学位論文要旨



No 119578
著者(漢字) 江並,和宏
著者(英字)
著者(カナ) エナミ,カズヒロ
標題(和) 球のナノメートル三次元変位測定に関する研究
標題(洋)
報告番号 119578
報告番号 甲19578
学位授与日 2004.06.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5850号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 小林,郁太郎
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 太田,順
 東京大学 助教授 高橋,哲
内容要旨 要旨を表示する

 工業にとって位置測定,形状測定は必要不可欠なものであり,その高精度化の研究は長年にわたって続けられてきている.結果,形状,位置共に,ナノメートル,サブナノメートルオーダでの測定が可能となっている.しかし,このような高精度の測定は1次元方向のみの測定となっており,測定対象物が導電性を持たねばならない等,測定対象に制限を加えるものも多い.しかし,工業部品の材質は多岐にわたり,またその測定も三次元的な測定を必要とするため,従来の高精度測定のみでは対応できない.そこで,高精度で三次元的な測定可能であり,なおかつ測定対象の制限の少ない汎用性をもった測定手法が求められている.しかし,このような測定は困難であるのが現状である.

 現状で,例えば三次元変位を同時に高精度に測定するためには,独立な3方向にそって高精度の測定をおこなう必要がある.高精度測定としてレーザを測量に用いる場合には3方向からレーザを測定対象に照射する方法が考えられる.しかし,これは以下のような困難を生じる.

1)三本のレーザを照射,受光するため装置が大型になる

2)独立した方向をもつ三本のレーザと測定対象が干渉してはならないため測定対象の設置が困難

3)装置の複雑化および高額化

 上記の問題を解決するため,1本のレーザで高精度,三次元の変位測定が可能なオプティカルセンシングシステムを考案した.また,オプティカルセンシングシステムを汎用性のある三次元変位測定,三次元形状測定に応用可能なことを示す.オプティカルセンシングは,鏡面球に1本のレーザを照射し,その反射光の挙動から球の三次元変位を求めるシステムである.基本原理の解析により,反射光が球の三次元変位にしたがって変化し,その反射光の変化から球の三次元変位が検出可能であることを示した.

 次に,オプティカルセンシングの応用として,物体の三次元変位測定の開発をおこなった.これは,鏡面球を測定対象上に設置し,この球の変位をオプティカルセンシングにより測定するシステムである.

 本システムは,以下のような特徴を有する.

1)球の三次元変位の測定が可能である

2)3軸の変位を同時に取得可能

3)物理的な駆動部が存在しない

4)球を1個取り付けることで,任意の物体の3次元位置が測定可能

5)球を複数個取り付けることで,任意の物体の三次元位置姿勢が測定可能

 本手法で直接測定するのは金属球の変位であるが,これを設置する対象は材質の制限がなく,設置において一本のレーザのみの物理的干渉を考慮すればよく,設置の自由度も高いことから汎用性も高い手法であるといえる.オプティカルセンシングの構成要素として,受光素子にCCDカメラ,レーザビームに中空のリングビームを用いた.本手法を提案し,基本原理に基づいてシミュレーションを行った.結果,XY方向変位がCCD上のリング中心位置,Z方向変位がリング径として拡大されることを確認した.また,各種条件のもとで測定実験をおこない,本システムが理論どおりの挙動を示し,マイクロメートルオーダの測定分解能を得た.また,精度向上実験により,ナノメートルオーダでの測定を達成した.

 次に,オプティカルセンシングを応用して物体の高精度な三次元形状測定をおこなうためのnano-Probeの開発をおこなった.現在,工業部品の小型化,高精度化にともない,これらの部品の形状測定も高精度化する必要に迫られている.三次元形状測定には,多次元の測定が必要である.1次元の測定量を対象とする高精度測定は研究されているが,多次元の測定量を同時に高精度で測定する手法の研究は進んでいない.CMM(三次元測定機)は物体の三次元形状の測定が可能であるが,その精度はマイクロメートルオーダにとどまっている.そこで,物体の三次元形状をナノメートルオーダで測定するnano-CMMの開発を行っている.CMMにはプローブが必要であるが,nano-CMMに搭載するnano-Probeは,小型,低測定圧,ナノメートルオーダの精度が要求される.現状ではこの条件を満たすプローブは存在しない.nano-Probeには汎用性の高いボールプローブ方式を採用し,このプローブボールの変位測定にオプティカルセンシングシステムを採用した.

 nano-Probeとして利用するためには,小型化,高速化,高精度化を必要とする,この目的を達成するためにレーザをリングビームからガウシアンビームに変更し,受光素子をCCDからQPDに変更した.本システムは以下の特徴を持つ.

