No | 119691 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Tawan,Limpiyakorn | |
著者(カナ) | タワン,リンピヤコ | |
標題(和) | 下水処理場における活性汚泥中のアンモニア酸化細菌群の定量化と酸化活性に及ぼす変動要因の解析 | |
標題(洋) | Quantification of ammonia-oxidizing bacteria populations in activated sludge processes of sewage treatment plants and assessment of process variables affecting their performance | |
報告番号 | 119691 | |
報告番号 | 甲19691 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5896号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 廃水処理におけるアンモニア酸化細菌(AOB)の生態学および微生物学について、これまで多くの研究が行われてきたにも関わらず、下水処理場におけるAOBについては未だ不明な点が多い。従って、本研究では、各種の下水処理場の活性汚泥中におけるAOBの群集構造とAOB細菌数の検討を行なった。現時点で利用可能な技術では下水活性汚泥中のAOBの定量的解析は不可能であるため、AOBを対象としたreal−time PCR定量法を予め確立し、AOB細菌数の分析を行なった。本研究では、流入水の成分、処理工程、運転条件、そして季節によるAOB群集構造とAOB細菌数への影響に焦点を当て研究を行なった。 本研究では、実下水処理場から採取した12系列の活性汚泥中のAOB群集構造と、優占しているAOB種の細菌数を分析した。また、運転条件と処理工程の影響を見るために、嫌気/無酸素/好気法(A2O)、嫌気/好気法(AO)、標準法(AS)のように処理工程の異なる処理場、およびアンモニア除去率の異なる処理場を選んだ。さらに、全ての処理場で夏(2001年8月)、秋(2001年11月)、冬(2002年2月)の3つの異なる季節に活性汚泥を採取し、季節変化の影響を調べた。そして、本研究の最後では、実験室規模の連続培養装置を用いて、アンモニアと亜硝酸イオンが下水活性汚泥中のAOB群集構造とAOB細菌数に及ぼす影響を明らかにした。 まず、下水活性汚泥中のAOBを分析するために、16SrDNAの遺伝子配列をPCR法によって増幅し,変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)、クローニング、そして塩基配列の解読(PCR−DGGE-クローニング-シークエンス)を行ない、予めAOB群集構造を構成するAOB種の解析をした。その果、AOB群集構造はNitrosomonas oligotrophaクラスターの6a−2型配列と6a−5型配列の細菌、N.communisクラスターの細菌、そしてN.europaea - Nitrosococcus mobilisクラスターの細菌によって構成されていることが明らかとなった。さらに、同定されたこれらのAOB細菌種を定量するためにreal-time PCRによる定量法を開発した。16SrDNA遺伝子の断片には6a−5のみに特異性を示す部位がないことから、6a−3と6a−5に特異的なreal-time PCRプライマーセットを開発した。その後、今回開発された4つの新しいプライマーセットと他の研究で既に開発されていた2つのプライマーセットを用いて、下水活性汚泥中のAOB細菌数の定量を行なった。なお、用いた既存の2つのプライマーセットはそれぞれがβ−Proteobacteriaに属する全AOBを標的とするものと、全細菌の16SrDNA遺伝子を標的するものである。 DGGEで単離したAOBおよび非AOBの多様なDNAを用いて実験を行なったところ、新しく開発された4つのプライマーセットの全てが優れた選択性と再現性を示した。結果によると、鋳型DNA溶液に全AOBが105copies/μl含まれる場合、特定種のAOBの検出限界は、プライマーセットによって異なるものの102もしくは103copies/μlであった。