学位論文要旨



No 119678
著者(漢字) 朴,宣圭
著者(英字)
著者(カナ) パク,ソンギュ
標題(和) 収縮低減剤および膨張材による若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減に関する研究
標題(洋)
報告番号 119678
報告番号 甲19678
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5883号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 野口,貴文
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 助教授 塩原,等
 東京大学 助教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

 高性能コンクリートを使用することは,RC部材の強度の向上と共に,透気性・透水性などを抑制し,耐久性上も有効になることが予想される.しかしながら,これらのコンクリートは水セメント比が小さく,単位セメント量が多いため,若材齢においてセメントと水の反応が活発になり,自己収縮は大きくなることが報告されている.この自己収縮現象が拘束条件下にある実構造物・部材に作用すると,自己収縮によって生じる変形が拘束されることによって,内部応力が発生し,表面ひび割れだけでなく貫通ひび割れを起こす可能性がある.

 このような自己収縮にひび割れの低減方法の中で最も有効な方法として,膨張材と収縮低減剤の使用が報告されている.しかしながら,これらを混和した若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減量に関して定量的な研究はあまりなされていない.本研究では,収縮低減剤および膨張材による若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減を予測できる研究を行う.具体的な方法として,収縮低減剤および膨張材がどのようなメカニズムに基づいて自己収縮の低減ができるかについて,それぞれの自己収縮低減のメカニズムを提案する.また,拘束条件下における若材齢高性能コンクリートの収縮低減挙動を予測するための研究を行った.本論文は7章で構成されており,各章の内容は下記のとおりである.

第1章

 本研究の背景および目的について述べた.

第2章

 収縮低減剤および膨張材による若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減に関する研究を行う前に,なぜ高性能コンクリートが自己収縮するのか,自己収縮はどのようなメカニズムで発生するかについて既往の研究を調査した.また,2.3章ではKoendersらC-CBMのモデルによる自己収縮の予測モデルについて検討した.本研究においてはこれらのモデルを参考にして,収縮低減剤による自己収縮低減モデルでは,セメント硬化体の空隙生成と毛細管内部の水分挙動モデルの情報が得られた.また,膨張材による自己収縮低減モデルにおいても,膨張材の水和反応モデルを行う際に必要な情報を求めることができており,特に,セメント硬化体の物理・化学的な特性値はそれらのモデルを用いた.

第3章

 収縮低減剤を混和したセメント硬化体の自己収縮は,水溶液の表面張力の低下による負圧の低減と,生じる自己収縮を求めるには細孔表面積を考慮する必要があるということと,適当量の収縮低減剤を混和してもセメント硬化体の組織,強度,弾性係数などは普通のセメントペートのそれに比べ殆ど同じであるという仮定を基にモデル化を行った.その結果,限られた実験であるが,収縮低減剤を混和することがセメント硬化体の水和反応や空隙構造などにあまり影響がないことが明らかになり,そのモデルにより自己収縮の低減が予測できることが判明された.しかし,多くの検討がさらに必要であり,今後の課題とした.

第4章

 膨張材による若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減に関する低減モデル化を行った.本研究において膨張材の水和反応モデルは,CSAを改良して材料設計された膨張特性に優れるエトリンガイト―石灰複合系を対象としている.その膨張材の水和反応については発熱量試験より本研究の水和モデルが,膨張材の水和反応に適用できることが確認された.また,膨張材をセメント硬化体の中に空間配置した膨張モデルを構築した.また,膨張材のみの場合は,水和反応がそれほど早くならないが,膨張材がセメントと一緒に反応する場合は,水和反応が早くなる.つまり,予測値の値は,膨張材のみを考慮した場合の予測値であり,セメント硬化体との反応は考慮してないためだと判断できる.今回の実験データ少ないものなども含めて,これについては今後の課題とした.

第5章

 若材齢高性能コンクリートのクリープをVRTMの疑似完全拘束試験により求めた.

このVRTMにより求めるクリープとは,コンクリートにおける時間依存変形のことを意味し,一般のクリープ試験で求める一定応力下での供試体変形量という意味ではないことに注意する必要がある.また,ここで,得られる実験的なクリープ係数は,拘束条件下のコンクリート応力挙動を予測するのに用いられた.

第6章

 普通コンクリートと収縮低減剤および膨張材を混和した若材齢高性能コンクリートの拘束挙動について型枠拘束試験を行った.その結果,収縮低減剤および膨張材を混和したコンクリートにおいて,予測値は実験値を良好に追従していることが明らかになった.しかしながら,実際の構造物において,収縮低減剤および膨張材による拘束された高性能コンクリートの引っ張り応力の低減量を定量的に評価するには,実験データが少ないことを含めて,クリープ係数と本研究で提案された収縮モデルの新たな補完が必要となり,今後の課題とした.

第7章

 本論文の結論と今後の課題について述べた.

