学位論文要旨



No 119574
著者(漢字) 鈴木,正
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,タダシ
標題(和) オブジェクト指向に基づいた次世代のマルチメディアコンテンツモデルに関する研究
標題(洋)
報告番号 119574
報告番号 甲19574
学位授与日 2004.05.20
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5849号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安田,浩
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 教授 堀,浩一
 東京大学 教授 西田,豊明
 東京大学 助教授 広田,光一
 東京大学 講師 青木,輝勝
内容要旨 要旨を表示する

 近年,インターネットの普及,ブロードバンド化が進んでいる.また,パーソナルコンピュータの普及と高性能化も進んでいる.このような背景の中でマルチメディアコンテンツが広く利用されるようになりつつある.しかしながら,一方で,パーソナルコンピュータの性能がそれほど高くなく,また,ネットワークの帯域幅の制限などによりコンテンツの流通量が大きくなかった時には問題視されていなかった問題が指摘されるようになっている.それらの問題の中にはコンテンツそのものに起因する問題,あるいはコンテンツを提供,管理するコンテンツ周辺のシステムの問題,あるいは社会的な法律の整備などによって解決すべき問題など多岐に渡るが,主としてコンテンツそのものに関する問題として以下のものが挙げられている.

●コンテンツを作成するのが困難

●ユーザに適した形で提供するのが困難

●著作権管理をするのが困難

 容易なコンテンツの作成はコンテンツクリエータの要求である.既存の様々なコンテンツをコンテンツクリエータ自身が作成するコンテンツの素材として利用したい,また,コンテンツクリエータ自身が作成したコンテンツが素材として他のコンテンツクリエータに利用された場合においても自身のコンテンツの最新の状態を容易に反映したいという要求が顕著化している.ユーザニーズ最適化はコンテンツプロバイダの要求である.コンテンツを再生目的で利用するエンドユーザに加え,コンテンツを新たに作成するコンテンツの素材として2次利用することを希望するコンテンツクリエータに対しても最適な形で提供したいという要求が顕著化している.著作権管理はコンテンツホルダの要求である.著作権管理はマルチメディアコンテンツをビジネスを前提に流通させる上で特に重要視される要求である.既存の方式はこれらの問題をそれぞれ個別に解決し,容易なコンテンツの作成,ユーザニーズ最適化,著作権管理のすべての要求を同時に達成することができない.これら3要求は,コンテンツクリエータ,コンテンツプロバイダ,コンテンツホルダの要求であり,コンテンツのライフサイクルの中で等しく重要である.本論文ではこのような状況を踏まえて,コンテンツが広く流通する社会を実現するためにこれら3要求を同時に満たすことができる新たなコンテンツモデルの構築が必要不可欠と考え,次世代のマルチメディアコンテンツモデルの構築を研究課題として設定した.

 第一章は「序論」であり,従来のマルチメディアコンテンツ及び関連アプリケーションの概要とそれらの問題点を,コンテンツクリエータ,コンテンツプロバイダ,コンテンツホルダの立場から述べ,挙げられた問題が,コンテンツのライフサイクルにおいて等しく重要であることを示している.

 第二章は「次世代コンテンツの要求項目と既存方式の分析」と題し,第一章で挙げた問題を解決するために必要な項目を,再利用可能性,更新可能性,エンドユーザニーズ適応可能性,クリエータニーズ適応可能性,参照可能性,保護可能性として細分化し,それぞれの要求項目について詳細に述べている.次に,これらの要求項目を満たすコンテンツモデルを,次世代のコンテンツモデルとして定義し,これまでに提案されてきたコンテンツモデル及び関連アプリケーションの,特徴と問題点を示している.分析の結果,既存研究・提案の主たる問題点が,コンテンツクリエータ,エンドユーザ,あるいはコンテンツホルダのいずれかの問題を,単独で解決することに特化しているため,要求項目を同時に満たすことができない点であることとしている.

 第三章は「オブジェクト指向に基づくコンテンツモデルの設計」と題し,第二章で挙げた要求項目を満たす次世代のコンテンツモデルとして,MCOM(Multimedia Content Object Model)を提案している.提案するコンテンツモデルは,要求項目を満たすために,オブジェクト指向技術を基に,階層構造,分散配置,サーバ側編集,実行時編集という特徴をもつオブジェクトとして実現されている.

 第四章は「Javaを用いたコンテンツフレームワークの開発」と題し,第三章で述べた次世代コンテンツモデルの実装である,MCOMフレームワークについて述べている.MCOMフレームワークは,Java言語を用いた実装であり,インターネット上に分散配置可能なように設計されている.この章では実際にコンテンツを作成しその結果を示すと共に,フレームワークの特徴であるサブクラスによる拡張を行い,その有用性についても示している.