さらに、プライマーセットの高い再現性と選択性は、連続培養装置の活性汚泥から抽出された様々な混合DNAサンプルにおいても同様に確認した。その結果、プライマーセットの標的DNAが存在したサンプルのみで、PCRによる定量が可能であった。 Real−time PCRで定量を行なった結果、12系列のエアレーションタンク中では1012−1014cells/Lの細菌のうち、AOBは109−1011cells/Lの範囲で存在した。PCR−DGGE−クローニング−シークエンス分析法による結果では、AOB群集構造は1年を通して変化が見られなかったものの、AOBおよびその他の細菌数を定量したところ季節的変化の影響を受けていることが確認された。AOB1細胞当たりのアンモニア酸化量と好気性従属栄養細菌1細胞当たりのBOD酸化量を計算した結果、好気性従属栄養細菌よりもAOBの方が温度変化に敏感であることがわかった。本研究における季節ごとの温度範囲は、25−30℃、19−25℃,14−19℃であり、この温度範囲でAOBのアンモニア酸化活性に違いが見られたことになる。 さらに、AOB1細胞当たりのアンモニア酸化量を算出し運転条件の影響を調べたところ、SRTとDOはそれぞれがAOB細菌数およびAOBアンモニア酸化活性に影響を与えていることがわかった。SRTはAOB細菌数に著しい影響を及ぼし、DOは直接アンモニア酸化活性に作用していた。しかし、どちらの要因もAOBの群集構造には影響していなかった。 Real−time PCRによる定量的解析の結果、下水処理場の流入水の成分、処理工程、運転条件が異なるにも関わらず、全ての系列で6a−3型と6a−5型の一方もしくは両方の細菌がAOB群集構造の大部分を占めていた。その数は全AOB数(109-1011cells/L)とほぼ同じであった。この結果より、6a−3型と6a−5型の細菌は下水処理場における幅広い条件下において増殖可能であることがわかった。 1系列を除き、硝化が行なわれていた全ての系列で6a−2型の細菌が検出されたものの、2倍の塩化物濃度の汚水が流れ込み、完全に硝化が行われている1系列では6a−2型の細菌は存在しなかった。従って、6a−2型細菌の検出は、エアレーションタンクのバルク濃度の特徴と関連していると考えられた。つまり、6a−2型の配列は塩分に影響を受けやすく、バルク中のアンモニア濃度がかなり低い時に増殖し機能するのではないかと考えられた。反対に、5mgN/L以上のアンモニア濃度では6a−2型の細菌は増殖を抑制されるのかもしれない。従って、6a−2型の細菌は下水処理場における窒素除去に大きくは関与していないことが考えられた。他のAOB種により完全な硝化を行なわれていた時に、6a−2型の細菌が出現したと見られる。さらに、6a−2型細菌の細菌数は季節の影響を受け、冬にはおよそ109-1010cells/Lに増加した。 すべてのA2O、AOシステムおよび、BOD除去率の低いいくつかのASシステムにおいて、N.communisクラスターが検出された。Real−time PCRによる定量的解析の結果、いくつかの系列ではN.communisクラスターがAOBの中の優占種であり、細菌数は108-1010cells/Lであった。N.communisクラスターの存在は、エアレーションタンク内での好気性従属栄養細菌との酸素の獲得競争で生き残った結果ではないかと考えられた。その証拠に、DO濃度が極端に低い系列においては、N.communis属は存在しないか、もしくは低濃度で存在していた。また、N.communisクラスター細菌数の108-1010cells/Lの季節変動は、エアレーションタンク流入水におけるNH4+-NのBODに対する比率が増加した結果であると考えられた。なぜなら、この条件下では好気性従属栄養細菌の増殖速度より、AOBの増殖速度が上回るためである。 1つのA2O系列では他の系列とは異なるAOB種がAOB群集構造内に存在した。この系列における流入水は2倍の塩化物濃度を含んでいた。この系列のAOB群集構造はN.europaea-Nitrosococcus mobilisクラスター細菌と、N.cryotoleransクラスター細菌、そして未知のNitorosomonas sp.クラスターにより構成されていた。Real−time PCRによる定量的解析の結果、のN.europaea-Nc.mobilisクラスター細菌は108-109cells/Lと少数であることがわかった。