学位論文要旨



No 119579
著者(漢字) 全,基栄
著者(英字)
著者(カナ) ジョン,キヨン
標題(和) ULSIバリヤメタル用TiN、TiSiN膜形成流量変調CVDプロセスの速度論的解析と最適化
標題(洋) Kinetic study and optimization of TiN, TiSiN flow modulation chemical vapor deposition process for ULSI barrier metal
報告番号 119579
報告番号 甲19579
学位授与日 2004.06.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5851号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 助教授 岡部,徹
 東京大学 助教授 光田,好孝
内容要旨 要旨を表示する

 本研究ではULSIバリヤメタル用TiN/TiSiN膜形成流量変調CVDプロセスの速度論的解析と最適化について検討を行った。TiCl4及びNH3を用いたTiN-CVDプロセスの反応速度論を検討し、流量変調操作化学蒸着法(FMCVD)に応用する条件を最適化した。更に、FMCVDを用いたTiN-FMCVDシーケンスの最適化を行った。DRAM用バリヤメタルとしてTiCl4、NH3及びSiH4を用いたTiSiN-CVDプロセスの開発が検討された。

 The International Technology Roadmap for Semiconductors (2003Edition)は将来の半導体技術世代(65nmもしくはその以下)のために新しい金属および誘電体薄膜が必要になるだろうということを示した。高度な配線技術では、W/Alの拡散を防ぐためにバリヤメタルも絡むことである。薄膜の材料のタイプおよび半導体装置の形状の両方が、薄膜を生産する高度な化学蒸着法(CVD)プロセスの必要に帰着する。チタン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウムおよび他のもののような金属は、ゲート誘電体の可能性であると確認された。チタン、タングステンおよびタンタルのような金属は、バリヤメタルの中でも高度なゲート・スタックの中でも補足的な金属電極のために使用されてもよく、薄膜適用を導いている。これらのプロセスは金属を利用する、有機的、金属ハロゲン化物、金属窒化物およびCVD反応のための他のタイプの先駆者。これらの新しい先駆者用品は、プロセスを特徴づけてコントロールする方法を決定する際に挑戦を示した。

 チタン窒化膜(TiN)は、MOS回路の中で耐着用性のコーティング、ULSI用の無電解めっきによって育てられた銅の種子層のための活性化された表面用、また、一方のAl/Wの拡散バリヤメタルのために広く使われている。65nmおよび45nm技術Nodeでは、DRAM用の20以上およびMPU用にも13〜15の高いアスペクト比のコンタクトホールのため、優れたステップカバレッジが要求されるので、これらの適用のためにTiCl4とNH3を使用するTiN-CVDプロセスは、高いアスペクト比に優れるステップカバレッジを供給することができる。

 本研究ではTiN膜は化学蒸着法(CVD)を用い、410℃で成膜を行った。原料としてTiCl4、NH3を用いた。まず、TiN膜のステップカバレッジ、製膜速度に及ぼすTiCl4とNH3の分圧依存性を検討した。膜を生ずる種の付着確率を、モンテカルロ法の使用によりシミュレーションされたステップカバレッジプロフィールから評価した。Tiを含んでいる種の付着確立とNH3分圧の関係はNH3分圧に依存している1次反応速度領域で検討した。その結果、成長反応速度に及ぼすNH3の影響はTiCl4分圧の広い範囲にてNH3分圧の2乗に比例することがわかった。本研究では、式(1)のようにTiN-CVDにおいて形成する反応速度式を提案した。

 式(1)

更に、CVD-TiN膜の残留塩素濃度と電気比抵抗のTiCl4,NH3分圧依存性も検討した。Ti/(Ti+N)比率は、TiCl4、NH3の分圧には依存しないことがわかった。しかし、比抵抗と残留塩素濃度はTiCl4、NH3の分圧に敏感することがわかった。

