No | 119690 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | ||
著者(カナ) | パティパーン,パンヤパラクン | |
標題(和) | ヘキサゴナルメソポーラスシリカを用いたアルキルフェノールポリエトキシレートの除去 | |
標題(洋) | Removal of Alkylphenol Polyethoxylates Using Hexagonal Mesoporous Silicate | |
報告番号 | 119690 | |
報告番号 | 甲19690 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5895号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 非イオン界面活性剤の一種であるアルキルフェノールエトキシレート(以下(APnEOs)は工業用と家庭用の界面活性剤として、洗剤用、分散剤、乳化剤等広範囲に使用され、世界における年間生産量は約50万トンに達している。様々な調査から、APnEOsやその代謝産物であるアルキルフェノール(以下AP)が環境中から検出されているという多くの報告がある。生物に対するAPnEOsの毒性はエトキシレート鎖(以下EO鎖)が短いほど高く、また、内分泌攪乱作用についてもEO鎖が短い時にだけにみられ、n=0となったAPが最も強いとされている。これらの分解生成物は、欧米での様々な調査により、下水の生物処理水やその放流水を含む河川水などから高い濃度で検出されている。さらに、これらの化学物質の持つ内分泌攪乱作用によると見られる生殖障害が大きな問題となっている。APnEOsによる環境影響を最小限にくい止めるためには、APnEOsを効率よく吸着と回収し、循環再使用することが注目されている。 従来は,汚染物の吸着除去に関して,吸着剤として代表的な活性炭を利用するものが大半を占めていたが,活性炭の細孔は微細であるので,分子径の大きな化合物は活性炭細孔に入れないため,吸着能力が低くなると考えられる。また、水溶液吸着においては共存有機物の吸着によって目的物質の吸着が阻害されることが多い。吸着操作は基本的に非定常操作であることから、効率の高い回収のためには吸着質のすみやかな脱着と活性炭の再生が不可欠であるが、これらが困難なことも多い。活性炭は高温賦活法によって再生すると,減量が非常に大きい。 本研究ではメソスケールの均一孔(直径2-50nm)をもつヘキサゴナルメソポーラスシリケート(以下HMSとする)を合成し,その特性を調べた。HMSは同じシリカ系の素材から成るゼオライトよりも大きな細孔を有するため、ゼオライトの細孔には入れない分子径の大きな化合物の絡む触媒反応や吸着及びイオン交換作用、または、ナノ機能材料のホスト物質としての利用が期待されている。 本研究では,実際にHMSを合成し,それを吸着剤として利用することを試みた。HMSは表面修飾が容易であるので,異なった3つの有機官能基をシラノール基を有するHMSの表面に接合させた。さらに,遷移金属として、酸化力を高める可能性があるチタン(Ti)とともにHMSを製造する方法も用いた。これらのHMSを用いてAPnEOsを吸着対象物質として吸着能力や吸着機構及び吸着選択性を測定した。また、上記の各種吸着剤を用いて、APnEOsの吸着機構や吸着選択性などに対する表面に接合された有機官能基とチタンの影響を検討した。さらに、APnEOsの吸着能力に対して、吸着対象物質の分子構造と各種吸着剤の関係を比較検討した。APnEOsを吸着したメソポーラスシリケートの再生と対象物質の回収方法の実験では溶媒抽出と熱再生法を比較し、異なる再生方法による、吸着能力と吸着剤の特徴に対する影響を検討した。本研究の内容は次の五つに大別される。 第1章では合成HMSと加工したHMSの物理的・科学的特性を測定し、粉末活性炭と比較した。まず粉末X線回折パターン(以下XRD)と室素吸着等温線によって、それぞれの作成したHMSのヘキサゴナル構造とメソスケール均一細孔を確認し、修飾方法による結晶構造に対する影響が少ないことがわかった。