学位論文要旨



No 119610
著者(漢字) 佐伯,みか
著者(英字)
著者(カナ) サエキ,ミカ
標題(和) 医師と看護師の役割期待関係におけるコンフリクトとその役割遂行への影響 : 治療・ケア方針決定過程の役割に焦点をあてて
標題(洋)
報告番号 119610
報告番号 甲19610
学位授与日 2004.09.01
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2371号
研究科 医学系研究科
専攻 健康科学・看護学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 若井,晋
 東京大学 教授 久保木,富房
 東京大学 教授 赤林,朗
 東京大学 助教授 萱間,真美
 東京大学 講師 河,正子
内容要旨 要旨を表示する

【はじめに】

 医療技術の高度化、疾病構造の変化、患者のニーズの多様化が著しい今日、判断の難しい治療・ケア方針を医療者と患者の双方が可能な限り納得いくように決定するためには、医師と看護師の独自の視点・専門性の発揮とそれに基づく共同意思決定が重要という指摘が欧米には数多くある。一方で、医師と看護師それぞれの役割に関する両職種の見解の相違(以下「職種間コンフリクト(intergroup conflict)」)は大きく、それが両職種の独自の視点・専門性を発揮した上での共同意思決定の阻害要因になるという報告が散見される。

 しかしながら、これらの研究も、医師と看護師の役割期待関係におけるコンフリクトの内的構造までは明らかにしていない。すなわち「職種間コンフリクト」から個人内で生じる見解・認知の不一致・矛盾(例えば「自分のある役割について、自分や自職種は重視しているのに相手職種からはそれ程期待されていない」という不一致:以下「個人内コンフリクト(intrapersonal conflict)」)に至る過程、あるいはその過程に介在し得る相手職種や自職種への「誤解(misperception)」、さらにそれらが役割遂行に及ぼす影響について明らかにしたものはみあたらない。無論、国内においては、医師と看護師の「職種間コンフリクト」の有無さえ量的にはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究の目的は、以下の3点とする。

1.「職種間コンフリクト」の有無、すなわち自身が自らの役割として重要だと考えている度合い(役割認知:重視度)と自職種に対して相手職種が期待している度合い(役割期待:期待度)との一致・不一致を明らかにする。

2.「職種間コンフリクト」から「個人内コンフリクト」に至る過程、ならびにその過程における相手職種もしくは自職種の重視度・期待度に対する「誤解」の介在状況を明らかにする。「個人内コンフリクト」は以下の3つを検討する。すなわち、(1)重視度・期待度に関する自職種と相手職種の見解の不一致(以下「個人内<自職種-相手職種間>コンフリクト」)、(2)重視度・期待度に関する自身と相手職種の見解の不一致(以下「個人内<自身-相手職種間>コンフリクト」)、(3)重視度・期待度に関する自身と自職種の見解の不一致(以下「個人内<自身-自職種間>コンフリクト」)を明らかにする(詳細は後述)。

3.上記で明らかにされた「個人内コンフリクト」(「個人内<自身-相手職種間>コンフリクト」「個人内<自身-自職種間>コンフリクト」)が役割遂行(遂行度)に影響を及ぼしているか否かを医師と看護師それぞれについて明らかにする。

【方法】

1.調査の対象と方法 首都圏にある300床以上の5病院(私立)の医師・看護師30名ずつを対象に自記式質問紙による調査を実施した。分析は、回答が得られた医師82名、看護師115名を対象とした(回収率は医師54.7%、看護師76.7%)。

2.調査項目

a)役割については、下表のように治療方針決定過程を、決定前、決定時、決定後と3段階にわけ、各段階において患者の意向を把握・尊重するために重要だと考えられる医師と看護師の役割をそれぞれ5項目ずつ設定した。設定にあたり医師26名、看護師22名に対する面接調査の結果と先行研究を参考にした。

医師の役割(5項目)

看護師の役割(5項目)