N.europaea-Nc.mobilisクラスターはアンモニアに低親和性のAOBと考えられているにも関わらず、低アンモニア濃度の流入水を受けるこの系列で検出された。 連続培養装置の活性汚泥において、アンモニアと亜硝酸イオンがAOBの群集構造と細菌数に与える影響を調べた。この装置には、様々な濃度のアンモニアと亜硝酸イオンを含む無機塩培地を流入させた。PCR−DGGE−クローニング−シークエンス分析法と、real-time PCR法を用い、AOBの群集構造とAOB細菌数を運転期間に従って解析した。その結果、バルク内のアンモニア濃度よりもアンモニア負荷がAOB種の決定に大きく関与していることが明らかとなった。50mgN/d以下の低アンモニア負荷の装置全てにおいて、N.oligotrophaクラスターが優占種となっていた。N.oligotrophaクラスターの中でも6a−3型と6a−5型細菌の一方もしくは両方が、幅広い低アンモニア負荷(10、25、50mgN/d)において優占種であった。そして、6a−2型の配列は特に低いアンモニア負荷(25mgN/d以下)において少数存在した。N.oligotrophaクラスターとは対照的に、N.europaea-Nc.mobilisクラスターは150mgN/dの高アンモニア負荷の装置で優占種となっていた。一方で、N.oligotrophaクラスターとN.europaea-Nc.mobilisクラスターは50mgN/dのアンモニア負荷の装置では共存していた。これらの結果は、下水処理活性汚泥の解析結果を十分に説明するものであった。本研究では、50−150mgN/dの間のアンモニア負荷については実験を行っていないが、この負荷範囲ではN.europaea-Nc.mobilisクラスターが極めて重要なAOB種であると推定できる。 本研究でのreal-time PCR定量法の確立により、下水処理場における活性汚泥中のAOBの細菌数が初めて明らかとなった。また、下水活性汚泥におけるAOBは種間で異なり、様々な要因により影響を受けていることがわかった。 | |
審査要旨 | 本論文は、活性汚泥法による都市下水の処理に際して、窒素除去能を高めることを目的に、活性汚泥中のアンモニアン酸化細菌(AOB)群に着目し、8カ所12系列の下水処理場における処理機能と優占AOB群のPCR-DGGE(遺伝子増幅変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)解析、次いで塩基配列を活用したAOB群の種特異的な計数法の開発、さらに開発した計数法を用いて活性汚泥中のAOB群の詳細な群集構造と浄化機能の解析、最後にケモスタット連続培養装置を用いてAOB群集構造に及ぼすアンモニアおよび亜硝酸の影響について検討している。論文は、8章より構成されている。 第1章では、研究の背景と目的、及び論文構成について述べている。 第2章では、窒素化合物の代謝、硝化反応の機構についてのこれまでの知見を整理すると共に、AOBに関する遺伝学的知見、形態学的特性、生理学的特性、生化学的特性、アンモニア酸化酵素の遺伝的特性、AOBの種の定性法、数の定量法、活性汚泥中における群集構造、群集構造に及ぼす環境因子の影響及び活性汚泥中の硝化活性等に関しこれまでの知見を詳細に整理し、土壌環境中及び生物膜処理法では多くの知見が得られているが、活性汚泥中では、存在量が少ないため、感度のよい計数法が確立されていないこと、それゆえAOBの群集構造解析がほとんどなされていないことを記述し、研究の重要性を明らかにしている。 第3章では、調査した下水処理プロセスの装置的特性、水質的特性、またケモスタット装置の紹介、さらに下水処理場のAOBを解析するための活性汚泥からAOB遺伝子の回収法、PCR-DGGE−シークエンス法、遺伝子をターゲットとする定量的計数法等の分析手法について説明している。 第4章では、活性汚泥中のAOB群集構造と下水処理システムの運転条件と処理工程の関係を明らかにするため、嫌気/無酸素/好気法(A2O)、嫌気/好気法(AO)、標準法(AS)による処理工程の異なる8処理場の12系列の処理施設におけるAOBの調査をおこなっている。調査は、全ての処理場で、夏(2001年8月)、秋(2001年11月)、冬(2002年2月)の3つの異なる季節に活性汚泥を採取し、季節変化の影響を検討している。