学位論文要旨



No 119667
著者(漢字) KONGKITKUL,Warat
著者(英字)
著者(カナ) コンキトゥクル,ワラト
標題(和) ジオシンセティックス補強砂の残留変形に及ぼす材料粘性の影響
標題(洋) Effects of material viscous properties on the residual deformation of geosynthetic-reinforced sand
報告番号 119667
報告番号 甲19667
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5872号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 岸,利治
 東京大学 講師 内村,太郎
 東京理科大学 教授 龍岡,文夫
内容要旨 要旨を表示する

重要永久土木構造物として建設した人工繊維で補強した盛土構造物の残留変形の予測についての研究を行った。その概要は、以下の通りである。

 1) 現在の設計法では、石油高分子材料であるジオシンセティックス補強材の設計引張り破断強度を、クリープ破断の可能性を除去するためと言うことで、構造物設計寿命が長いほど低減している。この方法の背景としてIsochronous理論(応力を現在のひずみと経過時間の関数とする)が普及している。この現在広く用いられている設計法の不合理性を系統的に示し、本研究の結果に基づいて、ジオシンセティックス補強材の設計引張り破断強度を求めるより妥当な新しい方法を提案した。

 2) 極めて系統的な実験を行い、上記の現在普及している設計法とIsochronous理論は妥当でなく、ジオシンセティックス補強材のクリープ変形は材料劣化現象ではなく粘性による現象であることを実証した。その結果に基づいて、材料劣化が無い限り、設計引張り強度を設計寿命に併せて低減する必要がないことを示した。また、非弾性ひずみ速度をパラメータとした非線形三要素レオロジーモデルを提案し、このモデルによって多くの種類のジオシンセティックス補強材を用いた実験で観察されたひずみ速度の影響、クリープ変形、応力緩和現象等の材料粘性をシミュレイションできることを示し、理論の妥当性を実証した。

 3) クリープ載荷を受ける通常のジオシンセティックス補強土構造物内部では、ジオシンセティックス補強材とともに盛土にも粘性による時間依存性の変形が生じていること、このため通常の状態ではジオシンセティックス引張り補強材に作用する引張り力は時間とともに減少し、クリープ破断の可能性は無いことを、系統的な平面ひずみ模型実験と平面ひずみ数値解析を行うことで実証した。ジオシンセティックス補強材と盛土の粘性を同時に考慮したジオシンセティックス補強土構造物の残留変形の検討はこれまで例がなく、この成果により設計法の改善の見通しを得た。

 4) 従来、交通荷重のような繰返し載荷によって生じるジオシンセティックス補強材と盛土と残留変形は、材料粘性とは独立な「時間非依存生繰返し載荷効果」のためであると考えられてきた。系統時な実験により、このようなジオシンセティックス補強材の残留変形は殆ど材料粘性によるものであることを実証し、非線形三要素レオロジ―モデルによって予測できることを示した。一方、盛土材である砂の繰返し載荷時に生じる残留変形も、繰返し応力が著しく大きくない限り、主に材料粘性のためであることを示した。

 5) ジオシンセティックス構造物の残留変形を、ジオシンセティックスと盛土の粘性を考慮できる構成式を取り入れたFEMによって数値解析できることを、模型実験の結果を氏ミュレイションすることにより実証した。

審査要旨 要旨を表示する

 石油高分子材料であるジオテキスタイル(建設用繊維材)の補強材を盛土内に水平に敷設して引張り補強して鉛直壁面を持つ擁壁を建設する工法は、高い経済性と安定性から、最近は標準的な擁壁工法として広く採用されている。現在の設計法では、ジオシンセティックス補強材の過度なクリープ変形とクリープ引張り破断の可能性を取り除く目的のために、製品の急速引張り試験で得られた引張り破断強度を、1.0よりもかなり小さいクリープ低減係数で減じて設計引張り強度を求めている。クリープ低減係数はクリープ破断曲線に基づいて求めるが、クリープ荷重が小さいほどクリープ破断に至る経過時間が長くなるので、クリープ低減係数は設計耐用年数の増加に伴って減少する。このため、「クリープは材料の劣化現象である」というジオシンセティックスの物性に対する誤解が生まれ、また過度の安全側の設計となる傾向にある。一方、ジオテキスタイルは盛土内に配置されていることから、本来、ジオシンセティックス補強材のクリープ変形・クリープ破断の検討は、ジオシンセティックスのみならず盛土材の粘性を同時に考慮する必要がある。また、長期に亘り持続荷重と交通荷重のような繰返し載荷を受けるジオシンセティックス補強土構造物内のジオシンセティックスの残留変形は、ジオシンセティックスと盛土材の粘性と繰返し載荷に対する変形特性を考慮して予測する必要がある。更に、剛性が低く粘性を持つジオシンセティックスで補強した盛土の残留変形でも、プレロード工法で効果的に抑制できるかどうかを研究する必要がある。これらの研究は、殆ど行われてこなかった。

