学位論文要旨



No 119672
著者(漢字) Panthawungkoon,Somphot
著者(英字)
著者(カナ) パンタワングクーン,ソンフォト
標題(和) スリーラインスキャナによる道路上の車両抽出
標題(洋) On-Street Vehicle Detection by using Three Line Scanner Imagery
報告番号 119672
報告番号 甲19672
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5877号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 佐藤,洋一
内容要旨 要旨を表示する

 世界中の大都市において、車両の増加に伴う交通問題は年々その厳しさが顕著になっている。実際にエネルギー消費、汚染、時間の浪費など、交通問題における様々な負の結果が発生しており、車両統計量の獲得は、長期/短期的な将来の交通管理に向けたITS(高度道路交通システム)の重要な利用方法であると考えられる。特にリモートセンシング画像を用いた車両監視は、ITSの車両情報や通信システムの重要な部分である。このようなシステムでは衛星画像、航空写真の双方を入力データに用いるが、高解像度の衛星画像は雲に覆われていることが多く、IKONOS画像では6枚のうち1枚程度の割合でしか雲の無い画像が得られず、また画像が修正されていることがある。つまり正確で長期の反復作業においては積極的に採用することはできない。一方で航空機搭載センサを用いた画像では、晴天時に撮影が行われるため雲による地表面の隠蔽問題は発生しない。その上、航空機搭載センサは数センチメートルの解像度で撮影するため、グランドコントロールポイント(GCP)なしでの大縮尺の地図作成が可能であるだけでなく、マイクロレベルでの交通観測への可能性を含んでいる。更に、近年、カーナビゲーションシステムなどではセンチメートルオーダーの解像度を持つ航空写真を基にした路面地図の需要が伸びており、これは、将来的にも増加していく。しかし、地図作成の要素である航空写真に写る車両は不要な物体?地物?となる。しかし、そのような物体を除去するための画像上の車両を検出するアルゴリズムは未だ開発されてはいない。

 近年、TLS(Three Line Scanner)という新しいラインセンサが開発された。TLSは高精度のデジタル航空センサで、ヘリコプターに取り付けられた3つのCCDラインセンサ(それぞれがRGBの波長を持つ)が同時に走査し前方視、底方視、後方視の撮影を行い、スタビライザ(安定装置)が高性能なジャイロスコープを用いてカメラの不要な振動を除去し、高精度のGPSで3次元空間内でのヘリコプターの位置を連続的に監視する構成になっている。TLSの画像は飛行方向に並べられた視点を提供するシームレスな画像である。撮影システムには一辺7ミクロンのピクセル10200個が、3つ並列にそれぞれにおいて一次元のCCD焦点面配列に含まれている。TLSシステムは前方、底方、後方の3方向の視点を使って、地上の5〜10cmの足跡がわかる程のシームレスな高解像度の画像を作り出す。TLSデータは様々な点から見て路上計測に適したシステムである。例えば、第一に、シームレス画像としてのTLSイメージは道路や水路などのリニアな地上物の検出や、広視野での観察を用いる路上の車や交通の流れを監視するのに適している。第二に、センチメートルオーダーの解像度を持つ航空写真としてのTLS画像は、十分な文脈を持った車両が分析に提供されるため、他のセンサよりも明らかに有用である。最後に、TLSの底方、前方の様な二方向のTLS画像が応用された技術が基になっている立体測定の観点から見ると、動いている車両がTLSの前方、底方、後方画像上で異なる位置にあるのに対して、止まっている車両は路上の3次元オブジェクトとみなされる。

その結果、車両監視の問題点と、路上計測におけるTLSデータの利点を基に、私達はTLSデータを用いた路上の車両監視システムの開発を行うことに決めた。私達のフレームワークは二つの目的の組から成る。一つ目の目的は多方向のTLS画像を用いて車両の静止と走行を識別するアルゴリズムの作成すること。第二の目的は、車両の駐車とアイドリング状態の分類アルゴリズムの開発である。第三には、補助システムとしてTLSの底方画像を単独で使用した車両検出アルゴリズムの開発が考えられる。最後の目的はTLSの底方画像を単独で用いた車両検出の半自動アルゴリズムを開発することである。

組織構成は二つのシステムから成る。メインシステムは多方向TLS画像の処理を用いた自動車両検出アルゴリズムで、走行している車両と静止している車両の検出と、静止している車両の駐車と信号待ち状態の識別を行う。補助システムはTLSの底方画像処理を用いた車両検出の半自動と自動アルゴリズムである。

