学位論文要旨



No 119663
著者(漢字) Islam Mohammad Nazmul
著者(英字)
著者(カナ) イスラム モハマド ナズムル
標題(和) コンクリートの破壊における逆問題の正則化と亀裂開口幅からの鉄筋応力の決定
標題(洋) Regularization of Inverse Problems in Concrete Fracture and Determination of Rebar Force from Crack Opening Displacements
報告番号 119663
報告番号 甲19663
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5868号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松本,高志
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 井上,純哉
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

本論文では繊維補強コンクリート(FRC)と鉄筋コンクリート(RC)の破壊力学の逆問題にティホノフの適正化手法を用いた逆解析を行うものである。本研究が明らかにしたのは、FRCにおける亀裂架橋応力とRCにおける鉄筋応力が、逆解析によって表面の亀裂開口幅(COD)から評価できるということである。さらに、CODが現実には誤差を含むことにより問題が非適切となり、十分な精度をもった結果を得るためには適切化の手法が必要となることである。

本解析的研究は三つの大きなステップからなる:亀裂架橋応力とCODとの変換式の導出、順問題の解の導出、そして逆問題の適切化である。まず第一に、応力拡大係数を決定するための破壊力学の方法である重み関数法によって、架橋応力とFRCのCOD、鉄筋応力とRCのCODとの間の積分変換の式が導出される。第二に、積分変換の解析的・数値的解法によってFRCとRCの正確なCODが求まる。第三に、ティホノフの正則化の方法を用いて、FRCの亀裂架橋応力が解析的に、またRCの鉄筋応力が数値的に求まる。以上をまとめると、物体の内部情報を外部からの観測により決定するという逆問題の適切化の本質的特徴が実際に試されている。

この解析モデルはRCの供試体実験により確認された。通常強度のコンクリートと異形鉄筋からなる供試体で四点曲げ試験を行い、さまざまな荷重レベルでCODを観察した。CODの決定はマイクロスコープで読み取ったデジタル画像の濃淡値の変化をもとに行い、この実験で得られたCODをRCについての適切化の解析モデルに入力した。逆解析により求まった鉄筋応力から計算されたひずみは、鉄筋に取り付けられたひずみゲージからの実測値とよく一致していることが分かった。

本論文は、不適切な逆問題に対するティホノフの適切化手法を鉄筋コンクリートの破壊力学に初めて応用した。CODデータがノイズを含まない理想的な場合では、この方法により、表面でのCODの計測から全断面の完全な情報を得ることができる。実際の状況では、鉄筋の位置や応力も十分な精度で求められることが実験により示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では繊維補強コンクリート(FRC)と鉄筋コンクリート(RC)の破壊力学の逆問題にティホノフの適切化手法を用いた逆解析を行うものである。本研究が明らかにしたのは、FRCにおける亀裂架橋応力とRCにおける鉄筋応力が、逆解析によって表面の亀裂開口幅(COD)から評価できるということである。さらに、CODが現実には誤差を含むことにより問題が非適切となり、十分な精度をもった結果を得るためには適切化の手法が必要となることである。

 本解析的研究は三つの大きなステップからなる。亀裂架橋応力とCODとの変換式の導出、順問題の解の導出、そして逆問題の適切化である。まず第一に、応力拡大係数を決定するための破壊力学の方法である重み関数法によって、架橋応力とFRCのCOD、鉄筋応力とRCのCODとの間の積分変換の式が導出される。第二に、積分変換の解析的・数値的解法によってFRCとRCの正確なCODが求まる。第三に、ティホノフの正則化の方法を用いて、FRCの亀裂架橋応力が解析的に、またRCの鉄筋応力が数値的に求まる。以上をまとめると、物体の内部情報を外部からの観測により決定するという逆問題の適切化の本質的特徴を実際に行うものである。

 この解析モデルはRCの供試体を用いた実験により確認された。通常強度のコンクリートと異形鉄筋からなる供試体で四点曲げ試験を行い、さまざまな荷重レベルでCODを観察した。CODの計測はマイクロスコープで読み取ったデジタル画像の濃淡値の変化をもとに行い、この実験で得られたCODをRCについての適切化された解析モデルに入力した。逆解析により求まった鉄筋応力から計算されたひずみは、鉄筋に取り付けられたひずみゲージからの実測値とよく一致していることが分かった。

 本論文は、不適切な逆問題に対するティホノフの適切化手法を鉄筋コンクリートの破壊力学に初めて応用した。CODデータがノイズを含まない理想的な場合では、この方法により、表面でのCODの計測から全断面の完全な情報を得ることができる。実際の状況では、鉄筋の位置や応力も十分な精度で求められることが実験により示された。

 以上のように、本論文は、ひび割れを伝達する応力を非破壊的に計測・解析する一連の手法の開発を行ったものである。従来からの方法を補完する新たな非破壊検査の方法として、今後のストック管理時代を迎えるにあたり、社会的・工学的にも重要な意義が認められる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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