学位論文要旨



No 119669
著者(漢字) 程,凌剛
著者(英字)
著者(カナ) テイ,リンコウ
標題(和) 総合的高速道路システムデザイン : さまざまな立場からの政策セット分析
標題(洋) Comprehensive Expressway System Design: A Policy-Set Analysis from Multi-Perspective Viewpoints
報告番号 119669
報告番号 甲19669
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5874号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 助教授 加藤,浩徳
内容要旨 要旨を表示する

とりわけ日本においては,高速道路システムとそのデザインに関して,さまざまな議論がなされてきた.しかしながら,主観的,一方的な考え方が,これらの議論を明らかに制約している.例えば,利用者は自分自身が頻繁に利用するいくつかの道路リンクのみを考慮し,民間投資者は自らの利益の最大化を考慮しており,その一方で政治家は票を確保するために短期的で評判の得られるプロジェクトを支持するものである.こういったことは必然的に,客観的・総合的な意思決定を困難にする.以上のことから,高速道路システムの客観的,総合的デザイン手法が必要とされる.高速道路システムデザインについては徹底的に議論されてきたものの,総合的で広範囲なネットワークシステムデザインの科学的,定量的基礎は築かれていないのが実情である.すなわち,交通専門家のなすべきは,実用的でかつ現実の広範囲の問題に適用可能な総合的高速道路システムデザインのための方法論と手法を構築することにある.

はじめに,さまざまな国における実用的な高速道路システムデザインについての大規模な調査を,特に組織や財政に関するデザインについて行い,さらに,高速道路システムデザインに関連する文献をレビューした.それらによって,高速道路システムデザインの基礎が築かれた.そして,事業者,ネットワーク分割,料金規定,および道路網拡張という選択といった基本的な問題(本研究における政策セット)を,高速道路システムデザインの範囲を表現するために導き出した.また,経済効率,公平性,および財政的実現可能性に関する一連の評価指標を,さまざまな関係者の観点を調査することによって構築した.

そしてさらに,さまざまな関係者の観点を考慮した,高速道路システムデザインにおける因子や変数の総合的な論理システムを全面的に構築した.次の段階では,高速道路システムデザインの総合的分析ツールの開発を行った.システムデザイン分析ツールの最も重要な特性は,広範囲の高速道路システムデザイン問題を扱うことができることにある.まず,基本的な数式化を行い,実用的な広範囲高速道路システムデザインに対する基本モデルの適用を容易にするため,適用可能モデルを基本モデルに基づいて構築した.すなわち,アルゴリズムが提案,実証された.

適用可能性を実証するため,日本の高速道路システムをケーススタディとして用いた.合理的な政策セットデザインの計画に関しては,異なる入力因子のもとでの政策セットデザインおよび評価指標を比較・分析することに基づいて議論を行った.それに加えて,「建設計画」における高速道路延伸事業の最適セットが得られ,また,日本における道路網拡張という選択の論拠を明らかにするため,徹底的な分析・比較を行った.

審査要旨 要旨を表示する

 程凌剛氏の論文は、「総合的高速道路システムデザイン〜さまざまな立場からの政策セット分析〜」(原文英文)と題するもので、高速道路システムを構成するさまざまな政策変数を経済効率、採算性、公平性など、さまざまな立場から、総合的かつ合理的に設計するためのサポートツールを開発し、それをわが国の高速道路改革の問題に適用し、政策的示唆を与えたものである。

 世界各国、とりわけ日本においては,高速道路システムとそのデザインに関して,さまざまな議論がなされてきた.しかしながら,主観的,一方的な考え方が,これらの議論を明らかに制約している.例えば,利用者は自分自身が頻繁に利用するいくつかの道路リンクのみを考慮し,民間投資者は自らの利益の最大化を考慮しており,その一方で政治家は票を確保するために短期的で評判の得られるプロジェクトを支持するものである.こういったことは必然的に,客観的・総合的な意思決定を困難にする.以上のことから,高速道路システムの客観的,総合的デザイン手法が必要とされる.高速道路システムデザインについては徹底的に議論されてきたものの,総合的で広範囲なネットワークシステムデザインの科学的,定量的基礎は築かれていないのが実情である.すなわち,交通専門家のなすべきは,実用的でかつ現実の広範囲の問題に適用可能な総合的高速道路システムデザインのための方法論と手法を構築することが求められている.

 程氏の論文では、はじめに,さまざまな国における実用的な高速道路システムデザインについての大規模な調査を,特に組織や財政に関するデザインについて行い,さらに,高速道路システムデザインに関連する文献をレビューしている.それらによって,高速道路システムデザインの基礎が築かれた.そして,事業者,ネットワーク分割,料金規定,および道路網拡張という選択といった基本的な問題(本研究における政策セット)を,高速道路システムデザインの範囲を表現するために導き出した.また,経済効率,公平性,および財政的実現可能性に関する一連の評価指標を,さまざまな関係者の観点を調査することによって構築している.

 そしてさらに,さまざまな関係者の観点を考慮した,高速道路システムデザインにおける因子や変数の総合的な論理システムを全面的に構築している.次の段階では,高速道路システムデザインの総合的分析ツールの開発を行っている.システムデザイン分析ツールの最も重要な特性は,広範囲の高速道路システムデザイン問題を扱うことができることにある.まず,基本的な定式化を行い,実用的な広範囲高速道路システムデザインに対する基本モデルの適用を容易にするため,適用可能モデルを基本モデルに基づいて構築した.すなわち,アルゴリズムが提案され,検証されている.

 適用可能性を検証するため,日本の高速道路システムをケーススタディとして用いている.合理的な政策セットデザインの計画に関しては,異なる入力因子のもとでの政策セットデザインおよび評価指標を比較・分析することに基づいて議論を行っている.それに加えて,「建設計画」における高速道路延伸事業の最適セットが得られ,また,日本における道路網拡張という選択の論拠を明らかにするため,必要な分析・比較を行っている.

具体的政策策定に直接的に用いるには、まだ改善の余地も少なくないが、この種の複雑な政策問題を工学的に扱う際の基本的な枠組みと定式化がなされた点で、程氏の提出論文は、独自性・新規性とともに大きな技術的貢献があるものとみなされる。以上より、程凌剛氏の論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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