学位論文要旨



No 119674
著者(漢字) Ritdumrongkul,Sopon
著者(英字)
著者(カナ) リトゥダムロンクル,ソポン
標題(和) 圧電セラミックスをアクチュエータかつセンサとして利用する定量的ヘルスモニタリング
標題(洋) Quantitative health monitoring using piezoceramic actuator-sensors
報告番号 119674
報告番号 甲19674
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5879号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 助教授 石原,孟
 東京大学 助教授 松本,高志
内容要旨 要旨を表示する

 圧電セラミックス(PZT)をアクチュエータかつセンサとして利用する非破壊評価手法により,構造物の損傷を効率的に検出することが可能である.本手法では,PZTを構造物に貼り付け,アクチュエータかつセンサとして機能させる.PZTを貼り付けた構造物の機械的なインピーダンスに関係している電気的インピーダンスを計測することにより,損傷に基づく構造物の特性変化を検出することが可能である.本研究では,構造物の損傷を定量的に評価する構造ヘルスモニタリングにおいて,数理モデルに基づいた方法論と共にPZTをアクチュエータかつセンサとして利用する手法を提案する.計測される電気的インピーダンスは高周波数領域であるため,構造物の数理モデルを高周波数まで高精度にモデリングすることが可能なスペクトル要素法(SEM)により定式化を行う.本手法をボルト接合構造におけるボルトの緩みおよび梁のき裂という二種類の構造物の損傷に対して適用を行った.

 ボルトの緩みを検出するために,ボルト接合構造物に対して実験を行った.その結果,ボルトに緩みが生じると,電気的インピーダンスに変化が生じることが確認された.ボルト接合構造物をシミュレーションするために,圧電素子が貼り付けられた梁およびボルト接合部のスペクトル要素をSEMによる定式化を行った.数理モデルを利用することにより,損傷の発生位置および度合いを検出することが可能である.解析結果から,損傷の度合いが大きい場合には,損傷の同定は非常に正確であるものの,損傷の度合いが中程度の場合は,誤差が生じることが明らかになった.提案するSEMモデルは,モーダルパラメータの変化を利用した他のヘルスモニタリングにおいても適用することが可能である.本研究では,SEMモデルを多くのヘルスモニタリング手法に適用することが可能であることを示した.

 損傷部を有する梁に対しても実験を行った.実験結果から,き裂の存在によりインピーダンスの位相のピークに関して変化が現れることが示された.き裂を有する梁のモデル化は,ティモシェンコ梁に基づいたスペクトル要素による定式化を行った.数理モデルを用いることにより,き裂の長さおよび位置を正確に同定することが可能であるが,き裂の幅に関しては誤差が生じることが明らかとなった.

 本研究では,実務的な問題に対する検討も合せて行ってる.具体的には,インピーダンス計測に対する外部からの加振ノイズや温度変化の影響を検討している.外部からの加振ノイズは計測結果に影響を与え,温度変化はPZTの材料特性に影響を与えることが確認された.しかし,これらの影響は,周波数領域や加振レベル,PZTの特性を選択することで避けることが可能である.

審査要旨 要旨を表示する

 近年,航空機,原子力施設や社会基盤施設などの劣化に伴う事故が多く,その検査が大きな課題となっており,センサーテクノロジーの著しい発展の中で,センサーを使った連続測定による構造ヘルスモニタリングに関する研究が極めて盛んになりつつある.構造ヘルスモニタリングにおける損傷.劣化の検出は,常時微動を利用した振動センシングが広く研究されてきているが,外乱の特性が不明であるため,損傷検出には,多くの計測情報が必要となるという問題がある.圧電セラミックス(PZT)をアクチュエータかつセンサとして利用する手法は,外乱の特性が明確であるため,構造物の損傷を効率的に検出することが可能である.

 本研究は,PZTを構造物に貼り付け,アクチュエータかつセンサとして機能させ,PZTを貼り付けた構造物の機械的なインピーダンスに関係している電気的インピーダンスを計測することにより,損傷に基づく構造物の特性変化を検出する手法を実験的かつ理論的に考究したものである.第一章では,論文の目的,構成を述べ,第二章では,圧電セラミックスを用いたヘルスモニタリングに関する研究状況,既往の研究を述べている.

 第三章では,数理物理モデルに基づいた方法論と共にPZTをアクチュエータかつセンサとして利用する手法により,構造物の損傷を定量的に評価する構造ヘルスモニタリングを提案している.対象として,鋼構造物に多く用いられるボルト接合におけるボルト締め付け力の低下問題を選んでいる.なお,計測される電気的インピーダンスは高周波数領域であるため,構造物の数理モデルを高周波数まで高精度にモデリングすることが可能なスペクトル要素法(SEM)により定式化を行っている.ボルトの緩みを検出するために,ボルト接合構造物に対して一連の実験を行っている.ボルトに緩みが生じると,電気的インピーダンスに変化が生じることが確認された.ボルト接合構造物をシミュレーションするために,圧電素子が貼り付けられた梁およびボルト接合部のスペクトル要素をSEMによる定式化を行った.数理モデルを利用することにより,損傷の発生位置および度合いを検出することが可能である.解析結果から,損傷の度合いが大きい場合には,損傷の同定は非常に正確であるものの,損傷の度合いが中程度の場合は,誤差が生じることが明らかになった.

 第四章では,ボルトジョイントが複数の場合を取り上げ,実験を行い,損傷同定を行い,ボルトの緩みが大きいときには,その検出が可能であることを示している.

 第五章では損傷部を有する梁に対する実験と損傷同定結果を述べている.実験結果から,き裂の存在によりインピーダンスの位相のピークに関して変化が現れることが示された.き裂を有する梁のモデル化は,ティモシェンコ梁に基づいたスペクトル要素による定式化を行った.数理モデルを用いることにより,き裂の長さおよび位置を正確に同定することが可能であるが,き裂の幅に関しては誤差が生じることが明らかとなった.

 第六章では,PZTではなく,レーザードプラー速度計による損傷検出を行い,PZTの方が精度の高い損傷検出が可能であることを示している.

 第七章では,梁の局部損傷問題を例にとり,ノイズの影響を外から音響のノイズを加えた実験により調べ,現実的なレベルのノイズであれば,問題ないことを示している.

 以上,本論文は,圧電セラミックス(PZT)をアクチュエータかつセンサとして利用する手法を実験ならびに理論的に展開し,その有用性を示しており,この分野における学術的貢献が極めて大きい.よって,博士(工学)にふさわしいものと判断される.

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