学位論文要旨



No 119675
著者(漢字) LEWANGAMAGE Chamindalal Sujeewa
著者(英字)
著者(カナ) レワンガマゲ チャミンダラル スジーワ
標題(和) 熱を考慮した免震ゴムの力学的挙動と破断基準に関する研究
標題(洋) Thermo-mechanical and Failure Behaviors of Rubber and Its Seismic Isolation Bearings
報告番号 119675
報告番号 甲19675
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5880号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 目黒,公郎
 東京大学 助教授 松本,高志
 東京大学 助教授 井上,純哉
内容要旨 要旨を表示する

 1989年のLoma Prieta,1994年のNorthridge,さらに1995年の神戸における地震によって,橋梁や建造物が甚大な被害を被って以来,免震構造の有効性が広く認識され,免震積層ゴム支承の橋やビルなどへの実際の構造物の幅広い利用が始まった.免震構造の実際のパフォーマンスは,積層ゴムの精確な評価に強く依存する.したがって,その力学的挙動を完全に理解した上で免震構造を設計することが重要である.免震は比較的新しい技術であり,ゴムの複雑な非線形挙動やその免震支承に関する研究は,今現在進行中である.ゴム材料や免震支承の複雑な非線形挙動に関する研究においては,熱力学を考慮に入れた力学モデルや破断挙動に対するモデルは未だ完全には確立されていないのが現状である.

 この博士論文の目標は次に掲げる4部からなる;(1)ゴム材料の破断基準の確立,(2)免震ゴム支承の破壊基準の開発と有限要素解析による3次元破壊挙動のモデル化,(3)張力荷重下の支承内でのゴム破断の評価とモデル化,(4)高減衰ゴム材料の挙動の温度,振幅,速度依存性の評価と熱力学を融合した挙動のモデル化.

 2軸,1軸,単純せん断試験を異なるゴム材料に対して,破断までの単調載荷によって行った.破断ひずみと伸張率は画像解析によって計測した.計測した破断データを用いてゴムの破断基準を展開し,さらにゴム材料の単調大変形挙動を表現する構成モデルを開発した.展開した材料破断基準を有限変形下の支承におけるゴムの破断の評価に適用した.提案したゴム材料の破断基準を積層ゴム支承の3次元有限要素モデルに適用し,支承の破壊試験によってその検証を行った.免震ゴム支承の安全評価のために破断基準を提案し,支承の破壊試験を解析することによって検証を行った.

 高減衰ゴム材料の熱力学挙動を把握するために,繰り返しせん断試験を行った.試験は,外気温,荷重振幅,荷重周波数についてそれぞれ異なる条件において行った.また,赤外線カメラを用いた温度場計測システムを開発した.それにより,ゴムの力学的特性に対する温度効果,ひずみ速度効果(荷重周波数による効果)を定量的に把握した.最終的に,高減衰ゴム材料に対する熱力学的構成モデルを提案した.この構成モデルに基づき,ゴムの表面温度を評価するために対流型熱移動モデルを提案し,前述の実験結果によってモデルの検証を行った.

審査要旨 要旨を表示する

 歴史的に,地震は構造物に壊滅的な被害を与えてきたが,近年,制御構造により地震を克服しようとする研究が盛んに行われてきた.積層ゴムを用いた免震構造はその代表的なもので,1989年のLoma Prieta,1994年のNorthridge,さらに1995年の神戸における地震により橋梁や建造物が甚大な被害を被って以来,免震構造の有効性が広く認識され,免震積層ゴム支承の橋やビルなどへの実際の構造物の幅広い利用が展開されている.

 言うまでもなく,免震構造の挙動は,積層ゴムに強く依存する.したがって,その力学的挙動を予測できるモデルが更なる発展には欠かせない.然るに,ゴムの製作上の問題から,免震積層ゴム製品のばらつきは大きく,一つ一つの製品を載荷するという手間,時間,費用がかかる手続きを行ってきている.これはひとえに,そのモデル化が遅れているためである.ゴムの複雑な非線形挙動やその免震支承に関する研究は,今現在進行中であるが,ゴム材料や免震支承の複雑な非線形挙動に関する研究においては,熱力学を考慮に入れた力学モデルや破断挙動に対するモデルは極めて不十分なのが現状である.

 このような背景の中で,本博士論文は,ゴム材料の破断基準の確立,免震ゴム支承の破壊基準の開発と有限要素解析による3次元破壊挙動のモデル化,張力荷重下の支承内でのゴム破断の評価とモデル化,(4)高減衰ゴム材料の挙動の温度,振幅,速度依存性の評価と熱力学を融合した挙動のモデル化を目標に行った研究を取りまとめたものである.

 第一章では,研究の背景と論文の構成を述べ,第二章では,既往の研究のレビューを行い,本研究の位置付けを明確化している.

 第三章では,ゴムの要素実験を主に述べている.計測においては,画像解析を利用して大ひずみを計測し,精度の高い実験に成功している.具体的には,2軸,1軸,単純せん断試験を異なるゴム材料に対して,破断までの単調載荷によって行っている.

 第四章では,計測した破断データを用いてゴムの破断基準を展開し,さらにゴム材料の単調大変形挙動を表現する構成モデルを開発した.展開した材料破断基準を有限変形下の支承におけるゴムの破断の評価に適用している.

 第五章では,提案したゴム材料の破断基準を積層ゴム支承の3次元有限要素モデルに適用し,支承の破壊試験によってその検証を行った.

 第六章では,免震ゴム支承の安全評価のために破断基準を提案し,支承の破壊試験を解析することによって検証を行っている.本論文で提案された破壊基準式は

(Ic-3)(IIc-3)-αf(IIc-3)2〓βf

 の形で表されている.ここで,IC, IIC はCauchy green deformation tensorの一次,二次不変量であり,αf and βf are 材料定数で実験から得られる平均値である.図1,2に示すのは,同じ 0.98 Mpa.である

 第七章では,高減衰ゴム材料の熱力学挙動を把握するために,繰り返しせん断試験を行った.試験は,外気温,荷重振幅,荷重周波数についてそれぞれ異なる条件において行った.また,赤外線カメラを用いた温度場計測システムを開発した.それにより,ゴムの力学的特性に対する温度効果,ひずみ速度効果(荷重周波数による効果)を定量的に把握した.

 第八章では,高減衰ゴム材料に対する熱力学的構成モデルを提案している.この構成モデルに基づき,ゴムの表面温度を評価するために対流型熱移動モデルを提案し,前述の実験結果によってモデルの検証を行い,その精度の高いことを明らかにした.

 以上のように,本論文は,一連の系統的な要素実験に基づき,ゴムの破壊規準を提示し,その有効性を明らかにしている.また,ゴムの繰り返し載荷における熱放射を取り込んだモデルを提案し,その精度が高いことを実験により明らかにしている.モデル化が遅れているゴムの力学的特性を明らかにしていると言う点で,極めて学術的価値の高いものと判断される.よって,博士(工学)の学位請求論文として合格と認める.

図1 ゴムの破壊基準式と実験値との比較

図2 ゴムの破壊基準式と実験値との比較

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