さらに、有機官能基の接合方法により、表面と細孔の物理的・化学的特性に対する影響があることを明らかにした。チタンを導入したHMS(以下Ti-HMS)は結晶構造が安定しており、表面積が広く、細孔径が大きいことがわかった。フーリエ変換赤外線分光器(以下FTIR)で吸着材の表面を解析した結果、吸着材表面にシラノール基(Si-OH)や修飾された有機官能基の存在を確認した。酸塩基滴定法によりゼロ電荷点(以下pHPZC)を算出した結果、接合した官能基の種類によって、pHPZCに対する影響があることを明らかにした。 第2章では APnEOsの吸着機構に関するHMS及びチタンや有機官能基を修飾したHMSと粉末活性炭との比較分析を行い、さらに、pH や温度及び水道水中に含まれたイオンの影響を調べた。生成したHMSと粉末活性炭における非イオン界面活性剤(TritonX-100)のL型の吸着等温線を示し、Langmuir式を用いて飽和吸着量や吸着係数及び単分子層飽和吸着量を求めた。HMSのメソスケール細孔は細孔内の吸着サイトに吸着質が拡散する効果が高いことを確認すると共に、高いBET比表面積により、従来のS型の非結晶シリケートの吸着等温線と異なり、低濃度範囲の吸着能力が増加することを明らかにした。親水性表面は疎水性表面(活性炭を含む)よりTritonX-100吸着能力が高い。これは臨界ミセル濃度(以下cmc)以上で、親水性表面は外部表面への多分子層吸着やミセルの形成効果が疎水性表面より高いためであることを示した。HMSの吸着能力に対して、温度と共存イオンによる影響ほとんどないが、pHの影響が大きかった。 第3章ではAPnEOs以外の9種の有機物質に関して、合成した吸着剤の吸着能力や吸着機作及び吸着選択性を活性炭に対して比較検討した。吸着選択性は吸着対象物質構造と吸着剤表面特性の関係が影響し、例えば、接合した官能基による表面電荷に対して、異なった荷電をもつイオン化分子の親和力が強かった。また、HMS, Ti-HMSが2-4ジクロロフェノキシ酢酸やメコプロップを吸着できたのは、HMSとTi-HMSの表面の水酸基と2-4ジクロロフェノキシ酢酸やメコプロップのカボキシル基と反応したことに起因すると考えられた。イオン性の染料は親水性表面に水素結合により吸着され、一方、疎水性表面の場合はvan der Waals力で吸着されることを確認した。二つの官能基を同時にHMSに接合した場合、HMS表面の複雑さが増加し、高濃度でジクロロ酢酸の吸着能力が活性炭より高くなることがわかった。一方低濃度では表面の複雑さの影響がほとんどなく、表面の正電荷の方が吸着量に対して影響が高かった。Triton X-100とイオン性染料の共存吸着実験を行なったところ、イオン性染料の存在はTriton X-100の吸着量に影響が非常に少ないと考えられた。陽イオン染料(Basic Yellow 1) (以下BS)は親水性に対しては静電引力と水素結合により、疎水性表面に対しては静電引力とvan der Waals力により吸着されたことがわかった。TritonX-100とBSの共存吸着実験の結果により、親水性表面の場合Triton X-100に対する表面の水酸基の競争吸着が増加するに伴い、BSの吸着量を速やかに減少させた。疎水性表面の場合、表面に接合した有機官能基の競争吸着が増加し、BSの吸着量を減少させたものと考えられる。一方、陰イオン染料(Acid Blue 45) (以下AB)の吸着の場合は親水性表面・疎水性表面にかかわらず静電引力のみに起因するため、Triton X-100はAB吸着量に影響を及ぼさないことを明らかにした。 第4章ではAPnEOsの分子構造と吸着剤の構造との関係が吸着能力に及ばす影響を調べた。APnEOs分子構造から親水性と親油性のバランス(以下HLB)、分子の大きさ、分子集合体(ミセル)の特徴などを算出し、これらの値とAPnEOsの吸着能力の関係を調べた。その結果、EO付加モル数を増していくとHLB値が高くなるため、吸着量が減少することを明らかにした。