1)球の二次元変位の測定が可能である

2)2軸の変位を同時に取得可能

3)物理的な駆動部が存在しない

4)リアルタイムで計測可能

 nano-Probeは測定対象と接触して測定するものであり,一定の硬さがあれば測定対象の物理的,光学的性質を選ばないため,汎用性に優れており,多岐にわたる工業部品の測定が可能である.最初にシミュレーション,基礎実験をおこない,オプティカルセンシングでナノメートルオーダでの測定が可能であることを確認した。次にプロトタイププローブを作成して実験をおこない,プローブとしてナノメートルオーダ測定が可能なことを確認した。最後にnano-CMMに搭載可能な小型プローブを作成して測定実験をおこない,nano-Probeとして10nmの精度での測定が可能であることを実証した.

 以上,鏡面球とレーザからなるオプティカルセンシングシステムを考案,解析をおこない,このオプティカルセンシングシステムを基本原理として,球の三次元変位測定,nano-Probeの開発をおこなった.これらにより,従来は困難であった,高精度な多次元測定を可能とし,工業部品の高精度な三次元位置測定,三次元変位測定を実現した.

審査要旨 要旨を表示する

 工業にとって位置測定,形状測定は必要不可欠なものであり,その高精度化の研究は長年にわたって続けられてきている.結果,形状,位置共に,ナノメートル,サブナノメートルオーダでの測定が可能となっている.しかし,このような高精度の測定は1次元方向のみの測定となっており,測定対象物が導電性を持たねばならない等,測定対象に制限を加えるものも多い.しかし,工業部品の材質は多岐にわたり,またその測定も三次元的な測定を必要とするため,従来の高精度測定のみでは対応できない.そこで,高精度で三次元的な測定可能であり,なおかつ測定対象の制限の少ない汎用性をもった測定手法が求められている.しかし,このような測定は困難であるのが現状である.

 この問題を解決するため,1本のレーザで高精度,三次元の変位測定が可能なオプティカルセンシングシステムを考案した.また,オプティカルセンシングシステムを汎用性のある三次元変位測定,三次元形状測定に応用可能なことを示す.オプティカルセンシングは,鏡面球に1本のレーザを照射し,その反射光の挙動から球の三次元変位を求めるシステムである.基本原理の解析により,反射光が球の三次元変位にしたがって変化し,その反射光の変化から球の三次元変位が検出可能であることを示した.

 本手法で直接測定するのは金属球の変位であるが,これを設置する対象は材質の制限がなく,設置において一本のレーザのみの物理的干渉を考慮すればよく,設置の自由度も高いことから汎用性も高い手法であるといえる.オプティカルセンシングの構成要素として,受光素子にCCDカメラ,レーザビームに中空のリングビームを用いた.本手法を提案し,基本原理に基づいてシミュレーションを行った.結果,XY方向変位がCCD上のリング中心位置,Z方向変位がリング径として拡大されることを確認した.また,各種条件のもとで測定実験をおこない,本システムが理論どおりの挙動を示し,マイクロメートルオーダの測定分解能を得た.また,精度向上実験により,ナノメートルオーダでの測定を達成した.

 次に,オプティカルセンシングを応用して物体の高精度な三次元形状測定をおこなうためのnano-Probeの開発をおこなった.現在,工業部品の小型化,高精度化にともない,これらの部品の形状測定も高精度化する必要に迫られている.三次元形状測定には,多次元の測定が必要である.1次元の測定量を対象とする高精度測定は研究されているが,多次元の測定量を同時に高精度で測定する手法の研究は進んでいない.CMM(三次元測定機)は物体の三次元形状の測定が可能であるが,その精度はマイクロメートルオーダにとどまっている.そこで,物体の三次元形状をナノメートルオーダで測定するnano-CMMの開発を行っている.CMMにはプローブが必要であるが,nano-CMMに搭載するnano-Probeは,小型,低測定圧,ナノメートルオーダの精度が要求される.現状ではこの条件を満たすプローブは存在しない.nano-Probeには汎用性の高いボールプローブ方式を採用し,このプローブボールの変位測定にオプティカルセンシングシステムを採用した.

 nano-Probeとして利用するためには,小型化,高速化,高精度化を必要とする,この目的を達成するためにレーザをリングビームからガウシアンビームに変更し,受光素子をCCDからQPDに変更した.本システムは以下の特徴を持つ.次にプロトタイププローブを作成して実験をおこない,プローブとしてナノメートルオーダ測定が可能なことを確認した.最後にnano-CMMに搭載可能な小型プローブを作成して測定実験をおこない,nano-Probeとして10nmの精度での測定が可能であることを実証した.

 以上,鏡面球とレーザからなるオプティカルセンシングシステムを考案,解析をおこない,このオプティカルセンシングシステムを基本原理として,球の三次元変位測定,nano-Probeの開発をおこなった.これらにより,従来は困難であった,高精度な多次元測定を可能とし,工業部品の高精度な三次元位置測定,三次元変位測定を実現した.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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