メインシステムにおいては、私達の研究フレームワークは準備、移動・静止車両の検出、駐車・アイドリング車両の識別の3ステージから構成される。

前処理は車両検出の処理を行う上での基本情報の準備段階である。まず、TLSの未処理のデータは陳と柴崎によるTLSジオコーディングを用いてジオコード化されている。次に史と柴崎による半自動道路抽出を用いてTLS画像の道路部分を残し、非道路面を覆い隠す。この方法と並列して、TLS未処理画像中の建物の影は、TLS画像中にある多数の建物の影エリアにより、輪郭が描かれ、sompochと柴崎の'影補正画像'を得ることで補正される。私達の研究では、未処理画像と影補正画像は領域分割画像と影補正領域分割画像を生成するために領域分割される。領域は処理の基本単位であるが、分割される領域とノイズが双方の画像上にまだ発生する。そこで、'ノイズ除去済み領域分割画像もしくは、ノイズ除去画像'と'ノイズ除去済み影補正領域分割画像もしくは、ノイズ除去影保税画像'をそれぞれ生成するためにモルフォロジー収縮と最近領域内挿法により、分割される領域とノイズの補正をおこなう。後のステップで、道路面内の領域を関しては、非車両領域は幅・長さ・割合(長さ/幅)などの属性を持った長方形に適合される。車両の次元から定義される長方形の閾値属性によって、非車両領域は削除され、最終的に路上の車両形状の領域だけが残される。TLSの底方画像と前方画像間の領域ベースのステレオマッチングアルゴリズムにより、中村、柴崎らの方法でこれらの長方形ポリゴンの高さがマッチング補正で算出される。さらに、U.S.交通法の下で車両の次元を用いたTLS底方画像内の静止・移動車両の一般的なキャラクタを用いることで、明確なモデルとしての静止・移動車両モデルの仮説が生成される。

車両検出はこの研究の核心部分であり、そのアルゴリズムはメインアプローチと補助アプローチの二つのアプローチから構成される。メインアプローチでは多方向TLS画像を用いて自動的に移動・静止車両を検出し、静止車両については駐車・アイドリング状態を路上駐車基準で識別する。メインアプローチに手抜かりがあった場合には、補助アプローチが自動的または半自動的にTLS底方画像から車両の検出を行う。以下に車両検出アプローチのコンセプトを述べる。

静止車両の検出には、私達の提案する多方向TLS画像処理を用いた静止車両検出アルゴリズムを使用する。まず、前処理したものから、いくつかの路上車両領域を高さと補正の相関関係の閾値を使って選び出す。この閾値は前処理の段階で路面よりも高い領域を選ぶことで定義される。しかし、これらの領域は独立であるため、選ばれた各領域の重心間距離の組が計算される。距離の組とみなすことで、最近領域が最近隣連結アルゴリズムによって二分階層木に大まかにグループ化される。車両の候補はこの階層木から最近領域グループを検索することで生成される。また車両候補の領域は、私達の長方形ポリゴン適合アルゴリズムによって長方形ポリゴンに適合され、この長方形ポリゴンの高さは領域ベースのステレオマッチングアルゴリズムによって算出される。長方形ポリゴンと高さを持った車両候補は静止車両モデルに適合し静止車両が検出される。

移動車両検出は私達の提案する多方向TLS画像を用いた移動車両検出アルゴリズムを使用する。まず、静止車両領域とそこに隣接する領域は、道路方向の制約と隣接関係のネットワークにより、道路方向に沿って削除される。次に、前処理段階で路面領域に分類されたものの様な非車両領域について、車両領域の隣接していない路面領域に囲まれている分離された車両領域が車両の幅と方向の閾値に適合しないために削除される。二つの処理から、残りの車両らしい領域は第三段階における車両候補生成の拡張処理アルゴリズムの種子点である。拡張処理アルゴリズムの記述のため、種子点として選択された車両らしい領域は、道路方向に沿った種子点の両側間の隣接する車両らしい領域を検出し、そこで一つのクラスタか移動車両候補を生成するように種子点から検出された領域を併合するために道に沿って広がる。また、この車両候補は長方形ポリゴン適合アルゴリズムによって適合される。移動車両はTLSの底方、前方、後方において異なる同一点に位置するため、このポリゴンを使うことで異なるTLS画像上の同一車両のマッチング度を測るための領域ベースのステレオマッチングアルゴリズムにおける相関係数が算出される。長方形ポリゴンと移動車両モデルに適合する相関係数をもつ移動車両候補は移動車両として検出されるが、いくつかの余剰結果が発生する。同一の車両では、余剰結果は検出された車両ポリゴン内のより多くのCGをチェックすることで検出され、そのとき余剰結果間では、車両クラスタのエッジピクセルの最大数を持った車両ポリゴンのみが保存され、残りは削除される。クラスタのエッジは周囲長アルゴリズムで生成される。最終的に余剰の無い移動車両が残る。