分子の大きさが細孔内の吸着サイトに拡散することに大きく影響することが確認されたが、外部表面に対する分子集合体の吸着量は分子のEO鎖長の影響がほとんどないことを示した。 第5章では、Triton X-100を吸着したHMS、Ti-HMSに対する熱再生法と溶媒抽出法を試み,溶媒抽出再生法のみ粉末活性炭と比較実験を行った。その後,再生された吸着剤の吸着能力と新たに調整した吸着剤をそれぞれを比較したところ、熱再生法で再生したHMSを再使用する場合は同じ吸着能力が見られたが、再生したTi-HMSはTX-100の吸着能力が明らかに減少した。加熱処理されたHMS、Ti-HMSの結晶構造と細孔特徴をXRDと室素吸着等温線で新たに分析したところ、加熱したHMSのヘキサゴナル構造状態、メソスケール均一細孔の大きさ、比表面積が少し減少したが、再生したHMSの吸着能力に対する影響はほとんどなかった。しかし、加熱再生したTi-HMSのヘキサゴナル構造状態、メソスケール均一細孔の大きさ、比表面積が明らかに減っており、結晶は崩壊したため、Ti-HMSの吸着能力が減少した。 溶媒抽出再生法では4種類の溶媒(メタノール、エタノール、n-プロパノール、アセトン)を用い、様々な溶媒:水比で抽出能力を検討した。HMSとTi-HMSはアセトン以外の5:5比以上で簡単に抽出され、活性炭はHMSsより油出しにくいことを明らかにした。さらに、溶出再生法で再生した吸着剤の吸着能力を検討し、新たに調整した吸着剤と比較したところ、溶媒抽出法で再生した吸着剤はTriton X-100の吸着能力が明らかに減少した。この原因を調べるために再生したHMSとTi-HMSの結晶構造と細孔特徴をXRDと室素吸着等温線で調査したところ、ヘキサゴナル構造が崩れたためであることが明らかになった。これはHMSとTi-HMSの親水性表面において、アルコールと水の配合によりシリケートの構造が加水分解反応を起こったためであると考えられた。さらに、BETの比表面積と細孔の直径も減少したことが明らかになった。しかし、3回再生実験を繰り返したところ、再生した吸着剤の吸着能力は一回目の再生時以下には低下しなかった。一方、疎水性に加工したHMSsを同じ抽出再生法で再生したところ、親水性HMSsと異なり、再生した疎水性HMSsの吸着能力が減少しないことがわかった。これは疎水性のHMSでは、加水分解反応の影響が少なくなると考えられる。 以上に研究結果から、HMSは高い吸着能力、効率的な選択性、再生可能性を有していることがあきらかになり、HMSsによりAPnEOsを効率よく吸着・回収し、循環使用する可能性が高いと考えられる。 | |
審査要旨 | 本論文は「ヘキサゴナル・メソポーラスシリカを用いたアルキルフェノールポリエトキシレートの除去」と題し、環境ホルモンなどで問題となっている、排水中の非イオン界面活性剤の一種であるアルキルフェノール・ポリエトキシレート類を主な対象に、新しい吸着剤であるヘキサゴナル・メソポーラスシリカによる処理と回収の実験を行ったものである。 本論文は9章からなり、メソポーラスシリカの物性分析や、アルキルフェノールポリエトキシレートやハロ酢酸などの汚染物質の吸着特性の解析を行った。 第1章は序論であり、アルキルフェノールポリエトキシレートによる汚染問題、現在の対策の問題点、及び本研究の目的について述べた。 第2章は文献レビューであり、アルキルフェノールポリエトキシレートの製造・使用例や構造、分解や吸着による除去プロセスの現状、メソポーラスシリカの分類や特徴、メソポーラスシリカを用いた有害汚染物質の除去の事例について述べた。 第3章では、実験に用いた物質と実験方法について述べた。はじめに、本研究で用いたメソポーラスシリカの製造方法について詳しく述べ、その後メソポーラスシリカの分析方法を解説した。本研究で用いられ、ここで説明された方法としては、X線回折法、BET吸着法による表面積解析、フーリエ変換・赤外吸光法(FT-IR)、可視・紫外吸光法、表面電荷測定、走査電子顕微鏡、などが含まれている。 