学位論文要旨



No 119653
著者(漢字) Jose Alexis Palmero Rodriguez
著者(英字)
著者(カナ) ホセ アレクシス パルメロ ロドリゲス
標題(和) 東シルクム=クリセ地域のカオス地塊・アウトフロウチャンネルの形成と進化に関わる、火星の水文地質学過程の研究
標題(洋) Martian hydrogeologic processes related to the evolution & formation of Eastern Circum Chryse chaotic terrains & outflow channel systems
報告番号 119653
報告番号 甲19653
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4588号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 栗田,敬
 東京大学 助教授 佐々木,晶
 東京大学 助教授 阿部,豊
 東京大学 助教授 田近,英一
 東京大学 助教授 小口,高
内容要旨 要旨を表示する

 本論文では、火星のEastern Circum Chryse地域のマッピングに基づく地形学的研究を、バイキング画像データ、マーズグローバルサーベイヤーカメラ、マーズグローバルサーベイヤーのレーザー高度計で得られたデジタル地形モデル、さらにマーズオデッセイのTHEMIS画像データを用いて行った。

 Eastern Circum Chryse地域は、長さ2000km幅150kmにおよぶ洪水による巨大なアウトフロウチャンネルで区切られている。この洪水地形は、地球の氷河崩壊に伴う巨大洪水地形である、Channeled Scablandと類似しており、水の流出は火星北部平原に海洋を形成したと考えられている。洪水の源地域は、カオス領域と呼ばれる凹凸の激しい地域である。カオス地域の表面は、古い高地や盆地である。地下の水が流出して表面が崩壊することでカオス地域は形成されるが、多段階の形成シナリオが提唱されており、Chryse周辺地域のアウトフロウチャンネルの生成とは調和的である。本研究の結果により、年代の古い高地台地、カオス領域、そしてアウトフロウチャンネルが、どのように関係しているかが明らかになった。

 この論文は7章からなる。第1章は全体の導入部であり、全体のまとめと各章の概要を述べている。第7章には結論をまとめてある。

 第2章"Significance of confined subterranean cavernous systems in Xanthe Terra Mars: Implications for outflow channel water sources, reactivation mechanisms, and chaos formation"では、Xanthe地域における地下空洞系の解析を行った。マリネリス峡谷の東側にある割れ目の多く起伏の激しい高地地域は、地下空洞系に閉じこめられていた水の流出に伴う沈降で形成される。地下空洞系からの水の流出は、クレータ湖を形成したりChryse周辺地域のアウトフロウチャンネルの東側の、Ares谷、TiuおよびSimud谷を形成する。そして、この地域には3種類のカオス領域が存在することを明らかにした。(1)領域が沈降した後に形成された浅いカオス形成、(2)アウトフロウ活動後に台地領域の辺縁部の沈降に伴い形成されたカオス、(3)アウトフロウチャンネル河床の崩壊に伴うカオス形成である。この発見は、これまでのカオス形成の考え-カオス形成はアウトフロウチャンネルの前もしくは水源として同時進行する-を変更するものである。

 第3章"Nature and hydrological relevance of the Shalbatana complex underground cavernous system"ではGanges峡谷とShalbatana谷の源流域の間の、北東方向に伸びる破砕された凹地の地形を解析して、それが、地下空洞系の崩壊によるものであることを明らかにした。この地下空洞系は、Ganges峡谷周辺から、Aromatumカオスまで至る長い距離に及んでいる。この地下空洞系は、貫入した溶岩岩脈と地下凍土層との相互作用で形成されたと考えられる。また、Shalbatana谷源流部は、ノアキス紀の衝突クレーターと、地下空洞系の崩壊により形成されたと考えられる。

 第4章"Control of impact crater-related fracture systems on subsurface hydrology and ground subsidence and collapse, Mars"では、埋没した衝突地形の役割を論じた。ノアキス紀初期の激しい衝突には、地下に多数の埋没した衝突クレーターが生まれたと考えられる。この地域に存在する地下空洞系は、氷に富む物質に埋められた地下衝突クレーターが、マグマ活動によって不安定になることで形成される。この場合は、埋没衝突クレーターの存在密度が影響を与える。この機構により、広範囲におよぶ、地表崩壊の地形(凹地に囲まれたクレーターやテラス状のカオス領域など)を説明することができる。

 第5章"Evolution and significance of floor dissection and collapse in the Simud and Tiu Valles, Mars"では、表面の流水地形が切り刻まれるのに加えて、アウトフロウチャンネルの河床の崩壊が、Simud谷やTiu谷の形成に大きな役割を果たしていることを、初めて明らかにした。アウトフロウチャンネル河床崩壊は二段階の過程である。初期段階では、Tiu谷南方で見られるように、河床崩壊は約1キロの深さで、高い河床から低い河床へと移行する形で、カオス地形を形成する。後期段階の河床崩壊は数100メートルの深さで、Simud谷の北方の古くて低い河床で観察される。影響領域が限定されるため、地下構造おそらく、地域的な地下の加熱によってコントロールされていると考えられる。

