学位論文要旨



No 119614
著者(漢字) 水野,裕介
著者(英字)
著者(カナ) ミズノ,ユウスケ
標題(和) データウェアハウス,データマイニング技術による社会基盤構造物の維持管理データ管理手法の構築
標題(洋) Data Management Architecture for Infrastructure Management System
報告番号 119614
報告番号 甲19614
学位授与日 2004.09.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5858号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 助教授 堀田,昌英
 東京大学 助教授 松本,高志
 室蘭工業大学 助教授 矢吹,信喜
内容要旨 要旨を表示する

 これまで継続的に社会基盤構造物が構築されてきたが,近年,構造物の劣化が顕在化しており,今後サービスレベルを一定以上に保ち,コストの縮減および人的資源の有効活用が大きな課題となっている.それに対し,橋梁マネジメントシステムといった維持管理に必要な情報を管理し,劣化予測や維持管理計画の最適化といった構造物管理者の意志決定を支援するソフトウェアシステムの研究開発・運用が行われている.

 既存の橋梁マネジメントシステムは大規模かつ専門業務に特化したソフトウェアシステムで,導入コストや運用コストが大きく,またシステム管理のための専門技術者を必要とする.そのため,大規模な構造物管理者であればその費用対効果の面で有利となるが,中小規模の構造物管理者にとっては必ずしもその費用対効果が有利にはたらかない.また,維持管理業務における情報の収集,管理・運用,データ処理,再利用,事後評価といった一連のプロセスにおいて,これまで管理・運用およびデータ処理に着目したシステム開発が行われているが,他のプロセスを含む統合システム構築は行われていない.

 このような背景をもとに本論文では,橋梁マネジメントシステムをコンポーネント化・多層化し,データの標準化を行うことで,汎用的なシステムのフレームワークを提案し,また,維持管理情報の一連のプロセスを支援する統合的なシステムを構築することにより,維持管理業務の効率化および既存システムの抱える課題の克服を実現するものである.論文は7章から構成されている.

 第1章では,背景である劣化構造物の増大について整理し,既往研究として橋梁マネジメントシステムや情報マネジメントに関する要素技術をレヴューし,本研究の目的を述べている.

 第2章では,橋梁維持管理のための情報共有プラットフォームについてその意義を示し,システム設計,プロトタイプの構築を行っている.情報共有プラットフォームは,データベースおよびWebによるインターフェースにより構成され,これにより,複数の維持管理業務参画者がそれぞれの環境に応じてデータベースにアクセスすることができ,効率的な情報の共有が可能となった.また,プラットフォームはサーバ/クライアント形式を採用し,情報の蓄積やプログラムの開発・保守はサーバ側で行うため,情報の一貫性,システムのメインテナンス性に優れる.本プラットフォームは次章以降で述べるアプリケーションを展開するための基盤として機能する.

 第3章では,維持管理のための情報収集として目視検査の重要性について言及し,目視検査支援システムの満たすべき要求項目を明らかにし,システムの開発を行っている.目視検査支援システムは,検査員の報告書作成支援によるデータの質の確保とルールベース,エキスパートシステムによる作業現場での判断支援により構成される.これにより,検査記録作成に関してデータの一貫性の保証,信頼性の向上が実現でき,橋梁維持管理のための精度の高い基盤データを構築することが可能となった.このように一貫性が保証され,信頼性の高い検査記録は,第5,6章で述べるデータマイニング等のデータ分析やデータを利用したアプリケーションの構築に資する.また,事故・災害時を想定した現場作業員と構造物管理者間のコミュニケーションを支援するシステムの開発を併せて行っている.これにより,当事者間のコミュニケーションのアーカイヴ化を行うことができ,第三者の協力的な介入が容易になるとともに事後評価やデータの再利用が可能となった.

 第4章では,橋梁維持管理のためのデータの標準化を行うBridgeML (Bridge Markup Language)を策定した.BridgeMLは橋梁維持管理における情報をXMLで記述したもので,主にネットワークを通じた情報流通のための基盤となる.これにより,複数の異なるシステム間での情報共有や統合が容易になる.また,構造物管理者,検査専門会社,補修・補強施工会社等の複数の組織間での情報流通を促進する.本論文において,鋼鉄道橋を対象に管理情報,諸元,検査・対策履歴,現況を管理するためのBridgeMLが実現されている.

 第5章では,蓄積された情報を有効に活用する手法としてデータマイニングによる知識ベースの構築について述べている.複数のマイニングアルゴリズムの中から要因分析,知識ベース構築の観点から決定木を選定し,鋼鉄道橋の検査記録を対象にマイニングを試行している.これにより,ルールを抽出し,その有効性を検討することで工学的にも興味深い結果を導出している.抽出されたルールは第3章で述べたエキスパートシステムと組み合わせることで維持管理の意志決定支援に貢献することが示されている.

 第6章では,維持管理情報の再利用手法としてデータマイニングの有効性について述べている.ここでは,鋼橋の塗装を対象とした大量の目視検査結果を用いて,劣化要因となりうる複数のパラメータからデータマイニングより有用なもののみを抽出することを試み,少数のパラメータを抽出することに成功している.また,データマイニング結果から塗装劣化を分析するために必要な情報収集について知見を提示している.

 第7章では,本研究から得られた結論を述べている.

