学位論文要旨



No 119695
著者(漢字) 三隅,伊知子
著者(英字)
著者(カナ) ミスミ,イチコ
標題(和) 測長原子間力顕微鏡を用いたナノメートル標準の確立に関する研究
標題(洋)
報告番号 119695
報告番号 甲19695
学位授与日 2004.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5900号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 教授 毛利,尚武
 東京大学 助教授 伊藤,寿浩
 東京大学 助教授 三尾,典克
内容要旨 要旨を表示する

 原子間力顕微鏡(AFM)や走査型電子顕微鏡(SEM)などのナノメートル計測装置の校正用の標準試料は高信頼性が求められる.標準試料は国家標準にトレーサブルなナノメートル計測装置で校正されてはじめて高信頼性が確保できる.日本の標準の拠点である産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ/AIST)は標準試料校正用に,長さ標準にトレーサブルな原子間力顕微鏡を開発している.しかし装置開発だけではナノメートル標準の確立には不十分である.本研究では測長AFMを用いたナノメートル標準の確立を目指し,以下を目標とする.(1)長さ標準にトレーサブルな測長AFMの開発を行い,測長AFM及び環境測定装置の国家標準へのトレーサビリティ体系を整備する.(2)測長AFMを用いて,重要な標準試料である一次元グレーティングのピッチと段差の精密測定,不確かさ評価・比較測定を行う.(3)ISO17025に適合した品質システムを構築し,測長AFMを用いたナノメートル標準を確立する.校正範囲は一次元グレーティングのピッチに関して200nm-8μm,段差については10nm-2.5μm,最高測定能力(理想的な器物の校正を行ったときの最小不確かさ)は10-100nmの段差で10%以下,100nm以上の段差及びピッチで1%以下を目指す.

 最初に,XYZ軸にレーザ干渉計を搭載した測長AFM及び差動式レーザ干渉計を搭載した差動式測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料の校正システムの構築を行った.標準を確立するために不可欠な「トレーサビリティ」と「測定の不確かさ」評価の概要を示した.測長AFM及び差動式測長AFMの概要,及びこれらを用いたナノメートル計測用標準試料校正システムのトレーサビリティ体系構築に必要なレーザ,温度測定装置,気圧計,露点計,標準抵抗の校正証明書を示した.さらに測長AFM及び差動式測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料の校正システムに由来する不確かさ評価結果を示した.以上より,国家標準にトレーサブルなナノメートル計測装置校正用の校正システムを構築した.

 次に測長AFM及び差動式測長AFMを用いて240nmピッチの一次元グレーティングの精密測定,差動式測長AFMを用いて100nm以下ピッチの一次元グレーティングの精密測定を行い,不確かさ評価を行った.不確かさ評価の結果,拡張不確かさ(k=2)が測長AFMを用いた240nmピッチ一次元グレーティング測定で約0.35nm以下,差動式測長AFMを用いた同測定で約0.40nm,差動式測長AFMを用いた100nm以下ピッチの一次元グレーティングの測定で約0.20nmであり,目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさであることを確認した.続いてCD-SEM,光回折法及び測長AFMを用いて一次元グレーティングの比較測定を行った.NMIJ/AISTの測定値及び拡張不確かさを比較測定の参照値及び参照値の拡張不確かさとした.比較測定の結果,測定結果の整合性・同等性評価の指標であるEn数が光回折法,CD-SEMともに1未満であり,測定結果の整合性を確認できた.以上より,一次元グレーティングに関して,測長AFMを用いてナノメートル標準を確立できる技術的な裏づけが得られた.

 引き続き,測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料校正システムで段差試料の精密測定及び比較測定を行った.段差20,70及び300nmの測定では,測定値が約20.75nm,約67.06nm及び約291.09nmで,拡張不確かさ(k=2)が約0.49nm,約2.68nm及び約1.28nmであった.また顕微干渉計との測定結果の同等性を確認した.本校正システムを用いて段差校正の規格を満たさない段差試料(3,5,7及び10nm段差)の測定を行い,基準直線のパラメータの信頼性を考慮して不確かさ評価を行った.不確かさ評価の結果,拡張不確かさが約0.40nm以下で目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさであることを確認した.また基準直線のパラメータの信頼性を考慮することで,今後の不確かさ低減へ向けての測定戦略の指針を示すことができた.

 最後に,一次元グレーティングのピッチ校正に関してISO17025に適合した品質システムを構築して認定を受け,目標の校正範囲で目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさで国家標準にトレーサブルな校正証明書を発行できる体制になり,実際にユーザの依頼を受け標準試料の校正を行い,校正証明書を発行した.

