著者(漢字) 金,泰賢
著者(英字)
著者(カナ) キム,テホン
標題(和) 常温ウエハ直接接合のためのシーケンシャル活性化プロセス
標題(洋) Sequential Activation Process for Wafer Direct Bonding at Room Temperature
報告番号 119552
報告番号 甲19552
学位授与日 2004.04.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5846号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 伊藤,寿浩
 東京大学 助教授 日暮,栄治
内容要旨 要旨を表示する

 本研究では、シリコン材料を中心としてシーケンシャル活性化プロセスによるウェハ常温直接接合が可能であることを示した。シーケンシャル活性化プロセスを用いたウェハ常温直接接合を実現させるため、電磁波放電プラズマ装置を改良し、高エネルギのイオンを中心としたプラズマ活性化処理と化学的反応性が高いラジカルを中心とした活性化処理を一つのチャンバーで個別に行うことが出来る装置を開発した。これにより活性化処理の自由度が高くなり、最適化された条件を探すのが可能となった。さらに、シリコンのみではなく、熱酸化膜、水晶、水晶ガラスなどの材料ついても本接合手法が適用されることが可能であることを示した。

 一般的に各ウェハの接合面を親水化処理して重ね会わせるだけで、接合面原子同士の原子間引力により接合することができる。この場合、接合界面には水分子による水素結合が形成されお互いの表面を引っ張っている。常温で形成された水素結合による接合表面では十分な強度が得られないため、800℃程度での高温熱処理を必要となる。高温での加熱により接合界面の水分子が拡散し、形成された弱い水素結合は共有結合になり、強固な接合界面が形成される。しかしながら、高熱によって電子回路が劣化する可能性があり電子回路が形成されたウェハ接合には適用が制限される。また、微細可動構造の変形や熱膨張系数の違う異種材料の接合界面での亀裂発生などが避けられない問題となる。このため、ウェハ直接接合接合において、熱処理の低温化は重要な課題である。

 低温で強固な接合界面が得られる接合手法として、表面活性化法(Surface Activated Bonding:SAB)が提案されて来た。この方法では、ウェハ表面の酸化物や吸着物質をアルゴンビームによるスパッタエッチングを行って除去し、接合する。室温で様々な材料が接合が可能であるとが証明された。しかし、表面活性化法では必ず超高真空の雰囲気を必要とし、酸化物系の接合は容易ではないと報告されている。一方、接合の低温化のため、他の手法としてプラズマを用いた接合手法の研究が進んで来た。プラズマ活性化手法はプラズマをウェハ表面に照射し活性化層を形成させて接合する手法である。この方法では、超高真空雰囲気ではなく大気中でも接合が可能である。しかしプラズマ活性化手法では、常温での強固な接合界面が得られないため200℃-400℃程度の熱処理が必要とする。従来の接合手法と比べて低温での接合が可能であるが、この程度の温度でも熱による問題が十分発生する可能性がある。本研究では熱処理による問題を避けるため、常温で強固な接合界面が得られるプラズマ活性化工程開発を目標とした。そのため、シーケンシャル活性化プロセスを提案した。また、常温で強固な接合界面が得られる最適条件を探すためプラズマ処理方法が接合強度に与える影響に関する検討を行った。

 電磁波プラズマ発生装置を改良し、電磁波プラズマ、ラジカルReactive Ion Etching(RIE)プラズマの三種類の照射が一つの装置で行えるにした。電磁波プラズマは2.45GHzの電源によって投入ガスが処理室で放電され発生する。ラジカルの場合、電磁波プラズマを発生させて金属盤でイオンを閉じ込めた後、直径1mmの金属盤の穴を通じてラジカルだけを処理室に投入させる。RIEプラズマはラジオ周波数(radio frequency:RF、13.56MHz)電源よってRF電極と金属盤の間に放電させて発生させる。

 まず8インチのシリコンウェハにおいて酸素の電磁波プラズマに関する検討を行った。シリコン表面(100)に10-600秒間の電磁波プラズマ照射の後、真空中や大気中で接合を行った。調べた結果、常温での接合界面は非常に弱く、引っ張り試験の準備過程で接合試料が分離し、接合強度を測定するのが不可能であった。400℃まで熱処理を行ったが十分な接合強度が得られなかった。酸素ラジカルに関する検討も行った。電磁波プラズマと同様に酸素ラジカルの照射後、真空や大気中での接合を行った。接合強度を調べた結果、常温では十分な接合界面強度が室温で得られなかった。酸素の電磁波プラズマとラジカルの照射後、シリコン表面に水を塗れて接合して200℃で7時間の熱処理を行った結果、9MP程度の接合強度が得られた。しかし、水に塗られた表面同士の接合の場合、表面に残った多量の水によってウェハ表面に形成された微細構造や電子回路の劣化が懸念さえる。このため、水を使わずプラズマ処理だけでウェハを低温で接合するドライプロセスが必要である。

