学位論文要旨



No 119559
著者(漢字) 劉,婷婷
著者(英字) Liu,Ting-Ting
著者(カナ) リュウ,テイテイ
標題(和) 融合細孔を介したシナプス様小胞の開口放出とエンドサイト-シス
標題(洋) Fusion pore-mediated exocytosis and endocytosis of small vesicles
報告番号 119559
報告番号 甲19559
学位授与日 2004.04.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2363号
研究科 医学系研究科
専攻 機能生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高橋,智幸
 東京大学 助教授 中田,隆夫
 東京大学 助教授 金井,克光
 東京大学 講師 野田,泰子
 東京大学 講師 山口,正洋
内容要旨 要旨を表示する

要旨

 神経伝達物質の放出は、脳の機能におけるもっとも重要な側面である。伝達物質が貯蔵された小胞の膜と細胞膜が融合することによって形成される融合細孔は、開口放出の中心的な役割を持つと考えられている。これまで、大型有髄小胞(Large dense-corevesicle、LV)については、膜容量測定法とアンペロメトリー法など電気生理学的な手法により細孔の直径や性質を解析がなされているが、シナプス様小胞に至っては信頼に足りうる測定はなされていない。さらに、これらの方法によっては、細孔が閉じた後の小胞の運命に関する情報を追うことはできない。例えば、シナプス小胞のリサイクルに重要な役を果すと思われるKiss-and-runエンドサイト-シスにおいて、融合細孔が形成され小胞が取り込まれた後の小胞の動態については、殆ど知見が得られていない。また、ニューロン以外の細胞においても、シナプス様小胞(small synaptic-like microvesicles)が存在しており、これらの小胞がもつ機能についても未だ不明である。

 そこで、われわれは、シナプス様小胞とLarge dense-core vesicleを持つPC12細胞を用いて、開口放出前後の小胞の動態と融合細孔との関わりを、我々が開発したTEPIQ法(two-photon excitation of extracellular polar tracers for imaging and quantitation)と膜容量測定法と電子顕微鏡法によって解析を行なった。二光子励起顕微鏡を用いて細胞外に存在させた蛍光色素の独特な組み合わせによって行なうTEPIQ法は、開口放出やエンドサイト-シスが盛んに起きる細胞間隙での観察に適し、分泌小胞の大きさや融合細孔の直径をナノメートル単位で計測することができる。我々はこの新しい測定法を用いて、PC12細胞に存在するLarge dense-core vesicleの直径を生きた細胞において160nmと計測し、LVがcompoundな開口放出を起こしていることを見出した。さらに、シナプス様小胞ではTEPIQ法により、直径1.6nm以下の融合細孔が一時的に形成されることによって細胞膜と融合することがわかり、膜容量測定法によって融合細孔は2s以内に閉じることが分かった。また、開口放出を起こした小胞とエンドサイト-シスによって取り込まれた小胞が共に直径50nmの大きさであったことから、小胞が平滑化することなくエンドサイト-シスされていることが示された。加えて、この融合細孔を介したエンドサイト-シスはGTPaseに非依存的であったことから、Kiss-and-runエンドサイト-シスと考えられた。このエンドサイト-シスされたシナプス様小胞は、細胞膜近傍に局在し、細胞内の深部のエンドソームやリソソームに取り込まれことをTEPIQ法と電子顕微鏡法によって明らかにした。また、対照的に、clathrinコートを必要とするconstitutive endocytic vesicleの直径は80nmであり、非加水分解性GTP-γ-Sによってエンドサイト-シスは阻害された。

 以上の結果から、PC12細胞におけるシナプス様小胞のカルシウム依存性開口放出は、融合細孔が、その後のエンドサイト-シスを密接に制御していることが明らかとなった。また、我々が開発したTEPIQ法は、生きた状態の細胞内における光学分解能以下の微小な小胞の動態や大きさ、融合細孔の大きさを測定できることから、細胞生物学分野において非常に有用な方法であると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、神経伝達や分泌細胞の細胞機能を担うカルシウム依存性開口放出前後のsmall vesicleの動態とfusion poreの性質を解明する目的で、シナプス様小胞とLarge dense-core vesicleを持つPC12細胞を用いて、膜容量測定法、二光子励起顕微鏡法と電子顕微鏡法によって解析を行い、下記の結果を得ている。

1.脂質膜に特異的に染色する蛍光色素FM1-43を用い、膜容量測定法と同時測定によってカルシウム依存性開口放出を解析した結果、異なる小胞の開口放出と細胞内への回収による二相性のexocytosisとendocytosisが明らかになった。放出されたシナプス様小胞small vesicleは素早くほぼ全量に回収され、fusion poreが2秒以内に閉じたことが示唆された。FM1-43を用いた蛍光測定法は、膜容量測定法と遜色しない高い時間分解能があり、組み合わせて用いることでendocytosisとexocytosisを分離して定量することができた。

2.二光子励起顕微鏡を用いて細胞外に存在させた蛍光色素の独特な組み合わせによって行なうTEPIQ法を開発した。TEPIQ法は、開口放出やエンドサイト-シスが盛んに起きる細胞間隙での観察に適し、空間分解能以下にもかかわらず、分泌小胞の大きさや融合細孔の直径をナノメートル単位で計測できる方法である。この新しいTEPIQ(△V-TEPIQ、△S-TEPIQ、△V/△S-TEPIQ)測定法を用いて、PC12細胞に存在するLarge dense-core vesicleの直径を生きた細胞において約160nmと計測し、LVがsequential compoundな開口放出を起こしていることを見出した。

3.さらに、シナプス様小胞では、△V/△S-TEPIQ法により、開口放出を起こした小胞とエンドサイト-シスによって取り込まれた小胞が共に直径50nmの大きさであったことから、小胞が平滑化することなくエンドサイト-シスされていることが示された。また、異なる分子サイズを持つ蛍光色素を用いて調べた結果、シナプス様小胞が直径1.6nm以下の融合細孔を一時的に形成することによって細胞膜と融合することが分かった。加えて、この融合細孔を介したエンドサイト-シスはGTPaseに非依存的であったことから、Kiss-and-runエンドサイト-シスと考えられた。

4.このエンドサイト-シスされたシナプス様小胞は、細胞膜近傍に局在し、細胞内の深部のエンドソームやリソソームに取り込まれことをTEPIQ法と電子顕微鏡法によって明らかにされた。また、対照的に、clathrinコートを必要とするconstitutive endocytic vesicleの直径は80nmであり、非加水分解性GTP-γ-Sによってエンドサイト-シスは阻害された。

 以上の結果から、新たに開発されたTEPIQ法は、生きた状態の細胞内における光学分解能以下の微小な小胞の動態や大きさ、融合細孔の大きさを測定できることから、細胞生物学分野において非常に有用な方法であると考えられる。また、PC12細胞におけるシナプス様小胞のカルシウム依存性開口放出は、融合細孔が、その後のエンドサイト-シスを密接に制御していることが明らかとなった。これらの結果は、神経終末と分泌細胞における開口放出に対する重要な知見を与えるものであり、学位の授与に値するものと考えられる。

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