 第6章"Compressional tectonism control on the subsurface hydrology in Northwestern Xanthe Terra, Mars"では、Xanthe地域北西部のノアキス紀、ヘスペリア紀の地形の解析を行い、カオス状の凹凸地形が、高地領域とくにリンクルリッジに沿って発生していることを明らかにした。これは、圧縮性の応力場に支配された地下水流によりヘスペリア紀の物質が浸食された結果である。この(おそらくタルシス台地の形成に伴う)圧縮応力場は、リンクルリッジを形成するとともに、地下領域に圧力を加えたと考えられる。地下水の輸送は、圧縮場による断層系に従い、地表に出て谷地形を形成する。この圧縮応力場段階の地下水の水源は、Chryse盆地に周囲から集まり集積した水や、火山活動と凍土の相互作用により深部から抽出された水であろう。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、火星のEastern Circum Chryse地域のマッピングに基づく地形学的研究を、バイキング画像データ、マーズグローバルサーベイヤーカメラ、マーズグローバルサーベイヤーのレーザー高度計で得られたデジタル地形モデル、さらにマーズオデッセイのTHEMIS画像データを用いて行った。この地域は、長さ2000km幅150kmにおよぶ洪水による巨大なアウトフロウチャンネルで区切られている。アルトフロウチャンネルは地球の氷河崩壊に伴う巨大洪水地形である、Channeled Scablandと類似しており、それに伴う水の流出は火星北部平原に海洋を形成したと考えられている。洪水の源地域は、カオス領域と呼ばれる凹凸の激しい地域である。地下の水が流出して表面が崩壊することでカオス地域は形成されるが、Chryse周辺地域のアウトフロウチャンネルの生成とは調和的である。本研究の結果により、年代の古い高地台地、カオス領域、そしてアウトフロウチャンネルが、どのように関係しているかが明らかになった。とくに、アウトフロウチャンネル河床の崩壊に伴うカオス形成の発見は、これまでの常識を覆すものである。

 この論文は7章からなり、導入部である第1章では、全体のまとめと各章の概要を述べている。第7章には結論をまとめてある。

 第2章では、Xanthe地域における地下空洞系の解析を行った。マリネリス峡谷の東側にある割れ目の多く起伏の激しい高地地域は、地下空洞系に閉じこめられていた水の流出に伴う沈降で形成される。地下空洞系からの水の流出は、クレータ湖を形成したりChryse周辺地域のアウトフロウチャンネルの東側の、Ares谷、TiuおよびSimud谷を形成する。そして、この地域には3種類のカオス領域が存在することを明らかにした。(1)領域が沈降した後に形成された浅いカオス形成、(2)アウトフロウ活動後に台地領域の辺縁部の沈降に伴い形成されたカオス、(3)アウトフロウチャンネル河床の崩壊に伴うカオス形成である。この発見は、これまでのカオス形成の考え―カオス形成はアウトフロウチャンネルの前もしくは水源として同時進行する―を変更するものである。

 第3章ではGanges峡谷とShalbatana谷の源流域の間の、北東方向に伸びる破砕された凹地の地形を解析して、それが、地下空洞系の崩壊によるものであることを明らかにした。この地下空洞系は、Ganges峡谷周辺から、Aromatumカオスまで至る長い距離に及んでおり、貫入した溶岩岩脈と地下凍土層との相互作用で形成されたと考えられる。また、Shalbatana谷源流部は、ノアキス紀の衝突クレーターと、地下空洞系の崩壊により形成されたと考えられる。

 第4章では、埋没した衝突地形の役割を論じた。ノアキス紀初期の激しい衝突には、地下に多数の埋没した衝突クレーターが生まれたと考えられる。この地域に存在する地下空洞系は、氷に富む物質に埋められた地下衝突クレーターが、マグマ活動によって不安定になることで形成される。この場合は、埋没衝突クレーターの存在密度が影響を与える。この機構により、広範囲におよぶ地表崩壊の地形(凹地に囲まれたクレーターやテラス状のカオス領域など)を説明することができる。

 第5章では、表面の流水地形が切り刻まれるのに加えて、アウトフロウチャンネルの河床の崩壊が、Simud谷やTiu谷の形成に大きな役割を果たしていることを、明らかにした。アウトフロウチャンネル河床崩壊は二段階の過程である。初期段階では、Tiu谷南方で見られるように、河床崩壊は約1キロの深さで、高い河床から低い河床へと移行する形で、カオス地形を形成する。後期段階の河床崩壊は数100メートルの深さで、Simud谷の北方の古くて低い河床で観察される。

 第6章では、Xante地域北西部のノアキス紀、ヘスペリア紀の地形の解析を行い、カオス状の凹凸地形が、高地領域とくにリンクルリッジに沿って発生していることを明らかにした。これは、圧縮性の応力場に支配された地下水流によりヘスペリア紀の物質が浸食された結果である。この(おそらくタルシス台地の形成に伴う)圧縮応力場は、リンクルリッジを形成するとともに、地下領域に圧力を加えたと考えられる。地下水の輸送は、圧縮場による断層系に従い、地表に出て谷地形を形成する。この圧縮応力場段階の地下水の水源は、Chryse盆地に周囲から集まり集積した水や、火山活動と凍土の相互作用により深部から抽出された水であろう。

 なお、本論文の一部は佐々木晶、宮本英昭の共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析・考察を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。よって、博士(理学)を授与できると認める。

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