 本研究はこのような背景の下で行われたものであり、多様なジオテキスタイル補強材を用いた多様な荷重履歴を与えた材料実験によりジオシンセティックスの粘性を定量的に明らかにしてそのモデル化を行い、更にジオシンセティックスで補強した小型土構造物模型の載荷試験を行い、ジオシンセティックスと盛土の粘性も同時に考慮した数値解析を行うことより、上記課題の研究をしたものである。

 第1章は序論であり、上記の研究の背景と研究の目的をまとめている。

 第2章では、現在世界で広く採用されているジオシンセティックス補強材の設計引張り破断強度の決定法をまとめている。これらの設計法では、室内クリープ破断試験により得られた「クリープ荷重〜クリープ破断までの経過時間関係(クリープ破断曲線)」に基づいて「クリープ低減係数〜設計耐用年数関係」を求めている。従って、ある荷重で持続荷重を受けていると、持続荷重が長いほど、ひずみ速度等の同一の載荷条件での引張り破断強度が減少することになる。この設計思想は、いわゆる等時理論 (Isochronous theory) に対応している。また、ジオシンセティックスの引張り破断強度は破断時のひずみ速度の関数である事実に基づくと、現在の設計法と等時理論は不合理であり、結果として過度の安全側の設計となっていることを指摘している。

 第3章と第4章では、第2章の記述の根拠となったジオシンセティックス補強材の引張り試験の結果をまとめて、その結果を分析している。引張り試験では、8種類のジオシンセティックス補強材について、異なるひずみ速度での連続単調載荷試験、単調載荷の途中でのひずみ速度急変・持続載荷・荷重緩和試験を実施している。また、繰返し載荷も行っている。更に、除荷過程での持続載荷・荷重緩和・繰返し載荷試験も行っている。その結果、引張り破断に至るまでの載荷の履歴に拘わらず、すなわち引張り破断に至るまでの載荷時間とは関係なく、引張り破断強度は破断時のひずみ速度の一義的な関数であることを実証している。次に、ジオシンセティックスの粘性を定量化し、非線形三要素モデルでジオシンセティックスの弾性・非線型性・粘性をモデル化している。このモデルによって、引張り実験で観察された全てのジオシンセティックス補強材の全ての粘性現象を正確に表現できることを示している。更に、繰返し載荷中に増加する残留ひずみは、載荷が繰返されるためではなく全て粘性によるものであることを示し、この現象は同一の非線形三要素法で正確に予測できることを示している。

 第5章では、ジオシンセティックスで補強された砂の小型模型実験の平面ひずみ圧縮試験の準備段階として、砂の平面ひずみ圧縮試験を行い、砂の粘性等の物性を定量化した結果をまとめている。その結果、材料が非常に異なるにも拘わらずジオシンセティックスと砂の粘性は同一の非線形三要素モデルの枠組みでモデル化できることを示している。

 第6章と第7章では、ジオシンセティックス補強材を水平に配置して補強した砂の小型模型の平面ひずみ圧縮試験の方法と実験結果と、ジオシンセティックスと砂の変形の相互作用を解析した結果をまとめている。また、比較のために、金属製の補強材を用いた実験も行っている。また、単調載荷の途中でひずみ速度を急変してジオシンセティックスで補強された砂の粘性を定量化し、鉛直方向の変形特性の粘性に対しては砂の粘性の影響が圧倒的に大きいことを示している。また、小型模型の平面ひずみ面内のひずみみの分布とその載荷過程に伴う変化を、模型の写真撮影を行い撮影した写真を精密に読み取ることにより測定している。その結果、ジオシンセティックス補強模型を一定荷重で持続載荷している過程では、ジオシンセティックス補強材の引張りひずみは増加しているが、その増加量は仮に引張り力が一定であるとした場合の増加率よりも低いことから、ジオシンセティックス補強材の引張り力は時間とともに減少していることを示している。この現象は、砂とジオシンセティックスの粘性の相互作用であることと考察している。

 第8章では、第4〜7章で説明したジオシンセティックス補強材と砂の材料実験、ジオシンセティックスで補強した砂の小型模型実験の結果を有限要素法(FEM)で数値解析する方法とその結果を取りまとめている。非線形三要素モデルから粘性を表現する項を取り除けば従来の弾塑性モデルとなるので、これまで確立してきた非線形弾塑性FEMに非線形三要素モデルを取り入れている。その結果、引張り試験でジオシンセティックス補強材の挙動、平面ひずみ圧縮試験での砂の挙動、小型模型実験でのジオシンセティックスで補強した砂の挙動を全て正確にシミュレーション出来ることを示している。特に、持続荷重を受ける小型の砂の模型の内部に設置されたジオシンセティックスに作用する引張り力は、ジオシンセティックスで補強した砂が破壊に近くなければ、時間的に減少することを、FEMによる数値解析でも示している。

 第9章は、結論である。

 以上要するに、系統的な室内での材料実験と小型模型実験及び理論的検討と数値解析を行い、ジオシンセティックス補強材の粘性を定量化し、また盛土の粘性との相互作用を明らかにすることにより、ジオテキスタイル補強土構造物の自重と外部死荷重によるクリープ変形と交通荷重のような長期小振幅繰返し荷重の繰返し載荷履歴による残留変形を予測する新しい方法論を示し、今後の本研究分野の発展及び実務設計の改善に寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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