 以上より,本論文は,測長AFMを用いてナノメートル標準を確立した.

審査要旨 要旨を表示する

 原子間力顕微鏡(AFM)や走査型電子顕微鏡(SEM)などのナノメートル計測装置の校正用の標準試料は高信頼性が求められる。標準試料は国家標準にトレーサブルなナノメートル計測装置で校正されてはじめて高信頼性が確保できる。日本の標準の拠点である産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ/AIST)は標準試料校正用に、長さ標準にトレーサブルな原子間力顕微鏡を開発している。しかし装置開発だけではナノメートル標準の確立には不十分である。本研究では測長AFMを用いたナノメートル標準の確立を目指し、以下を目標とする。(1)長さ標準にトレーサブルな測長AFMの開発を行い、測長AFM及び環境測定装置の国家標準へのトレーサビリティ体系を整備する。(2)測長AFMを用いて、重要な標準試料である一次元グレーティングのピッチと段差の精密測定、不確かさ評価・比較測定を行う。(3)ISO17025に適合した品質システムを構築し、測長AFMを用いたナノメートル標準を確立する。校正範囲は一次元グレーティングのピッチに関して200 nm-8μm, 段差については10nm-2.5μm, 最高測定能力(理想的な器物の校正を行ったときの最小不確かさ)は10-100 nmの段差で10%以下、100nm以上の段差及びピッチで1%以下を目指す。

 最初に、XYZ軸にレーザ干渉計を搭載した測長AFM及び差動式レーザ干渉計を搭載した差動式測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料の校正システムの構築を行った。標準を確立するために不可欠な「トレーサビリティ」と「測定の不確かさ」評価の概要を示した。測長AFM及び差動式測長AFMの概要、及びこれらを用いたナノメートル計測用標準試料校正システムのトレーサビリティ体系構築に必要なレーザ、温度測定装置、気圧計、露点計、標準抵抗の校正証明書を示した。さらに測長AFM及び差動式測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料の校正システムに由来する不確かさ評価結果を示した。以上より、国家標準にトレーサブルなナノメートル計測装置校正用の校正システムを構築した。

 次に測長AFM及び差動式測長AFMを用いて240nmピッチの一次元グレーティングの精密測定、差動式測長AFMを用いて100nm以下ピッチの一次元グレーティングの精密測定を行い、不確かさ評価を行った。不確かさ評価の結果、拡張不確かさ(k=2)が測長AFMを用いた240nmピッチ一次元グレーティング測定で約0.35nm以下、差動式測長AFMを用いた同測定で約0.40nm、差動式測長AFMを用いた100nm以下ピッチの一次元グレーティングの測定で約0.20nmであり、目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさであることを確認した。続いてCD-SEM、光回折法及び測長AFMを用いて一次元グレーティングの比較測定を行った。NMIJ/AISTの測定値及び拡張不確かさを比較測定の参照値及び参照値の拡張不確かさとした。比較測定の結果、測定結果の整合性・同等性評価の指標であるEn数が光回折法、CD-SEMともに1未満であり、測定結果の整合性を確認できた。以上より、一次元グレーティングに関して、測長AFMを用いてナノメートル標準を確立できる技術的な裏づけが得られた。

 引き続き、測長AFMを用いたナノメートル計測用標準試料校正システムで段差試料の精密測定及び比較測定を行った。段差20、70及び300nmの測定では、測定値が約20.75nm、約67.06nm及び約291.09nmで、拡張不確かさ(k=2)が約0.49nm、約2.68nm及び約1.28nmであった。また顕微干渉計との測定結果の同等性を確認した。本校正システムを用いて段差校正の規格を満たさない段差試料(3、5、7及び10nm段差)の測定を行い、基準直線のパラメータの信頼性を考慮して不確かさ評価を行った。不確かさ評価の結果、拡張不確かさが約0.40nm以下で目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさであることを確認した。また基準直線のパラメータの信頼性を考慮することで、今後の不確かさ低減へ向けての測定戦略の指針を示すことができた。

 最後に、一次元グレーティングのピッチ校正に関してISO17025に適合した品質システムを構築して認定を受け、目標の校正範囲で目標の最高測定能力よりさらに小さな不確かさで国家標準にトレーサブルな校正証明書を発行できる体制になり、実際にユーザの依頼を受け標準試料の校正を行い、校正証明書を発行した。

 以上より、測長AFMを用いてナノメートル標準を確立した。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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