駐車・アイドリング車両検出は駐車車両か単に待っているだけの車両かを識別するアルゴリズムである。各静止車両ポリゴンの4つ全ての頂点から前処理段階で既知となった道路のエッジの両側へ、空間領域における鉛直距離が計算される。最初に静止車両ポリゴンの頂点の一つが、道路端から駐車車両への距離の閾値に適合します。道路端から駐車車両への閾値は現地調査によって路上駐車と単なる静止車両を観察することで定義される。

TLS底方画像を用いた補助アプローチは、上記の車両検出のメインアルゴリズムから漏れた場合の補助アプローチである。R.Bruce IravinとD. M. McKeownの影検出を用いたTLS底方元画像の車両影検出による良好な可視性の状態では、車両影は車両の役割を果たす。原点としての重心において、擬似固定間隔の反太陽方向ベクトルが生成される。固定距離はTLS底方画像にある車両サイズから定義される。ベクトルの終点において、「フレーム探知機」と呼ばれるサイズの固定された長方形ポリゴンが、長い方は道路方向と並行に、一方で短い方は道路方向に対して直角にこの終点を囲むように生成される。「フレーム探知機」は路上の車両らしい領域を検出するために「ノイズ除去画像」に上書きされる。検出された路上の車両らしい領域は「クラスタ」または「車両候補」にグループ化される。また、車両候補はポリゴン適合アプローチで長方形ポリゴンに適合される。車両モデルに一致した車両候補は車両として検出される。建物の影である場合も車両検出の手順はほとんど同じである。以下に記す点にほとんど違いは無い。良好な可視性の状況における、あいまいであるが車両の一部だと思われる手がかり、もしくは、建物の影がかかっている路上車両の手がかりは車両の一部である。前処理段階でのTLS未処理画像の影部分で、これらの手がかりはR.Bruce Iravin, D. M. McKeownの影検出と長方形ポリゴンの適合により検出される。反太陽方向ベクトルを基にしたフレーム探知機を生成する代わりに、ここでは'フレーム探知機'は手がかりを囲む'長方形ポリゴンの適合'になる。フレーム探知機はノイズ除去済み影補正画像に上書きされる。検出されたフレーム内の車両らしい領域はクラスタまたは車両の候補にグループ化される。車両モデルに一致する車両候補だけは検出された車両になる。しかし、私達の車両検出アルゴリズムの双方から余剰結果が発生する。同一の車両について、余剰結果は検出した車両ポリゴン内のCGポイントを確認することで検出される。そのとき、余剰結果間で車両クラスタのエッジ画素数が最大の車両ポリゴンが保存され、他は削除される。クラスタのエッジは周囲長アルゴリズムで生成される。最終的に余剰の無い検出車両が残る。更に、車両検出の半自動アルゴリズムは、上記2つの車両検出の自動アルゴリズムに漏れた車両に適用される。ノイズ除去画像とノイズ除去影補正画像のGUIインタフェースが生成される。種子領域は拡張の原点としてGUIインタフェースを通しマウスで入力される。非車両らしい領域の排斥によって選ばれた領域から、周囲の近隣領域は車両候補としてクラスタ化される。そして車両モデルの条件を満たした車両候補は検出車両となる。

最後に、TLSデータを用いた車両検出アルゴリズムは東京の錦糸町領域において適用が認められている。私達のアルゴリズムの強さは高い確率での車両検出と、正確な駐車・アイドリング車両判別を含めた移動・静止車両判定である。

審査要旨 要旨を表示する

 道路上を走行する車輌の分布や密度、さらに路側に駐車している台数を広域にわたり、安価にモニタリングすることができれば、カーナビなどにおける交通渋滞情報の提供、交通シミュレーションモデルにおける検証、違法駐車の実態把握と渋滞への影響分析など、さまざまな分野で利用できる。交通状況の把握のためには、すでに監視用カメラなどが多用されている。しかしながら、こうしたカメラによりカバーされる範囲は非常に狭く、対象となる道路区間をすべてカバーするためには多大の投資が必要になる。またカメラ画像から車輌の分布、密度、挙動などを自動的に抽出する手法の開発もそれほど高いレベルにはない。一方、航空写真などに代表される空撮映像は、車輌同士の重なりなどもほとんどなく広い領域をカバーできるものの、従来の航空写真ではデジタル化するためのコストや手間がかかりすぎる問題があるほか、ステレオ撮影をしなければ、走行車両と停止車輌を区別できない。ヘリコプターなどに搭載されたビデオカメラでは運行費用が高くなりすぎるほか、相当低空で飛ばないと解像度が十分でないなどの課題がある。