 本研究ではTiCl4及びNH3の化学的な反応速度論に基づき、成膜温度410℃にて、優れるステップカバレッジおよび低い比抵抗を持つTiN膜のため変調操作CVD法(FMCVD)を導入した。FMCVDとは、TiCl4/NH3に用いたTiN成膜時間とNH3によるCl還元時間を繰り返すことによって優れるステップカバレッジおよび低い比抵抗が同時に得られる方法である。TiN膜の比抵抗や、ステップカバレッジに及ぼす成膜/還元サイクルの数、TiCl4、NH3の分圧依存性を検討した。その結果、TiCl4の分圧が低い場合、成膜/還元サイクルの数を増加させることはステップカバレッジを低下することがわかった。このステップカバレッジを低下は還元時間の祭、NH3が反応器に残っていたTiCl4と反応し、低い濃度のTiCl4によるステップカバレッジの低下が行ったと考えられる。NH3が塩素の還元に使われる前に、残余のTiCl4が立ち去ることを可能にするために、Arパージサイクルを成膜と還元時間の間に導入された。この結果、ステップカバレッジが著しく改善された。さらに、NH3分圧がは0.25Torr未満では塩素還元の効果が低くなってしまい、また、0.25以上のNH3分圧領域では成膜速度が高くなってしまい、塩素還元効果が低くなって比抵抗が上がることがわかった。

 FMCVD-TiN膜質はFMCVDのガス・フロー・スイッチング・シーケンスに強く依存した。従って、成膜時間、Arパージ時間、およびNH3を使用する塩素(Cl)還元時間を変化させながら実験を行った。FMCVD法をもちいたTiNは、5.0のアスペクト比のトレンチ基板で90%以上のステップカバレッジ、150μΩ-cmの比抵抗および1.9nm/minのスループットを達成した。TiN層の成膜及び膜質に対するArパージ時間、NH3還元時間の時間依存性を系統的に検討した。我々はTiCl4/NH3を用いた成膜時間でいくつかのモノレーヤ(ML)が存在することを提案した。これらのTiCl4の吸着物によって育てられたFMCVD-TiN膜厚はArパージ時間の間減少し、NH3還元時間の間増加した。したがって、これらの吸着物の利用は高いスループットおよび優れたTiN膜質が実現できるFMCVD−TiNで覆うことを悟る1個のキーです。

 CVD-TiSiNは、特にDRAMコンデンサーのために、ULSI回路アプリケーションでの酸素拡散バリヤメタルとして優れる材料かもしれません。我々は、拡散バリヤメタルに用いられるTiN膜へSiを導入する方法を開発した。TiSiN膜は、加熱円管型のCVDリアクターにTiCl4、SiH4およびNH3を反応させることにより成膜ができた。我々はSiH4分圧の機能としてTiSiN成膜速度、組成、結晶構造および比抵抗を観察した。TiNにSiを加えることはTiN膜構造を縦欄式配列の粒から縦欄式配列のなしの構造に変換し、そのため、有効な酸素拡散パスを除いた。TiSiN膜の比抵抗はTiN膜にSiH4を加えることにより増えたことがわかった。さらに、TiSiN膜は酸素100Torrで、400から600℃までの温度範囲でRTAを用いて耐酸化性を評価した。膜中Si濃度が4.4%まで増加することによってTiSiN膜の耐酸化性が高くなった。また、FMCVD法を導入し、塩素濃度を減らすことによって耐酸化性がさらに高くなり、TiSiN膜質が改善された。

審査要旨 要旨を表示する

 ULSIデバイスの高集積化に伴い,金属配線のコンタクト・ビアホールのアスペクト比が向上した結果,従来はスパッタリング法により形成されていたTiNなどのバリヤメタルは,ステップカバレッジ(段差被覆性)に優れるCVD法による形成が必須となっている。また,多層配線の信号伝達遅延時間低減のため,誘電率の低い配線間絶縁膜を利用する傾向にあるが,これらの絶縁膜の耐熱性は弱く,バリヤメタル形成プロセスには450℃以下の低温化も要求されている。本論文は,"Kinetic study and optimization of TiN, TiSiN flow modulation chemical vapor deposition process for ULSI barrier metal"(ULSIバリヤメタル用TiN、TiSiN膜形成流量変調CVDプロセスの速度論的解析と最適化)と題し,上記ULSI用バリヤメタル形成CVDプロセスに流量変調操作という新しい概念を導入してTiN,TiSiN膜低温合成プロセスの構築,ならびに,速度論的解析に基づく最適化を検討したものであり,全部で5章からなる。

 第1章では,ULSI多層配線形成技術の変遷と既存のバリヤメタル形成技術に関する既往の研究結果をまとめ,バリヤメタルおよびその形成プロセスに対する課題を整理している。その結果,コンタクト・ビアホール用TiN膜に対しては,良好なステップカバレッジと200μΩ-cm以下の比抵抗,450℃以下のプロセス温度が要求されること,DRAMなどのメモリーキャパシタ電極用には耐酸化性にも優れたバリヤメタル形成CVDプロセスの開発が必要なことなど,本研究課題の到達目標を明確化している。