A

【患者の意向の把握】:治療方針に関する患者の意向を把握する

【患者とのコミュニケーション】:治療・ケア方針決定にあたり、看護師の裁量で、必要な情報を患者とやりとりする

【看護師への情報提供】:患者に関する情報を、カルテや口頭等で、看護師にわかるように提供する

【職種間のコーディネート】:看護師の裁量で、必要な情報を医師以外のスタッフとやりとりする(事前に医師に相談する場合も含む)

B

【看護師からの「質問」の促進】:医師の決定(指示)内容について、看護師が自らの視点で「質問」できるように看護師に対して配慮する

【医師への「質問」】:医師の決定(指示)内容について、看護師の視点から医師に対して「質問」する

【看護師からの「意見表出」の促進】:医師の決定(指示)内容について、看護師が自らの視点で「意見(代替案等)」が言えるように、看護師に対して配慮する

【医師への「意見表出」】:医師の決定(指示)内容について、看護師の視点から医師に対して「意見(代替案等)」を言う

C

【患者による評価の確認】:行われた治療・ケアに関して患者がどう思っているかを医師が確認する

【患者による評価の確認】:行われた治療・ケアに関して患者がどう思っているかを看護師が確認する

注)A:治療・ケア方針決定前、B:治療・ケア方針決定時、C:治療・ケア方針決定後

b)上記の各役割に関する医師と看護師の役割期待(期待度)・役割認知(重視度)・役割遂行(遂行度)及びそれらに対する知覚・評価を、下表のように尋ねた。

医師への質問と変数

看護師への質問と変数

変数

質問

変数

質問

医師自身の期待度-(1)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、あなたは考えていますか

看護師自身の期待度-(1)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、あなたは考えていますか

医師自身の重視度-(2)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、あなたは考えていますか

看護師自身の重視度-(2)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、あなたは考えていますか

医師自身の遂行度-(3)

あなたは、この行為を普段どのくらい行っていますか

看護師自身の遂行度-(3)

あなたは、この行為を普段どのくらい行っていますか

相手職種(看護師)の期待度に対する医師の知覚・評価-(4)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の看護師が考えていると思いますか

相手職種(医師)の期待度に対する看護師の知覚・評価-(4)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の医師が考えていると思いますか

相手職種(看護師)の重視度に対する医師の知覚・評価-(5)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の看護師が考えていると思いますか

相手職種(医師)の重視度に対する看護師の知覚・評価-(5)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の医師が考えていると思いますか

自職種(医師)の期待度に対する医師の知覚・評価-(6)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の医師が考えていると思いますか

自職種(看護師)の期待度に対する看護師の知覚・評価-(6)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の看護師が考えていると思いますか

自職種(医師)の重視度に対する医師の知覚・評価-(7)

この行為を「医師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の医師が考えていると思いますか

自職種(看護師)の重視度に対する看護師の知覚・評価-(7)

この行為を「看護師が担うべき重要な役割」と、貴院のどの程度の割合の看護師が考えていると思いますか

注1)「職種間コンフリクト」の分析

(1)と(2)、(2)と(1)の比較

注2)「相手職種に対する誤解」の分析

(4)と(1)、(5)と(2)、(1)と(4)、(2)と(5) の比較

注3)「自職種に対する誤解」の分析

(6)と(1)、(7)と(2)、(6)と(1)、(7)と(2) の比較

注4)「個人内<自職種-相手職種間>コンフリクト」の分析

(4)と(7))、(5)と(6)、(4)と(7)、(5)と(6) の比較

注5)「個人内<自身-自職種間>コンフリクト」=「自分は重視しているのに自職種は重視していない」および「自分は期待しているのに自職種は期待していない」というコンフリクトの分析

(6)の低群/(1)×100、(7)の低群/(2)×100、(6)の低群/(1)×100、(7) の低群/(2)×100

注6)「個人内<自身-相手職種間>コンフリクト」=「自分は重視しているのに相手職種は期待していない」および「自分は期待しているのに相手職種は重視していない」というコンフリクトの分析