審査要旨 要旨を表示する

 これまで継続的に社会基盤構造物が構築されてきたが,近年,構造物の劣化が顕在化しており,今後サービスレベルを一定以上に保ち,コストの縮減および人的資源の有効活用が大きな課題となっている.それに対し,橋梁マネジメントシステムといった維持管理に必要な情報を管理し,劣化予測や維持管理計画の最適化といった構造物管理者の意志決定を支援するソフトウェアシステムの研究開発・運用が行われている.

 既存の橋梁マネジメントシステムは大規模かつ専門業務に特化したソフトウェアシステムで,導入コストや運用コストが大きく,またシステム管理のための専門技術者を必要とする.そのため,大規模な構造物管理者であればその費用対効果の面で有利となるが,中小規模の構造物管理者にとっては必ずしもその費用対効果が有利にはたらかない.また,維持管理業務における情報の収集,管理・運用,データ処理,再利用,事後評価といった一連のプロセスにおいて,これまで管理・運用およびデータ処理に着目したシステム開発が行われているが,他のプロセスを含む統合システム構築は行われていない.

 このような背景をもとに本論文では,橋梁マネジメントシステムをコンポーネント化・多層化し,データの標準化を行うことで,汎用的なシステムのフレームワークを提案し,また,維持管理情報の一連のプロセスを支援する統合的なシステムを構築することにより,維持管理業務の効率化および既存システムの抱える課題の克服を実現するものである.論文は7章から構成されている.

 第1章では,背景である劣化構造物の増大について整理し,既往研究として橋梁マネジメントシステムや情報マネジメントに関する要素技術をレヴューし,本研究の目的を述べている.

 第2章では,橋梁維持管理のための情報共有プラットフォームについてその意義を示し,システム設計,プロトタイプの構築を行っている.情報共有プラットフォームは,データベースおよびWebによるインターフェースにより構成され,これにより,複数の維持管理業務参画者がそれぞれの環境に応じてデータベースにアクセスすることができ,効率的な情報の共有が可能となった.また,プラットフォームはサーバ/クライアント形式を採用し,情報の蓄積やプログラムの開発・保守はサーバ側で行うため,情報の一貫性,システムのメインテナンス性に優れる.本プラットフォームは次章以降で述べるアプリケーションを展開するための基盤として機能する.

 第3章では,維持管理のための情報収集として目視検査の重要性について言及し,目視検査支援システムの満たすべき要求項目を明らかにし,システムの開発を行っている.目視検査支援システムは,検査員の報告書作成支援によるデータの質の確保とルールベース,エキスパートシステムによる作業現場での判断支援により構成される.これにより,検査記録作成に関してデータの一貫性の保証,信頼性の向上が実現でき,橋梁維持管理のための精度の高い基盤データを構築することが可能となった.このように一貫性が保証され,信頼性の高い検査記録は,第5,6章で述べるデータマイニング等のデータ分析やデータを利用したアプリケーションの構築に資する.また,事故・災害時を想定した現場作業員と構造物管理者間のコミュニケーションを支援するシステムの開発を併せて行っている.これにより,当事者間のコミュニケーションのアーカイヴ化を行うことができ,第三者の協力的な介入が容易になるとともに事後評価やデータの再利用が可能となった.

 第4章では,橋梁維持管理のためのデータの標準化を行うBridgeML(Bridge Markup Language)を策定した.BridgeMLは橋梁維持管理における情報をXMLで記述したもので,主にネットワークを通じた情報流通のための基盤となる.これにより,複数の異なるシステム間での情報共有や統合が容易になる.また,構造物管理者,検査専門会社,補修・補強施工会社等の複数の組織間での情報流通を促進する.本論文において,鋼鉄道橋を対象に管理情報,諸元,検査・対策履歴,現況を管理するためのBridgeMLが実現されている.

 第5章では,蓄積された情報を有効に活用する手法としてデータマイニングによる知識ベースの構築について述べている.複数のマイニングアルゴリズムの中から要因分析,知識ベース構築の観点から決定木を選定し,鋼鉄道橋の検査記録を対象にマイニングを試行している.これにより,ルールを抽出し,その有効性を検討することで工学的にも興味深い結果を導出している.抽出されたルールは第3章で述べたエキスパートシステムと組み合わせることで維持管理の意志決定支援に貢献することが示されている.

 第6章では,維持管理情報の再利用手法としてデータマイニングの有効性について述べている.ここでは,鋼橋の塗装を対象とした大量の目視検査結果を用いて,劣化要因となりうる複数のパラメータからデータマイニングより有用なもののみを抽出することを試み,少数のパラメータを抽出することに成功している.また,データマイニング結果から塗装劣化を分析するために必要な情報収集について知見を提示している.

 第7章では,本研究から得られた結論を述べている.

 本論文は,橋梁維持管理を支援するシステムとして,情報の収集,管理・運用,データ処理,再利用といった一連のプロセスを包括的に扱うことを提案し,そのプロトタイプを構築している.また,システムのコンポーネント化・多層化,データ標準化により,複数のデータソース,アプリケーションを統合的する汎用的なシステムの実現を明らかにしており,社会基盤構造物の維持管理および情報マネジメントの分野に大きなインパクトを与えることが予想される.

 以上,本論文は,今後ますます重要性が増大する社会基盤施設の維持管理情報の蓄積と利用に関して多大な知見を呈示していると判断される.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認める.

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