 第2章では,TiCl4とNH3を原料としたCVDプロセスによるTiN製膜特性の操作条件依存性を検討し,薄膜成長速度はTiCl4分圧に対してはラングミュア-ヒンシェルウッド型速度式に従うが,NH3分圧に対しては2次の依存性を持つことを報告している。TiCl4分圧0.01〜0.02Torr以上では成長速度は飽和し,濃度依存性が見かけ上0次となるためにステップカバレッジはほぼ均一となること,また,膜中の残留塩素濃度および比抵抗はTiCl4分圧に比例して増大することから,最適なTiCl4分圧は0.01〜0.02Torr程度であるとしている。一方,NH3分圧に関しては,0.25Torrのときに残留塩素濃度と比抵抗が最小値を示すことから,この値が最適値であるとしている。これは,NH3分圧が低いと残留塩素の除去効果が不足するため,また,NH3分圧が高いと成長速度がNH3分圧の2乗に比例して増大するために十分に塩素を除去できなくなるためであると考察している。

 第3章では,TiCl4/NH3によるTiN形成とNH3による塩素除去を交互に行う流量変調操作CVD(Flow Modulation CVD,FMCVD)によるTiN膜低温合成について検討した結果をまとめている。まず,各ガスの分圧については,第2章における検討結果から得られた最適値に設定し,FMCVD1サイクルの時間を変化させ,製膜特性への影響を評価した。その結果,1サイクルの時間を短くし,効率的な塩素除去効果を期待したところ,残留塩素濃度および比抵抗の低減は実現できたものの,ステップカバレッジが50%程度にまで劣化することを見出した。これはTiCl4の供給停止直後に反応器内に残存する低濃度のTiCl4による製膜が無視できず,また,その製膜特性が1次反応領域にあるためにステップカバレッジが悪いためであると説明し,対策としてTiCl4供給停止直後にArを用いて残存TiCl4をパージするシーケンスを導入した。パージ時間は熱流体解析シミュレーションにより1秒程度で十分であることを示し,1秒間のTiN製膜+1秒間のArパージ+0.3秒間のNH3による塩素除去を繰り返すシーケンスを構築した。その結果,ステップカバレッジは98%程度にまで劇的に改善した。また,Arパージ時間,NH3による塩素除去時間を系統的に変化させ,成長速度および膜物性への影響を考察している。その結果,TiN製膜表面には3モノレイヤー程度の吸着物が存在すること,この吸着物はNH3による塩素除去工程においてNH3と反応してTiNとして析出すること,Arパージ時間中には吸着物は脱離し,その結果,Arパージ時間を長くすると成長速度は低減するが同時に残留塩素濃度も低減することなどを明らかにした。NH3による塩素除去工程におけるTiN膜成長はFMCVDによるTiN膜合成速度を向上させる効果があり,Arパージは塩素濃度低減に効果的であることから,最適化を検討し,最終的にはArパージ7秒+NH3による塩素除去工程7秒というシーケンスを用いて,比抵抗:150μΩ-cm,ステップカバレッジ:95%以上,スループット(全成長膜厚/全プロセス時間):1.9nm/minのプロセス構築に成功している。これは,2007年に量産が開始される65nmノードデバイス作製に適したスペックとなっている。これらの結果は,通常のCVD成長最表面に存在する吸着物の成長への寄与を確認し,それを有効活用した成果と言える。

 第4章では,DRAMなどのメモリーキャパシタ電極用に耐酸化性に優れたTiSiN膜のCVD合成について検討した結果をまとめている。まず,TiCl4/NH3反応系にSiH4を添加しても有意な量のSiを含有させることができなかった。これは,TiCl4によるSiH4反応阻害効果があることを実験的に示し,SiH4が気相分解してラジカル類を生成する条件に設定することによってSiを数%含有するTiSiN膜の合成に成功している。また,本プロセスにもFMCVDを応用し,Si含有量の増大ならびに残留塩素濃度の低減に成功し,その結果として耐酸化性が向上することを示している。

 第5章は本論文の成果をまとめるとともに,FMCVDによるTiN形成プロセスのさらなる製膜特性改善への指針をまとめている。

 以上,本論文は,TiN-CVD製膜反応において流量変調操作を用いて数分子層もの表面吸着層の成長への寄与を確認し,これを活用することによって良質な薄膜の低温合成を実現したものであり,CVDプロセスの今後の発展に大いに寄与するものである。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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