審査要旨 要旨を表示する

 朴宣圭君から提出された「収縮低減剤および膨張材による若材齢高性能コンクリートの自己収縮低減に関する研究」は、昨今のコンクリートの高性能化という流れの中で浮上してきた自己収縮による若材齢時のひび割れ発生問題に対して、収縮低減剤および膨張材といった混和材料を用いてコンクリートの自己収縮を低減し、コンクリート部材におけるひび割れの発生を抑制しようとする研究である。本審査請求論文においては、収縮低減剤および膨張材を混入した水セメント比の小さい高強度コンクリートに関して、試験体端部の拘束の有無を要因とした実験を行うだけでなく、自己収縮低減剤および膨張材それぞれ単独での反応および挙動を明らかにするための化学分析実験等も行うことにより、収縮低減剤および膨張材を用いた場合のコンクリートの自己収縮低減メカニズムを明らかにし、コンクリートが拘束された条件下における収縮ひび割れ発生メカニズムを明らかにしたものである。また、自己収縮低減剤および膨張材の反応モデルを構築し、コンクリート部材におけるそれら混和材料のひび割れ抑制効果を定量的に予測できるシミュレーション手法の開発を試みたものである。

 本論文は7章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。

 第1章には、本研究の背景および目的について、明確に述べられている。

 第2章では、高性能コンクリートの自己収縮メカニズムについて既往の文献調査が行われ、技術の現状についての有益な知見がまとめられており、本研究を遂行する目的をさらに明確に浮き上がらせている。また、本研究で構築した「収縮低減剤および膨張材を用いた高性能コンクリートの自己収縮低減予測モデル」の基盤となるC-CBM(Computational Cement Based Material)についても、詳細な調査とその収縮低減剤および膨張材を用いたコンクリートへの拡張性に関する検討が行われており、セメント硬化体内の空隙生成と毛細管空隙内部の水分挙動のモデルに関する貴重な情報が得られている。また、膨張材による自己収縮低減モデルを構築する場合において必要となる、セメント硬化体の物理的・化学的な特性値についての有益な情報をC-CBMから得ている。

 第3章では、収縮低減剤を混和したセメント硬化体の自己収縮を予測できるモデルが提示されている。そのモデルには、自己収縮低減剤の混和による水溶液の表面張力低下による負圧の低減が組み込まれており、収縮低減剤の混和によってセメント硬化体組織が変化することはなく,強度・弾性係数などは収縮低減剤を用いない場合と同等であるという仮定が設定されている。モデルの妥当性を検証する実験が行われ、その結果、収縮低減剤の混和はセメント硬化体の水和反応や空隙構造などにあまり影響がないことが明らかにされており、モデルで設定した仮定の妥当性が検証されている。

 第4章では、膨張材による若材齢時の高性能コンクリートの自己収縮低減を予測することができるモデルが提示されている。本論文において提示されている膨張材の水和反応モデルは、エトリンガイト―石灰複合系膨張材を対象としたものであり、膨張材の水和発熱試験に基づいて化学反応モデルが構築され、膨張材はセメント硬化体の中に立体的に配置された幾何学的なモデルともなっている。本論文では、膨張材の反応モデルが化学的かつ幾何学的なモデルとされたことにより、膨張材の反応に伴う空隙構造の変化、コンクリートの膨張挙動や強度発現性状などが同時に扱えるようになっており、その汎用性の高さが示されている。ただし、膨張材がセメントと一緒に反応する場合に、その水和反応が早くなる現象については考慮できてなく、今後の実験データの蓄積と併せてモデルの改良については、今後の課題であるとしている。

 第5章では、若材齢時の高性能コンクリートのクリープ挙動が可変拘束試験機(VRTM)により実測されている。従来、若材齢時のクリープ挙動を実測することは困難であったが、本論文では、新たに開発されたVRTMの機能を駆使して、拘束下でのコンクリートの微細な時間依存変形量が実測されている。さらに、VRTMにおける実測値を基に微小時間当たりのクリープ変形量が算定されており、拘束条件下の若材齢時のコンクリートの変形挙動を精度よく予測する場合に必要となる貴重なデータが導き出されている。

 第6章では、普通コンクリートと収縮低減剤および膨張材を混和した高性能コンクリートについて、フレームによる拘束条件下での若材齢時の収縮挙動について実験が行われ、実験値と第5章までに得られた知見および構築したモデルを用いて予測された拘束収縮ひずみおよび拘束収縮応力との対比がなされ、予測値が実験値を良好に追従していることが示されており、本論文で得られた実験データおよび構築したモデルの妥当性が検証されている。ただし、実際の構造物において,変形が拘束された高性能コンクリートに生じる引張応力の収縮低減剤および膨張材による低減量を定量的に評価するには,本論文で扱ったコンクリートの調合数が少なく、また収縮低減剤および膨張材の混和量の水準も少ないため、今後更なるデータの蓄積とそれに基づく「収縮低減剤および膨張材を用いた高性能コンクリートの自己収縮低減予測モデル」の改良が必要であることが認識されている。

 第7章には、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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