(5)の低群/(1)×100、(4)の低群/(2)×100、(5)の低群/(1) ×100、(4)の低群/(2) ×100

c)その他、役割遂行(遂行度)の関連要因(上記bの項目以外)と回答者の属性について尋ねた。

3.分析方法 x2 検定、対応のない差のt検定、対応のある差のt検定を行った。個人内コンフリクトの役割遂行への影響に関する分析では、「自身の遂行度」を従属変数、「自身の重視度」、「個人内<自身-自職種間>コンフリクト」、「個人内<自身-相手職種間>コンフリクト」、その他の関連要因を説明変数とした重回帰分析を行った。

【結果】

1.「職種間コンフリクト」の有無

 本研究でとりあげた医師の5つの役割に関しては、医師の重視度より看護師からの期待度の方が高い傾向(t検定により3つの役割で有意;p=.019〜.001)、看護師の5つの役割に関しては、看護師の重視度より医師からの期待度の方が低い傾向(t検定により全ての役割で有意;p=.029〜.005)がみられた。すなわち、治療・ケア方針決定過程で患者の意向を把握・尊重する上で重要な医師の役割については、全般的に看護師が期待するほど医師は重視していないという「職種間コンフリクト」、看護師の役割については全般的に看護師が重視するほど医師は期待していないという「職種間コンフリクト」があることが明らかになった。

2.「職種間コンフリクト」から「個人内コンフリクト」に至る過程―「誤解」および「個人内コンフリクト」の有無―

a)「誤解」の有無:医師と看護師は、全体的に相手職種の期待度・重視度も自職種の期待度・重視度も実際より低く見積もる(過小評価する)傾向があった。

b)「個人内コンフリクト」の有無:(1)個人内<自職種-相手職種間>コンフリクトについては、医師において、相手職種の重視度と自職種の期待度を同程度に見積もる傾向、相手職種の期待度と自職種の重視度も同程度に見積もる傾向がみられたのに対し(t検定により1つの役割以外は有意差なし;p=.034)、看護師においては、自職種の重視度より相手職種の期待度を、また自職種の期待度より相手職種の重視度を低く見積もる傾向がみられた(t検定により全ての役割で有意;いずれもp=.000)。(2)個人内<自身-相手職種>コンフリクト、および個人内<自身-自職種間>コンフリクトについては、役割によって多少のばらつきはあるもの、医師では平均2割程度(16.6〜29.8%)にみられたが、看護師では平均3割程度(12.2〜46.1%)に認められた。また、看護師においては、自職種(看護師)とよりも相手職種(医師)との間で個人内コンフリクトを抱える者の割合が高かった。

3.「個人内コンフリクト」が「役割遂行」に及ぼす影響

a) 医師の役割遂行:「医師自身の重視度」との関連は全ての役割で認められ、<自身-自職種間>コンフリクトとの関連は[看護師からの質問の促進]を除く全ての役割(ただし[患者の意向の把握]では弱い関連)で認められたが、個人内<自身-相手職間>コンフリクトとの関連は全ての役割で認められなかった。

b) 看護師の役割遂行:「看護師自身の重視度」との関連は[職種間コーディネート][医師への質問][医師への意見表出]といった「他のスタッフに働きかける役割」で認められたが、[患者の意向の把握][患者による評価の確認]といった「患者に働きかける役割」では認められなかった。また、個人内<自身-自職種間>コンフリクトとの関連は[医師への意見表出]を除く全ての役割で、個人内<自身-相手職種間>コンフリクトとの関連は[職種間コーディネート]を除く全ての役割(ただし[患者とのコミュニケーション]では弱い関連)で認められた。

c)なお、医師においても看護師においても、自身の重視度・自身の期待度・個人内コンフリクト以外の変数との関連で顕著な傾向はみられなかった。

【考察】

1.「職種間コンフリクト」の有無

 本研究でとりあげた治療・ケア方針決定過程における医師の役割については全般的に看護師が期待するほど医師は重視していないという「職種間コンフリクト」、看護師の役割については全般的に看護師が重視するほど医師が期待していないという「職種間コンフリクト」が存在することが明らかになった。