 近年、ラインCCDを利用した空撮用のデジタル画像センサが開発された。これは1万画素から2万画素程度の撮像素子を有するラインCCDを飛行直角方向に備え、航空機やヘリコプターの飛行に伴って地表面を走査することで、極めて高い分解能のデジタル画像を帯状に収集することができる。またラインCCDを撮像面に複数設置することで、直下方向以外に飛行方向に沿った斜め画像を若干の観測時間ずれを伴って得ることができる。帯状の画像は道路のような「長い地物」をカバーするのに有利であり、高分解能画像は車輌の抽出に有利である。また直下視画像以外に前方視画像、後方視画像などを利用することで道路表面の高さを得られるばかりでなく、停車車輌の高さを得ることで、その識別が容易となる。また前方視画像、直下視画像などを用いれば道路表面上を時間遅れを伴って計測できるので、走行車両を停止車輌と区別することもできる。さらに、ラインCCDを利用したデジタル画像センサは画像の揺れ防止のため、撮影時のセンサの位置や傾きをGPSやジャイロを利用して精度よく捉えることができ、抽出した結果をそのまま地図上に落とし込むことを可能としている。

 しかしながら、ラインCCDを有する空撮用画像センサ(ここではTLS:スリーラインセンサと呼ぶ)を対象とした車輌の抽出・識別手法は開発されていない。従来の空撮画像を対象とした車輌の抽出・識別画像は、従来の空撮画像の限界をそのまま引きずっており、解像度の低い画像にしか適用できない、走行車両と停止車輌の区別ができないなどの問題がある。そこで本論文では、TLS画像を用いた道路上の車輌の抽出と、走行・駐車・信号待ちといった状況分類を可能とする画像計測手法を開発した。

 論文は6つの章からなっている。第1章はイントロダクションであり、研究の背景、目的と論文全体の構成を述べている。第2章は関連する研究のレビューであり、空からの映像を利用した車輌の抽出・識別手法に関する既存研究・関連研究を整理し、停止車輌や走行車両の識別まで行ったものはないこと、TLSのような高分解能画像を対象とした研究もほとんどないことなどを明らかにしている。

 第3章は手法の枠組みを提案している。すなわち画像のセグメンテーションや雑音の除去手法といった前処理に引き続き、停止車輌を前方視と直下視といった複数方向画像を利用した立体計測により確実に抽出し、その後、直下視画像と前方視画像などと比較することで移動する車輌を抽出するなどの方法論的な枠組みを提案している。

 第4章は車輌の抽出手法の詳細を述べている。すなわち、直下視画像から得られた領域分割結果を、サイズなどから絞り込んで車輌候補とした後、直下視画像と前方視画像のステレオマッチングから得られる高さ情報を利用してさらに絞り込み、停止車輌とする。さらに停止位置と道路境界線との距離を比較することで、信号待ち車輌と路側駐車車両を区別している。さらに走行車輌については、車輌候補全体から停止車輌候補そのものとその前後の車輌候補をはずした後、その車輌候補が直下視以外の他の画像に現れているかどうかを画像相関により確認する。現れていない候補を走行車輌の最終候補とし、さらに大きさなどを評価してフィルタリングすることで、走行車両と判定する。

 第5章は提案手法の検証である。東京・錦糸町地区のTLS画像を利用して車輌の抽出・識別精度を検証した。その結果、ビル影に含まれない良好な撮影条件の箇所では、抽出率は85%程度、信号待ち・路側駐車の判別成功率はほぼ100%と良好な結果が得られた。ビル影では画像の雑音などもあり抽出率が低下したが、ノイズ低減フィルターなども効果のあることが実証された。また抽出にあたっての各種処理パラメータの変化が最終結果にどのような影響を与えるかに関しても実験を行い、その結果、文献などから与えられるデフォールト値を利用すれば、場所によってそれほどの抽出率変動が生じないことも示された。

 第6章は結論と今後の課題を整理している。

以上まとめると、本論文はTLSというユニークな画像センサを利用して、道路上の車輌情報をできるだけ効率的に収集する手法を開発した。この新しい画像センサに適合した計測アルゴリズムは初めてであり、画像の特徴を生かして良好な自動抽出・識別精度を得ていることは高く評価できる。また道路上の車輌情報はITSにおける基本的に重要な情報となることが期待され、それを空から自動的に集めることができれば、社会的なインパクトも大変大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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