第4章では、本研究で作成したメソポーラスシリカの材質及び物理的な構造についての分析を行った。本研究では、5種類のメソポーラスシリカを製造した。1つは、純粋なシリカからなるものでHMSと略称する。もうひとつはチタンを構造体に組み込んだもので、Ti-HMSと略称する。それ以外の3つは、HMS製造後に、有機官能基を修飾したものであり、アミノ基を持つAM-HMS、メルカプト基をもつMP-HMS、オクタデシル基を修飾したOD-HMSがある。X線回折結果から、これらのメソポーラスシリカは、きれいな6角柱構造のメソポアを有していることが確かめられた。比表面積は、活性炭よりもやや小さいが、500〜760m2/gと大きな値であり、官能基を修飾したメソポーラスシリカは、修飾していないメソポーラスシリカよりも一般にやや小さな表面積であった。しかし、細孔容積は、いずれのメソポーラスシリカとも活性炭より2倍から4倍も高い値であり、メソポアによりおきな容積を得ていることが確認できた。その他に、FT-IR、ICM-AES、窒素・硫黄の元素分析などから、修飾した官能基が表面に存在することを確認した。酸―アルカリ滴定法によって活性炭及びメソポーラスシリカの表面電荷を測定したところ、中性付近では、活性炭は強い正電荷を帯びており、AM-HMSは弱い正電荷を帯びていた。MP-HMSは中性で荷電がなく、そのほかのHMSは弱く負に荷電していた。 第5章では、TX-100を非イオン界面活性剤のモデル物質としてTX-100を使用し、pH,水温及び電解質による吸着への影響を調べた。その結果、水温(20℃と30℃)、電解質濃度(0.1mMから100mM)によるTX-100の吸着への影響はほとんどなく、pHが中性から9以上に上昇することで、吸着容量が大幅に低下することが確認された。その原因としては、pH上昇に伴い、HMS及びTi-HMSの表面電荷が負の値になるためであることが示された。 第6章では、アルキルフェノールポリエトキシレートを含む様々な有機汚染物質について、メソポーラスシリカの吸着能を、活性炭と比較した。その結果、アルキルフェノールポリエトキシレート以外では、ジクロロ酢酸が比較的よくメソポーラスシリカにより吸着除去されることがわかった。 第7章では、様々な構造・分子量のアルキルフェノールポリエトキシレートを用いて、構造や分子量がメソポーラスシリカへの吸着に及ぼす影響を調べた。アルキルフェノールポリエトキシレート一分子あたりの吸着面積は、エトキシレート基の長さに応じて大きくなった。また、エトキシレート基の長さが長くなるにつれて、親水性が高まることにより、メソポーラスシリカへの吸着量が減少した。 第8章では、アルキルフェノールポリエトキシレートを吸着したメソポーラスシリカの再生方法について検討した。1つの方法は、メソポーラスシリカの製造条件と同じ条件で電気炉で加熱して再生する方法で、表面に吸着した吸気物質は全て分解し、完全に再生できる利点があるが、再生コストがかかる。もうひとつの方法は、有機物を溶媒で抽出する方法であり、メタノール、エタノール、n-プロパノール、アセトンなどの溶媒を用いた。その結果、メソポーラスシリカは、活性炭よりもより低濃度、少量の溶媒で再生が可能であることがわかった。しかし、これらの溶媒の使用により、HMSやTi-HMSは構造が徐々に破壊し、吸着容量が地下する問題が見られた。これに対して、官能基を修飾したHMSでは、表面の官能基が保護になり、有機溶媒によるメソポーラス構造の破壊を防ぐことができた。 第9章は、結論と今後の研究に向けての方向性について述べている。 以上のように、本研究は、メソポーラスシリカを用いたアルキルフェノール・ポリエトキシレートの除去における官能基修飾、pH、共存物質など様々な影響について評価するとともに、メソポーラスシリカの再生方法について検討を行っており、工場廃水による環境汚染の防止に寄与するものである。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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