2.「職種間コンフリクト」から「個人内コンフリクト」に至る過程

 「職種間コンフリクト」から「個人内コンフリクト」に至る過程は、以下のように医師と看護師とでやや異なる傾向があると考えられた。

a) 医師においては、相手職種や自職種の重視度・期待度をいずれも過小評価(誤解)する傾向、同時に、相手職種の重視度・期待度と自職種の重視度・期待度とをほぼ同程度に見積もり、自分自身の期待度・重視度がそれらとほぼ同程度になる傾向がみられると考えられた。すなわち、医師においては、看護師は医師よりも重視度・期待度が高いという実際の「職種間コンフリクト」を認識しない傾向があり、かつ「個人内コンフリクト」が生じにくい傾向にあると考えられた(いわば「職種間コンフリクト」の非内面化)。

b) 看護師も、医師同様、相手職種と自職種の重視度・期待度について過小評価(誤解)していた。しかし医師と異なる点は、自職種の重視度・期待度より相手職種の重視度・期待度をより低く見積もる傾向がみられたことである。また、相手職種の重視度・期待度より自身の重視度・期待度の方が高い傾向は医師より強いと考えられた。このことより、看護師においては、看護師は医師よりも重視度・期待度が高いという「職種間コンフリクト」を認識する傾向があり、かつ「個人内コンフリクト」が生じやすい傾向にあると考えられた(「職種間コンフリクト」の内面化)。

3.「個人内コンフリクト」が「役割遂行」に及ぼす影響

 本研究の結果からは、役割遂行の高低が相手職種とのコンフリクトに強く規定される傾向は、看護師にはみられるが、医師にはみられないと考えられた。医師の役割遂行には、個人内<自身-相手職種間>コンフリクト、すなわち看護師からの役割期待による独自の影響力は認められなかったのである。むしろ医師の役割遂行は、自分自身や自職種の役割認知に規定される傾向があると考えられた。

4.医師と看護師の役割期待関係への示唆

 以上をふまえ、本研究でとりあげた役割、すなわち治療・ケア方針決定過程において重要な看護師の役割の遂行度を上げるためには、看護師の役割に関する医師の役割期待(期待度)が上がるよう働きかけること、同時に、看護師集団の役割認知(重視度)に対する医師および看護師の過小評価(誤解)を解消すること並びに医師集団の役割期待(期待度)に対する医師及び看護師の過小評価(誤解)を解消することが有効だと考えられた。

 また、治療・ケア方針決定過程において重要な医師の役割の遂行度を上げるためには、医師の役割に関する医師自身の役割認知(重視度)が上がるよう働きかけること、ならびに医師集団の役割認知(重視度)に対する医師自身による過小評価(誤解)を解消することが有効だと考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、判断の難しい治療・ケア方針を医療者と患者の双方が納得いくように決定する上で重要だと指摘されている「医師と看護師の共同意思決定」における役割期待関係の内的構造を明らかにするため、記述型分析モデルを考案・作成し、それを用いることにより、治療・ケア方針決定過程の医師と看護師の役割期待関係におけるコンフリクトとそれが役割遂行に及ぼす影響について、以下の結果を得ている。

1.本研究でとりあげた医師の5つの役割に関しては、医師の役割認知(重視度)より看護師からの役割期待(期待度)の方が高い傾向、看護師の5つの役割に関しては、看護師の役割認知(重視度)より医師からの役割期待(期待度)の方が低い傾向がみられた。すなわち、本研究でとりあげた、治療・ケア方針決定過程で患者の意向を把握・尊重する上で重要な医師の役割および看護師の役割について、全般的に医師は看護師ほど重視(あるいは期待)していないという「職種間コンフリクト(intergroup conflict)」があることが明らかにされた。