 第五章は「高度な機能とフレームワークの運用モデルの設計」と題し,MCOMフレームワークが広く利用されるためのより高度な機能である通知機能の設計と,Webサービスを用いた実装のための設計について示した.また,バージョンアップなど,アプリケーションフレームワークを進化させていくために,MCOMのモデルとそのフレームワークに関係するアクタを洗い出し,その役割を設計した.また,フレームワークに関連する変更の種類を分類・列挙し,その影響度について述べ,MCOMのフレームワークが通常想定される変更においてはオブジェクト指向の特徴であるポリモーフィズムによって,フレームワークに関係する他の多くのアクタに影響を及ぼすことなく進化可能であることを示した.

 第六章は「まとめ」であり,本論文の研究成果をまとめ,残された課題や今後の研究の方向性について整理している.

 本論文では,次世代のマルチメディアコンテンツに求められる要件を,再利用,ユーザニーズ最適化,著作権管理とし,それを満たすコンテンツモデルMCOMを提案し,MCOMに従ってコンテンツを作成することにより,階層構造,分散配置,サーバ側編集,実行時編集という特徴をもつコンテンツを作成可能とし,上記要件を満たすことが可能であることを示した.

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、「オブジェクト指向に基づいた次世代のマルチメディアコンテンツモデルに関する研究」と題し、従来ディジタルコンテンツを広くインターネット等で広く流通させる際に問題として指摘されてきた点、具体的には、

 (1)コンテンツを作成・再利用するのが困難

 (2)ユーザに適した形で提供するのが困難

 (3)著作権管理をするのが困難

を同時に解決することを目的とした、新しいマルチメディアコンテンツモデルを構築し、試作することによりその有効性を示したものである。

 本論文は以下の通り構成されている。

 第一章は、「序論」であり、従来のマルチメディアコンテンツ及び関連アプリケーションの概要とそれらの問題点を、コンテンツクリエータ、コンテンツプロバイダ、コンテンツホルダの立場から述べ、挙げられた問題がコンテンツのライフサイクルにおいて等しく重要であることを示している。

 第二章は、「次世代コンテンツの要求項目と既存方式の分析」と題し、第一章で挙げた問題を解決するために必要な項目を、(1)再利用可能性、(2)更新可能性、(3)エンドユーザニーズ適応可能性、(4)クリエータニーズ適応可能性、(5)参照可能性、(6)保護可能性、として細分化し、それぞれの要求項目について詳細に述べている。次に、これらの要求項目を満たすコンテンツモデルを、次世代のコンテンツモデルとして定義し、これまでに提案されてきたコンテンツモデル及び関連アプリケーションの、特徴と問題点を示している。分析の結果、既存研究・提案の主たる問題点が、コンテンツクリエータ、エンドユーザ、あるいはコンテンツホルダのいずれかの問題を、単独で解決することに特化しているため、要求項目を同時に満たすことができない点であることとしている。

 第三章は、「オブジェクト指向に基づくコンテンツモデルの設計」と題し、第二章で挙げた要求項目を満たす次世代のコンテンツモデルとして、マルチメディアコンテンツオブジェクトモデル(以下MCOM:Multimedia Content Object Model)を提案している。提案するMCOMは、要求項目を満たすためにオブジェクト指向技術を基に、階層構造、分散配置、サーバ側編集、実行時編集という特徴をもつオブジェクトとして実現されている。

 第四章は、「Javaを用いたコンテンツフレームワークの開発」と題し、第三章で述べたMCOMの実装である、MCOMフレームワークについて述べている。MCOMフレームワークは、Java言語を用いた実装であり、インターネット上に分散配置可能なように設計されている。この章では、実際にコンテンツを作成しその結果を示すと共に、フレームワークの特徴であるサブクラスによる拡張を行い、その有用性についても示している。

 第五章は、「高度な機能とフレームワークの運用モデルの設計」と題し、MCOMフレームワークが広く利用されるためのより高度な機能である通知機能の設計と、Webサービスを用いた実装のための設計について示している。また、バージョンアップなどアプリケーションフレームワークを進化させていくために、MCOMとそのフレームワークに関係する機能要素を洗い出し、その役割を設計した。また、フレームワークに関連する変更の種類を分類・列挙し、その影響度について述べ、MCOMフレームワークが通常想定される変更においては、オブジェクト指向の特徴であるポリモーフィズムによって、フレームワークに関係する他の多くの機能要素に影響を及ぼすことなく、進化可能であることを示している。

 第六章は、「まとめ」であり、本論文の研究成果をまとめ、残された課題や今後の研究の方向性について整理している。

 以上のように本論文では、次世代のマルチメディアコンテンツに求められる要件を、作成・再利用容易化、ユーザニーズ最適化、著作権管理とし、それを満たすコンテンツモデルMCOMを提案し、MCOMに従ってコンテンツを作成することにより、階層構造、分散配置、サーバ側編集、実行時編集という特徴をもつコンテンツを作成可能とし、上記3要件を満たすことが可能であることを示したものであり、その概念提唱から具体的な実現方式の提案、さらには試作システムの構築まで一括して研究開発を進めた成果は、本分野に著しく貢献するものとして高く評価できる。

 よって著者は東京大学大学院工学系研究科における博士(工学)の学位論文審査に合格したものと認める。

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