 水を使わず低温でシリコンウェハを接合させるため酸素ラジカル処理だけではなく室素ラジカルの照射工程を加えた。シリコンウェハの表面に酸素ラジカルを60秒間照射した後、室素ラジカル照射を60秒間行った。表面に酸素ラジカルと室素ラジカルを順次に照射した後、真空や大気雰囲気でウェハ表面を接合した。調べた結果、真空の中で接合された試料は400℃での熱処理後も十分な接強度が得られなかった。一方、大気雰囲気で接合された試料は室温での接合では強固な接合は不可能であったが、150℃の熱処理後15MP程度の比較的に強固な接合界面が得られた。酸素ラジカルと室素ラジカルのシーケンシャル活性化プロセスによって熱処理の低温化が可能となった。

 酸素RIEプラズマと室素ラジカルのシーケンシャル活性化プロセスでシリコンウェハ同士の接合を行った。シーケンシャル活性化のためウェハ表面に60秒間の酸素RIEプラズマ照射後、60秒間の室素ラジカルを照射した。照射後、接合は真空や大気雰囲気で行った。調べた結果、真空では十分な接合強度が得られなかった。しかし、大気中では強固な常温接合が可能であることが明らかになった。その接合界面強度はシリコン母材に匹敵するほど強固であった。酸素RIEプラズマ照射だけによる接合では5-16MP程度の接合強度であったが、室素ラジカル照射を加えることによって接合強度が急激に増加した。シーケンシャル活性化プロセスよって接合した試料の場合、引っ張り試験の結果、接合界面ではなくシリコン母材で破断が起きた。このため、正確な接合強度の測定は困難であった。シリコン母材は25-30MPaの引張力で破断した。この手法で形成された接合界面を透過型電子顕微鏡で調べた結果、接合界面に厚さ15nm程度の非晶質の中間層の存在が確認された。この中間層にはマイクロボイドなどの未接合部が存在しないことを確認した。

 シーケンシャル活性化プロセスの接合メカニズムを理解するためXPSや赤外線カメラによるウェハ表面と界面の分析を行った。XPSの表面観察では、酸素RIEプラズマと室素ラジカルの照射によってシリコンウェハ表面には熱力学的に不安定なSiOxNy層が形成されることが確認された。赤外線カメラ観察では、シーケンシャル活性化後多量の水分子がシリコン表面に吸着していることが確認された。吸着された水分子は接合界面間に長い水素結合を形成する。この水分子はシリコンバルクの中に拡散することによってウェハ表面間距離が減少すると予想される。その結果、シリコンウェハ両面に形成されていたSiOxNy層同士に共有接合が形成されると考えられる。この結合反応によって常温で強固な接合界面が得られると考えられる。シーケンシャル活性化プロセスを用いて、シリコン熱酸化膜、水晶、水晶ガラス材料について接合実験を行った。その結果、常温で接合された試料の界面は母材に匹敵するほど強固であった。

 ウェハ直接接合には微細機械製造、集積回路のパッケージング、光デバイスや高性能半導体基板の作製など、様々な応用分野があり、今後このウェハ接合手法は高性能電子デバイス開発に重要な役割を果たすことが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、ウェハ直接接合は接着材などを使わず二つのウェハを接合する新たな手法を提案したものである。ウェハ直接接合には微細機械製造、集積回路のパッケージング、光デバイスや高性能半導体基板の作製などの様々な応用分野があるが、従来の手法では、ウェハの接合面を親水化処理して重ね会わせ接合していた。しかし、この方法では、十分な強度が得られないため、800℃程度での高温熱処理を必要となる。しかしながら、高熱によって電子回路が劣化する可能性があり電子回路が形成されたウェハ接合には適用が制限される。また、微細可動構造の変形や熱膨張系数の違う異種材料の接合界面での亀裂発生などが問題となる。このため、ウェハ直接接合接合において、熱処理の低温化は重要な課題である。これに対し、本研究では熱処理による問題を避けるため、常温で強固な接合界面が得られるプラズマ活性化工程開発を目標とし、その結果として、シーケンシャル活性化プロセスを提案した。この手法は、酸素RIEプラズマと室素ラジカルのシーケンシャルプロセスに基づくものであり、シリコンウェハ同士のみならず、水晶や石英ガラスの強固な接合が常温で可能であることを示した。また、その接合メカニズムをXPS等の実験的手法により明らかにした。本審査会では、以上の内容の詳細が、論文提出者により適切な発表資料を用いて、制限時間内に明確に行われた。予備審査の際に指摘されたいくつかの問題点、すなわち、接合面のバブル発生のメカニズムとその抑制方法、界面電気抵抗の発生のメカニズム等について、新たな考察がされており、本論文および発表がその結果を踏まえて適切に修正されていることを確認した。論文提出者の発表に対する質疑応答では、主に、界面の形成メカニズムに関する議論が行われた。この過程で、本手法が、シリコンのオキシナイトライド化とダングリングボンドの増加による接合であることが明確にされた。本手法により、表面活性化の常温接合の可能性が飛躍的に増加したこと、従来の方法にはない独創的な着想に基づくこと、界面形成の新しいメカニズムを明らかにしたこと、将来のMEMSパッケージへの適用など産業界への波及効果も大きいことなど、から、本研究で得られた工学的知見は極めて大きく、また、工学の発展に寄与するところは多大である。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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