また、下水活性汚泥中のAOBの群集構造を明らかにするため、活性汚泥から全DNAを抽出し、16SrDNAの遺伝子配列をPCR法によって増幅し、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)、クローニング、そして塩基配列の解読(PCR-DGGE-クローニング・シークエンス)を行なっている。その結果、下水処理汚泥中のAOB群集構造はNitrosomonas oligotrophaクラスターの6a-1型配列と6a-5型配列の細菌、N.communisクラスターが優占種であり、比較的アンモニア濃度の高い特殊の排水ではN.europaea-Nitrosococcus mobilisクラスターの細菌によって構成されることを明らかにした。また季節による変動はほとんど認められなかった。N.communisはAS法ではほとんど確認されなかったが、その原因については今後の課題であることを言及している。 第5章では、同定されたこれらのAOB種を定量するため、real-time PCRによる定量法の開発を検討した。種々のAOBに特異的な各種プライマーの設計を行い、16SrDNA遺伝子の断片には6a-5のみに特異性を示す部位がないことから、6a-3と6a-5同時に特異的なreal-time PCRプライマーセットを開発し、計数の最適条件についても検討を加えた、これら、新たに開発した4種のプライマーセットは、優れた選択性と再現性を示し、DNA溶液に全AOBが105コピー/μl含まれる場合、特定種のAOBの検出限界は、プライマーセットによって異なるものの102もしくは103コピー/μlとかなり低濃度のAOBの計数が可能となった。さらに、ケモスタット連続培養装置の活性汚泥から抽出された様々な混合DNAサンプルにおいても同様に高い選択性と特異性を有することを明らかにした。 第6章では、第5章で開発したreal-time PCR法を用いて、12系列のエアレーションタンク中でのAOBの種類と数を調べた。活性汚泥中には、全細菌が1012−1014cells/L存在したが、AOBは109-1011cells/Lの範囲で存在した。下水処理場における流入水の成分、処理工程、運転条件が異なるにも関わらず、全ての系列で6a-3型と6a-5型の一方もしくは両方の細菌がAOB群集構造の大部分を占め、アンモニアの酸化の主役を演じていることを明らかにした。 硝化が進行している全ての系列で6a-1型の細菌が検出されたが、2倍の塩化物濃度の排水が流れ込む1系列では6a-1型の細菌は存在しにくいこと、また6a-1株型の細菌は塩分の影響を受けやすいことを示唆した。 第7章では、ケモスタット連続培養装置を用いて、アンモニアと亜硝酸イオン濃度のAOBの群集構造と一般細菌数に与える影響を調べた。アンモニア濃度よりもアンモニア負荷がAOB種の決定に大きく関与していることが明らかとなった。50mg N/d以下の低アンモニア負荷条件において、N.oligotrophaクラスターが優占種となっていた。N.europaea−Nc.mobilisクラスターは150mg N/dの高アンモニア負荷の条件で優占種となった。一方、N.oligotrophaクラスターとN.europaea-Nc.mobilisクラスターは50mg N/dのアンモニア負荷の条件で共存することを明らかにした。 第8章では、AOBの純粋培養が可能となれば、各種のAOBの役割がより明らかになること、またAOBの活性汚泥への定着メカニズムを解明することが窒素除去機能を向上する上で大変有用であることを今後の課題として提示している。 これまで、下水処理揚の活性汚泥中の種レベルのAOBのよい計数法が無かったため、下水処理場の活性汚泥中のAOBの種類と変動についてはほとんど不明であった。AOBを対象とした高い特異性と感度を有するreal-time PCR定量法の開発に成功したことにより、各種の下水処理揚の活性汚泥中のAOBの種類と数を初めて明らかにすることができた。また、流入水の組成、処理工程、運転条件、及び季節によるAOBの種組成と数への影響を明らかにした。これらの知見は排水処理プロセスにおける窒素除去の効率化に大変貴重な知見を提供するものと考えられ、都市環境工学の学術の発展に大きく関与するものである。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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