2.医師と看護師の「職種間コンフリクト(intergroup conflict)」から「個人内コンフリクト(intrapersonal conflict)」に至る過程は、下記のように医師と看護師とでやや異なる傾向があることが明らかにされた。

(1) 医師においては、相手職種や自職種の役割認識(重視度・期待度)をいずれも過小評価(誤解)する傾向、同時に、相手職種の役割認識(重視度・期待度)と自職種の役割認識(重視度・期待度)とをほぼ同程度に見積もり、自分自身の役割認識(期待度・重視度)もそれらとほぼ同程度に認識する傾向が示された。このことより、医師よりも看護師の方が認識(重視度・期待度)が高いという「職種間コンフリクト」を知覚しない傾向があり、「個人内コンフリクト」が生じにくい傾向があることが明らかにされた。すなわち、医師は「職種間コンフリクト」を内面化しない傾向にあることが示された。

(2) 看護師も、医師同様、相手職種と自職種の役割認識(重視度・期待度)について過小評価(誤解)していたが、自職種の役割認識(重視度・期待度)より相手職種の役割認識(重視度・期待度)をより低く見積もる傾向がみられるという点で、医師と異なっていた。また自身の役割認識(重視度・期待度)が自職種の役割認識(重視度・期待度)より高い者の割合も、医師より多いことが示された。このことより、医師よりも看護師の方が認識(重視度・期待度)が高いという「職種間コンフリクト」を看護師は医師より知覚する傾向があり、「個人内コンフリクト」も生じやすい傾向にあることが明らかにされた。すなわち、看護師は「職種間コンフリクト」を内面化する傾向にあることが示された。

3. 役割遂行(遂行度)の高低が相手職種との「個人内コンフリクト」に規定される傾向は、看護師にはみられるが、医師にはみられないことが明らかにされた。医師の役割遂行には、むしろ自分自身や自職種の役割認知に規定される傾向があることが明らかにされた。なお、従来、役割遂行(遂行度)との関連が指摘されてきた「自分の知識・技術に対する自信」「相手職種の知識・技術に関する信頼」「忙しさ」との強い関連は、医師においても看護師においても認められないことが明らかにされた。

4. これらをふまえ、本研究でとりあげた役割、すなわち治療・ケア方針決定過程において重要な看護師の役割の遂行度を上げるためには、看護師の役割に関する医師の役割期待(期待度)が上がるよう働きかけること、同時に、看護師集団の役割認知(重視度)に対する医師および看護師の過小評価(誤解)を解消することならびに医師集団の役割期待(期待度)に対する医師および看護師の過小評価(誤解)を解消することが有効だと考えられた。また、治療・ケア方針決定過程において重要な医師の役割の遂行度を上げるためには、医師の役割に関する医師自身の役割認知(重視度)が上がるよう働きかけること、ならびに医師集団の役割認知(重視度)に対する医師自身による過小評価(誤解)を解消することが有効だと考えられた。

 本論文は、先行研究で、「役割期待関係における役割期待、役割認知、役割遂行の3者間で認められる不一致傾向」としか捉えられてこなかった役割コンフリクトを、相手の役割期待や役割認知をどのように知覚しているかという点も含めて検討でき、かつ2職種(集団)間の役割期待関係を解明するにあたっては、他職種と自職種の役割認識(役割期待・役割認知)だけでなく、自身の役割認識(役割期待・役割認知)をも含めた3者の関係で検討できる記述型分析モデルを考案した点で独創的である。

 また、この記述型分析モデルを用いることにより、従来、明らかにされてこなかった治療・ケア方針決定過程の医師と看護師の役割期待関係における職種間コンフリクトの存在、職種間コンフリクトから個人内コンフリクトに至るまでの過程、また個人内コンフリクトが役割遂行に及ぼす影響について明らかにしたという点、またこれらをふまえた上で役割遂行度をあげるための対策を提示した点で臨床上の有用性も兼ね備えていると考えられる。

 以上により、学位の授与に値するものと考えられる。

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